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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

地図図形著作物の侵害性▶個別事例③(ゼンリン住宅地図)

令和4527日東京地方裁判所[令和1()26366]
3 争点3(被告らによる著作権侵害行為)について
(1) 認定事実
(略)
(2) 原告各地図に係る複製権侵害の成否
ア 被告らによる複製権侵害
() 前記前提事実のとおり、被告Aは、被告会社が設立される前の平成12年1月11日まで、配布地域2及び8において、個人でポスティング業務を行っていたが、原告地図2及び8につき本件改訂が行われたのは、別紙記載のとおり、被告会社が設立された後の平成14年9月以降である。
そして、原告が著作権侵害を主張しているのは、本件改訂以降に発行された原告各地図についてのみである。
したがって、被告Aが個人でポスティング業務を行うために使用した原告地図2及び8については、本件において、著作権侵害の対象として主張されていないので、被告Aによる不法行為責任は問題とならない。
() 前記のとおり、被告会社は、本件改訂より前に発行された原告各地図又は本件改訂以降に発行された原告各地図を購入し、一つの配布エリアがA3サイズ1枚に収まるように、これらの原告各地図の該当頁を適宜縮小して複写し、これらのうち必要な部分を切り取り、道路や建物等にずれが生じないようにつなぎ合わせるなどして、被告各地図の原図を作成したこと、被告会社は、広告物のポスティングを行う配布員に対し、被告地図1ないし13の各原図を複写してこれを交付したこと、被告会社は、新たに得た情報を書き込むなどして被告地図1ないし16の各原図を修正して新たな原図を作成したことが認められる。
そして、前記のとおり、本件改訂以降に発行された原告各地図は、地図の著作物と認められる。
したがって、被告会社の上記各行為のうち本件改訂以降に発行された原告各地図に係るものは、原告の複製権を侵害するものと認めるのが相当である。
() これに対して、被告らは、①被告各地図を作成した後、原告各地図を複写したものをその都度廃棄している、②被告各地図においては、付票及びエリア枠線が必須であり、原告各地図と比較して1枚の地図が表現する範囲が異なっていることからすると、原告各地図の個性は埋没している、③原告各地図と被告各地図との一致点は、都市計画基本図における表現と共通し、原告各地図において新たに表現された家形枠はほとんどないから、ありふれたものである、④被告地図12ないし17及び20は、被告フランチャイジーが原告地図12ないし17及び20を購入して被告会社に送付し、被告会社は被告フランチャイジーの手足としてこれを複製したにすぎないと主張する。
しかし、上記①については、原告各地図を複写したものを廃棄したところで、原告各地図を複製した事実に変わりはないし、原告各地図を複写したものを切り貼りして作成した被告各地図の原図を更に複写すれば、原告各地図を複製したことになり得るというべきである。
上記②について、前記のとおり、被告各地図は、原告各地図を適宜縮小して複写し、これをつなぎ合わせたものである以上、両者の創作的表現が同一であることは明らかであって、被告各地図において、付票が貼付され、配布エリアを構成する部分が太線で囲まれており、原告各地図と比較して1枚の地図で表現する範囲が異なっているとしても、それらの点のみをもって、原告各地図の個性が埋没していると評価することはできない。
上記③について、前記のとおり、原告各地図は都市計画基本図に新たな創作的表現が付加されたものであって、直ちに、原告各地図と被告各地図との一致点が都市計画基本図における表現と共通するものであるとは認められず、原告各地図の記載がありふれていることを認めるに足りる証拠はない。
上記④については、証拠によれば、被告会社が少なくとも原告地図12ないし17の全部又は一部を購入したものと認められ、他方、被告フランチャイジーが原告地図12ないし17及び20を購入して被告会社に送付したことを認めるに足りる証拠はない。また、証拠によれば、被告会社は、ポスティング業務を行うフランチャイジーを募集し、フランチャイジーに対してポスティング用地図を有償で提供することを提案していると認められることからすると、被告会社が被告フランチャイジーの手足として原告地図12ないし17及び20を複製したと評価することはできず、他にそのような評価を基礎付ける事実を認めるに足りる証拠はない。
以上のとおり、被告らの上記各主張はいずれも採用することができない。
イ 被告会社が原告各地図を複製した枚数
(略)
(3) 原告各地図に係るその他の著作権侵害の成否
ア 前記のとおり、被告会社は、被告フランチャイジーに対し、被告地図12ないし16の各原図を送付し、また、第三者に対し、被告地図17ないし24の各原図を販売したところ、前記(2)によれば、これらの原図には、別紙記載のとおり、本件改訂以降に発行された原告地図12ないし17の一部を複製したものが含まれているから、この限りにおいて、被告会社による上記各行為は、原告地図12ないし17に係る原告の譲渡権を侵害するものと認められる。
他方で、被告会社が被告地図12ないし16の各原図の複製物を貸与により公衆に提供したことを認めるに足りる証拠はないから、被告会社が原告地図12ないし16に係る原告の貸与権を侵害したとは認められない。
イ 前記前提事実のとおり、被告会社は、被告ウェブサイト内の店舗8及び11に係る各ウェブページ上に、被告地図8の一部である地図1枚及び被告地図11の一部である地図3枚の各画像データを掲載したところ、前記(2)のとおり、被告地図8及び11の各原図又はこれを複写したものは、原告地図8及び11の複製物であるから、被告会社による上記掲載行為は、原告地図8及び11に係る原告の公衆送信権を侵害するものと認められる。
これに対して、被告らは、被告ウェブサイト内の店舗8及び11に係るウェブページ上に掲載された被告地図8及び11の各一部である地図4枚は元の地図の面積の3%程度にすぎないと主張するが、前記(2)のとおり、被告地図8及び11は原告地図8及び11の複製物であるから、たとえ原告地図8及び11の一部であったとしても、これらの画像データをインターネット上のウェブページに掲載する行為が原告地図8及び11に係る原告の公衆送信権を侵害することは明らかであり、被告らの上記主張は採用することができない。
4 争点4(被告らの故意又は過失の有無)について
(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば、遅くとも平成10年4月以降、「ゼンリン住宅地図」には、末尾に、「「ゼンリン住宅地図」(「本商品」)は当社の著作物であり、著作権法により保護されています。」、「法律で特に定める場合を除き、当社の許諾なく本商品又は本商品に含まれるデータの全部若しくは一部を複製、転記、抽出、その他の利用をした場合、著作権法違反や不法行為となり、刑事上や民事上の責任を追及されることがあります。」などと記載されていること、「電子住宅地図デジタウン」のパッケージにも、遅くとも平成19年5月以降、上記と同趣旨の記載がされていることが認められる。
上記認定事実によれば、被告会社には、前記3(2)の各行為により原告各地図に係る原告の複製権を侵害したことについて、故意があったと認めるのが相当である。
他方で、前記3(2)()のとおり、本件において、被告Aによる権利侵害は問題とならないから、被告Aの故意又は過失について検討する必要はない。
(2) これに対して、被告らは、原告が、被告会社による原告各地図の利用方法を知りながら、被告会社に対して原告各地図を販売しており、原告以外の複数の住宅地図作成会社は、被告会社が追加料金を支払うことなくポスティング用地図を複製等することを許諾していたことから、被告会社は、平成30年4月2日頃に原告の松本営業所長名義の書面を受領して初めて、原告が被告会社による原告各地図の利用方法を認めないことを知ったものであって、被告会社に原告各地図に係る著作権侵害についての故意は認められないと主張する。
しかし、原告が、被告会社による前記3(2)の複製権侵害行為があることを知りながら、被告会社に対して原告各地図を販売したことを認めるに足りる証拠はなく、むしろ、前記(1)のとおり、原告各地図には、当該地図が著作物であること、原告の許諾なく複製等をした場合は著作権法違反となることなどが記載されていたものである。
また、証拠によれば、被告会社は、平成30年11月5日から令和元年6月19日までの間に、原告以外の住宅地図作成会社3社から、同3社が作成販売する住宅地図を複写し、切り貼りするなどしてポスティング用地図を作成することについて許諾する旨の証明書を取得したことが認められるものの、その取得の時期は、原告の松本営業所長が店舗2を訪れて被告会社によるゼンリン住宅地図の利用方法が原告の著作権を侵害する旨を説明した平成30年3月20日(前記3(1)キ)よりも後であるから、上記の証明書の取得は被告会社の故意を否定する事情にはならないというべきである。
そうすると、被告会社が原告の松本営業所長名義の書面を受領するまで原告が被告会社による原告各地図の利用方法を認めないことを知らなかったということはできないというべきであり、他にそのような事実を認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告らの上記主張は採用することができない。
5 争点5(被告Aの任務懈怠行為)について
(1) 被告会社は、前記3(1)ア及びウのとおり、平成12年1月12日の設立以降、原告各地図について本件改訂が行われる前から、原告各地図を購入してこれを適宜縮小して複写し、これらを切り貼りしてポスティング用地図の原図を作成しており、前記3(2)のとおり、本件改訂以降に発行された原告各地図を合計96万9801枚複製したものである。そして、前記前提事実のとおり、被告Aは、被告会社が設立されるまで、個人で、被告会社において行われているのと同様の方法により、ポスティング業務を行い、被告会社が設立されてからは、被告会社の代表取締役を務めてきたものであって、証拠によれば、被告会社は、資本金500万円の有限会社であり、従業員数は39名とさほど大きくはないことが認められる。
そうすると、被告Aは、被告会社が前記3(2)のとおり原告の著作権を侵害したことについて、被告会社の代表取締役として阻止すべき任務を負っていたにもかかわらず、これを悪意により懈怠したと認めるのが相当である。
(2) これに対して、被告Aは、①原告が、平成30年4月に至るまで、被告会社が、ポスティング業務を行うために原告各地図を購入し、これを複製するなどして被告各地図を作成していることを認識していたにもかかわらず、被告会社に対して複製料を請求するなどしたことはなかったから、被告Aは、被告会社の上記行為が違法であると認識し得なかったものであり、②被告Aは、同月に原告から警告文書を受領した後、合理的な期間内に原告各地図の使用を中止したから、職務を行うについて悪意又は重大な過失があったとはいえないと主張する。
しかし、上記①については、原告が、被告会社による前記3(2)のとおりの複製権侵害行為があることを知りながら、被告会社に対して複製料を請求することはなかったことを認めるに足りる証拠はないし、被告Aがそのような事実を認識していたことを認めるに足りる証拠もない。
また、上記②については、被告会社が原告各地図の複製を完全に中止したことを認めるに足りる証拠はないし、被告Aが合理的な期間内に原告各地図の使用を中止したところで、被告Aがそれまでに生じた任務懈怠責任を免れることにはならない。
したがって、被告Aの上記主張は採用することができない。
6 争点6(原告による黙示の許諾の有無)について
被告らは、原告が、被告会社に対して原告各地図を割引価格で販売し、これを被告会社本社に納入しており、被告会社内での原告各地図の利用方法を十分把握していたこと、原告が、被告会社の従業員3、4名に対して「電子住宅地図デジタウン」のデモンストレーションを行い、「電子住宅地図デジタウン」によっても従前どおりにポスティング用地図を作成することは可能であると説明したことからすると、原告は被告会社がポスティング用地図を作成するに当たって原告各地図を必要な範囲で複製することを許諾していたというべきであると主張する。
この点、証拠によれば、原告は、平成23年4月以降、被告会社に対し、原告各地図を定価より安い価格で販売したことがあり、これを被告会社本社に納入したことがあると認められるものの、そのような事実をもって、被告会社が原告各地図を複製して被告各地図を作成していたことを原告が知っていたと認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
また、原告が被告会社の従業員に対して「電子住宅地図デジタウン」のデモンストレーションを行ったことがあったとしても、「電子住宅地図デジタウン」によっても従前どおりにポスティング用地図を作成することができると説明したとの事実を認めるに足りる証拠はない。
そして、本件全証拠によっても、被告会社がポスティング用地図を作成するに当たって原告各地図を必要な範囲で複製することについて、原告が許諾していたと認めることはできない。
したがって、被告らの上記主張は採用することができない。
7 争点7(許諾料を支払うことなく出版物を複製することができる慣習の有無)について
被告らは、住宅地図が、その大きさや重さの面から持ち歩くことが困難であり、鑑賞目的のものではなく実用品である上、官公庁等への添付資料として提出したり、希望者に配布したりするものではないこと、原告以外の複数の住宅地図作成会社は、被告会社が追加料金を支払うことなくポスティング用地図を複製等することを許諾していることからすると、住宅地図を正当に購入した者は、同時使用しないことを前提として、当該住宅地図を購入価格以外の対価を支払うことなく1部複製することが許諾されており、住宅地図の出版物としての対価にはこのような地図利用許諾が含まれているという慣習が存在すると主張する。
しかし、住宅地図を購入した者がこれを外に持ち出して使用することがあるとしても、そのような事実から、著作権法が定める著作権の制限規定が適用される場合以外に、被告らが主張するような複製を許容する慣習の存在が認められるとするのは、論理の飛躍があるといわざるを得ない。また、証拠によれば、住宅地図作成会社3社は、平成30年11月、被告会社に対し、同3社が販売した住宅地図について、追加の使用料等を支払うことなくこれをポスティング用地図として使用するために複製したり、加工したりすることを許諾したことが認められるものの、このような事実によっても、住宅地図作成会社一般について、販売した住宅地図の複製等を追加の使用料の支払を受けることなく許諾するといった慣習が存在すると認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって、被告らの上記主張は採用することができない。
(略)
9 争点9(零細的利用であることを理由とする原告の被告らに対する著作権行使の制限の可否)について
被告らは、重量のある住宅地図の書籍を持ち歩きながらポスティングを行うことは非現実的であるから、零細的利用として、原告の被告らに対する著作権の行使は制限されると主張する。
しかし、原告各地図に係る原告の著作権の行使が制限される法的根拠は明らかではないが、仮に被告らが原告による権利の濫用を主張する趣旨であったとしても、前記3(2)のとおり、被告会社は、本件改訂以降に発行された原告各地図を合計96万9801頁も複製したものであり、本件全証拠によっても、そのような被告会社に対する原告の著作権行使が権利の濫用であるとの評価を根拠付け得る事実を認めることはできない。
したがって、被告らの上記主張は採用することができない。

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