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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

美術著作物▶応用美術一般論[高裁/時系列/平成]

平成3067日知的財産高等裁判所[平成30()10009]
控訴人は,産業用の利用を目的とする機器であっても,創作性を備えるものについては,美術の著作物として著作物性が肯定されるべきであるとした上で,原告商品は控訴人代表者の創意工夫に基づいて制作されたものであって,直針状の出口ノズルがフィーダ本体部の先端から突き出た形状で,配線チューブ等がフィーダ本体上部後端からまっすぐに伸びており,小型かつ軽量であって,その全体は端整かつ鋭敏で優雅な美しさが表現されているから,美術の著作物に当たると主張する。
この点につき検討するに,著作権法上の美術の著作物として保護されるためには,仮にそれが産業用の利用を目的とするものであったとしても,美的観点を全く捨象してしまうことは相当でなく,何らかの形で美的鑑賞の対象となり得るような創作的特性を備えていなければならないというべきである。
控訴人が主張するように,原告商品は,ステッピングモータの一部分が飛び出している点を除き,出口ノズルから配線チューブ等に至るまで,各構成が概ね直線状にコンパクトにまとめられた形態を有していることが認められる。しかし,原告商品の外観からは,社会通念上,この機器を動作させるために必要な部材を機能的観点に基づいて組み合わせたもの,すなわち技術的思想が表現されたものであるということ以上に,端整とか鋭敏,優雅といったような何かしらの審美的要素を見て取ることは困難であるといわざるを得ず,原告商品が美的鑑賞の対象となり得るような創作的特性を備えているということはできない。

平成281221日知的財産高等裁判所[平成28()10054]
著作権法は,建築(同法10条1項5号),地図,学術的な性質を有する図形(同項6号),プログラム(同項9号),データベース(同法12条の2)などの専ら実用に供されるものを著作物になり得るものとして明示的に掲げているのであるから,実用に供されているということ自体と著作物性の存否との間に直接の関連性があるとはいえない。したがって,専ら,応用美術に実用性があることゆえに応用美術を別異に取り扱うべき合理的理由は見出し難い。また,応用美術には,様々なものがあり得,その表現態様も多様であるから,美的特性の表現のされ方も個別具体的なものと考えられる。
そうすると,応用美術は,「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)に属するものであるか否かが問題となる以上,著作物性を肯定するためには,それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても,高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはいえず,著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,著作物として保護されるものと解すべきである。
もっとも,応用美術は,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とするものであるから,美的特性を備えるとともに,当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があり,その表現については,同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならない。応用美術の表現については,このような制約が課されることから,作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され,したがって,応用美術は,通常,創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が,上記制約を課されない他の表現物に比して狭く,また,著作物性を認められても,その著作権保護の範囲は,比較的狭いものにとどまることが想定される。そうすると,応用美術について,美術の著作物として著作物性を肯定するために,高い創作性の有無の判断基準を設定しないからといって,他の知的財産制度の趣旨が没却されたり,あるいは,社会生活について過度な制約が課されたりする結果を生じるとは解しがたい。また,応用美術の一部について著作物性を認めることにより,仮に,何らかの社会的な弊害が生じることがあるとすれば,それは,本来,著作権法自体の制限規定等により対処すべきものと思料される。
これに対して,被控訴人は,著作権法,意匠法及び不正競争防止法の諸規定からすれば,実用に供される機能的な工業製品ないしそのデザインは,その実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えていない限り,著作権法2条1項1号の「文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」に当たらないというべきである,と主張する。
確かに,実用に供される機能的な工業製品ないしそのデザインについて,応用美術として著作権法による保護を求める場合には,応用美術が美術の著作物である以上,美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないが,応用美術には,装身具等の実用品自体であるもの,家具等に施された彫刻等実用品と結合されたもの,染色図案等実用品の模様として利用されることを目的とするものなど様々なものがあり,表現態様も多様であるから,応用美術が一方において実用的機能を有することを理由として,一律に著作物性を否定することは相当ではなく,また,「美的」という観点からの高い創作性の判断基準を設定することも相当とはいえない。
また,被控訴人は,ゴルフクラブのシャフトのデザインは,シャフトの形態に制約され,ぱっと見た目の良し悪し,ユーザーの記憶への残りやすさなどを目的として制作され,美的鑑賞の対象となることが想定できないから,そのデザインにおいて重視されるのは,実用的,商業的観点であり,作者の個性の表出や表現ではないから,著作権法が想定している個性を表現したものではあり得ない,と主張する。
確かに,シャフトのデザインは,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とする側面を有するものであるから,当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があるとともに,商業的観点からの要請もあるので,その表現については,同機能を発揮し得る範囲内のものであり商業的観点も重視されなければならない(これらに基づくデザイン上の制約としては,例えば,シャフトという物品上で表現し得るものであることに加え,印象に残る色彩の使用や製品名・製造者名等の記載などが求められることが想定される。)。
しかし,同機能を発揮しつつも,なお,デザインが作成者の個性の表現であると認められる場合も想定されるから,実用的,商業的観点から作成され,評価されるデザインであるという理由で,一律にそのデザインの著作物性を否定するのは相当ではない。シャフトのデザインの表現については,上記のような実用的,商業的観点からの制約が課されることから,作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され,創作性を備えているものとして著作物性が認められる余地が狭いものと解されるが,個性を表現する余地がないわけではない。

平成281130日知的財産高等裁判所[平成28()10018]
著作権法は,建築(同法10条1項5号),地図,学術的な性質を有する図形(同項6号),プログラム(同項9号),データベース(同法12条の2)などの専ら実用に供されるものを著作物になり得るものとして明示的に掲げているのであるから,実用に供されているということ自体と著作物性の存否との間に直接の関連性があるとはいえない。したがって,専ら,応用美術に実用性があることゆえに応用美術を別異に取り扱うべき合理的理由は見出し難い。また,応用美術には,様々なものがあり得,その表現態様も多様であるから,作成者の個性の発揮のされ方も個別具体的なものと考えられる。
そうすると,応用美術は,「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)に属するものであるか否かが問題となる以上,著作物性を肯定するためには,それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても,高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはいえず,著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,著作物として保護されるものと解すべきである。
もっとも,応用美術は,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とするものであるから,美的特性を備えるとともに,当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があり,その表現については,同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならない。応用美術の表現については,このような制約が課されることから,作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され,したがって,応用美術は,通常,創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が,上記制約を課されない他の表現物に比して狭く,また,著作物性を認められても,その著作権保護の範囲は,比較的狭いものにとどまることが想定される。そうすると,応用美術について,美術の著作物として著作物性を肯定するために,高い創作性の有無の判断基準を設定しないからといって,他の知的財産制度の趣旨が没却されたり,あるいは,社会生活について過度な制約が課されたりする結果を生じるとは解し難い。
また,著作権法は,表現を保護するものであり,アイディアそれ自体を保護するものではないから,単に着想に独創性があったとしても,その着想が表現に独創性を持って顕れなければ,個性が発揮されたものとはいえない。このことは,応用美術の著作物性を検討する際にも,当然にあてはまるものである。
以上を前提に,控訴人加湿器の著作物性を判断する。

平成281013日 知的財産高等裁判所[ 平成28()10059]
実用品であっても美術の著作物としての保護を求める以上,美的観点を全く捨象してしまうことは相当でなく,何らかの形で美的鑑賞の対象となり得るような特性を備えていることが必要である(これは,美術の著作物としての創作性を認める上で最低限の要件というべきである)。したがって,控訴人の主張が,単に他社製品と比較して特徴的な形態さえ備わっていれば良い(およそ美的特性の有無を考慮する必要がない)とするものであれば,その前提において誤りがある。

▶平成27414日知的財産高等裁判所[平成26()10063]
応用美術は,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とするものであるから,当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があるので,その表現については,同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならない。応用美術の表現については,このような制約が課されることから,作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され,したがって,応用美術は,通常,創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が,上記制約を課されない他の表現物に比して狭く,また,著作物性を認められても,その著作権保護の範囲は,比較的狭いものにとどまることが想定される。
以上に鑑みると,応用美術につき,他の表現物と同様に,表現に作成者の何らかの個性が発揮されていれば,創作性があるものとして著作物性を認めても,一般社会における利用,流通に関し,実用目的又は産業上の利用目的の実現を妨げるほどの制約が生じる事態を招くことまでは,考え難い。

▶平成27414日知的財産高等裁判所[平成26()10063]
著作権法が,「文化的所産の公正な利用に留意しつつ,著作者等の権利の保護を図り,もって文化の発展に寄与することを目的と」していること(同法1条)に鑑みると,表現物につき,実用に供されること又は産業上の利用を目的とすることをもって,直ちに著作物性を一律に否定することは,相当ではない。同法22項は,「美術の著作物」の例示規定にすぎず,例示に係る「美術工芸品」に該当しない応用美術であっても,同条11号所定の著作物性の要件を充たすものについては,「美術の著作物」として,同法上保護されるものと解すべきである。
(略)
応用美術は,装身具等実用品自体であるもの,家具に施された彫刻等実用品と結合されたもの,染色図案等実用品の模様として利用されることを目的とするものなど様々であり,表現態様も多様であるから,応用美術に一律に適用すべきものとして,高い創作性の有無の判断基準を設定することは相当とはいえず,個別具体的に,作成者の個性が発揮されているか否かを検討すべきである。

▶平成27414日知的財産高等裁判所[平成26()10063]
1014号の規定内容に鑑みると,「美術工芸品」は,同号の掲げる「絵画,版画,彫刻」と同様に,主として鑑賞を目的とする工芸品を指すものと解される。

▶平成26828日知的財産高等裁判所[平成25()10068]
応用美術に関するこれまでの多数の下級審裁判例の存在とタイプフェイスに関する最高裁の判例(最高裁平成1297日第一小法廷判決)によれば,まず,著作権法22項は,単なる例示規定であると解すべきであり,そして,一品制作の美術工芸品と量産される美術工芸品との間に客観的に見た場合の差異は存しないのであるから,著作権法211号の定義規定からすれば,量産される美術工芸品であっても,全体が美的鑑賞目的のために制作されるものであれば,美術の著作物として保護されると解すべきである。また,著作権法211号の定義規定からすれば,実用目的の応用美術であっても,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては,法211号に含まれることが明らかな「思想又は感情を創作的に表現した(純粋)美術の著作物」と客観的に同一なものとみることができるのであるから,当該部分を法211号の美術の著作物として保護すべきであると解すべきである。他方,実用目的の応用美術であっても,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものについては,法211号に含まれる「思想又は感情を創作的に表現した(純粋)美術の著作物」と客観的に同一なものとみることはできないのであるから,これは同号における著作物として保護されないと解すべきである。

▶平成260122日知的財産高等裁判所[平成25()10066]
本件図柄は,あくまでも広告看板用のものであり,実用に供され,あるいは,産業上利用される応用美術の範ちゅうに属するというべきものであるところ,応用美術であることから当然に著作物性が否定されるものではないが,応用美術に著作物性を認めるためには,客観的外形的に観察して見る者の審美的要素に働きかける創作性があり,これが純粋美術と同視し得る程度のものでなければならないと解するのが相当である。このような観点から見ると,本件図柄のグラスの形状には,通常のワイングラスと比べて足の長さが短いといった特徴も認められるものの,それ以外にグラスとしての個性的な表現は見出せない。また,ワイナリーの広告としてワイングラス自体が用いられること自体は珍しいものではない上に,図柄が看板の大部分を占めている点も,ワイナリーの広告としてありふれた表現にすぎない。そして,本件図柄を全体的に観察すると,上記ワイングラスの大きさや形状に加えて,被控訴人の商号及びワイナリーや工場の見学の勧誘文言が目立つような文字の配置と配色がなされていることが特徴的であるが,これも,一般的な道路看板に用いられているようなありふれた青系統の色と補色に近い黄色ないし白色のコントラストがなされているにとどまる。
そうすると,本件図柄には色彩選択の点や文字のアーチ状の配置など控訴人なりの感性に基づく一定の工夫が看取されるとはいえ,見る者にとっては宣伝広告の領域を超えるものではなく,純粋美術と同視できる程度の審美的要素への働きかけを肯定することは困難である。
(略)
控訴人主張のとおり,ペンチという道具を単純化してその一部を平面的にデフォルメして構図化したデザインや四角いキャンバスを二つの三角形に分けてそれぞれ単色で色づけしたデザインのように,一見ありふれた表現方法が用いられているものが芸術作品として取り扱われている例があるとしても,これらは,いずれも美術作品として一点限りで制作されるのであって,広告のために複数が作成される商業的作品とは相違する上,作成時期も本件図柄と違っていずれも昭和40年代の作品で美術史的な位置付けも異なり,あくまでも純粋に審美性を追求する見地からシンプルな配色やデザインがあえて使用されたとも評価できる。そうすると,遠方から確認しやすく,一般消費者である通行人や通行車両の注意を惹き,広告対象物への興味をわき上がらせる形態が一次的に要求される広告看板用の本件図柄とは,その配色や構図の目的や意味合いは自ずと異なり,著作物性の前提となる作成者の創作性の反映や見る者に対する審美的要素への働きかけの有無や程度も当然に異なってくるというべきである。したがって,上記のような美術作品の存在は,本件図柄につき純粋美術と同視できる程度の審美的要素への働きかけを否定した上記判断を左右するものではない。

▶平成240322日知的財産高等裁判所[平成23()10062]
著作権法211号及び同条2項の規定振りなどに照らすならば,産業上利用されることを予定して製作される商品等について,その形状,模様又は色彩の選択により,美的な価値を高める効果がある場合,そのような効果があるからといって,その形状,模様又は色彩の選択は,当然には,著作権法による保護の対象となる美術の著作物に当たると解すべきではなく,その製品の目的,性質等の諸要素を総合して,美術工芸品と同視できるような美的な効果を有する限りにおいて,著作権法の保護の対象となる美術の著作物となると解すべきである。
(略)
本件デザインは,実用品である鍋の持ち手のデザインであること,鍋本体側の断面が横長楕円(35度楕円),手元側の断面が縦長楕円(45度楕円)の二つの楕円を直線の集合からなる曲面で覆われていること,鍋本体に近接した部分に指止め部分が設けられていること,下方に折れ曲がったジョイント部があることなどの形態を呈したデザインであると推認される。上記の形態からなるデザインは,美的な観点から選択された面もあるが,実用品である鍋等の取っ手としての持ちやすさ,安定性など,機能的な観点から選択されたものともいえる。そのような点を勘案すると,本件デザインは,美術工芸品と同視できるような美的な効果を有するものとまではいえず,著作権法の保護の対象となる美術の著作物に当たるとすることはできない。

▶平成240222日知的財産高等裁判所[平成23()10053]
控訴人装置は,体験型装置として用いられており,控訴人も,不正競争防止法213号の「商品」に該当すると主張するものであって,実用に供され,又は産業上利用されることを目的とする応用美術に属するものというべきであるから,それが純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美的特性を備えている場合に限り,著作物性を認めることができるものと解すべきである。

▶平成170728日大阪高等裁判所[平成16()3893]
応用美術一般に著作権法による保護が及ぶものとまで解することはできないが,応用美術であっても,実用性や機能性とは別に,独立して美的鑑賞の対象となるだけの美術性を有するに至っているため,一定の美的感覚を備えた一般人を基準に,純粋美術と同視し得る程度の美的創作性を具備していると評価される場合は,「美術の著作物」として,著作権法による保護の対象となる場合があるものと解するのが相当である。

平成160929日大阪高等裁判所[平成15()3575]
著作権法は、著作物の例示中に『絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物』を挙げた(同法10条1項4号)上で、『美術の著作物』には『美術工芸品』を含む旨を規定している(同法2条2項)から、『美術の著作物』は純粋美術(絵画や彫刻のように、専ら鑑賞目的で創作される美的創作物)に限定されないことは明らかであるものの、一品制作的な美術工芸品を除く、その他の応用美術(実用目的の物品に応用される美的創作物)が『美術の著作物』に該当するかどうかは、同法の条文上必ずしも明らかではない。
ところで、応用美術は、①純粋美術作品が実用品に応用された場合(例えば、絵画を屏風に仕立て、彫刻を実用品の模様に利用するなど)、②純粋美術の技法を実用目的のある物品に適用しながら、実用性よりも美の追求に重点を置いた一品制作的な場合、③純粋美術の感覚又は技法を機械生産又は大量生産に応用した場合に分類することができる。このことに、本来、応用美術を含む工業的に大量生産される実用品の意匠は、産業の発展に寄与することを目的とする意匠法の保護対象となるべきものであること(同法1条)、これに対し、著作権法は文化の発展に寄与することを目的とするものであり(同法1条)、現行著作権法の制定過程においても、意匠法によって保護される応用美術について、著作権法の保護対象にもするとの意見は採用されなかったこと、一品制作的な美術工芸品を越えて、応用美術全般に著作権法による保護が及ぶとすると、両法の保護の程度の差異(意匠法による保護は、公的公示手段である設定登録が必要である上、保護期間(存続期間)が設定登録の日から15年であるのに対し、著作権による保護は、設定登録をする必要はなく、保護期間(存続期間)が著作物の創作の時から著作者の死後50年を経過するまで、法人名義の著作物は公表後50年を経過するまで等とされている。)から、意匠法の存在意義が失われることにもなりかねないこと等を合わせ考慮すると、原則として、応用美術については、著作権法の保護が及ばないものと解するのが相当である。
もっとも、応用美術であっても、それが造形者の知的・文化的精神活動の所産であって、通常の創作活動を上回り、実用性や機能性とは別に、独立して美的鑑賞の対象となり、造形芸術と評価し得るだけの美術性を有するに至っているため、客観的、外形的に見て、社会通念上、純粋美術と同視し得る美的創作性(審美的創作性)を具備していると認められる場合は、『美術の著作物』として著作権法による保護の対象となる場合があるものと解される。

▶平成140709日仙台高等裁判所[平成13()177]
実用品に供されあるいは産業上利用されることを目的として制作される応用美術については,昭和44年当時の著作権法の制定経過や同法が応用美術のうち美術工芸品のみを掲げていることなどを考慮すると,現行著作権法上は原則として著作権法の対象とならず,意匠法等工業所有権制度による保護に委ねられていると解すべきである。ただ,そうした応用美術のうちでも,純粋美術と同視できる程度に美術鑑賞の対象とされると認められるものは,美術の著作物として著作権法上保護の対象となると解釈することはできる。そこで,美術の著作物といえるためには,応用美術が,純粋美術と等しく美術鑑賞の対象となりうる程度の審美性を備えていることが必要である。これを本件で問題となっている実用品のデザイン形態についていえば,そのデザイン形態で生産される実用品の形態,外観が,美術鑑賞の対象となりうるだけの審美性を備えている場合には,美術の著作物に該当するといえる。
(略)
「ファービー」に見られる形態には,電子玩具としての実用性及び機能性保持のための要請が濃く表れているのであって,これは美感をそぐものであり,「ファービー」の形態は,全体として美術鑑賞の対象となるだけの審美性が備わっているとは認められず,純粋美術と同視できるものではない。

▶平成130530日東京高等裁判所[平成11()6345]
本件人形は、ローズ・オニール自身が戯れに彫ったキューピーの小さな彫像を複製して制作されたものであるところ、控訴人の主張する本件著作権は、玩具工場等において大量に複製されたキューピー人形そのものではなく、ローズ・オニール自身が彫った上記キューピーの小さな彫像(本件著作物)に係る著作権をいうものと解すべきであるから、(証拠)に撮影された人形自体が金型を用いて大量生産されたものであるとしても、そのことは、本件著作物が美術の著作物であることを否定する理由とはならない。

▶平成31217日東京高等裁判所[平成2()2733]
著作権法22項の規定は、いわゆる応用美術、すなわち実用品に純粋美術(専ら鑑賞を目的とする美の表現)の技法感覚などを応用した美術のうち、それ自体が実用品であって、極少量製作される美術工芸品を著作権法による保護の対象とする趣旨を明らかにしたものである。著作権法は、応用美術のうち美術工芸品以外のものについては、それが著作権法による保護の対象となるか否かを何ら明らかにしていないが、応用美術のうち、例えば実用品の模様などとして用いられることのみを目的として製作されたものは、本来、工業上利用することができる意匠、すなわち工業的生産手段を用いて技術的に同一のものを多量に生産することができる意匠として意匠法によって保護されるべきであると考えられる。けだし、意匠法はこのような意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする(同法1条)ものであり、前記の品の形状、模様、色彩又はそれらの結合は正に同法にいう意匠(同法2条)として意匠権の対象となるのに適しているからである。もっとも、実用品の模様などとして用いられることのみを目的として製作されたものであっても、例えば著名な画家によって製作されたもののように、高度の芸術性(すなわち、思想又は感情の高度に創作的な表現)を有し、純粋美術としての性質をも肯認するのが社会通念に沿うものであるときは、これを著作権法にいう美術の著作物に該当すると解することもできるであろう。

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