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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

著作権の制限41条の意義と解釈

▶平成240928日東京地方裁判所[平成23()9722]
著作権法41条は,時事の事件を報道する場合には,その事件を構成する著作物を報道することが報道目的上当然に必要であり,また,その事件中に出現する著作物を報道に伴って利用する結果が避け難いことに鑑み,これらの利用を報道の目的上正当な範囲内において認めたものである。このような同条の趣旨に加え,同条は「写真,映画,放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合」と規定するのであるから,同条の適用対象は報道を行う者であって,報道の対象者は含まれないと解するのが相当である。
そうすると,被告は,本件記者会見を行ったことが認められるものの,本件記者会見についての報道を行った者ではないから,著作権法41条の適用はないというべきである。

平成100220日東京地方裁判所[平成6()18591]
<本件絵画3の平成4122日付け紙面への掲載について>
(一)成立に争いのない(証拠)によれば、次の事実が認められる。
同日付け同新聞朝刊の一面左上部に「幻のバーンズコレクション日本へ」との五段の大見出し、及び「セザンヌなど名画80点公開」、「941月、国立西洋美術館」との小見出しの下に、発信地と執筆記者名が冒頭に付された四段にわたる本記と本件絵画3を含む三点の絵画のカラー印刷の図版からなる記事が掲載された。
右記事の内容は、「セザンヌやマチスなどの第一級の絵画を所蔵するアメリカのバーンズ財団は、画集でも見られない゛幻のコレクション″で知られるが、その中からよりすぐった作品を公開する「バーンズコレクション展」が941月から東京の国立西洋美術館で実現することとなった。主催する読売新聞社と同美術館が、1日までに財団と基本的な合意に達した。財団は現地で三日、日本を含む初の世界巡回展の構想を発表する予定で、国際的に美術ファンの話題を集めるのは必至だ。」との書き出しで、バーンズ財団の紹介、コレクションは極めて質が高いが、公開も週末に人数を限ってで、バーンズの遺言に従って、売却はもちろん、他館への貸出しや画集への掲載も禁じられたことから、名画の実像は明らかにされなかった旨、コレクションが初公開されることになったのは、ギャラリーの老朽化に伴う改修のためであり、来年のワシントン・ナショナル・ギャラリーとフランスのオルセー美術館に続いて、再来年の1月から4月にかけて東京展を開催する旨、バーンズコレクションは、180点のルノワール、69点のセザンヌなど、総数は250点を超える旨の説明が続き、「このうち今回出品されるのは「カード遊びをする人たち」など20点を数えるセザンヌを筆頭に、ルノワールが「音楽学校生の門出」など16点、マチスが「生きる喜び」など14点のほか、スーラ「ポーズする女たち」、ゴッホ「郵便配達夫ルーラン」、ルソー「虎に襲われた兵士」、【A】「曲芸師と幼いアルルカン」など計80点。いずれも初めて国外で公開される傑作ばかりだ。」と結ばれている。
また、絵画の図版は、本件絵画3が約98mm×約57mm、セザンヌの「カード遊びをする人たち」が約97mm×約135mm、ルノワールの「音楽学校生の門出」が約85mm×約54mmの各大きさで掲載されている。
(二)右事実によれば、右記事は、優れた作品が所蔵されているが、画集でも見ることのできないバーンズコレクションからよりすぐった作品を公開する本件展覧会が平成61月から東京の国立西洋美術館で開催されることが前日までに決まったことを中心に、コレクションが公開されるに至ったいきさつ、ワシントン、パリでも公開されること、出品される主な作品とその作家を報道するものであるから、著作権法41条の「時事の事件」の報道に当たるというべきである。そして、本件記事中で、本件展覧会に出品される80点中に含まれる有名画家の作品7点が作品名を挙げて紹介されている中の一つとして本件絵画3が挙げられているから、本件絵画3は、同条の「当該事件を構成する著作物」に当たるものというべきである。
また、複製された本件絵画3の大きさが前記の程度であること、右記事全体の大きさとの比較、カラー印刷とはいえ通常の新聞紙という紙質等を考慮すれば、右複製は、同条の「報道の目的上正当な範囲内において」されたものと認められる。
よって、右記事中の本件絵画3の利用については、時事の事件の報道のための利用の抗弁は理由がある。
(三)原告は、他の新聞社主催の展覧会についての被告新聞の記事と比べて、とりわけ本件展覧会について被告新聞に多数の記事が掲載されたこと、及び右記事が本件展覧会の開始前に掲載されたことをとらえて、右記事は時事の事件の報道には当たらない旨主張するが、本件展覧会についての記事の掲載回数が多いとはいっても、右記事は、自社の主催するものとはいえ、バーンズコレクションが日本で公開されることが決まったというそれなりに報道価値のある時事の事件を報道するもので、ことさらに事件性を仕立て上げたものとも認められず、展覧会開催の11か月前の記事であることからすれば、宣伝的要素はむしろ少ないものと認められ、原告の主張は採用できない。
<本件絵画3の平成5113日付け紙面への掲載について>
(一)成立に争いのない(証拠)によれば、同日付け同新聞朝刊30面の中段中央に、332行分(約100mm×約153mm)の大きさで、周囲をけいで囲み同面の他の記事と明瞭に区別し、右から約3分の1の部分に、「世界初公開 巨匠たちの殿堂 バーンズ・コレクション展 ルノワール、セザンヌ、スーラ、マティス、【A】」との表題を、上部けいの中央に横書で「幻のコレクション展、きょうから前売り開始」との文言を、下部けいの中央に横書で、「主催 国立西洋美術館 読賣新聞社」と主催者名を記し、前記表題の右側に、「読売新聞創刊120周年を記念して、来年1月から東京・上野の国立西洋美術館で開催する『バーンズ・コレクション展』の前売り券をきょう三日から発売します。印象派、後期印象派の個人収集では世界最高といわれ、ルノワールらの代表作多数を所有しています。本展は東京のみで開催し、厳選した八十点を公開します。」との、主催者からの告知風の文体の文章が掲載され、囲み全体の中央に、本件絵画3が約61mm×約30mmの大きさでカラー印刷で複製されており、その余の部分に、本件展覧会の会場、会期、後援者、特別協賛者、協賛者、協力者、入場料、前売り券扱い所、観覧クーポン券扱い所等の事項が記載されていることが認められる。
(二)右事実によれば、右記事のうち本件絵画3を除く部分の記載は、形式的に見ても本件展覧会の主催者である国立西洋美術館と被告が本件展覧会の前売り券の発売を開始することを告知する定型的な挨拶文で、その内容も、コレクションの名称と簡単な紹介、その他本件展覧会についての事実を伝達するに過ぎないものであるから、思想又は感情を創作的に表現した著作物であるということはできない。よって、右本件絵画3の複製を自己の著作物への引用であるということはできず、引用による利用の抗弁は認められない。
また、前記のとおり、右記事の内容は、本件展覧会の主催者が前売り券を今日から発売することを告知するもので、当日の出来事の予告ではあるが客観的な報道ではなく、むしろ、好意的に見て主催者からの告知又は挨拶文、とりようによっては被告が主催する本件展覧会の入場券前売り開始の宣伝記事と認められるから、いずれにしても、著作権法41条の「時事の事件を報道する場合」に当たるということはできないし、本件絵画三の複製が、当該事件を構成し、当該事件の過程において見られ若しくは聞かれる著作物に当たるとも認めることはできない。時事の事件の報道のための利用の抗弁も認められない。

▶平成211126日東京地方裁判所[平成20()31480]
本件パンフレットには,「国内オークション史上初,香港オークション開催」の見出しが付けられ,「国内オークション史上初の海外開催となるエスト・ウエスト香港オークション。」との記載があるものの,その他は,開催日時や開催場所に関するものや,本件オークション等の宣伝というべき内容で占められており,被告が「時事の事件」であると主張する初の海外開催という事実に関連する記述は見当たらない。
上記記載の内容に照らすと,本件パンフレットは,被告の開催する本件オークション等の宣伝広告を内容とするものであるというほかなく,時事の事件の報道であるということはできない。

▶平成131108日東京地方裁判所[平成12()2023]
本件記事が著作権法41条所定の時事の事件の報道のための利用に該当するかどうかを検討するに,同条所定の利用というためには,本件記事がその構成,内容等に照らして,時事の事件を報道する記事と認められることを要するというべきであるが,本件記事においては,本件映画に関して,「A初ヌード」「『裸乳シーン』も公開で大騒動!」というような各大見出しが付され,本件活版記事にAの3つのヌードシーンを具体的に説明する文章があり,さらに本件写真が本件グラビアの最後の1ページのほぼ全体を使って掲載され「ラブシーンで全裸になるA。」などの記述が付されているのであって,このような本件記事の構成及び内容からみれば,本件記事が主として伝達している内容は,女優Aが本件映画で初めてヌードになっているということに尽きるものであって,本件記事は,読者の性的好奇心を刺激して本誌の購買意欲をかきたてようとの意図で記述されているものといわざるを得ない。そして,本件映画においてAがヌードになっているということが時事の事件の報道に該当しないことは明らかであるから,本件記事への本件写真掲載は,著作権法41条所定の時事の事件の報道のための利用に当たらないというべきである。

平成281215日東京地方裁判所[平成28()11697]
被告は言語の著作物である本件講演をインターネット上の配信サイトで配信したものであるから,被告の行為は本件講演に係る各原告の公衆送信権を侵害する行為に該当する。
これに対し,被告は,本件配信は「時事の事件の報道」(著作権法41条)に該当するため原告らの著作権が制限され,公衆送信権侵害は成立しない旨主張する。そこで検討すると,まず,この点に関する被告の主張を前提としても,本件講演それ自体が同条にいう「時事の事件」に当たるとみることは困難である。これに加え,同条は,時事の事件を報道する場合には,当該事件を構成する著作物等を「報道の目的上正当な範囲内」において「当該事件の報道に伴って利用する」限りにおいて,当該著作物についての著作権を制限する旨の規定である。本件配信は,約3時間にわたり本件講演の全部を,本件コメントを付して配信するものであるから,同条により許される著作物の利用に当たらないことは明らかである。

平成301211日東京地方裁判所[平成29()27374]
被告らは,本件楽曲は,①視聴者に対して原告による覚せい剤使用の事実の真偽を判断するための材料を提供するという点において「警視庁が原告を覚せい剤使用の疑いで逮捕する方針であること」という時事の事件を構成するものであるし,②原告が執行猶予期間中に更生に向けて行っていた音楽活動の成果物であるという点において「原告が有罪判決後の執行猶予期間中に音楽活動を行い更生に向けた活動をしていたこと」という時事の事件を構成するものである旨主張する。
上記の主張について検討するに,本件楽曲は,警視庁が原告に対する覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求する予定であることやこれに関連する報道がされた際に放送されたものであると認められるところ,警視庁が原告に対する覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求する予定であることが時事の事件に当たることについては,当事者間に争いがない。
しかしながら,本件楽曲は,警視庁が原告に対する覚せい剤使用の疑いで逮捕状を請求する予定であるという時事の事件の主題となるものではないし,かかる時事の事件と直接の関連性を有するものでもないから,時事の事件を構成する著作物に当たるとは認められない。これに反する被告らの主張は採用できない。
次に,上記の主張について検討する。
(略)
上記認定事実によれば,本件番組中における原告の音楽活動に関する部分は,警視庁が原告を覚せい剤使用の疑いで逮捕する予定であることを報道する中で,ごく短時間に,原告が2020年のオリンピックのテーマソングとして作曲した本件楽曲を被告Bに送付し,来月,YouTubeで新曲を発表するなど音楽活動に向けて動こうとしている,ということを断片的に紹介する程度にとどまっており,本件楽曲の紹介自体も,原告がそれまでに創作した楽曲とは異なる印象を受けることを指摘するにすぎないもので,これ以上に原告の音楽活動に係る具体的な事実の紹介はないものであるから,このような放送内容に照らせば,本件番組中における原告の音楽活動に関する部分が「原告が有罪判決後の執行猶予期間中に音楽活動を行い更生に向けた活動をしていたこと」という「時事の事件の報道」に当たるとは,到底いうことができない。
したがって,被告らによる本件楽曲の公衆送信行為は法41条の時事の事件の報道のための利用に当たるとは認められない。

▶令和3716日東京地方裁判所[令和3()4491]
著作権法41条は,「時事の事件を報道する場合には,当該事件を構成…(す)る著作物は,報道の目的上正当な範囲内において,…利用することができる。」と規定するところ,被告は,別件訴状の公表は「時事の事件を報道する場合」に当たると主張する。
しかし,本件ブログ記事には,前記前提事実のとおり,「改めて訴状をいただいたことは大変遺憾です。」,「仮にBさんの感情を害するものがあっても受忍限度内であると考えます。」,「『デマを意図的に拡散した』かのごとく記載されたことについては,業界の大御所であるBさんからパワハラを受けたと感じています。」などと記載されており,その趣旨は,紛争状態にある別件訴訟原告から訴えを提起されたことについて,遺憾の意を表明し,あるいは訴状の内容の不当性を訴えるものであって,公衆に対し,当該訴訟や別件訴状の内容を社会的な意義のある時事の事件として客観的かつ正確に伝えようとするものであると解することはできない。
したがって,別件訴状の公表は,「時事の事件を報道する場合」に該当せず,著作権法41条は適用されない。

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