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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

権利濫用▶個別事例[認定例]

▶平成80223日東京地方裁判所[平成5()8372]
A編集長は、右のような状況のもとで、本件原画に改変を加え、これを掲載することとしたもので、830日の夜の段階でA編集長としては、他にとりうる手段がなく、やむを得ず行ったものであったということができる。
右のような事実関係において、すなわち、自ら事前に2回にわたり、皇族の似顔絵や皇族を連想させるセリフ等の表現を用いないことを合意しておきながら、締切を大幅に経過し、製版業者への原画持込期限のさし迫った830日の夕刻になって、ようやく本件原画を渡し、長時間にわたる修正の要求、説得を拒否し、A編集長を他に取りうる手段がない状態に追い込んだ原告が、このように重大な自己の懈怠、背信行為を棚に上げて、A編集長がやむを得ず行った本件原画の改変及び改変後の掲載をとらえて、著作権及び著作者人格権の侵害等の理由で本件請求をすることは、権利の濫用であって許されないものといわざるをえない。
(略)
原告は、皇室をモデルにした作品をコミック誌に掲載することがタブーであるということは、民主主義国家である日本で本来あってはならないことであるとの認識に基づいて本件作品を創作したものであり、右のような認識は原告の思想として尊重されなければならないことは当然である。
しかしながら、右のような認識に基づく本件作品を、本件原画のまま掲載、出版することは、本件原画のような皇族の似顔絵、皇族を連想させる登場人物名、敬語による表現について、賛同、多様性の中の一態様として容認、無関心等いずれの理由によるにせよ、問題にしない出版業者によるか、自ら出版するべきものであって、右のような原画のままでは掲載しない方針の出版業者の方針に従うことを一旦合意しておきながら、一定の期日に発行しなければならない商業月刊雑誌の出版のための作業日程上、許される期限間際に右合意に反する原画を引き渡すことによって行うべきものではない。
もとより、出版業者が、原画の内容が自社の方針に反するからといってこれを無断で改変することは、決して許されるものではない。けれども、事前の合意に反して自社の方針に反する原画を出版のための作業日程上、許される期限間際に引き渡された本件の場合、A編集長がやむを得ずした本件原画の改変、掲載を理由に原告が損害賠償や謝罪広告を請求するのは、あまりに身勝手である。

▶平成211015日大阪地方裁判所[平成19()16747]
上記のとおり,被告プログラムは適切なパラメータ設定を探るためにのみ作成されたものであり,適切なパラメータ設定のためには実際に幾つかのパラメータを設定してプログラムを動作させる必要があることに加え,被告プログラムの基となった本件プログラム2は,もともと原告が被告P3のアイデアを本件プログラム1に移植する形で作成したものであること,原告が本件プログラム2を作成した時点では,既に本件プログラム1のソースコードは被告P2に開示されており,本件プログラム2のソースコードも開示されていたと考えられること,被告P3は被告P2の指示の下で被告プログラムを作成したこと,被告プログラムは第三者に開示も頒布もされておらず,他方で第三者に頒布された乙5プログラム及び乙50プログラムは本件各プログラムとは異なるものであることが認められ,これらの事情を総合すれば,被告P3が被告プログラム作成に当たって本件プログラム2を複製又は翻案したことがあったとしても,かかる行為のみを理由として著作権侵害を主張し,損害賠償を請求することは,権利の濫用(民法13項)に当たり許されないものというべきである。
よって,仮に本件プログラム2が著作権法上の著作物と認められ,原告がその著作者であるとしても,これに基づいて被告P3の複製又は翻案行為について著作権の行使をすることは,権利の濫用に当たり許されないから,その余の争点について判断するまでもなく,原告の被告P3に対する請求には理由がない。
[参考:控訴審においては、「損害に係る判断」(被告P3による被告プログラム作成行為の違法性)について、次のように判示した]
▶平成220427日知的財産高等裁判所[平成21()10070]
当裁判所は,本件においては,被告プログラムの作成により,原告に損害が生じたことを認めることができないものと判断する。その理由は,以下のとおりである。①本件プログラム1及び2は,外国為替取引業者であるCMSが提供する外国為替証拠金取引のためのトレーディングソフトウェア「VT Trader」という「フリーソフト」上で動作するトレーディングストラテジーを自動実行させるためのプログラムであること,②原告は,自己の体調不良もあって本件プログラム1のバージョンアップに対応することができなかったこと,③原告は,共同で設立した株式会社○○の役員の被告Y1らの求めに応じて,プログラマーである被告Y2[注:原審の「P3」のこと。以下同じ]に対し,原告に代わってバージョンアップする目的で本件プログラム1のソースコードを開示したこと,④本件プログラム2は,原告が,本件プログラム1に,被告Y2が作成したスィングおじゃるY2版を取り入れることにより作成したものであること,⑤被告プログラムは,各トレードごとの成績を個別に検証し,適切なパラメータを設定することによって,より多くの利益を獲得できるプログラムにする目的で作成したものであって,販売目的で作成されたものではなかったことが認められる。これらの事情を総合考慮すると,被告プログラムが本件プログラム1及び2の複製物,翻案物であると評価されたとしても,原告に財産的又は非財産的損害が発生したものということは到底できない。よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の被告Y2に対する著作権侵害による損害賠償請求は理由がない。

平成28719日東京地方裁判所[平成27()28598]
一方,債務不履行(合意違反)の主張については,被告が,本件合意において定められた手順(本件雑誌に写真を掲載する際には,事前に原告会社への使用写真の通知と掲載原稿の内容通知をし,校正の了解を得た上で雑誌に掲載すること)を踏まなかったことは争いがなく,被告は本件合意に違反したものである。
しかし,上記違反に至った理由は,被告が,原告会社に対して,本件雑誌用の写真を提供するよう依頼したにもかかわらず,原告会社がこれに応じなかったためである。本件コンサートの演奏風景を撮影した写真は,例年,ディスクロージャー誌に掲載されており,原告会社もこのことを認識していたものであることに加えて,本件合意においては「撮影した写真の使用は本件雑誌への掲載のみとする」旨の定めもあることからも明らかなように,本件合意においては,被告からの本件雑誌掲載用写真の提供依頼について,原告会社が正当な理由もないのにこれに応じないというような事態は想定されていかったというべきである。
このように,被告は形式的には本件合意に違反したものであるが,これは原告会社が同合意の想定しないような不合理な行動を採ったことを原因とするものであるから,そうであれば,原告会社が被告に対して,本件合意違反に基づく損害賠償を求めることは,権利の濫用として許されないというべきである。

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