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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

編集著作物▶個別事例⑩(交通事故相談者記入表/住宅ローン金利比較表)

[交通事故相談者記入表]
▶平成29105日知的財産高等裁判所[平成29()10042]
ある編集物が編集著作物として著作権法上の保護を受けるためには,素材の選択又は配列によって創作性を有することが必要である(著作権法12条1項)。
本件1審被告ファイルには,「氏名・フリガナ」,「年齢・性別・職業」,「住所・TEL」,「メールアドレス」,「事故日」,「事故発生状況」,「あなた」(判決注:相談希望者),「加害者」,「受傷部位」,「傷病名」,「症状」,「治療経過」,「初診治療先」,「治療先2」,「治療先3」,「あなたの保険」,「保険会社・共済名」,「加害者の保険」,「保険会社名」の欄が順に設けられ,それぞれ左欄には上記の各項目タイトルが,右欄には各項目に対応する情報を記載する体裁となっていること,これらの各欄に引き続いて,「相談内容・お問い合わせ」欄が設けられ,その下に情報を記載するための空白が設けられていることが認められる。また,本件1審被告ファイルの「事故発生状況」,「あなた」,「加害者」,「受傷部位」,「傷病名」,「治療経過」,「あなたの保険」,「保険会社・共済名」,「加害者の保険」,「保険会社名」の右欄には,複数の選択肢とそれに対応したチェックボックスが設けられていることが認められる。
まず,相談者から相談に先立ち交通事故に関する必要な情報を把握するという本件1審被告ファイルの性質上,①相談者個人特定情報,②交通事故の具体的状況,③相談者の受傷及び治療の状況並びに④事故関係者の保険加入状況に関する情報のほか,⑤具体的な相談希望内容についての情報を収集する必要があることは,当然のことであると考えられる。本件1審被告ファイルは,「氏名・フリガナ」,「年齢・性別・職業」,「住所・TEL」,「メールアドレス」,「事故日」,「事故発生状況」,「あなた」,「加害者」,「受傷部位」,「傷病名」,「症状」,「治療経過」,「初診治療先」,「治療先2」,「治療先3」,「あなたの保険」,「保険会社・共済名」,「加害者の保険」,「保険会社名」の欄を順に設け,これらの各欄に引き続いて,「相談内容・お問い合わせ」欄を設け,その下に情報を記載するための空白を設けているが,これらの事項は,上記の本件1審被告ファイルの性質上,当然に設けられるべき項目であって,その順番も,上記①から⑤の順に,それぞれの必要項目を適宜並べたに過ぎないというほかないから,これらの項目を上記のとおり設けたことによって,素材の選択又は配列による創作性があるということはできない。
また,上記のような本件1審被告ファイルの性質上,これらの事項に関連する具体的な項目の選択についても自ずと限定されるところ,本件1審被告ファイルのチェックボックスを付した各項目は,いずれもありふれたものというほかなく,そのような項目を適宜並べたものというほかないから,素材の選択又は配列による創作性があるということはできない。この点について,1審被告は,特に,「事故発生状況」及び「傷病名」の項目の選択について主張するが,「事故発生状況」についての「□追突」,「□正面衝突」,「□出合い頭衝突」,「□信号無視」,「□無免許」,「□飲酒」という項目及び「傷病名」についての「□脳挫傷」,「□捻挫挫傷」,「□打撲」,「□脱臼」,「□骨折」,「□靱帯損傷」,「□醜状痕」,「□偽関節変形」,「□神経症状」,「□CRPS」,「□機能障害」,「□神経麻痺」,「□筋損傷,「□その他(    )」という項目は,交通事故においては通常見られる事故態様及び傷病名であって,素材の選択又は配列による創作性があるということはできない。なお,1審被告が主張するように,事故現場の図面や「事故当日の天候」,「道路の見とおしの状況」,「道路状況」,「標識や信号機の有無や場所」,「交通量」などを記載させることも考えられるが,これらの項目は,事故態様そのものである「□追突」,「□正面衝突」,「□出合い頭衝突」,「□信号無視」,「□無免許」,「□飲酒」といった項目に比べて必要性が高いとはいえず,上記の事故現場の図面や「事故当日の天候」等の項目がないことは,素材の選択又は配列による創作性があることを基礎づけるということはできない。
さらに,チェックボックスを,上記のような項目と組み合わせて配置したからといって,素材の選択又は配列による創作性が認められるものではない。
そして,他に本件1審被告ファイルにおいて素材の選択又は配列による創作性があると認めるに足りる証拠はないから,本件1審被告ファイルが編集著作物に当たるとは認められない。

[住宅ローン金利比較表]
▶平成221221日東京地方裁判所[平成22()12322]
原告は,本件図表は,素材である「全国の金融機関の住宅ローン金利」の選択又は配列によって創作性を有する「編集著作物」(著作権法121項)である旨主張する。
そこで検討するに,本件図表は,各金融機関が提供する住宅ローン商品の金利情報について,全国又は各地域別の金融機関ごとに,その商品名,変動金利の数値,固定金利(1年,2年,3年,5年,7年,10年,15年,20年,25年,30年,35年の固定期間別)の数値を表示して金利を対比した表及びそれらの金利の低い順に昇降順に並べて対比した表であり,全国の金融機関の全てを対象に,その提供する全ての住宅ローン商品の金利情報を素材として選択したものであり,そのような選択はありふれたものであるから,素材の選択によって創作性を認めることはできない。
また,本件図表における素材の配列は,左から,「金融機関名(店舗情報へリンク)」,「キャンペーン商品名等(各金融機関の商品ページへリンク)」,「変動金利型年金利(%)」及び「固定金利型固定期間別年金利(%)」(1年,2年,3年,5年,7年,10年,15年,20年,25年,30年,35年の固定期間別)の順に配列したものであり,この種の住宅ローン金利の対比表に多くみられたありふれた配列であり,また,本件図表を構成する図表の中には,各地域ごとの各金融機関の住宅ローン商品を金利の低い順に昇降順に配列したものがあるが,このように金利の低い順に住宅ローン商品を配列することもありふれたものであるから,素材の配列によっても創作性を認めることはできない。
したがって,本件図表が編集著作物に当たるとの原告の主張は,理由がない。

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