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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

プライバシー権・人格権・肖像権・名誉権個別事例(他人の逮捕動画をYouTubeに投稿した行為が問題となった事例)

令和41028日東京地方裁判所[令和3()28420]▶令和5330日知的財産高等裁判所[令和4()10118]
1 争点1-1(本件逮捕動画の投稿による社会的評価の低下の有無)について
⑴ 新聞記事等の報道の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについては、一般の読者の普通の注意と読み方とを基準として判断すべきものであり(新聞報道に関する最高裁昭和31年7月20日第二小法廷判決頁参照)、YouTube動画の内容が人の社会的評価を低下させるか否かについても、同様に、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すべきである。
これを本件についてみると、前提事実及び証拠によれば、①本件逮捕動画のタイトルは、「不当逮捕の瞬間!警察官の横暴、職権乱用、誤認逮捕か!」というものであること、②本件逮捕動画の内容は、道路脇の草むらにおいて原告が仰向きの状態で警察官に制圧され、白昼路上において警察官が原告を逮捕しようとするなどして原告と警察官が押し問答となり、原告が警察官により片手に手錠を掛けられ、原告が複数の警察官に取り囲まれるなどという現行犯逮捕の状況等を撮影したものであること、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、一般の視聴者の通常の注意と視聴の仕方を基準とすれば、本件逮捕動画は、原告が警察官によって白昼路上で逮捕され手錠を掛けられたなどという事実を摘示するものであり、これをYouTubeに投稿することが、原告の人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させることは明らかである。
⑵ これに対して、被告は、本件逮捕動画は、警察官の不当逮捕を暴くものであり、原告は飽くまでも被害者として撮影されているから、これを見た視聴者が原告に対して批判的な印象を持つとはおよそ考え難く、原告の社会的評価を低下させるものではないなどと主張する。
しかしながら、上記認定に係る本件逮捕動画の内容によれば、原告は警察官により白昼路上で逮捕され手錠まで掛けられているところ、本件逮捕動画の内容自体からは、警察官による不当逮捕であるという事情は直ちに明らかではなく、一般の視聴者の通常の注意と視聴の仕方を基準とすれば、原告が被害者であると理解されるものとはいえない。そうすると、被告の主張は、一般の視聴者の通常の注意と視聴の仕方を基準とするものとはいえず、上記判断を左右するものとはいえない。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
⑶ 以上によれば、本件逮捕動画の投稿は、原告の社会的評価を低下させるものと認められる。
2 争点1-2(名誉毀損に係る違法性阻却事由の有無)について
⑴ 民事上の不法行為である名誉毀損については、その行為が公共の利害に関する事実に係り専ら公益を図る目的に出た場合には、摘示された事実が真実であることが証明されたときは、上記行為には違法性がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当である(最高裁昭和41年6月23日第一小法廷判決参照)。
⑵ 公共性及び公益目的性について
これを本件についてみると、前提事実及び証拠によれば、本件逮捕動画は、原告が白昼路上において警察官と押し問答となり、警察官に制圧されたり、手錠を掛けられたりする様子が撮影されたものであることが認められる。そうすると、原告を白昼路上で逮捕する警察官の行動等に照らせば、現行犯逮捕をめぐる警察官の職務行為やその原告の行動に対する社会の関心は高いというべきである。したがって、本件逮捕動画は、公共の利害に関する事実に係るものであると認めるのが相当である。
他方、前提事実及び証拠によれば、本件逮捕動画は、途中からテロップが付されているところ、警察官の発言として、「逮捕だYO!」、「変態だYO!」、「じゃねーんだYO」、原告の発言として、「え?(変態?)」、「メイシワタシマスカラ」などと表示されていることが認められる。
上記認定に係るテロップの内容や体裁を踏まえると、本件逮捕動画は、「現逮(げんたい)」を「変態(へんたい)」と混同する会話の状況など、白昼路上で逮捕された容疑者と警察官とのやり取りを、面白可笑しく編集して嘲笑の対象とするものであるといえる。
【また、一審被告が一審原告の容ぼうや声に加工等の処理をする、あるいはその了承を得るなどの最低限の配慮すらせずに、本件逮捕動画を自らのYouTubeチャンネルに投稿していること自体からも、投稿の主たる目的が公益を図るものとはいえないことが裏付けられるというべきである。】
そうすると、本件逮捕動画の投稿は、専ら公益を図る目的に出たものとはいえず、違法性を欠くものと認めることはできない。
⑶ 被告の主張について
被告は、公共の利害に関する事実をありのままYouTubeに掲載していることからすれば、専ら公益を図る目的でなされたことは明らかであると主張する。しかしながら、上記のとおり、本件逮捕動画において、警察官や原告の発言に付されたテロップの内容や体裁を踏まえると、本件状況を面白可笑しく編集して嘲笑の対象とするものであるといえる。そうすると、仮に公益を図る目的があったとしても、これが専らの目的であるとまで認めることはできない。したがって、被告の主張は、採用することができない。
⑷ 小括
以上によれば、本件逮捕動画の投稿による名誉毀損は、違法性が阻却されるものとはいえない。
3 争点2(本件逮捕動画の投稿による肖像権・プライバシー権侵害の成否)について
⑴ 肖像は、個人の人格の象徴であるから、当該個人は、人格権に由来するものとして、みだりに自己の容ぼう等を撮影等されず、又は自己の容ぼう等を撮影等された写真等をみだりに公表されない権利を有すると解するのが相当である(最高裁昭和44年12月24日大法廷判決、最高裁平成17年11月10日第一小法廷判決、最高裁平成24年2月2日第一小法廷判決各参照)。他方、人の容ぼう等の撮影、公表が正当な表現行為、創作行為等として許されるべき場合もあるというべきである。そうすると、肖像等を無断で撮影、公表等する行為は、撮影等された者(以下「被撮影者」とういう。)の私的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公共の利害に関する事項ではないとき、②公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が社会通念上受忍すべき限度を超えて被撮影者を侮辱するものであるとき、③公的領域において撮影し又は撮影された情報を公表する場合において、当該情報が公表されることによって社会通念上受忍すべき限度を超えて平穏に日常生活を送る被撮影者の利益を害するおそれがあるときなど、被撮影者の被る精神的苦痛が社会通念上受忍すべき限度を超える場合に限り、肖像権を侵害するものとして、不法行為法上違法となると解するのが相当である。
⑵ これを本件についてみると、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件逮捕動画の内容は、白昼路上において原告の容ぼう等が撮影されたものであるから、公的領域において撮影されたものと認められる。そして、本件逮捕動画の内容は、道路脇の草むらにおいて原告が仰向きの状態で警察官に制圧され、白昼路上において警察官が原告を逮捕しようとするなどして原告と警察官が押し問答となり、原告が警察官により片手に手錠を掛けられ、原告が複数の警察官に取り囲まれるなどという現行犯逮捕の状況等を撮影したものである。そうすると、本件逮捕動画の内容が社会通念上受忍すべき限度を超えて原告を侮辱するものであることは、明らかである。
したがって、本件逮捕動画を原告に無断でYouTubeに投稿して公表する行為は、原告の肖像権を侵害するものとして、不法行為法上違法となる。
これに対して、被告は、肖像権侵害を否定する事情を縷々主張するが、本件逮捕動画の内容に照らし、原告は白昼路上で逮捕され手錠まで掛けられた姿を公に晒されているのであるから、これが原告の名誉感情を侵害し受忍限度を超えて原告を侮辱するものであることは、明らかである。
(3) また、本件逮捕動画は、一審原告が警察官によって白昼路上で逮捕され手錠を掛けられたなどという事実を摘示するものであり、また、氏名等は明らかにされてはいないものの、その容ぼうや音声に加工等の処理がされていないものであり、一審原告の容ぼう等を知る者には逮捕されている人物が一審原告と同定可能なものとなっているところ、一般に、警察官に逮捕された事実は、その者の名誉や信用に関わる事項であるから、そのような事実はみだりに第三者に公表されないことについて法的利益を有するものである。そして、こうした事実を公表することが不法行為を構成するか否かについては、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する利益を比較衡量し、前者が後者に優越する場合には不法行為を構成するものと解するべきである(最高裁平成6年2月8日第三小法廷判決参照)。
これを本件についてみると、本件逮捕動画は、「不当逮捕の瞬間!警察官の横暴、職権乱用、誤認逮捕か!」というタイトル名であるが、その内容から一審原告が警察官によって不当逮捕されたという事情は明らかではなく、むしろ、一審原告が警察官に逮捕されている状況(本件状況)を面白おかしく編集の上、不特定多数の者が閲覧可能な YouTube に投稿されたものであることは前記のとおりである。そうすると、一審原告が警察官に逮捕されたという事実を公表されない利益がこれを公表する利益を優越するものとは到底認められないから、本件逮捕動画をYouTubeに投稿して公表する行為は、一審原告のプライバシー権を侵害するものであり、不法行為を構成するものというべきである。
(4) 以上によれば、一審被告による本件逮捕動画の投稿は、一審原告の肖像権及びプライバシー権を侵害するものであって、不法行為を構成するというべきである。】
4 争点3(原告の損害)について
前記のとおり、本件逮捕動画の内容は、道路脇の草むらにおいて原告が仰向きの状態で警察官に制圧され、白昼路上において警察官が原告を逮捕しようとするなどして原告と警察官が押し問答となり、原告が警察官により片手に手錠を掛けられ、原告が複数の警察官に取り囲まれるなどという現行犯逮捕の状況等を撮影したものである。
【そして、本件逮捕動画は、一審原告が警察官に逮捕されている状況(本件状況)を、一審原告の容ぼうをマスキング処理したり声を加工処理することなく、面白おかしく編集して、インターネット上のYouTubeという不特定多数の者が閲覧可能な動画サイトに投稿されたものであることは前示のとおりであり、また、一審被告は、一審原告による要請を受けても直ちに本件逮捕動画を削除することなく、一審被告自身が主張するところによっても、本件逮捕動画は少なくとも210万回再生されたものである。
こうした本件逮捕動画の内容、公表の態様に加えて、一審被告がその後、謝罪や反省の意思を示すことなく、本件訴訟においても、逆に反訴を提起して一審原告に多額の金銭を請求するとともに、現時点においてもその責任を否定し続けていること等、その他本件に顕れた一切の事情を総合考慮すると、一審原告の名誉権、肖像権及びプライバシー権が侵害されたことによる精神的苦痛を慰藉するには40万円をもって相当と認める。(以下、略)】
(略)
11 争点6-3(原告動画3の投稿によるプライバシー権侵害の成否)について
⑴ 被告は、原告が、原告動画3において、被告の郵便番号を公開することにより、被告のプライバシー権を侵害したと主張する。
しかしながら、郵便番号は、プライバシーに係る情報であっても、一定の地域を示す情報にすぎず、その性質上、他者に知られたくないと感じる程度が一定程度低いものといえる。そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告が別訴における被告の答弁書を掲載しつつ原告動画3を投稿した目的は、別訴における被告の言い分を明らかにする必要性があったためであり、他方、原告動画3において、上記郵便番号が表示されたのは数秒間にとどまっており、上記答弁書記載の郵便番号は小さく映り込んでいるにすぎず、これを強調するような編集等が格別施されていないことからしても、これにより被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれない。
これらの事情を総合すると、原告が上記答弁書を上記の目的で掲載するに当たり、郵便番号を秘匿せずに開示したことは、配慮を欠く面があったことは否定できないものの、上記答弁書自体の引用は、別訴における被告の言い分を明らかにする目的に沿うものであり、上記引用によって問題となる郵便番号という情報の内容やその態様を総合考慮すれば、社会通念上許容される限度を逸脱した違法な行為であるとまでいうことはできず、被告に対する不法行為を構成するものと認めることはできない。
したがって、被告の主張は、採用することができない
(2) 被告は、原告動画3に掲載された別訴における被告の答弁書について、一部解読可能な「うこ(又はご)しっょう」との記載と、その後の「のため記憶が定まりません。」との記載を併せると、上記記載は、統合失調症を意味すると解読することができるため、原告が、これを公開することにより、被告のプライバシー権を侵害したと主張する。
しかしながら、証拠及び弁論の全趣旨によれば、上記のとおりマスキングがされていることからすると、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すれば、その後の「のため記憶が定まりません。」との記載を併せても、被告が主張するように統合失調症を意味するとまで解読されるものと認めることはできない。
したがって、被告の主張は、採用することができない。
(3) 被告は、記憶が定まらないような状況にあること自体、私生活上の事柄に関する情報であり、みだりに第三者に公開を欲しない情報に当たるから、原告は、これを公開することにより、被告のプライバシー権を侵害したと主張する。
しかしながら、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すれば、「のため記憶が定まりません。」という記載の程度では、その意味自体必ずしも明らかではなく、その原因とされている病名自体はマスキングされていることその他の上記答弁書の引用の目的及び態様等を総合考慮すれば、確かに原告において配慮を欠く面があったことは否定できないものの、社会通念上許容される限度を逸脱した違法な行為であるとまでいうことまではできず、被告に対する不法行為を構成するものと認めることはできない。
したがって、被告の主張は採用することができない。
(4) 以上によれば、原告動画3によるプライバシー侵害を認めることはできない。
[控訴審同旨]
当審における一審被告の補充主張について
(1) 本訴請求について
ア 一審被告は、前記のとおり、本件逮捕動画のタイトルや内容に照らせば、本件逮捕動画によって一審原告の社会的評価が低下することは考えられない旨主張する。
確かに、本件逮捕動画は、「不当逮捕の瞬間!警察官の横暴、職権乱用、誤認逮捕か!」とのタイトルが付されたものであり、動画の一般の閲覧者がYouTubeに投稿されている動画を選択する際には、こうしたタイトルを基準とするものと考えられるが、本件逮捕動画の内容をみると、道路脇の草むらにおいて一審原告が仰向きの状態で警察官に制圧されている状況から動画が始まり、警察官とこれに抵抗する一審原告との間で押し問答している状況、一審原告が警察官により片手に手錠を掛けられ一審原告がこれに抗議している状況、最終的に応援に駆け付けた警察官に取り囲まれている模様が撮影され、これらの一連の流れが終わった後、さらに、⑤①ないし④の場面が再生され、テロップに、警察官の発言として、「逮捕だYO!」、「変態だYO!」、「じゃねーんだYO」、一審原告の発言として「え?(変態?)」、「メイシワタシマシタカラ」と表示されるものであるから、こうした動画の内容からみても、警察官による逮捕が不当逮捕であるとか、誤認逮捕であるといった事情は明らかではなく、一般の閲覧者の通常の注意と視聴の仕方を基準とすれば、警察官による不当逮捕を暴く動画として視聴するとはいえず、むしろ、一審原告が警察官によって白昼路上で逮捕され手錠を掛けられたという事実を摘示するものであるといえる。
イ 一審被告は、前記のとおり、本件逮捕動画は、そのタイトルのとおり、警察官による不当逮捕の瞬間を暴くことを主たる目的としているから、本件逮捕動画によって一審原告の社会的評価が低下するとしても、公益性がある旨主張するが、本件逮捕動画が、そのタイトルにもかかわらず、その内容や体裁を踏まえると、一審原告が警察官に現行犯逮捕されている状況(本件状況)を面白おかしく編集して嘲笑の対象とするものであることは、引用に係る原判決のとおりである。
加えて、本件逮捕動画の撮影日は、平成28年3月9日であるところ、本件逮捕動画は、その約2年半後の平成30年8月3日に投稿されたものであり、しかも、一審被告がYouTubeに開設した被告チャンネルに本件逮捕動画が投稿されたという事実関係からしても、本件逮捕動画の投稿目的が主として警察官の不当逮捕を暴くというものにあったとの一審被告の主張は採用することができない。
ウ 一審被告は、前記のとおり、本件逮捕動画が不当逮捕を暴くという目的であることを前提として、本件逮捕動画は一審被告の肖像権を侵害するものではない旨主張するが、本件逮捕動画の投稿目的が警察官による不当逮捕を暴く目的であるとはいえないことは、前記イのとおりであって、一審被告の主張はその前提を欠くものである。
() 反訴請求について
(略)
() プライバシー権侵害について
a 一審被告は、前記のとおり、原告動画3において、一審被告の郵便番号を公開することは社会通念上許容される限度を逸脱した違法な行為であると主張する。
一般に、居住地は、第三者にみだりに知られたくない事項であるとはいえるものの、郵便番号は、居住地を含む一定の範囲の地域で特定されるものであるから、それが公開されることで直ちに居住地が明らかになるものではない。また、一審被告は、登録者数55万人を超えるYouTuberとして活動しているとするものの、その容ぼう等は一切公開しないで活動していることに照らせば、原告動画3で郵便番号が公開されることにより、一審被告のYouTuberとしての活動を含めて実質的に不利益が生じ、又は生じさせるおそれがあるとは認め難いし、不利益の発生等を裏付ける具体的な証拠は見当たらない。そして、一審原告が別訴における一審被告の答弁書を掲載した原告動画3を投稿した目的は、別訴における一審被告の言い分を明らかにする必要性があったためであることは引用に係る原判決のとおりであるから、郵便番号についてマスキング処理を施すことなく答弁書を掲載したことに配慮を欠く面があったとしても、社会通念上許容される限度を逸脱した違法な行為であったとまではいえない。したがって、一審被告の主張は理由がない。
b また、一審被告は、前記のとおり、原告動画3において引用されている答弁書のマスキング処理は雑な伏字処理がされており、これに続く「のため記憶が定まりません」という記載からすると、伏字部分は統合失調症を指すことは明らかである旨主張するが、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方を基準として判断すれば、伏字部分が「統合失調症」を意味するものと解読されるものとは認め難いことは、引用する原判決のとおりであるから、一審被告の主張は理由がない。

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