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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

言語著作物 個別事例(新競技の規則書/将棋のルール・マナーの説明/ポケモン攻略の質問への回答)

[新競技の規則書]
▶昭和590210日東京地方裁判所八王子支部[昭和56()1486]
原告各規則書は、Aが考案したゲートボール競技に関して、ゲートボール競技のいわれ、レクリエーシヨンスポーツとしての意義、競技のやり方、競技規則等の全部ないし一部を固有の精神作業に基づき、言語により表現したものであり、その各表現はスポーツという文化的範疇に属する創作物として著作物性を有するというべきである。

[将棋のルール・マナーの説明]
▶令和5316日知的財産高等裁判所[令和4()10103]
原告文章の著作物性並びに原告の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)の侵害の有無について
(1) 著作権法は、思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作権法2条1項1号)、思想、感情若しくはアイデア、事実など表現それ自体ではないものや、表現ではあっても表現上の創作性がないものについて、著作権法による保護は及ばない。そして、表現上の創作性があるというためには、作成者の何らかの個性が表現として現れていることを要し、表現が平凡かつありふれたものである場合は、これに当たらないというべきである。
(2) 原告文章1について
ア 原告文章1は、将棋の対局の際に座る場所に関し、将棋道場などの場合と和室で指導対局を受けるような場合を分け、前者の場合には、座る場所について余り気にする必要はない一方で、後者の場合には、上位者が上座に座ることなどを説明するものであるところ、座る場所について説明することや、それに当たり上記のように場合分けをして説明すること自体は、アイデアにすぎない。また、その記載内容は、いずれも将棋のルール又はマナーであって、当該内容自体から創作性を認めることはできず、その表現についても、ありふれたものといえ、控訴人の何らかの個性が表現として現れているものとは直ちに認め難い。
また、上記の点をおくとしても、本件ナレーション等のうち原告文章1に対応する部分は、表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において、原告文章1と重なり合うものにすぎない。
したがって、原告文章1について、本件番組の放送により控訴人の著作権(公衆送信権)又は著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたものとは認められない。
イ 控訴人は、座る場所をあえてマナー情報に含めて記載しているという選択における独自性を主張するが、上位者が上座、下位者が下座に座るといった点をマナーに関する情報として記載することに独自性は認められない。また、控訴人は、座る場所についてプロ棋士の対局とアマチュア同士の対局において違いがあることや、原告文章1では、まず勘違いを防いだ上で具体的な行動まで端的に記述していることなどを主張するが、それらの点が創作性に係る前記アの判断を直ちに左右するものとはいい難く、また、それらの点は本件ナレーション等には含まれていないから、いずれにせよ、権利侵害がないとの前記アの認定判断は左右されない。
(3) 原告文章2について
ア 原告文章2は、将棋の駒の準備や片付けに関して説明するものであるところ、その記載内容は、いずれも将棋のルール又はマナーであって、当該内容自体から創作性を認めることはできない。
もっとも、「「雑用は喜んで!」とばかりに下位者が手を出さないようにしましょう。」という部分については、控訴人自身の経験に基づき、初心者等が陥りがちな誤りを指摘するため、広く一般に目下の者が「雑用」を率先して行うに当たっての心構えを示したものといい得る表現を選択し、これを簡潔な形で用いた上で、しかし、逆に、将棋の駒の準備や片付けに関してはこれが当てはまらないことを述べることで、将棋の初心者にも分かりやすく、かつ、印象に残りやすい形で伝えるものといえる。この点、本件番組の制作時に参考にした書籍やウェブサイトである被控訴人が当審において提出した証拠のうち駒の準備や片付けについて記載されたものにも、類似の表現は見受けられない。したがって、上記部分は、特徴的な言い回しとして、控訴人の個性が表現として現れた創作性のあるものということができ、著作物性を有するというべきである。これに対し、原告文章2のうちその他の部分における表現は、ありふれたものといえ、控訴人の何らかの個性が表現として現れているものとは認められない。
そして、本件ナレーション等のうち原告文章2に対応する部分においては、正に上記のとおり創作性のある部分が、感嘆符の有無と「下位者が」を「下位の者は」と変更する点を除くと一言一句そのままの形で使用されている。
したがって、被控訴人は、原告文章2のうち創作性のある部分について、控訴人の許諾を得ることなく、また、その著作者名を表示することもなく、これを含む本件ナレーション等を本件番組で放送したことにより、控訴人の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものと認められる。
イ 被控訴人は、「雑用は喜んで!」という表現は、一般社会においても一般的に用いられるありふれたものであるなどと主張するが、駒の準備や片付けは上位者が行うという将棋のルールを踏まえると、それらは将棋の対局において「雑用」とはいえないものである。そのようなものについて、あえて「雑用は喜んで!」との表現を用いた上で、かつ、逆説的に説明するという特徴的な言い回しをしたという点に、控訴人の個性が現れているということができる。前記アの認定判断に反する被控訴人の主張は採用できない。
(4) 原告文章3について
ア 原告文章3は、王将と玉将の使用者やその順序等について説明するものであるところ、その記載内容は、いずれも将棋のルール又はマナーであって、当該内容自体から創作性を認めることはできず、その表現についても、ありふれたものといえる。
したがって、その余の点について検討するまでもなく、原告文章3について、本件番組の放送により控訴人の著作権(公衆送信権)又は著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたものとは認められない。
イ 控訴人は、一切の過不足がない端的な表現を用いていることや、原告文章3が原告文章1、2及び5等との一連の流れの中にあることなどを主張するが、いずれも前記アの認定判断を左右するものとはいえない。
(5) 原告文章4について
ア 原告文章4は、持ち駒の並べ方について説明するものであるところ、その記載内容は、いずれも将棋のルール又はマナーであって、当該内容自体から創作性を認めることはできず、その表現についても、ありふれたものというべきである。
したがって、その余の点について検討するまでもなく、原告文章4について、本件番組の放送により控訴人の著作権(公衆送信権)又は著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたものとは認められない。
イ 控訴人は、一切の過不足がない端的な表現を用いていることや、原告文章4が原告文章1、2及び5等との一連の流れの中にあることなどを主張するが、いずれも前記アの認定判断を左右するものとはいえない。また、控訴人は、原告文章4と本件ナレーション等との間で、「ぐちゃぐちゃに置く」、「裏返す」、「重ねる」という順番が完全に一致していることを主張するが、その点も前記アの認定判断に影響する事情であるとはいえない。
(6) 原告文章5について
ア 原告文章5は、将棋の「待った」について説明するものであるところ、その記載内容は、いずれも将棋のルール又はマナーであって、当該内容自体から創作性を認めることはできない。
もっとも、「着手した後に「あっ、間違えた!」「ちょっと待てよ・・・」などと思っても、勝手に駒を戻してはいけません。」という部分については、将棋を指す者が抱き得る感情を分かりやすく簡潔に表現することで、将棋の初心者にも印象に残りやすい形で伝えるものといえる。この点、当審提出証拠のうち「待った」について記載されたものの中に、類似の表現はほとんど見受けられず、唯一、「仮に駒から手を離した瞬間に「あ、間違っている」と気づいたとしても」という類似の表現が用いられているものはあるが、原告文章5は、控訴人自身の経験に基づき、感嘆符等の記号を用いるほか、「あっ、間違えた!」という語と「ちょっと待てよ・・・」という語を続けてたたみかけることで、将棋を指す者が抱き得る感情とルール又はマナーとしての将棋の「待った」をより生き生きと分かりやすく、かつ、印象深く表現するものといえる。したがって、上記部分は、控訴人の個性が表現として現れた創作性のあるものということができ、著作物性を有するというべきである。これに対し、原告文章5のうちその他の部分における表現は、ありふれたものといえ、控訴人の何らかの個性が表現として現れているものとは認められない。
そして、本件ナレーション等のうち原告文章5に対応する部分においては、正に上記のとおり創作性のある部分が、感嘆符及び「・・・」の有無等の点を除き、ほぼそのままの形で使用されている。
したがって、被控訴人は、原告文章5のうち創作性のある部分について、控訴人の許諾を得ることなく、また、その著作者名を表示することもなく、これを含む本件ナレーション等を本件番組で放送したことにより、控訴人の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものと認められる。
イ 前記アの認定判断に反する被控訴人の主張は、いずれも採用することができない。
(7) まとめ
以上によると、被控訴人は、原告文章2及び5のうち創作性のある部分について、控訴人の著作権(公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)を侵害したものと認められるところ、被控訴人は、一般人に分かりやすい説明文であるとして、原告ウェブサイトに掲載されていた原告文章2及び5の上記部分を含め、特に選択して使用したものと認められるから、控訴人の上記各権利を侵害することについて、被控訴人には、少なくとも過失があったといえる。
したがって、被控訴人は、控訴人の上記各権利の侵害について損害賠償責任を負うというべきである。

[ポケモン攻略の質問への回答]
▶令和31018日東京地方裁判所[令和3()3397]
上記「内容」欄の記載によれば,本件投稿8は,勝算が高い選択肢を時間内に選べるようになるために,対戦の振り返りをすることが重要である旨を回答するものであるところ,「ここであれされて負けたからこっちが正解だったなあーと言った振り返りではなく,ここで○○される時は××△△される時は□□(3つ以上の時もあります)が勝ちの選択肢になっている,と相手の選択肢によって自分が勝てる選択肢がそれぞれ思いついていれば十分なので,まずはそこから考えてみてください。」と振り返りの方法の要点を理解しやすく説明し,ポケモンの対戦の具体的なシミュレーション結果を例示するなどして,相当程度の長さを有する文章により,回答内容を表現しているということができる。したがって,本件投稿8は,投稿者の個性が現れた表現として,創作性を備える言語の著作物に該当すると認められる。
被告は,本件投稿8について,ゲームデータ上の仕様などの法則について記述したものであり,「思想又は感情」を「創作的」に表現したものともいえないから,著作物性は認められない旨主張する。しかしながら,本件投稿8の内容は上記のとおりであり,単に,ゲームの仕様といった事実ないし法則,あるいは,ゲームを有利に進めるためのアイデアを記述するにとどまるものではなく,質問に対応する形で,質問者が理解しやすいように工夫して,解決方法についての投稿者の考えを説明したものであるといえる。したがって,本件投稿8は,「思想又は感情」を「表現したもの」であって,かつ,投稿者の個性が現れている「創作的」な表現であるといえるから,被告の上記主張は採用することができない。

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