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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

美術著作物注目事例(布団の絵柄(テキスタイルデザイ)の著作物性)

令和5427日大阪高等裁判所[令和4()745]
1 争点(1)(本件絵柄に著作物性があるか)に対する判断
(1) 控訴人は、P1から本件絵柄の著作権を譲り受けたことを前提に、被控訴人らの布団製造販売行為が、控訴人が取得した著作権の侵害行為であると主張して本件各請求をしている。しかしながら、以下に述べるとおり、本件絵柄は著作権法上の著作物ということができないから、控訴人は著作権を譲り受けたといえず、したがって主張に係る著作権の侵害を前提とする控訴人の被控訴人らに対する各請求はいずれも理由がないというべきである。
(2) 本件絵柄は、テキスタイルデザイナーであるP1によって販売目的で量産衣料品の生地に用いるデザイン案として制作され、現にその目的に沿って控訴人に対して販売され、実用品である原告商品の絵柄として用いられたものであり、いわゆる応用美術に当たる。控訴人は、本件絵柄が、いわゆる応用美術であるとしても、布団の絵柄は実用的機能とは全く無関係な部分であるし、またP1が本件絵柄を完成させた時点では、本件絵柄と布団は分離されているから、本件絵柄は、他の著作物同様の創作性の判断基準で著作物性が認められるべき旨主張する。
そこで検討するに、著作権法2条1項1号は、「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう」と規定し、同法10条1項4号は、同法にいう著作物の例示として、「絵画、版画、彫刻その他の美術の著作物」を規定し、同法2条2項は、「この法律にいう『美術の著作物』には、美術工芸品を含むものとする」と規定している。ここにいう「美術工芸品」は例示と解され、美術工芸品以外のいわゆる応用美術が、著作物として保護されるか否かは著作権法の文言上明らかでないが、同法が、「文化の発展に寄与すること」を目的とし(同法1条)、著作権につき審査も登録も要することなく長期間の保護を与えているのに対し(同法51条)、産業上利用することができる意匠については、「産業の発達に寄与すること」を目的とする意匠法(同法1条)において、出願、審査を経て登録を受けることで、意匠権として著作権に比して短期間の保護が与えられるにとどまること(同法6条、16条、20条1項、21条)からすると、産業上利用することができる意匠、すなわち、実用品に用いられるデザインについては、その創作的表現が、実用品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えていない限り、著作権法が保護を予定している対象ではなく、同法2条1項1号の「美術の著作物」に当たらないというべきである。そして、ここで実用品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているといえるためには、当該実用品における創作的表現が、少なくとも実用目的のために制約されていることが明らかなものであってはならないというべきである。
これに対し、控訴人は、著作権法と意匠法による保護が重複することについて何ら調整の必要がないとする前提で著作権法による保護を求めていると解されるが、両法制度の相違に鑑みれば、両法制度で重複的に保護される範囲には自ずと限界があり、美術の著作物として保護されるためには、上記のとおりの要件が必要であるというべきである。実用品における創作的表現につき、無限定に著作権法上の保護を及ぼそうとする控訴人の主張は、現行の法体系に照らし、著作権法が想定しているところを超えてまで保護の対象を広げようとするものであって採用することはできない。
(3) 以上の観点から、本件絵柄についてみると、本件絵柄それ自体は、テキスタイルデザイナーであるP1によってパソコン上で制作された絵柄データであり、また、実用品である布団の生地など、量産衣料品の生地にプリントされて用いられることを目的として制作された絵柄であるが、その絵柄自体は二次的平面物であり、生地にプリントされた状態になったとしても、プリントされた物品である生地から分離して観念することも容易である。そして、本件絵柄の細部の表現を区々に見ていくと、控訴人が縷々主張するようにテキスタイルデザイナーであるP1が細部に及んで美的表現を追求して技術、技能を盛り込んだ美的創作物であるということができ、その限りで作者であるP1の個性が表れていることも否定できない。
しかし、本件絵柄は、その上辺と下辺、左辺と右辺が、これを並べた場合に模様が連続するように構成要素が配置され描かれており、これは、本件絵柄を基本単位として、上下左右に繰り返し展開して衣料製品(工業製品)に用いる大きな絵柄模様とするための工夫であると認められる(本件絵柄は、原告商品であるシングルサイズの敷布団では上下左右に連続して約6枚分、掛布団では同様に約9枚分プリントされて全体に一体となった大きな絵柄模様を作り出すよう用いられているから、この点において、その創作的表現が、実用目的によって制約されているといわなければならない。
また、本件絵柄に描かれている構成は、平面上に一方向に連続している花の絵柄とアラベスク模様を交互につなぎ、背景にダマスク模様を淡く描いたものであるが(本件絵柄に用いられている模様が、このように称される絵柄であることは訴訟当初から当事者間に争いがない 。)、証拠及び弁論の全趣旨によれば、アラベスク模様はイスラムに由来する幾何学的な連続模様であり、またダマスク模様は中東のダマスク織に使用される植物等の有機的モチーフの連続模様であって、いずれも衣料製品等の絵柄として古来から親しまれている典型的な絵柄であり、これら典型的な絵柄を平面上に一方向に連続している花の絵柄と組み合わせ、布団生地や布団カバーを含む、カーテン、絨毯等の工業製品としての衣料製品の絵柄模様として用いるという構成は、日本国内のみならず海外の同様の衣料製品についても周知慣用されていることが認められる。そして、本件絵柄における創作的表現は、このような衣料製品(工業製品)に付すための一般的な絵柄模様の方式に従ったものであって、その域を超えるものではないということができ、また、販売用に本件絵柄を制作したP1においても、そのことを意図して、創作に当たって上記構成を採用したものと考えられるから、この点においても、その創作的表現は、実用目的によって制約されていることが、むしろ明らかであるといえる。
そうすると、本件絵柄における創作的表現は、その細部を区々に見る限りにおいて、美的表現を追求した作者の個性が表れていることを否定できないが、全体的に見れば、衣料製品(工業製品)の絵柄に用いるという実用目的によって制約されていることがむしろ明らかであるといえるから、実用品である衣料製品としての産業上の利用を離れて、独立に美的鑑賞の対象となる美的特性を備えているとはいえない。
したがって、本件絵柄は、「美術の著作物」に当たるとはいえず、著作物性を認めることはできないというべきである。
(4) 以上によれば、控訴人が譲り受けたとする本件絵柄は著作物ではなく著作権そのものが認められないから、控訴人が本件絵柄について著作権を有しているとは認められず、その結果、被告製品に付された絵柄が、本件絵柄に依拠して作成されたものであり、また同一性が認められる範囲内にあるとしても、被控訴人らの被告製品の製造販売行為をもって著作権侵害であることを前提とする控訴人の被控訴人らに対する請求は、その余の争点について判断するまでもなく理由がないというべきである。

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