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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

著作権の制限>引用▶個別事例⑧-2(他のツイートのスクリーンショットの添付の「引用」性その2)

▶令和4915日東京地方裁判所[令和4()14375]▶令和5417日知的財産高等裁判所[令和4()10104]
[前提事実:原告は、ツイッター上で、原告アカウントを用いて別紙記事を投稿した(「原告ツイート」)。原告ツイートの本文には、「私の謎/休憩・仮眠・宿泊目的について国交省は 78 時間寝てもそれは休憩、夜から朝まで寝ても仮眠と見解。/活動反対派は、その行為をしたら宿泊目的で車中泊はダメ!日本語や常識でわかる。国交省の Q&A に記載されている!/えっと、だからその行為や Q&A の見解を国交省は休憩仮眠と言っているのだが」(「/」は改行部分を示す。以下同じ。)と記載されている。氏名不詳者(「本件投稿者」)は、ツイッター上で、アカウント名を「C」、ユーザー名を「@(以下省略)」とするアカウント(「本件アカウント」)を用いて、別紙記事を投稿した(「本件ツイート」)。本件ツイートには、本文に「国交省担当者が 78 時間寝ても良いと言ったのはあくまで「仮眠」ならばという前提で話をしてたでしょ?/貴方の支持者の D さんが国交省に確認した結果、宿泊と受け取れる車中泊は一泊でもご遠慮と回答を貰ってます/宿泊目的の車中泊はご遠慮で結果は出てますので間違った情報は流さないように」との記載があると共に、原告ツイートの本文全文、原告のプロフィール画像、原告のアカウント名の一部が省略された「B…」の記載等が表示されたスクリーンショット(「本件添付画像」)が添付されている。]
2 争点2(引用としての適法性)について
当裁判所も、原審と同様に、本件ツイートにおける原告ツイートの引用は著作権法32条1項の要件を満たす適法な引用であると判断する。その理由は、次のとおりである(原判決を次のとおりに改める。)。
検討
ア 公表された著作物は、公正な慣行に合致し、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で引用して利用することができると規定されているところ(著作権法32条1項)、他人の著作物を引用して利用することが許されるためには、引用して利用する方法や態様が公正な慣行に合致したものであり、かつ、引用の目的との関係で正当な範囲内であること、すなわち、社会通念に照らして合理的な範囲内のものであることが必要であり、引用としての利用に当たるか否かの判断においては、他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などを総合考慮すべきである。
イ そこで検討するに、原判決の前提事実のとおり、原告ツイートの本文は、「私の謎/休憩・仮眠・宿泊目的について国交省は7、8時間寝てもそれは休憩、夜から朝まで寝ても仮眠と見解。/活動反対派は、その行為をしたら宿泊目的で車中泊はダメ!日本語や常識でわかる。国交省のQ&Aに記載されている!/えっと、だからその行為やQ&Aの見解を国交省は休憩仮眠と言っているのだが」というものである。他方で、同前提事実とおり、本件ツイートの本文は、「国交省担当者が7、8時間寝ても良いと言ったのはあくまで『仮眠』ならばという前提で話をしてたでしょ?/貴方の支持者のDさんが国交省に確認した結果、宿泊と受け取れる車中泊は一泊でもご遠慮と回答を貰ってます/宿泊目的の車中泊はご遠慮で結果は出てますので間違った情報は流さないように」というものである。
以上のとおりの各ツイートの記載内容によれば、原告ツイートは、車中泊につき控訴人が得たとする国土交通省の見解及び控訴人の活動に批判的な者の控訴人に対する意見を示した上で、この批判的意見に対する控訴人の見解を示したものであり、本件ツイートは、原告ツイートにおける国土交通省の見解に係る要約が誤っており、又は不正確であることを指摘する内容であるといえる。
そうすると、本件ツイートは、原告ツイートを批評する内容のツイートであり、本件添付画像は、原告ツイートの内容を紹介するために添付されたものといえるから、本件投稿者が本件ツイートにおいて原告ツイートを引用した目的は、原告ツイートを批評することにあるといえる。
ウ そして、本件ツイートが原告ツイートの内容を批評するものであること、一つのツイートに係る表示画面においては本文の下に添付された画像が表示されること、本件ツイートの本文部分及び本件添付画像部分がほぼ同じ分量の文章であることを考慮すると、両部分は明瞭に区別することができる上、前者が主であり、後者が従であるという関係に立つものといえる。
さらに、スクリーンショットその他の画像ファイルを添付してツイートをすることは、ツイッターにおける基本的機能として備えられていることからすれば、本件投稿者が、本件ツイートにおいて原告ツイートを引用するに当たって、本件添付画像を添付するという方法を用いたことが不相当であるということはできない。
以上の事情に加え、ツイッターはいわゆるソーシャルメディアであり、投稿されたツイートがインターネット上で広く共有されて批評の対象となることも当然に予定されているといえること、本件添付画像の添付に当たって原告ツイートの内容が改変されたなどの事情は存しないこと、原告ツイートが引用されたことによって控訴人に経済的損失等の不利益が生じたものとはうかがわれないことも考慮すると、本件ツイートにおける原告ツイートの引用の方法や態様は、公正な慣行に合致したものであるといえる。
エ また、本件添付画像は、原告ツイートの全文を撮影したスクリーンショットであるところ、原告ツイートの全文が本件ツイートの本文部分と共に示されることにより、本件ツイートの閲覧者が批評の対象とされている原告ツイートの内容を正確に知ることができるといえることからすれば、本件ツイートにおける原告ツイートの引用は、本件ツイートの妥当性や客観性の担保に資するものといえる。さらに、ツイッターには一つのツイート当たり140字という文字数制限があり、原告ツイートもそれほどの分量ではないことからすれば、その全文を引用することが不相当であるということはできない。
これらの事情を考慮すると、本件ツイートが原告ツイートの全文を引用したことは、原告ツイートの批評という目的との関係で必要かつ相当なものであり、正当な範囲内のものであるといえる。
オ 以上によれば、本件投稿者が、本件ツイートにおいて原告ツイートを引用したことは、著作物を引用して批評する方法や態様として公正な慣行に合致したものであり、かつ、批評という引用の目的との関係で正当な範囲内のものであるといえる。
したがって、本件ツイートによる原告ツイートの引用は、著作権法32条1項の要件を満たす適法な引用であるといえる。
控訴人の主張に対する判断
ア 主従関係に関する主張について
() 控訴人は、本件ツイートの本文部分と本件添付画像部分につき、両者の内容等を考慮すると、前者が主であり、後者が従であるとはいえない旨主張する。
しかしながら、そもそも「主従関係」の有無は、「引用」の成否を判断する考慮要素の一つにすぎず、それのみで「引用」の成否が決まるものではないばかりか、前記ウで検討したとおり、本件ツイートの内容や表示画面の形式、本件ツイートの本文部分及び本件添付画像部分の各文章の分量を考慮すると、前者が主であり、後者が従であるという関係に立つものと認めるのが相当である。
() したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
イ 出所の明示に関する主張について
() 控訴人は、本件添付画像には控訴人のアカウント名全体や投稿日付、ユーザー名が記載されていないから、引用された原告ツイートの出所が明示されているとはいえない旨主張する。
そこで検討するに、著作物を引用するに際しては、著作物の出所は、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならないとされているところ(著作権法48条1項柱書、同項1号)、合理的と認められる方法及び程度により明示されているか否かは、実際に行われた出所表示の内容や態様、出所の表示から元の著作物にたどり着くことが可能な程度に出所を特定しているか否かを考慮して決められるべきである。
これを本件についてみるに、本件添付画像は、その表示内容からツイッター上の投稿であることが明らかであるといえるところ、本件添付画像においては、一部であるとはいえ控訴人のアカウント名が表示されている上、控訴人のプロフィール画像及び原告ツイートの全文が表示されていることからすれば、本件ツイートの閲覧者は、これらの情報を基にツイッター上で検索するなどすれば、原告ツイートにたどり着くことが可能であるというべきである。そして、このことは、本件添付画像にアカウント名の全部、ユーザー名及び原告ツイートの投稿日時が表示されていないことを考慮しても左右されないというべきである。
そうすると、本件ツイートにおいて引用された原告ツイートについては、利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、著作物の出所が明示されているものといえる。
() したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
ウ 引用の必要性に関する主張について
() 控訴人は、ツイッターにおいて他のツイートを引用するには引用リツイート又はURLの記載という他の手段があるから、全文を複写したスクリーンショットを添付する必要性はなく、また、本件ツイートの内容からしても、原告ツイートの全文を引用する必要性はなかった旨主張する。
しかしながら、前記で検討したところに照らすと、本件ツイートにおいて原告ツイートの全文が引用されたことについては、引用の方法や態様が公正な慣行に合致したものであり、かつ、批評という目的との関係で正当な範囲内のものであるといえる。
() したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
エ 一般的に行われている行為であるか否かに関する主張について
() 控訴人は、ツイッターにおいて、他のツイートのスクリーンショットを添付して引用する方法は一般的には行われていない旨主張する。
しかしながら、引用リツイートの代替行為として、引用したいツイートのスクリーンショットを添付する方法が用いられている実情があることは、控訴人も認めているところである上、上記の方法を用いたツイートが著作権侵害となり得ることを注意喚起するウェブサイトが複数存在することからも裏付けられるものといえる。このように、ツイッターにおいては、一定数のユーザーが、他のツイートを引用するために、当該ツイートのスクリーンショットを添付する方法を用いている実情があるものと認められる。
() したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
オ 本件規定に関する主張について
() 控訴人は、他のツイートのスクリーンショットを添付するツイートは、本件規定に反するものであるから、本件ツイートにおける原告ツイートの引用は公正な慣行に合致する範囲内のものとはいえない旨主張する。
しかしながら、本件規定は、ツイッター社とツイッターのユーザーとの間の利用規約にすぎないことからすれば、本件規定に反する行為であるからといって、直ちに当該行為が引用に係る公正な慣行に合致しないものであると評価されるものではないというべきである。
この点を措くとしても、本件規定は、ツイートの複製等について、原則としてツイッター社が提供するインターフェース及び手順を使用しなければならない旨を定めているにすぎず、他の規定を併せて考慮しても、本件規定が他のツイートのスクリーンショットを添付したツイートを禁止するものであるか否かは必ずしも明らかではないというべきであるから、本件ツイートが本件規定に反するということはできない。
() したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
カ ツイッター社のルール等に反するか否かに関する主張について
a 控訴人は、他のツイートのスクリーンショットを添付してツイートをした場合には、引用リツイートによる場合とは異なり、引用元に引用の事実が通知されないため、ツイートを引用された者は自分が知らないところで議論がされてしまい、また、ブロックした人物からツイートを引用されてしまうことがある旨主張する。
しかしながら、ツイッターにおける上記の通知機能は、ユーザーの利便性を高めるための付加的な機能にすぎないというべきである。また、証拠及び弁論の全趣旨によれば、ツイッターにおけるブロック機能は、ブロック対象のアカウントがツイッターにログインした状態においてのみ、ツイートの閲覧を制限するなどの効果をもたらすものにすぎず、例えば、ブロック対象者がツイッターにログインせずに、又はブロックされた者とは異なるアカウントでアクセスした場合には、ブロックした者が公開しているツイートを閲覧することがなお可能である。さらに、ツイッターにおいては、投稿されたツイートがインターネット上で広く共有されて批評の対象となることも当然に予定されており、ツイートを投稿した者も、自らのツイートが批評されることや、その過程においてツイートが引用されることを当然に想定しているものといえる。
以上の事情を考慮すると、他のツイートのスクリーンショットを添付したツイートがされた場合に上記の通知機能やブロック機能が働かなくなるからといって、控訴人の著作者としての権利が、引用リツイートの場合と比較して殊更に害されるものということはできない。そうすると、控訴人が指摘する上記の各事情をもって、本件ツイートにおいて原告ツイートが引用されたことにつき、公正な慣行に合致しないものであるということはできない。
b したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
() a 控訴人は、引用元に通知されない方法を用いてツイートをすること15 は、ツイッター社が禁止する一方的な返信に当たる旨主張する。
しかしながら、ツイッター社のポリシーにおいて禁止されているのは、「一方的な返信」を「大量、過剰、膨大に送信すること」であることからすれば、一つのツイートにすぎない本件ツイートが直ちにこれに当たるものということはできない。また、「一方的な返信」とは、ユーザー間における直接のメッセージのやり取りにおいて、相手方の意思に反して返信をすることを意味すると解されるところ、他のツイートのスクリーンショットを添付したツイートが直ちにこれに当たるものということもできない。
b したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
() a 控訴人は、画像として添付されたツイートを検索することはできないため、ツイッターにおける検索機能の品質等が低下してしまう旨主張する。
しかしながら、他のツイートのスクリーンショットを添付したツイートがされた場合であっても、画像として添付されたツイートが削除等されずにツイッター上に公開されている間は、これを検索することが可能であることからすれば、上記のような方法を用いたツイートがされることによって直ちに検索機能の品質等が低下するものということはできない。
b したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
() a 控訴人は、ツイッター内のコンテンツのスクリーンショットを撮影しようとするとURLの共有ボタンが強制的に表示されるようになっていることからすれば、ツイッター社がそのような行為を禁止する意図を有していることがうかがわれる旨主張する。
しかしながら、控訴人が提出した証拠をみても、上記のような表示がされるのは一部のユーザーに限られていることからすれば、ツイッター社が、他のツイートのスクリーンショットを撮影する行為を一般的に禁止しているものとまではいえないというべきである。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
キ その他
このほか、控訴人は、争点2に関して縷々主張するが、いずれも前記の判断を左右するものではない。

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