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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

著作権の制限>引用▶個別事例⑦(イラストトレースの検証投稿)

▶令和41019日知的財産高等裁判所[令和4()10019]
著作権(複製権、自動公衆送信権)侵害について
ア 本件投稿者1は、被控訴人の許諾を得ることなく、本件ツイート1-1を投稿しており、これにより、本件被控訴人イラスト1の画像データをツイッターのサーバに複製し、送信可能化したといえる。
イ 控訴人は、前記アの本件被控訴人イラスト1の利用について、「引用」に当たり適法であると主張するので検討するに、適法な「引用」に当たるには、①公正な慣行に合致し、②報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行われるものでなければならない(著作権法32条1項)。
() 本件ツイート1-1をみると、前記のとおり、乙イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせた画像2枚とともに、「これどうだろう ww」「ゆるーくトレス? 普通にオリジナルで描いてもここまで比率が同じになるかな」との文言が投稿されており、これは、被控訴人作成の本件被控訴人イラスト1が、乙イラストをトレースして作成されたものである旨を主張するものであって、本件被控訴人イラスト1を検証し、批評しようとするものであると認められるから、本件投稿者1が本件被控訴人イラスト1を用いた目的は、批評にあるといえる。
()a 次に、本件ツイート1-1における被控訴人のイラストの利用方法をみると、乙イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせて表示しているもの(本件投稿画像1-1-2、1-1-3)と、本件被控訴人イラスト1を含む複数の被控訴人作成イラストを並べて表示しているもの(本件投稿画像1-1-4)があり、これらの画像が、乙イラストの画像(本件投稿画像1-1-1)とともに前記()の文言に添付されている。タイムライン上においては、原判決別紙タイムライン表示目録記載1のとおり表示されるなどしており、上記4枚の画像データは、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様に応じて、その一部のみが表示されているが、各画像をクリックすると、本件投稿画像のとおりの画像が表示される。
b 本件投稿画像1-1-4は、被控訴人が作成した女性の横顔のイラストを2枚含むものであるが、この2枚のイラストのうち1枚は本件被控訴人イラスト1であり、もう一枚は本件被控訴人イラストと複製又は翻案の関係にあるものと認められるから、本件投稿画像1-1-4をそのまま、本件投稿画像1-1-1(乙イラスト)とともに利用することは、イラストの類似性を検証するために必要であり、かつ、文章のみで表現するよりも客観性を担保できる態様で利用されているということができる。
c 本件投稿画像1-1-2及び1-1-3は、乙イラストと本件被控訴人イラスト1を重ね合わせた画像であるが、2枚のイラストないし画像の類似性を検討するに当たり、2枚のイラストを、それぞれのイラストが判別可能な態様で重ね合わせ表示するのは検証のために便宜でかつ客観性を担保できる態様で利用されているということができ、加えて、当該画像には下部分に各イラストの色の濃さを操作したことを示唆するアプリケーションの画面部分が記載されており、閲覧者をして、これらの画像が、2枚のイラストを重ね合わせたものであることや、色の濃さが操作されていることが分かるような態様で示されている。本件では、本件投稿画像1-1-2では乙イラストの方を濃く表示し、本件投稿画像1-1-3では本件被控訴人イラスト2の方を濃く表示しているが、このような表示方法は、2枚のイラストを重ね合わせた画像において、それぞれのイラストを判別して比較するために資するといえる。
d そうすると、本件ツイート1-1の一般の読者にとって、本件ツイート1-1における被控訴人のイラストの利用態様は、記事の内容を吟味するために便宜でかつ客観性を担保することができるものであるということができる。
そして、上記利用態様からすると、本件ツイート1-1において、被控訴人が作成したイラストが、独立した鑑賞目的等で利用されているというような事情はなく、本件被控訴人イラスト1と乙イラストを比較検証する目的を超えて利用がされているとはいえない。
e したがって、本件ツイート1-1における被控訴人のイラストの利用方法は、前記()の引用の目的である批評のために正当な範囲内で行われていると認めるのが相当である。
() 証拠によると、第三者が著作権を有するイラストや写真をトレースすることにより、イラスト等を作成した可能性がある旨の事実を主張する場合に、記事中に、①問題となるイラスト等とトレース元と考えられるイラスト等を、比較するためにそのまま又は比較に必要な部分において示すことや、②2枚のイラストを重ね合わせて示すことは広く行われていることであり、また、前記()のとおり、このように示すことは、本件ツイート1-1の一般の読者にとって記事の内容を吟味するために便宜でかつ客観性を担保することができる手法であるということができる。
上記に加え、後記のとおり同一性保持権侵害の観点からも本件ツイート1-1における被控訴人のイラストの利用が違法ということはできないことに照らすと、本件ツイート1-1において、被控訴人作成のイラストを添付したことは、公正な慣行に合致しているということができる。
() そうすると、本件ツイート1-1における被控訴人のイラストの利用は「引用」として適法である。
エ 以上によると、本件ツイート1-1の投稿による著作権侵害について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(略)
ア 本件投稿者1は、被控訴人の許諾を得ることなく、本件ツイート1-2を投稿しており、これにより、本件被控訴人イラスト2の画像データをツイッターのサーバに複製し、送信可能化したといえる。
イ 控訴人は、前記アの本件被控訴人イラスト2の利用について、「引用」に当たり適法であると主張するので、以下検討する。
() 本件ツイート1-2をみると、前記のとおり、乙写真と本件被控訴人イラスト2を重ね合わせた画像2枚とともに、「この鏡餅も画像検索ですぐ出てきた。」「トレス常習犯ですわ。」「Y′さん」との文言が表示されており、Y′こと被控訴人がトレース行為によりイラストを作成し、自らのイラストとして公表することを何度も繰り返していた旨を主張するとともに、その裏付けとして、本件被控訴人イラスト2及び乙写真を示して、本件被控訴人イラスト2が、画像検索するとすぐに出てくる鏡餅の画像である乙写真をトレースして作成されたものであることを検証し、批評しようとするものであるから、本件投稿者1が本件被控訴人イラスト2を用いた目的は、批評にあるといえる。
()a 次に、本件ツイート1-2における被控訴人のイラストの利用方法をみると、乙写真と本件被控訴人イラスト2を重ね合わせて表示しているもの(本件投稿画像1-2-3、1-2-4)及び本件被控訴人イラスト2を含む被控訴人のツイートの画像(本件投稿画像1-2-1)があり、これらの画像が、乙写真を含む画像(本件投稿画像1-2-2)とともに上記文言に添付されている。
タイムライン上においては、原判決別紙タイムライン表示目録記載2のとおり、上記4枚の画像データは、ツイッターの仕様又はツイートを表示するクライアントアプリの仕様に応じて、その一部のみが表示される態様により表示されているが、各画像をクリックすると、本件投稿画像1-2-1~1-2-4のとおりの画像が表示される。
b 前記()のとおり、上記各画像は、本件被控訴人イラスト2が乙写真をトレースして作成されたものであることを検証する目的で用いられているところ、被控訴人が本件被控訴人イラスト2を投稿したツイートの画像である本件投稿画像1-2-1をそのまま、比較対象となる乙写真を含む本件投稿画像1-2-2とともに利用することは、出展を示唆した上で、イラストと写真の類似性を検証するために必要であり、かつ、文章のみで表現するよりも客観性を担保できる態様で利用されているということができる。
c 本件投稿画像1-2-3及び1-2-4は、乙写真と本件被控訴人イラスト2を重ね合わせて表示しているものであるが、本件投稿画像1-2-3は、乙写真に透過性を高くした本件被控訴人イラスト2を重ね合わせたものであり、本件投稿画像1-2-4は、乙写真に、本件被控訴人イラスト2の色が濃い部分のみを紫色で表示するよう操作したものを重ねたものであり、一見して被控訴人イラスト2の色調が操作されていることが分かるような態様で示されているところ、イラストと写真の類似性を検証するに当たり、イラスト及び写真を、それぞれが判別可能な態様で重ね合わせ表示するのは便宜でかつ客観性を担保できる方法といえる。本件では、本件投稿画像1-2-3では本件被控訴人イラスト2の色調はそのままに色を薄くし、本件投稿画像1-2-4では本件被控訴人イラスト2の色調を変えて表示しているが、これらの表示方法は、イラストと写真を重ね合わせた画像において、それぞれを判別するために資するといえる。
d そうすると、本件ツイート1-2の一般の読者にとって、本件ツイート1-2における本件被控訴人イラスト2の利用態様は、ツイートの内容を吟味するために便宜でかつ客観性を担保することができるものであるということができる。
そして、上記利用態様からすると、本件ツイート1-2において、本件被控訴人イラスト2が、独立した鑑賞目的等で利用されているというような事情はなく、本件被控訴人イラスト2と乙写真を比較検証する目的を超えて利用がされているとはいえない。
e したがって、本件ツイート1-2における被控訴人のイラストの利用方法は、前記()の引用の目的である批評のために正当な範囲内で行われていると認めるのが相当である。
() そして、前記と同様に、後記のとおり著作者人格権侵害(同一性保持権侵害)も認められないことも併せて考慮すると、本件ツイート1-2における本件被控訴人イラスト2の利用は、公正な慣行に合致しているといえる。
() そうすると、本件ツイート1-2における本件被控訴人イラスト2の利用は、「引用」として適法である。
ウ 以上によると、本件ツイート1-2の投稿による著作権侵害について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(略)
ア 本件投稿者2は、被控訴人の許諾を得ることなく、本件ツイート2-1を投稿しており、これにより、本件被控訴人イラスト3及び4の画像データをツイッターのサーバに複製し、送信可能化したといえる。
イ 控訴人は、前記アの本件被控訴人イラスト3及び4の利用について、「引用」に当たり適法であると主張するので、以下検討する。
() 本件ツイート2-1をみると、前記のとおり、本件被控訴人イラスト3及び4とともに、「Y′様がトレースを否定するツイートをされたようです」「それを信じているファンの皆様」「一度こちらのイラストを見て下さい」「これもまた、Y′様が描いたイラストです」「横顔のイラストと比較し、画力の差に違和感を感じませんか?」との文言が表示されており、これらの文言に、本件ツイート2-1に続いて、同一スレッド内に本件ツイート2-2が投稿されており本件ツイート2-2には、被控訴人の作成した女性の横顔のイラスト6枚を並べたものである本件被控訴人イラスト5(なお、これら6枚のイラストはその類似性から本件被控訴人イラスト1とは複製又は翻案の関係にあると認められる。)が添付されていることを併せ考慮すると、本件ツイート2-1は、被控訴人がトレース行為を否定するツイートをしたことを批判し、本件被控訴人イラスト5のような女性の横顔のイラスト以外のイラストにみられる被控訴人の画力に照らすと、上記女性の横顔のイラストは、より高い画力の者が作成したものに見受けられて不自然であることを指摘して、上記女性の横顔のイラストがトレース行為により作成されたものであることを検証しようとするものであると認められる。なお、ここでいう「トレース」は、本件ツイート1-1、1-2の場合と同様に、イラスト作成用のアプリケーションを利用するなどして、元となるイラストや写真を表示し、その輪郭をなぞるなどの直接的に写し取る方法によりイラストを作成することを指すと認めるのが相当である。
そうすると、本件投稿者2が、本件ツイート2-1において本件被控訴人イラスト3及び4を利用した目的は、批評にあると認めるのが相当である。
被控訴人は、本件投稿者2が不当な目的で本件被控訴人イラスト3及び4を引用したと主張するが、本件被控訴人イラスト1が乙イラストをトレースして作成されたものである蓋然性が高いこと、被控訴人がトレース行為によりイラストを作成し、自らのイラストとして公表することを何度も繰り返していたことは前記のとおりであり、本件投稿者2が何ら根拠もないのに被控訴人が違法行為をしたことをうかがわせるツイートをすることで被控訴人を誹謗中傷するといった不当な目的で本件ツイート2-1を投稿したとは認められないから、本件投稿者2が、本件ツイート2-1に本件被控訴人イラスト3及び4を添付して投稿した目的が、不当なものであるということはできない。
() 次に、本件ツイート2-1における被控訴人のイラストの利用方法をみると、本件被控訴人イラスト3及び4をそのまま添付したというものであるが、前記()のとおり、本件投稿者2は、本件被控訴人イラスト5にあるような被控訴人作成の女性の横顔のイラストが、被控訴人作成のそれ以外のイラストと比べて画力の点で不自然であることをもって、上記女性の横顔のイラストはトレース行為により作成されたものであることを検証しようとしているところ、女性の横顔のイラスト以外のイラストにおける被控訴人の画力をみるには、被控訴人の作成した複数のイラストを比較観察することが相当である。そして、上記利用態様からすると、本件ツイート2-1において、本件被控訴人イラスト3及び4が、被控訴人の画力を検証する目的を超えて利用がされているとはいえない。
この点、被控訴人は、本件投稿画像2-1-2(本件被控訴人イラスト4)は、本件被控訴人イラスト1とは構図が大きく異なり引用の必要性が乏しく、引用の目的上正当な範囲で行われるものに当たらないと主張するが、前記()のとおり、引用の目的は、被控訴人の画力に照らすと、本件被控訴人イラスト5にあるような女性の横顔のイラストは、より高い画力の者が作成したものに見受けられて不自然であることを指摘して、上記女性の横顔のイラストがトレース行為により作成されたものであることを検証しようとするものであるところ、被控訴人の画力を検証するには、被控訴人作成の複数のイラストを比較観察することが相当であるのは上記のとおりであって、被控訴人作成の一枚のイラストのみから被控訴人の画力を判断するのは困難であるから、本件被控訴人イラスト4について引用の必要性がないとはいえず、被控訴人の上記主張は採用できない。
そうすると、本件ツイート2-1における本件被控訴人イラスト3及び4の利用は、引用の目的上正当な範囲内で行われたものということができる。
() そして、本件ツイート2-1における本件被控訴人イラスト3及び4の利用が、公正な慣行に反すると認めるべき事情もない。
() そうすると、本件ツイート2-1における本件被控訴人イラスト3及び4の利用は「引用」として適法である。
ウ したがって、本件ツイート2-1の投稿による著作権侵害について、「権利侵害の明白性」は認められない。
(略)
ア 本件投稿者2は、被控訴人の許諾を得ることなく、本件ツイート2-2を投稿しており、これにより、本件被控訴人イラスト3及び5の画像データをツイッターのサーバに複製し、送信可能化したといえる。
イ 控訴人は、上記アの本件被控訴人イラスト3及び5の利用について、「引用」に当たり適法であると主張するので、以下検討する。
() 本件ツイート2-2をみると、前記のとおり、本件被控訴人イラスト3に、口の部分囲う赤色枠を付記したものと、本件被控訴人イラスト5とともに、「特に横顔同士で比較してみてください」「左の絵には鼻と唇の間に不自然な山があり「横顔がどうなっているか」という基本的なデッサンを理解していない方が描いたようにしか見えません」「Y′様は他のイラストでも手が描けない方です」「それでもトレースしていない、という主張を信じられるでしょうか」との文言が投稿されており、その文言の内容及び本件ツイート2-2が、本件ツイート2-1に続いて同一スレッド内で投稿されていることに照らすと、本件ツイート2-2は、本件ツイート2-1と同様に、被控訴人がトレース行為を否定するツイートをしたことを批判し、本件被控訴人イラスト5にみられる女性の横顔のイラストは、被控訴人よりも高い画力の者が作成したものに見受けられて不自然であることを指摘して、上記女性の横顔のイラストがトレース行為により作成されたものであることを検証しようとするものであると認められる。
そうすると、本件投稿者2が、本件ツイート2-2において本件被控訴人イラスト3及び5を利用した目的は、批評にあると認めるのが相当である。
() 次に、本件ツイート2-2における被控訴人のイラストの利用方法をみると、本件被控訴人イラスト3については口の部分を囲う赤色枠を付記したものを、本件被控訴人イラスト5についてはそのまま添付するものであるが、前記()のとおり、本件投稿者2は、本件被控訴人イラスト5にあるような被控訴人作成の女性の横顔のイラストが、被控訴人作成のそれ以外のイラストと比べて画力の点で不自然であることをもって、上記女性の横顔のイラストはトレース行為により作成されたものであることを検証しようとしているところ、トレース行為が疑われる女性の横顔のイラストが複数並べられているもの(本件被控訴人イラスト5)と、比較対象となるイラスト(本件被控訴人イラスト3)を添付することは、画力を比較するために便宜でかつ客観性が担保できる態様で利用されているということができ、また、特に比較してほしい箇所を赤色枠で囲うことは、本件投稿者2の主張の理解を助けるものであるといえ、さらに、上記赤色枠は、本件被控訴人イラスト3とは判別容易な態様で付されており、一般の読者を混乱させるおそれはない。
そうすると、本件ツイート2-2の一般の読者にとって、本件ツイート2-2における本件被控訴人イラスト3及び5の利用態様は、記事の内容を吟味するために便宜でかつ客観性を担保することができるものであるということができる。そして、上記利用態様からすると、被控訴人の画力を検証する目的を超えて利用がされているとはいえない。
したがって、本件ツイート2-2における本件被控訴人イラスト3及び5の利用は、引用の目的上正当な範囲内で行われたものということができる。
() 前記()で指摘した事情に加え、後記のとおり同一性保持権侵害の観点からも本件ツイート2-2における本件被控訴人イラスト3及び5の利用が違法ということはできないことに照らすと、本件ツイート2-2において、本件被控訴人イラスト3及び5を添付したことは、公正な慣行に合致しているということができる。
() そうすると、本件ツイート2-2における本件被控訴人イラスト3及び5の利用は「引用」として適法である。 ウ したがって、本件ツイート2-2の投稿による著作権侵害について、「権利侵害の明白性」は認められない。

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