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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

著作権の制限>引用▶個別事例③(政治ビラ/ドキュメンタリー映画

[政治ビラ]
▶平成150226日東京地方裁判所[平成13()12339]
本件写真ビラは,専ら,公明党,原告及びDを批判する内容が記載された宣伝用のビラであること,原告写真の被写体の上半身のみを切り抜き,本件写真ビラ全体の約15パーセントを占める大きさで掲載し,これに吹き出しを付け加えていること等の掲載態様に照らすならば,原告の写真の著作物を引用して利用することが,前記批判等の目的との関係で,社会通念に照らして正当な範囲内の利用であると解することはできず,また,このような態様で引用して利用することが公正な慣行に合致すると解することもできない。
[控訴審も同旨]
▶平成161129日東京高等裁判所[平成15()1464]
本件写真ビラは,ビラ自体としては,1審原告,C及び公明党を政治的に批判することを目的としたものであるとしても,そこに掲載された本件ビラ写真は,ビラの表面に大きく目を引く態様で印刷されている上,1審原告写真の被写体の上半身部分のみを抜き出し,1審原告写真の創作意図とはむしろ反対の印象を見る者に与えることを意図したことをうかがわせる「私は日本の国主であり大統領であり精神界の王者であり最高権力者である!」,「デージンも何人か出るでしょう。日本一の創価学会ですよ!」などの揶揄的な内容の吹き出しを付したものであるから,このような態様による写真の掲載を,公正な慣行に合致し,かつ,政治的に批判する批評の目的上,正当な範囲内で行われた引用と解することはできない。

▶平成230209日東京地方裁判所[平成21()25767]
本件各ビラ等は,要するに,都議選の候補者であったB議員について不正があったとの主張を宣伝広報し,あるいはB議員が被告に対し街宣活動の禁止を求める仮処分を申し立てたことを批判するためのものであって,本件写真それ自体や,本件写真に写った被写体の姿態,行動を報道したり批評したりするものではない。被告は,B議員を特定し,本件各ビラ等を見た者に具体的にB議員をイメージさせる目的で本件写真を引用したと主張するが,特定のためであれば,同議員の所属,氏名を明示すれば足りることであるし,イメージのためであれば,B議員の他の写真によって代替することも可能であり,本件写真でなければならない理由はない。また,本件各ビラ等は本件写真の全体をほぼそのまま引用しているが,身振り手振りも含めた本件写真の全体を引用しなければならない必要性も認められない。さらに,著作物の引用に当たっては,その出所を,その複製又は利用の態様に応じて合理的と認められる方法及び程度により,明示しなければならないが(著作権法4811号),本件各ビラ等においては,本件写真の出所が一切明示されておらず,これが他人の著作物を利用したものであるのかどうかが全く区別されていない。
このように,そもそも,本件各ビラ等に本件写真を引用しなければならない必然性がないこと,本件写真の全体を引用すべき必要性もないこと,本件写真の出所が一切明示されていないことなどからすれば,本件各ビラ等が被告の政治的言論活動のために作成されたものであることを考慮しても,これに本件写真の複製物である被告各写真を掲載したことが,「公正な慣行」に合致するものということはできず,また,「報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内」で行われたものということもできない。
したがって,本件各ビラ等に本件写真の複製物である被告各写真を掲載したことが著作権法321項の「引用」に当たるということはできない。

[ドキュメンタリー映画]
▶平成30221日東京地方裁判所[平成28()37339]
本件映画と本件各映像(本件使用部分)との関係についてこれをみると,本件映画は,資料映像・資料写真とインタビューとから構成されるドキュメンタリー映画であり,その中で資料映像として使用されている本件各映像は,テレビ局である原告の従業員が職務上撮影した報道映像である。
そして,本件映画のプロローグ部分のうち,被告制作部分は,画面比が16:9の高画質なデジタルビデオ映像であり,他方,本件使用部分は,画面比が4:3であり,被告制作部分に比して画質の点で劣っているから,被告制作部分と本件使用部分とは,一応区別されているとみる余地もある。
しかし,本件映画には,本件使用部分においても,エンドクレジットにおいても,本件各映像の著作権者である原告の名称は表示されていない。
被告は,本件映画において原告の名称を表示しない理由について,映像の出所は劇場用映画などからの引用の場合以外は表記しないとか,資料写真の出所は写真家の名前を伝える必要がある場合に限って表記するなど,制作上の方針を主張するにとどまり,本件映画のようなドキュメンタリー映画の資料映像として報道用映像を使用するに際し,当該使用部分においても,映画のエンドクレジットにおいても著作権者の名称を表示しないことが,「公正な慣行」に合致することを認めるに足りる社会的事実関係を何ら具体的に主張,立証しない。被告が提出する(証拠)は,「公正な使用(フェア・ユース)の最善の運用(ベスト・プラクティス)についてのドキュメンタリー映画作家の声明」であり,フェアユースに関する規定を有する米国著作権法を念頭に置いたものであるが,同声明においても,「歴史的シークエンスにおける著作物の利用」に関し,「この種の利用が公正であるという主張を支持するためには,ドキュメンタリー作家は以下の点を示すことができねばならない。」として,「素材の著作権者が適切に明確化されている。」とされており,何らかの方法により素材の著作権者を明確化することを求めているのである。
実質的にみても,資料映像・資料写真を用いたドキュメンタリー映画において,使用される資料映像・資料写真自体の質は,資料の選択や映画全体の構成等と相俟って,当該ドキュメンタリー映画自体の価値を左右する重要な要素というべきであるし,テレビ局その他の報道事業者にとって,事件映像等の報道映像は,その編集や報道手法とともに,報道の質を左右する重要な要素であり,著作権法上も相応に価値が認められてしかるべきものであるから(著作権法10条2項が,報道映像につき著作物性を否定する趣旨でないことは,その規定上明らかである。),ドキュメンタリー映画において資料映像を使用する場合に,そのエンドクレジットにすら映像の著作権者を表示しないことが,公正な慣行として承認されているとは認め難いというべきである。
そうすると,総再生時間が2時間を超える本件映画において,本件各映像を使用する部分(本件使用部分)が合計34秒にとどまることを考慮してもなお,本件映画における本件各映像の利用は,「公正な慣行」に合致して行われたものとは認められない。
したがって,著作権の行使に対する引用(著作権法32条1項)の抗弁は成立しない。

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