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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

美術著作物▶書体(タイプフェイス)

▶平成1297最高裁判所第一小法廷[平成10()332]
著作権法211号は、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」を著作物と定めるところ、印刷用書体がここにいう著作物に該当するというためには、それが従来の印刷用書体に比して顕著な特徴を有するといった独創性を備えることが必要であり、かつ、それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えていなければならないと解するのが相当である。この点につき、印刷用書体について右の独創性を緩和し、又は実用的機能の観点から見た美しさがあれば足りるとすると、この印刷用書体を用いた小説、論文等の印刷物を出版するためには印刷用書体の著作者の氏名の表示及び著作権者の許諾が必要となり、これを複製する際にも著作権者の許諾が必要となり、既存の印刷用書体に依拠して類似の印刷用書体を制作し又はこれを改良することができなくなるなどのおそれがあり(著作権法19条ないし21条、27条)、著作物の公正な利用に留意しつつ、著作者の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄与しようとする著作権法の目的に反することになる。また、印刷用書体は、文字の有する情報伝達機能を発揮する必要があるために、必然的にその形態には一定の制約を受けるものであるところ、これが一般的に著作物として保護されるものとすると、著作権の成立に審査及び登録を要せず、著作権の対外的な表示も要求しない我が国の著作権制度の下においては、わずかな差異を有する無数の印刷用書体について著作権が成立することとなり、権利関係が複雑となり、混乱を招くことが予想される。

▶昭和540309日東京地方裁判所[昭和49()1959]
著作物性を肯定されることのある「書」及び「花文字」も、文字を素材とする美的作品であるという点においては、デザイン書体と異るところがない。しかし、「書」についていえば、文字が毛筆で書かれているからといつて、ただそれだけで著作物性を取得するわけではない。専ら美の表現を目的として書かれ、美術的書となつて、はじめて美術の著作物として保護されるのである。そして、美術的書においては、たしかに文字が書かれてはいるが、それは情報伝達という実用的機能を果すことを目的とせず、専ら美を表現するための素材たるに止まり、そのことによつて、通常美術鑑賞の対象とされるのである。ことは「花文字」についても同様である。文字に装飾が施され、社会的には「花文字」といわれるものであつても、それが書籍のテキスト等に使用され、情報伝達のための実用的記号として機能するものであるかぎり、いまだ著作物とはいえず、絵画ともいえる程度にまで達し、通常美術鑑賞の対象とされるに及んで、はじめて美術の著作物として保護されるものというべきである。そして、ここに至れば、その文字は実用的記号としての性格を喪失するのである。したがつて、「書」及び「花文字」に著作物性を肯定される場合があるからといつて、これをもつて、デザイン書体が著作物たりうることを理由づける根拠とすることは、できないものというべきである。

▶平成31228日東京地方裁判所[平成29()27741]
原告は,本件タイプフェイスが著作物性を有するかどうかの判断をするにあたっては,タイプフェイスがそれぞれの文字相互に統一感を持たせるように大きさや太さをデザインしているものであるから,個々の文字をそれぞれ独立に見て判断するべきではない旨を主張する。しかしながら,複製権等の侵害の成否は,現に複製等がされた部分に係る著作物性の有無によって判断すべきであること,タイプフェイスは各文字が可分なものとして制作されていることからすれば,被告により現に利用された文字につき著作物性を判断するのが相当である。したがって,以下では本件タイプフェイスのうち,被告により利用された文字に限って判断する。
対比タイプフェイス等によれば,対比タイプフェイス欄に記載された制作年に対比タイプフェイスがそれぞれ制作されたことが認められるところ,原告の主張に係る本件タイプフェイスの制作年である平成12年(2000年)までに制作された対比タイプフェイスに限って対比した場合においても,被告により使用された文字のうち,「シ」,「ッ」,及び「ギ」「ジ」「デ」「ド」「バ」「ブ」「ベ」「ボ」における濁点「゛」の部分(以下,単に「濁点」という。)以外の文字については,本件タイプフェイスに類似する対比タイプフェイスの存在が認められ,本件タイプフェイスの制作時以前から存在する各タイプフェイスのデザインから大きく外れるものとは認めがたい。
他方,本件タイプフェイスにおける「シ」,「ッ」,及び濁点の各文字については,2つの点をアルファベットの「U」の字に繋げた形状にしている点において従来のタイプフェイスにはない特徴を一応有しているということはできる。しかしながら,2つの点が繋げられた形状のタイプフェイス(CLEAR KANATYPE及び曲水M)の存在を考慮すれば,顕著な特徴を有するといった独創性を備えているとまでは認めがたい。
以上からすれば,本件タイプフェイスが,独創性を備えているということはできないし,また,それ自体が美術鑑賞の対象となり得る美的特性を備えているということもできないから,著作物に当たると認めることはできない。

[ロゴ(デザイン書体)]
▶平成281221日知的財産高等裁判所[平成28()10054]
いわゆるデザイン書体は,文字の字体を基礎として,これにデザインを施したものであるところ,文字は,本来的には情報伝達という実用的機能から生じたものであり,社会的に共有されるべき文化的所産でもあるから,文字の字体を基礎として含むデザイン書体の表現形態に著作権としての保護を与えるべき創作性を認めることは,一般的には困難であると考えられる。しかも,本件において,「Tour AD」のブランドロゴは,既存のフォントを利用した上で,「T」の横字画部を右に長く鋭角に伸ばしたものであるところ,文字として可読であるという機能を維持しつつデザインするに当たって,文字の一字画のみを当該文字及び他の文字の字画を妨げない範囲で伸ばすことは一般によく行われる表現であること,文字の一字画を伸ばした先を単に鋭角とすることも,平凡であることからすれば,この表現が個性的なものとは認められない。

▶令和31224日東京地方裁判所[令和2()19840]/令和4927日知的財産高等裁判所[令和4()10011]
原告標章の著作物性の有無について
【著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう(著作権法2条1項1号)。そして、商品又は営業の出所を表示するものとして文字から構成される標章は、商品又は営業の出所を示すという実用的な目的で作出され、使用されるものであり、その保護は、商標法又は不正競争防止法により図られるべきものである。文字からなる商標の中には、外観や見栄えの良さに配慮して、文字の形や配列に工夫をしたものもあるが、それらは、文字として認識され、かつ出所を表示するものとして、見る者にどのように訴えかけるか、すなわち標章としての機能を発揮させるためにどのように構成することが適切かという実用目的のためにそのような工夫がされているものであるから、通常は、美的鑑賞の対象となるような思想又は感情の創作性が発揮されているものとは認められない。商品又は営業の出所を表示するものとして文字から構成される標章が著作物に該当する場合があり得るとしても、それは、商標法などの標識法で保護されるべき自他商品・役務識別機能を超えた顕著な特徴を有するといった独創性を備え、かつそれ自体が、識別機能という実用性の面を離れて客観的、外形的に純粋美術と同視し得る程度の美的鑑賞の対象となり得る創作性を備えなければならないというべきである。】
これを本件についてみると,別紙の記載によれば,原告標章は,一般的なセリフフォントを使用して,大きな文字で原告の商号をローマ字で表記した「ANOWA」の語を「ANO」及び「WA」の上下2行に分け,「A」の右下と「N」の左下のセリフ部分が接続し「W」の中央部分が交差するよう配置した上,その行間(文字高さの3分の1)には,小さな文字で,英単語「SPACE」(空間),「DESIGN」(デザイン),「PROJECT」(プロジェクト)の3語を1行に配置し,その全体を9対7の横長の範囲に収めたロゴタイプであると認めることができる。
上記認定事実によれば,原告標章は,文字配置の特徴等を十分考慮しても,欧文フォントのデザインとしてそれ自体特徴を有するものとはいえず,原告の商号を表示する文字に業務に関連する単語を添えて,これらを特定の縦横比に配置したものにすぎないことが認められる。そうすると,原告標章は,出所を表示するという実用目的で使用される域を出ないというべきであり,それ自体が独立して美術鑑賞の対象となる創作性を備えているような特段の事情を認めることはできない。
【商標法などの標識法で保護されるべき自他商品・役務識別機能を超えた顕著な特徴を有するといった独創性を備え、かつそれ自体が、識別機能という実用性の面を離れて客観的、外形的に純粋美術と同視し得る程度の美的鑑賞の対象となり得る創作性を備えるものとは認められないから、著作権法により保護されるべき著作物に該当するとは認められない。】

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▶昭和580426日東京高等裁判所[昭和54()590]
いま文字等の限度において考えるに、たとえば、書や花文字のあるもののように、文字を素材としたものであつても、専ら思想又は感情にかかる美的な創作であつて、文字等が本来有する情報伝達という実用的機能を果すものではなく、美的な鑑賞の対象となるものであるときには、それは、文字等の実用的記号としての本来的性格を有しないから、著作物性を有するとしうべきものである。

▶平成140218日東京高等裁判所[平成11()5641]
書は、一般に、文字及び書体の選択、文字の形、太細、方向、大きさ、全体の配置と構成、墨の濃淡と潤渇(にじみ、かすれを含む。以下、同じ。)などの表現形式を通じて、文字の形の独創性、線の美しさと微妙さ、文字群と余白の構成美、運筆の緩急と抑揚、墨色の冴えと変化、筆の勢い、ひいては作者の精神性までをも見る者に感得させる造形芸術であるとされている。他方、書は、本来的には情報伝達という実用的機能を担うものとして特定人の独占が許されない文字を素材として成り立っているという性格上、文字の基本的な形(字体、書体)による表現上の制約を伴うことは否定することができず、書として表現されているとしても、その字体や書体そのものに著作物性を見いだすことは一般的には困難であるから、書の著作物としての本質的な特徴、すなわち思想、感情の創作的な表現部分は、字体や書体のほか、これに付け加えられた書に特有の上記の美的要素に求めざるを得ない。

▶平成111027日東京地方裁判所[平成10()14675]
書は、本来情報伝達という実用的機能を有し、特定人の独占使用が許されない文字を素材とするものであるが、他方、文字の選択、文字の形、大きさ、墨の濃淡、筆の運びないし筆勢、文字相互の組合せによる構成等により、思想、感情を表現した美的要素を備えるものであれば、筆者の個性的な表現が発揮されている美術の著作物として、著作権の保護の対象となり得るものと考えられる。

▶平成110921日大阪地方裁判所[平成10()11012]
文字を素材とした造形表現物の中でも、元来美術鑑賞の対象となるような書家による書は、字体、筆遣い、筆勢、墨の濃淡やにじみ等の様々な要素により多様な表現が可能な中で、筆者の知的、文化的精神活動の所産としての創作的な表現をしたものとして著作物性が認められるのは当然であり、書家による書に限らず、「書」と評価できるような創作的な表現のものは、美術の著作物(著作権法1014号)に当たると解される。

[書体の無断使用の不法行為該当性]
▶平成10308日大阪地方裁判所[昭和58()4872]
著作物性の認められない書体であっても、真に創作性のある書体が、他人によって、そっくりそのまま無断で使用されているような場合には、これについて不法行為の法理を適用して保護する余地はあると解するのが相当である。

▶平成26926日大阪高等裁判所[平成25()2494]
控訴人が主張する本件フォントという財産法上の利益とは,知的財産権関係の各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益として主張される必要がある。
ところで,本件で控訴人は,本件フォントは知的財産であり,法律上保護される利益(民法709条)であると主張している。不法行為に関する控訴人の主張からすると,他人が本件フォントを無断で使用すれば,本件フォントの法的利益を侵害するものとして直ちに違法行為となり,無断使用について故意又は過失があれば不法行為を構成するという趣旨であると解される。しかし,この主張は,本件フォントを他人が適法に使用できるか否かを控訴人が自由に決定し得るというに等しく,その意味で本件フォントを独占的に利用する利益を控訴人が有するというに等しいから,そのような利益は,たとえ本件フォントが多大な努力と費用の下に創作されたものであったとしても,知的財産権関係の各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益とはいえず,法的保護の対象とはならないと解される。
(略)
控訴人は,被控訴人らが,控訴人に無断で,本件フォントを本件番組の制作・放送・配給及び本件DVDの製作・販売等に使用したことが,控訴人に対する不当利得を構成すると主張する。
しかし,このように本件フォントを無断使用したことが直ちに不当利得を構成するとした場合には,本件フォントを他人が適法に使用できるか否かを控訴人が自由に決定し得るというに等しく,その意味で本件フォントを独占的に利用する利益を控訴人が有するというに等しいことは,先に不法行為について述べたところと同様である。そして,そのような利益は法的保護の対象とはならないことからすると,被控訴人らが本件フォントを本件番組に使用したからといって,直ちにその使用行為が法律上の原因を欠き,被控訴人らが利得を得,控訴人が損失を受けたということはできない。
(略)
控訴人は,そのライセンスビジネス上の利益も本件での法律上保護される利益(民法709条)として主張しており,この趣旨は,控訴人が本件フォントを販売・使用許諾することにより行う営業が被控訴人らによって妨害され,その営業上の利益が侵害されたという趣旨であると解される。そして,その趣旨であれば,知的財産権関係の各法律が規律の対象とする創作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益を主張するものであるということができる。
もっとも,我が国では憲法上営業の自由が保障され,各人が自由競争原理の下で営業活動を行うことが保障されていることからすると,他人の営業上の行為によって自己の営業上の利益が侵害されたことをもって,直ちに不法行為上違法と評価するのは相当ではなく,他人の行為が,自由競争の範囲を逸脱し,営業の自由を濫用したものといえるような特段の事情が認められる場合に限り,違法性を有するとして不法行為の成立が認められると解するのが相当である。

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