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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

権利濫用▶個別事例[否認例]

▶昭和570422日東京高等裁判所[昭和52()827]
控訴人は、本件の出版差止請求が権利の濫用に当るとする理由として、「知る権利の侵害」について種々主張するが、その主旨とするところは、「本件著作物が国民から国政を付託された国家機関の活動による成果であり、社会的、文化的、学術的価値の高いものであることから、国民一般、とりわけ、歴史研究者らによつてその自由な利用が求められているものであり、国民の知る権利の対象となる知識情報を内容とするから、控訴人の本件著作物の出版活動によつて被控訴人に多少の損害の生ずることがあつても、被控訴人が出版行為の差止行為に出ずることは、著作権の公共性に鑑みても、権利の濫用として許されない。」とするにある。
たしかに、著作権の行使と著作物利用との調査[注:「調整(調和)」と思われる]の問題は、著作権法の直面する課題の一つであり、著作権法の立法作業において種々検討されてきた事柄ではあるが、本件の如く、著作権の目的である著作物を無断で出版販売し、もしくは、そのおそれのある者に対して、その差止を請求しうることは、著作権の中核的権能であるから、著作権法上著作権が認められているのに、このような場合の差止請求権の行使を許さないとするには、十分慎重でなければならない。
けだし、権利の濫用として無断出版の差止請求が許されないとすることは、実質的には著作権自体を否定するに等しく、ひいては、法解釈の限界いかんにも関わるからである。
ところで、本件著作物が、社会的、文化的、学術的価値の高いものであることは、当事者間に争いがなく、文化的学術的資料として本件著作物を出版するについての要望があることが窺われるが、本件著作物は、国会図書館支部大蔵省文庫及び東京大学図書館(総合図書館に35冊、経済学部図書室に6冊)に全冊が揃つており、早稲田大学図書館にも26冊が備えられていて、本件著作物を学術的資料として利用しようとする者には、これを閲覧利用することができるうえ、利用に若干の不便があるとしても、本件著作物は、すでに公表されたものであること、本件著作物については、昭和461月頃、他の出版社においても、本件著作物の復刻刊行を企画し、大蔵省資料統計管理官に復刻出版についての許可申請をしており、これに対し検討中であつたし、被控訴人として、控訴人の無断出版を黙認することは、出版許可申請中の他の出版社との関係において公平を欠き、公正を疑われる事情にあつたことが認められ、原審における控訴人代表者尋問の結果のうち右認定に反する部分は措信できない。
前叙の如き本件著作物の性質及びその内容並びに右認定の事実のほか、原判決認定の各事実に基づいて判断すると、控訴人が主張する「国民の知る権利」や著作物の公共性などを勘案しても、本件差止請求権の行使が、国民の知る権利を侵害することによつて、権利の濫用に当たるものと認めることはできない。

▶昭和590831日 東京地方裁判所[昭和55()7916]
本件書籍が、明治以降の日本の美術を集大成し、これを体系的に編さんした「原色現代日本の美術」全18巻中の第7巻として、その出版が文化的意義を有することは、当裁判所も否定するものではない。しかしながら、文化的意義を有する出版であるということから直ちに、著作権者の複製権を無視し、その許諾なくして複製ができるという結論が生ずるということができないのは当然であり、このような主張が現行法上認められないことについては、あえて説明を要しない。
被告は、原告が本件絵画の複製を許諾しないことは、A作品のような公の文化財ともいうべき作品を恣意により死蔵させる行為であると主張するが、A作品は、現在までにも、著作権者の許諾の下に、一般向けの美術集などに掲載されてきており、美術館でそれぞれ展示もなされているのであるから、原告が本件書籍への複製許諾を拒否することによつて同画伯の作品が死蔵せしめられるというような事情は存しない。また、複製権者がその複製をある者には許諾し、ある者には拒否することは、複製権の行使の自由に帰することがらであつて、そのこと自体何ら非難されるべきものではない。
被告の公正使用の抗弁及び権利濫用の抗弁は、いずれも前提を欠き採用できない。
[控訴審同旨]
▶昭和601017日東京高等裁判所[昭和59()2293]
そこで、被控訴人の不承諾の理由となった考え方とこれに対する一般の反応をみるに、Aは、生前、日本では同人の許諾なく個展が開催されたり画集が出版されていると指摘し、また、日本におけるBに対する批評、研究が浅薄であると批判し、日本の美術界全体に対し不信感を抱いており、被控訴人もそのような考え方を受け継いで、A作品の著作権問題に対処してきたが、本件書籍への本件絵画の掲載についても、世界的に評価された画家であるAを単に日本の絵画の流れの中で位置づけるものと不満に思い、再三にわたる控訴人の懇請を受け入れず、掲載に応じなかったことが認められ、また、被控訴人は日本におけるA作品の展示、出版物への掲載等について前記のような態度を一貫してとり続けたため、国内の美術館において予定したA作品の展示を取り止めたり、展覧会においてA作品の複製物を掲載したカタログの頒布などを取り止めたり、出版社において美術出版物へのA作品複製物の掲載を中止することを余儀なくされるという事態が発生し、日本の美術界の一部にこれが被控訴人の個人的感情に基づくものとの批判もあったことが認められる。また、被控訴人が美術全集、美術史書、美術雑誌、教師用美術指導書等にA作品の掲載を承諾した事例も少くないことが認められるが、これらの承諾事例のすべてが不承諾事例と違って、A作品の正当な評価と取扱い方をしているので承諾を与えたと断ずることができるか疑問の残るところである。
しかしながら、被控訴人の前記のような考え方ないし態度が美術界の一部において納得されない場合があり、また、被控訴人の諾否の基準が現実において完全には貫かれなかったとしても、そのことによって、被控訴人のA作品についての著作権を侵害することが許容されるということはありえない。もし、文化的価値の高い著作物が死蔵されるべきでないとして、著作権者の許諾なしにその利用が許容されるならば、権利として保護する必要性の高い著作物ほど、その侵害が容易に許容されるという不当な結果を招来しかねない。著作権法は、同法第1条所定の目的のもとに、著作権を権利として保護すると同時に、その保護期間を限定し、かつ、適法引用等著作物の公正な利用に意を用いた規定を設けており、著作権の保護期間内であっても、法の定める公正な利用の範囲内であれば、著作権者の許諾を要せず、著作物を利用することができるものとしているのであり、このような法の仕組みのもとにおいては、著作権者の許諾もなく、公正な利用の範囲をも逸脱して著作物を複製し、著作権を侵害する行為があつた場合にこれを公けの文化財あるいは文化的所産の利用の名のもとに許容すべき法的根拠はない。
したがつて、本件書籍の出版が前述するような文化的意義を有するものであつても、それが著作権侵害行為に該当する以上、前記認定の事情のもとにおいて、被控訴人が著作権侵害を理由に、控訴人に対し本訴を提起し、侵害の停止等必要な措置を請求し、かつ、侵害によって被った損害の賠償を請求することは、法律上認められる正当な権利の行使であって、これをもって権利濫用とすることはできない。

▶平成130918日東京高等裁判所[平成12()4816]
控訴人は,Dは,生前,一度として本件エスキース[注:「エスキース」とは、「建築家が建築物を設計するに当たり、その構想をフリーハンドで描いたスケッチ」のこと]]の利用を拒否したことがないのであるから,その死後に,後進の建築家や後輩の学生の研究と勉学のため教科書に準ずる書籍を出版するに当たって,相続人が個別具体的に複製・展示の許可を求めることを容認するはずがない,本件エスキースは,本件書籍147頁のうちのわずか3ぺージ半を占めるだけである,仮に何らかの損害を被るとしても,金銭的な補填による回復で足りる性質のものであるのに対し,本件書籍が販売禁止となると,今後この種の書籍は刊行される見込みは極めて薄く,そのことによる後進の建築家の受ける損害には計り知れないものがある,とし,被控訴人の本訴による権利行使は,著作者の意に反し社会的相当性を逸脱したものであり,権利の濫用に当たるから,権利行使は許されないと主張する。
しかしながら,Dが生存していたとして,本件エスキースについての本件で問題とされている利用について,果たしてどのような態度をとったかは,簡単にはいえないことである。また,著作権を相続により取得した相続人が,被相続人と異なる見解を有することは,当然に,予想されることであり,これが非難される筋合いのものでないことは明らかである。本件についても,仮に,本件エスキースの著作権の処分について被控訴人らの見解が,Dの見解と異なることになるとしても,被控訴人らが,その見解によって行動したからといって,何ら非難されなければならないものではない。
また,本件エスキースが本件書籍147頁のうちの3ぺージ半を占めるだけのものであるとしても,著名な建築家であったDの作品であるということで高い掲載の価値を有していたことは明らかである。
これらのことを考えると,仮に,本件書籍の発行ができなくなることにより後進の建築家が損害を受けるなどのことがあるとしても,控訴人の違法な行為に対し,被控訴人らが著作権及び著作者人格権に基づく訴訟を提起し得ることは,当然のことであり,本訴が権利の濫用に当たるものではないことは,明らかというべきである。

▶昭和550917日東京地方裁判所[昭和44()6455]
被告両名は、「原告が、その執筆にかかる序文ないしはあとがきの原稿内容を修正されたい旨の被告両名の申入れに対し表現の自由を楯にとつて耳を藉さず、当初は原告の承諾もあつて着々と進められてきた「新版地のさざめごと」の出版発売の日程がさし迫つているにもかかわらず、これを無視して、自己の意見に固執して止まなかつたため、被告両名は、切迫した事態に追い込まれ、やむをえず、「新版地のさざめごと」の出版にふみ切つたのであつて、このような事情のもとでの本訴各請求は権利の濫用として許されない」旨主張する。
なるほど、書籍に掲載される序文あるいはあとがきは、その内容如何によつてはその書籍の解説となり、また、当該書籍の性格を決定づける重要な役割を果たすことにもなるから、序文あるいはあとがきの内容については出版社(者)としても無関心ではありえないであろう。しかしながら、元来著作物ないし編集著作物は、当該著作者ないし編集者の思想又は感情の表現であり主張であることに徴すれば、著作者が自己の著作物ないし編集著作物に掲載すべく執筆した序文あるいはあとがきは、著作物ないし編集著作物と一体をなすものとして、右表現あるいは主張と不可分の関係にあるものといえるから、対出版社の関係でも、その序文あるいはあとがきの内容如何にかかわらず、最大限尊重されるべきものであつて、著作者ないし編集者が、自己の執筆にかかる序文あるいはあとがきについての出版社からの修正の申入れを拒絶することは何ら非難されるべきことではなく、却つて著作者ないし編集者としては、この申入れに対しては特段の事情のない限り、これを拒絶しうるものというべく、しかして、出版社としても、出版事業に対する考え方等に基因して一定の立場ないし方針を有しているものであることは推察するに難くなく、著作者ないし編集者との間の出版権設定ないし出版許諾の合意の後に執筆された序文あるいはあとがきの内容が当該出版社の立場ないし方針と合わないにもかかわらず、これを掲載して当該著作物ないし編集著作物を出版することを右合意の効果として強制されるいわれはないというべきであつて、してみれば、著作者ないし編集者の執筆した序文あるいはあとがきについて、出版社がこれを修正しない限り出版できない旨確定的に申入れ、著作者ないし編集者が右修正を拒絶した時点において、著作者ないし編集者と出版社との間で予めなされた当該著作物ないし編集著作物に関する出版権設定ないし出版許諾の合意の効力は当然に失われる(したがつて、出版社は当該著作物ないし編集著作物を出版することができなくなることもちろんである。)と解するを相当とする。
そして、著作者ないし編集者が出版社からの序文あるいはあとがきの修正の申入れを拒絶することができない右特段の事情とは、例えば著作者ないし編集者が出版社の出版を妨害するため害意をもつてことさら右修正の申入れを拒絶したとき、あるいは出版社において当該書籍を出版すべき緊急の必要性があるときなどをいうのであつて、これら特段の事情が認められない限り、自己の執筆にかかる序文あるいはあとがきについての修正申入れを拒絶した著作者ないし編集者が、右序文あるいはあとがきを掲載しないまま当該著作物ないし編集著作物を複製出版する出版社に対して、著作権ないし編集著作権の侵害あるいは著作者人格権ないし編集著作者人格権の侵害を理由にその出版の差止等を請求することは何ら権利の濫用には当たらないといわなければならない。
(略)
してみると、本件編集物の共同編集者の一人である原告が、本件編集物を「新版地のさざめごと」として複製出版することを当初容認し、引続いてこれに関与していたとしても、自己の執筆にかかる序文ないしはあとがきの内容の修正を執拗に求められるに及んで、これを拒絶して「新版地のさざめごと」出版についての予めの取決(これが原告を拘束するものであつたとして)を失効せしめ、被告両名に対し、右序文ないしはあとがきを掲載しないままの形で「新版地のさざめごと」を出版することを許諾せず、編集著作権及び編集著作者人格権の侵害を理由にその出版の差止等を請求することは適法な権利の行使であつて、これを目して権利の濫用とは到底いいえない。

▶平成211126日東京地方裁判所[平成20()31480]
被告は,原告による著作権の行使は権利濫用に当たり許されないと主張する。
美術品を譲渡するに当たっては,その美術品がどのようなものであるかという商品情報の提供が不可欠であるとして,そのための複製等が著作権者の許諾を得ることなく認められるべきであるとの要請があることはある程度理解することができないわけではない(平成2211日から施行される改正著作権法47条の2では,美術品等の譲渡の申出のための複製等が一定の要件の下に許されることとされている。)。
しかしながら,著作権法は,複製権等が制限される場合を列挙して規定しており,その権利制限規定に該当しない以上,上記のような複製の必要性が認められるからといって,当然に著作権者の権利を制限すべきものとはいえない。
(略)
また,被告は,オークションカタログへの無許諾の画像掲載は,確立した国際慣習である旨主張するものの,そのような慣習が存在することを認めるに足りる証拠はなく,また,仮にそのような慣習があったとしても,強行規定である著作権法の規定に反するものであるから,被告が行った複製行為が適法となるものでもなく,また,その複製行為に対する権利行使が濫用となるものでもない。

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