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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

美術著作物▶個別事例③(街路灯完成予想デザイン図/衣服の花柄刺繍部分のデザイン(図案)/時計のデザインを記載した原画)

[街路灯完成予想デザイン図]
▶平成130123日大阪高等裁判所[平成12()2393]
本件デザイン図は、装飾街路灯を街路に配置した完成予想図である。そして、全体としての構図や色彩、コントラスト等において絵画的な表現形式が取られているものの、右街路灯のデザインが街角でどのように反映するかをイメージ的に描いたものにすぎず、その表現も専ら街路灯デザインを引き立て、これを強調するにとどまっている。したがって、本件デザイン図は、それ自体、美的表現を追求し美的鑑賞の対象とする目的で製作されたものでなく、かつ、内容的にも、純粋美術としての性質を是認し得るような思想又は感情の高度の創作的表現まで未だ看取し得るものではないから、美術の著作物に当たるものとは認められない。

[衣服の花柄刺繍部分のデザイン(図案)]
平成29119日大阪地方裁判所[平成27()9648]
原告商品の花柄刺繍部分のデザインは,衣服に刺繍の装飾を付加するために制作された図案に由来するものと認められ,また同部分を含む原告商品全体のデザインも,衣服向けに制作された図案に由来することは明らかであるから,これらは美的創作物として見た場合,いわゆる応用美術と位置付けられるものである。
ところで著作権法は,文化の発展に寄与することを目的とするものであり(1条),その保護対象である著作物につき,同法2条1項1号は「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」旨を規定し,同条2項は「この法律にいう『美術の著作物』には,美術工芸品を含むものとする」旨規定している。その一方で,美術工芸品が含まれ得る実用に供され,産業上利用することのできる意匠については,別途,意匠法において,同法所定の要件の下で意匠権として保護を受けることができるとされている。そうすると,純粋美術ではない,いわゆる応用美術とされる,実用に供され,産業上利用される製品のデザイン等は,実用的な機能を離れて見た場合に,それが美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えている場合に初めて著作権法上の「美術の著作物」として著作物に含まれ得るものと解するのが相当である。
以上を踏まえて原告商品についてみると,原告商品の花柄刺繍部分の花柄のデザインは,それ自体,美的創作物といえるが,5輪の花及び花の周辺に配置された13枚の葉からなるそのデザインは婦人向けの衣服に頻用される花柄模様の一つのデザインという以上の印象を与えるものではなく,少なくとも衣服に付加されるデザインであることを離れ,独立して美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。また,同部分を含む原告商品全体のデザインについて見ても,その形状が創作活動の結果生み出されたことは肯定できるとしても,両脇にダーツがとられ,スクエア型のネックラインを有し,襟首直下にレース生地の刺繍を有するというランニングシャツの形状は,専ら衣服という実用的機能に即してなされたデザインそのものというべきであり,前記のような花柄刺繍部分を含め,原告商品を全体としてみても,実用的機能を離れて独立した美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えたものとは認められない。

[時計のデザインを記載した原画]
▶令和3624日大阪地方裁判所[令和2()9992]
本件原画の著作物性について
(1) 前記のとおり,本件原画は,一般向けの販売を目的とする時計のデザインを記載した原画であり,それ自体の鑑賞を目的としたものではなく,現に,原告は,本件原画に基づき商品化された原告製品を量産して販売している。すなわち,本件原画は,実用に供する目的で制作されたものであり,いわゆる応用美術に当たる。
(2) 「著作物」とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいい,このうち「美術の著作物」には美術工芸品が含まれる(同条2項)。他方,応用美術のうち,美術工芸品に当たらないものが「美術の著作物」に該当するかどうかについては,明文の規定はない。
しかし,「著作物」の上記定義によれば,「美術の著作物」は,実用目的を有しない純粋美術及び美術工芸品に限定されるべきものではない。すなわち,実用目的で量産される応用美術であっても,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握できるものについては,純粋美術の著作物と客観的に同一なものとみることができる。そうである以上,当該部分は美術の著作物として保護されるべきである。他方で,実用目的の応用美術のうち,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものについては,純粋美術の著作物と客観的に同一なものとみることはできないから,美術の著作物として保護されないと解される。
(3) 本件原画について
ア 本件原画は,別紙写真目録記載のとおりであるところ,本件形態1及び2の観点を踏まえると,これには,以下のとおりの形態の時計が表現されているものと認められる。
(略)
イ 本件原画のうち,本件形態1に係る部分について,時計の針が本体の色彩との関係で視認しやすいこと自体は,針の位置により時間を表示するアナログ時計の実用目的に必要な構成といえる。配色に係るデザイン性(本体の黒色と針の白色のコントラスト)も,このような構成を実現するために採用されているものといえるのであって,当該構成と分離して美的鑑賞の対象となるような美的特性を備えている部分として把握することはできない。
ウ 本件形態2に係る部分については,まず,アナログ時計において,「1」~「12」の各数字及びこれを「12」を頂部として配置して右回りに円環状に配置することは,時間の表示という実用目的に必要な構成といえる。また,これらの数字により形成された円環の内側にある円盤状部及び外側に形成された円弧状の枠は,円環状に配置された数字と互いに接着することにより,全体として時計本体を構成し,その形状を維持している部分と見られるから,これらも実用目的に必要な構成といえる。使用されている数字のフォントや円盤状部の大きさの点も,数字の見易さ及び時計としての使用に耐える一定の強度の実現という時計としての実用目的に必要な構成である。さらに,数字の字体そのものは,何ら特徴的なものではない。
他方,各数字の外周側に円弧状の枠が設けられていない部分は,デザインの観点から目を引く部分と見ることも可能である。もっとも,当該部分は,下部に上記枠の終端部が接する「9」を除くと,2桁の数字(「10」~「12」)が配置された部分であるところ,全ての数字の外側を円弧上の枠により囲んだ製品においては「10」及び「11」の数字のサイズが他の数字に比して明らかに小さいことにも鑑みると,上記枠の設けられていない部分に他の部分と同様に枠を設けた場合,10の桁を示す「1」の部分がそれぞれ円弧状の枠と干渉して数字を読み取り難くなり,時間の把握という時計の実用目的を部分的にであれ損なうことになると考えられる。そうすると,当該部分のデザインについても,時計の実用目的に必要な構成と分離して美的鑑賞の対象となるような美的特性を備えている部分として把握することはできない。
エ したがって,本件原画は,実用目的に必要な構成と分離して,美的鑑賞の対象となる美的特性を備えている部分を把握することができないものであるから,これを純粋美術の著作物と客観的に同一なものと見ることはできず,著作物とは認められない。

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