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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

権利濫用
▶個別事例[否認例]

▶平成230323日知的財産高等裁判所[平成22()10073]
[注(事案の概要):本件は、「本件書籍」を発行している控訴人社団法人シナリオ作家協会(1審原告。「原告協会」)と、「本件小説」を原作とする「本件映画」の製作のために「本件脚本」を執筆した控訴人X(1審原告。「原告X」)が、本件脚本の本件書籍への収録及びその出版を承諾しなかった本件小説の著作者である被控訴人(1審被告。「被告」)に対し、被告の委託を受けて本件小説の著作権を管理している株式会社文藝春秋と、本件映画の企画製作プロダクション会社である有限会社S(制作プロダクションS)との間で締結された本件小説の劇場用実写映画化に係る原作使用契約(「本件原作使用契約」)において、著作物の二次的利用については、「文藝春秋は,一般的な社会慣行並びに商習慣等に反する許諾拒否は行わない」との条項があることに照らすと、本件脚本を本件書籍に収録して出版することについては原告X及び原告協会と被告との間で許諾合意が成立していたと認めるべきであり、被告の不承諾は不法行為に当たる旨主張し、上記許諾合意に基づき、原告らにおいては本件脚本の本件書籍への収録及びその出版を妨害してはならないことなどを求めた事案の控訴審である。]
当裁判所は,「原告協会が,原著作者である被告の許諾を得ることなく,本件脚本を本件書籍に収録し,出版しようとする行為について,被告が許諾を与えないことは権利濫用に当たる」旨の原告協会の主張は,理由がないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
(略)
このように,被告は,制作プロダクションSにより一方的に設定されたスケジュールを根拠に時間を急がされながらも,具体的な理由を述べて,本件脚本が原作者である被告の意には沿わないものであることを終始一貫して示し続け,原作者として譲れない点に絞って変更を申し入れていた。そして,本件において,被告が著作権の行使に藉口して過大な利益を得ようとか,第三者に不必要な損害や精神的苦痛を与えようなどといった不当な主観的意図を有していることを疑わせるような事情は一切見当たらない。
また,被告が本件脚本の掲載出版に対する許諾を拒否した理由は,小説の原作者として譲れない点に絞った変更を申し入れ続けていたにもかかわらず脚本家側から誠意ある脚本の変更がされなかったと被告が感じていた点にあるものであって,本件脚本の本件書籍への収録出版を許諾しないことによって守られる,本件小説に込めた被告の原作者としての思想,信条,表現等や被告のプライバシーに係る不安が,原告協会主張の本件脚本の文化的,公共的価値等に比較して小さな利益にすぎないものということはできない。
以上によれば,原告協会が本件脚本を本件書籍へ収録して出版することについて,被告が許諾を与えないことは,正当な権利行使の範囲内のものであって,権利濫用には当たらないというべきである。
原告協会は,原告協会が本件書籍に本件脚本を掲載する上で,不足している許諾は,本件小説の著作者である被告の許諾のみであることを権利濫用を基礎付ける事情として主張する。
しかし,原告協会の上記主張は採用の限りでない。すなわち,被告は,二次的著作物である本件脚本の原著作物の著作者として,本件脚本の利用に関し,原告Xが有するものと同一の種類の権利を専有している以上(著作権法28条),本件脚本の掲載出版に対する諾否の自由を有しているのであって,被告以外の関係者が本件脚本の掲載出版に対して許諾を与えていることがあったとしても,それによって被告の権利が剥奪されることにはならないから,原告協会の上記主張は,権利濫用を基礎付ける事情としても,採用の限りでない。
原告協会は,被告の許諾権は本件原作使用契約第35項ただし書に基づき「一般的な社会慣行並びに商慣習等」により制約されており,かつ,許諾の拒絶は少なくとも極めて例外的な事例であり,原告Xが,脚本の出版について,著作権使用料を支払うことにより原則として許諾されるものと理解し,期待したことは当然であることを,被告の権利濫用を基礎付ける事情として主張する。
しかし,原告協会の上記主張も,採用の限りでない。すなわち,①原告協会は,本件原作使用契約の当事者ではなく,その契約条項の効力を援用することはできないから,権利濫用を基礎付ける事情としても,本件原作使用契約の条項を援用することはできない。また,②その点を除いても,原作者が映画化について許諾をした以上,脚本の掲載出版についても許諾をする一般的な社会慣行及び商慣習があると認めるに足りる証拠はないから,そのような社会慣行等の存在を前提とする原告協会の上記主張は採用の限りでない。さらに,③映画の脚本の本件書籍への掲載出版の拒絶が極めて例外的な事態であったとしても,そのことをもって著作権法28条に基づく原著作物の著作者の諾否の自由が奪われるものではないから,被告以外の関係者が許諾済みであることが被告の権利濫用を基礎付ける事情になるともいえない。そして,被告が本件原作使用契約の締結により本件小説の映画化や,そのDVD化やテレビ放送の許諾をしていたとしても,それらは,あくまでも「映像化」及びその上映宣伝等に必要な範囲での許諾であると通常は理解されるのであって,本件脚本を本件小説と同様の「活字」による創作物として外部へ独自に発表することに対する許諾を当然に含むものであるとは理解されないから,被告が本件映画の製作やDVD化,テレビ放送を許諾したことによって,本件脚本の出版についても被告の許諾を得られるのではないかとの期待を契約当事者ではない原告Xらが抱いたとしても,それは,事実上の期待にすぎないものであって,法律上保護されるべきものであるとはいえない。
なお,本件原作使用契約書の第35項ただし書,(8)項において,「一般的な社会慣行ならびに商慣習等に反する許諾拒否」(ただし書)は,「脚本の全部を使用した出版物を作成し,複製,頒布すること。」について行わないと合意されている点について検討してみても,その文言に照らせば,「一般的な社会慣行ならびに商慣習等」に反しなければ「許諾拒否」を行うことが原著作物の著作者になお留保されているものと意思解釈するのが相当である。そして,本件においては,前記認定の事実経過に照らせば,被告の許諾拒否が「一般的な社会慣行ならびに商慣習等」に反したものであるということはできないから,前記約定の存在を考慮しても,なお被告の許諾拒否が権利濫用に当たるということはできない。

▶令和2106日知的財産高等裁判所[令和2()10018]
一審被告らは,本件各漫画はわいせつ文書に当たるから,そのような文書に基づいて権利行使をすることは許されないと主張するところ,たしかに本件各漫画は特徴⑤【ストーリーの中核となるのは,主役二人が性交類似行為又はこれに準じる行為をする場面である】⑥【当該場面のいくつかには,男性器の形態や精液の飛散が描出されている】を有するものであることが認められる。しかしながら,本件各漫画全体を検討してみても,それらが甚だしいわいせつ文書であって,これに基づく著作権侵害を主張し,損害賠償を求めることが権利の濫用に当たるとか,そのような損害賠償請求を認めることが公序良俗に違反するとまで認めることはできない。

▶令和21028日知的財産高等裁判所[令和1()10071]
権利の濫用の成否について
ア 被控訴人Y1,被控訴人〇〇及び被控訴人Y2は,控訴人の損害賠償請求権の行使は権利の濫用に当たり,許されない旨主張する。
そこで検討するに,前記認定事実によれば,①控訴人は,原告制作ウェブサイト制作後,本件保守管理業務委託契約に基づき,その保守管理を行い,本件保守管理業務委託契約には,控訴人のウェブサイトの不具合等の修補等の保守義務が定められていたこと,②被控訴人○○は,平成29年秋の時点で,控訴人に対する原告制作ウェブサイトの制作代金の分割支払金に対する支払を遅滞し,控訴人を介して△△社に支払うべき本件サーバの更新料を控訴人に交付していなかったこと,③本件サーバは、平成29年12月12日,同年11月30日利用期限の本件サーバの更新費用の未払のために,△△社によって凍結され,原告制作ウェブサイトは,閲覧,利用できなくなったこと,④被控訴人○○は,同年12月12日,控訴人に対し,上記更新費用相当額を含む未払金として13万8240円を振込送金し,原告制作ウェブサイトを復旧するよう求めたところ,控訴人は,被控訴人○○に対し,本件サーバが凍結されたため,原告制作ウェブサイトの復旧はできない,新たなウェブサイトを制作するほかない旨を伝えた上で,同月13日付け請求書をもって,控訴人が新たなウェブサイトを代金432万1600円で制作することを提案したが,被控訴人○○は,これに応じなかったこと,⑤一方で,本件サーバの規約によれば,更新費用は1万2960円(12か月分)であり,ウェブサイトのドメインが失効した場合,利用期限日から30日以内に更新費用を支払えば,復旧が可能であり,控訴人の説明は本件サーバーの規約と異なる内容のものであったこと,⑥被控訴人○○は,同月13日頃,▽▽社に対し,原告制作ウェブサイトの復旧を依頼し,その後,▽▽社は,旧被告ウェブサイトの制作過程で取得した原告制作ウェブサイトのデータをコピーして,被告ウェブサイトを制作し,平成30年1月頃,公開したことが認められる。
上記認定事実に鑑みると,控訴人の一連の行為は,本件保守業務委託契約に反するものであり,社会的相当性を逸脱する行為であるとの評価もあり得ないではない。
しかしながら,他方で,本件画像著作物はウェブサイトの視覚的効果を高めるデザインとして配置された画像にすぎないから,被控訴人○○の業務継続のため暫定的・臨時的に原告制作ウェブサイトを稼働させるためであれば,それら画像を掲載することは必須のことではない。
また,被控訴人Y1,被控訴人○○及び被控訴人Y2に本件画像著作物の著作者人格権侵害に係る程度の賠償責任を負わせることは,想定外に重い負担を負わせるものではない。
以上によれば,控訴人の権利の行使が被控訴人Y1,被控訴人○○及び被控訴人Y2の権利又は利益に重大な影響を及ぼすものではないというべきであるから,控訴人の損害賠償請求権の行使が権利の濫用に当たるものと認めることはできない。

▶令和2228日東京地方裁判所[平成29()20502]
(1) 原告らは,教則本やレッスンで使用するCD等の録音物を制作する際や,生徒による発表会など著作権が及ぶ使用については被告に使用料を払っているので,音楽教室における演奏について著作物使用料を徴収することは,過度の負担を強いるものであり,権利の濫用に当たると主張する。
しかし,前記判示のとおり,教則本の製作のための音楽著作物の複製と,レッスンにおける演奏とは,支分権が異なる別個の行為であり,著作物の利用形態も異なるものなので,それぞれの支分権について対応する使用料を被告が取得したとしても,それをもって権利の濫用ということはできない。
また,原告らは,生徒による発表会はレッスンにおける練習の成果の発表の場であると主張するが,音楽教室の生徒が音楽教室事業者主催の発表会に参加するとは限らず,音楽教室におけるレッスンを発表会の準備と位置付けることもできないので,発表会についての使用料に加え,レッスンについての使用料を被告が徴収したとしても,それをもって権利の濫用ということはできない。
(2) 原告らは,音楽教室のレッスンにおける演奏に対して著作物使用料が発生することになれば,その萎縮効果から,被告管理楽曲は使用しなくなり,ひいては文化の発展に寄与するという著作権法1条の目的に反することとなると主張する。
しかし,本件使用料規程の内容は,前記のとおりであり,例えば,年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場合の1施設当たりの年額使用料は,受講料収入算定基準額(前年度に当該施設で行われた被告管理楽曲を利用した講座の受講料収入の合計額)の2.5パーセントである。
もとより,音楽教室事業者の規模は様々であるので,音楽教室のレッスンにおける演奏に対して著作物使用料が徴収された場合の使用料額は異なることになるが,上記の負担が音楽著作権者の保護の要請との均衡を失するほど過大であり,文化の発展に寄与するという著作権法1条の目的に反するということはできない。
したがって,被告が音楽教室のレッスンにおける演奏に対して使用料を課すことが権利の濫用であるとの原告らの主張は採用し得ない。
(3) 原告は,現行著作権法が施行された昭和46年から,平成15年に原告ヤマハに協議を申し入れるまでの約32年もの間,被告は,音楽教室における演奏について権利を行使してこなかったから,今に至って演奏権が及ぶとの権利主張をすることは,権利の濫用に当たり,又は権利失効の原則に照らし許されないと主張する。
しかし,証拠及び弁論の全趣旨によれば,被告は,【全ての控訴人らに対する関係で,】現行著作権法が施行された昭和46年1月1日当時,録音物の再生演奏につき,著作権法附則14条により著作権者の権利が制限されていたことを考慮して,音楽教室のレッスンにおける演奏権の管理を控えていたが,平成12年1月1日に同附則が廃止されたことから,音楽教室における著作権管理を開始することとし,平成15年11月13日及び平成16年2月18日,音楽教室業界の中心的な存在であった原告ヤマハに対し,協議開始の申入れを行う書簡を発出したものの,原告ヤマハは協議に応じなかったとの事実が認められる。
上記によれば,被告が著作権法附則14条の廃止に至るまで権利行使をしなかった【ことが不合理とはいえず】,同附則が廃止された後には原告ヤマハに対して協議を開始することを申し入れているので,権利行使が容易であるにもかかわらず,被告がこれを長期間にわたって放置したと評価することはできない。
そうすると,現行著作権法が施行された昭和46年から,平成15年に原告ヤマハに協議を申し入れるまでの間,音楽教室における演奏について権利を行使しなかったとしても,それをもって,被告が原告らの音楽教室における演奏について演奏権が及ぶと主張することが権利の濫用に当たり,又は権利失効の原則により許されないということはできない。
[控訴審同旨]
▶令和3318日知的財産高等裁判所[令和2()10022]
当審における控訴人らの補充主張に対する判断
控訴人らは,前記のとおり,①著作権法附則14条により著作権者の権利が制限されていたのは,音楽教室のレッスンでは補完的な教材にすぎない「録音物の再生演奏」についてであり,音楽教室のレッスンにおいて行われる演奏のうち大部分を占めている「演奏」ではないから,同14条が存在したことは,上記演奏について権利行使をしなかった理由とはならない,②被控訴人がレッスンでの教師の演奏について著作物使用料の請求をしてこなかったのは,レッスンでの演奏について著作権使用料を徴収すべきとは考えていなかったからにほかならない旨主張する。
しかしながら,音楽教室事業者によって利用される著作物について控訴人が演奏権の管理に着手すること自体は可能であったとしても,本件口頭弁論終結時である令和3年1月より17年以上前の平成15年まで権利行使をしていなかったから,それ以降の著作物の使用料も請求できなくなるとする控訴人らの立論は,それ自体,そもそも権利不行使の事実と権利失効の効果が整合しているようには解し得ない。
権利の単純な不行使が時効の成立にとどまらず,将来の権利の失効までをも招致するのは,権利者において義務者が権利を行使しないとの強い信頼をもたらす行動を長年にわたって取り続けたことから,義務者において権利者が権利を行使するのであれば取り得ないような重大な投資等をしたなど,権利者の権利行使が法的衡平や法的正義の観点から到底是認できないような特段の事情を要すると解すべきである。しかしながら,本件においては,被控訴人は,音楽教室のレッスンにおける演奏について,17年前から少なくとも控訴人ヤマハに対しては権利行使に着手しているのであるし,控訴人らについても,権利不行使に対する信頼を保護すべき特段の事情は見当たらない。
したがって,控訴人らの権利濫用の主張は,理由がない。

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