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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

美術著作物▶個別事例①(ピクトグラム/警告用シールのイラスト

[ピクトグラム]
平成27924日大阪地方裁判所[平成25()1074]
著作権法において保護の対象として定められる著作物は,「思想又は感情を創作的に表現したものであつて,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」をいう(同法2条1項1号)。
本件ピクトグラムは,実在する施設をグラフィックデザインの技法で描き,これを,四隅を丸めた四角で囲い,下部に施設名を記載したものである。本件ピクトグラムは,これが掲載された観光案内図等を見る者に視覚的に対象施設を認識させることを目的に制作され,実際にも相当数の観光案内図等に記載されて実用に供されているものであるから,いわゆる応用美術の範囲に属するものであるといえる。
応用美術の著作物性については,種々の見解があるが,実用性を兼ねた美的創作物においても,「美術工芸品」は著作物に含むと定められており(著作権法2条2項),印刷用書体についても一定の場合には著作物性が肯定されていること(最高裁判所平成12年9月7日判決頁参照)からすれば,それが実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得るような美的特性を備えている場合には,美術の著作物として保護の対象となると解するのが相当である。
本件ピクトグラムについてこれをみると,ピクトグラムというものが,指し示す対象の形状を使用して,その概念を理解させる記号(サインシンボル)である以上,その実用的目的から,客観的に存在する対象施設の外観に依拠した図柄となることは必然であり,その意味で,創作性の幅は限定されるものである。しかし,それぞれの施設の特徴を拾い上げどこを強調するのか,そのためにもどの角度からみた施設を描くのか,また,どの程度,どのように簡略化して描くのか,どこにどのような色を配するか等の美的表現において,実用的機能を離れた創作性の幅は十分に認められる。このような図柄としての美的表現において制作者の思想,個性が表現された結果,それ自体が実用的機能を離れて美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えている場合には,その著作物性を肯定し得るものといえる。

[警告用シールのイラスト]
平成291116日東京地方裁判所[平成28()19080]
立入り禁止や踏込み禁止という趣旨をイラストで表現するに当たり,足のマークに×印を組み合わせること,目を引くように背景色に黄色を用いること,図柄と「NO STEP」という文字を組み合わせること自体は,ありふれた表現であるといえる。
しかし,立入り禁止や踏込み禁止という趣旨を表すイラストにおいて足のマークをどのように表現するかについては選択の幅があるところ,原告警告シールにおける足形マークは,ズボン及び靴をはいた状態の足を描いたものであり,靴は足先に向けて細くなり,つま先がとがっているなどの特徴を有するほか,四角の右上にすねの部分が,左下に靴の部分が位置するような状態で斜めに描かれ,靴の全体も左上の先端が上がった状態で斜めに描かれているという特徴を有する。このような足形マークと×印等を組み合わせたという特徴を有する原告警告シールは,必ずしもありふれた表現であるとはいえず,作成者の個性が表れ思想又は感情を創作的に表現したものであって,著作物に当たると認められる。

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