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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

美術著作物の侵害性▶個別事例➁(イラスト)

▶令和3128日東京地方裁判所[平成30()38078]
翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。
本件モモクマ著作物と,本件アニメーションイラスト使用行為で使用されている別紙翻案物目録記載のモモクマのイラストは,いずれも二本足で直立する熊のイラストであり,その熊の顔が同じほか,その耳の大きさ,手足の長さ・形を含めた体形は同じであり,いずれも首の後ろにかけたタオルがわきの少し上まで伸び,そのタオルの形も同じである。また,その熊の色やタオルの色も同じである。他方,本件モモクマ著作物に記載されている熊は器具等を使用しておらず,それを使用するための姿勢とっていないが,本件アニメーションイラスト使用行為で使用されているイラストは,いずれも上記の熊とフィットネスジムで使用する器具や看板のイラストを組み合わせて,熊がそれらの器具等を使用したり,持っていたりするというものであり,熊はそれに応じた姿勢をとっている。その他,本件アニメーションイラスト使用行為で使用されているイラストは,被告のホームページ上で,2つのイラストが交互に表示されて簡単なアニメーションの表示となるものである。そして,本件アニメーションイラスト使用行為で使用されたイラストは,本件モモクマ著作物が原告から被告に提示等された後に制作されたものである。
これらからすると,別紙翻案物目録記載のモモクマのイラストは,本件モモクマ著作物に依拠し,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて新たに思想又は感情を創作的に表現したものであり,これに接する者が本件モモクマ著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものであって,本件モモクマ著作物を翻案したものであるといえる。

▶令和21014日東京地方裁判所[令和1()26106]
(2) 原告作品全体の創作性及び被告作品全体との対比について
ア 証拠によれば,原告の原著作物に描かれた原告キャラクターは,頭部は髪がなく半楕円形であり,目は小さい黒点で顔の外側に広く離して配され,上下に分かれたくちばし部分はいずれも厚くオレンジ色であり,上下のくちばしから構成される口は横に大きく広がり,体は黄色く,顔部分と下半身部分との明確な区別はなく寸胴であり,手足は先細の棒状であるとの特徴を有しており,原告作品においては,原告キャラクターのこれらの特徴の全部又は一部が表現されているものと認められる。
イ 証拠及び別紙「対比キャラクター」を含む弁論の全趣旨によれば,原告作品に描かれた原告キャラクターの上記特徴のうち,キャラクターの髪を描かず,頭部を半楕円形で描く点は同別紙の「エリザベス」及び「タキシードサム」と,目を小さい黒点のみで描く点は同別紙の「タキシードサム」,「アフロ犬」,「ハローキティ」,「にゃんにゃんにゃんこ」及び「ライトン」と,口唇部分を全体的に厚く,口を横に大きく描く点は同別紙の「おばけのQ太郎」と,顔部分と下半身部分とを明確に区別をせずに寸胴に描き,手足は手首・足首を描かずに先細の棒状に描く点は同別紙の「おばけのQ太郎」及び「エリザベス」(ただし,いずれも手の部分)と共通し,いずれも,擬人化したキャラクターの漫画・イラスト等においては,ありふれた表現であると認められる。
ウ そうすると,原告作品は,上記の特徴を組み合わせて表現した点にその創作性があるものと認められるものの,原告作品に描かれているような単純化されたキャラクターが,人が日常的にする表情をし,又はポーズをとる様子を描く場合,その表現の幅が限定されることからすると,原告作品が著作物として保護される範囲も,このような原告作品の内容・性質等に照らし,狭い範囲にとどまるものというべきである。
(3) 被告作品が原告作品の複製又は翻案に当たるか否かについて
上記(2)を踏まえ,被告作品が原告作品の複製又は翻案に当たるか否かについて,作品ごとに以下検討する。
a 原告作品1-1と被告作品1-1との対比
原告作品1-1と被告作品1-1とを対比すると,両作品は,ほぼ正面を向いて立つキャラクターにつき,目を黒点のみで描いている点,くちばしと肌の色を明確に区別できるように描いている点,顔部分と下半身部分とを明確に区別せずに描いている点,胴体部分に比して手足を短く描いている点のほか,黒色パーマ様の髪が描かれている点において共通するが,黒色パーマ様の髪型を描くこと自体はアイデアにすぎない上,その余の共通点は,いずれも擬人化されたキャラクターにおいてはありふれた表現であると認められる。
他方,両作品については,原告作品1-1では,キャラクターの体色が黄色で,両目が小さめの黒点のみで顔の外側付近に広く離して描かれ,上下のくちばしはオレンジ色で,たらこのように厚く描かれているのに対し,被告作品1-1では,キャラクターの体色は白色で,両目がより顔の中心に近い位置に,多少大きめの黒点で描かれ,上下のくちばしは黄色で原告キャラクターに比べると厚みが薄く,横幅も狭く描かれているなどの相違点がある(以下,これを「作品に共通する相違点」という。)。
加えて,原告作品1-1では,キャラクターが,いわゆるおばさんパーマ状の髪型(毛量は体の約5分の1程度で,への字型の形状をし,眉毛も見えている。)をして,口を開け,左手を上下に大きく振りながら,表情豊かに相手に話しかけているかのような様子が表現されているのに対し,被告作品1-1では,いわゆるアフロヘアー風のこんもりとした髪がキャラクターの体全体の半分程度を占めるなど,その髪型が強調され,キャラクターの表情や手足の描写にはさしたる特徴がないなどの相違点があり,その具体的な表現は大きく異なっている。
以上のとおり,両作品は,アイデア又はありふれた表現において共通するにすぎず,具体的な表現においても上記のとおりの相違点があることにも照らすと,被告作品1-1から原告作品1-1の本質的特徴を感得することはできないというべきである。
したがって,被告作品1-1は,原告作品1-1の複製にも翻案にも当たらない。

平成28623日東京地方裁判所[平成26()14093]
本件イラスト類4~6及び11は美術の著作物に当たると解されるところ,これにつき複製又は翻案を認めるためには,原告の創作した表現上の特徴部分が本件文書において再現され,又はこれを直接感得できることを要する。
そして,これらイラスト類に描かれた対象物が実在の道具や古墳,広く知られた遺跡や周知の地形であることに照らせば,その表現上の特徴部分は,本件イラスト類4及び11においては矢じり等又は大陸棚の全体的な形状ではなく細部に施された陰影等に,同5においては全体の構図及び住居,柵等の細部の表現に,同6においては堀の部分の着色及び雲の描写に認め得るにとどまると解される。ところが,本件文書ではこれらイラスト類が縮小されるなどしており,細部の陰影等の表現は感得できず(本件イラスト類4,5及び11),全体の構図は見て取れず(同5),また,堀の色等も異なる(同6)というのである。そうすると,本件文書において本件イラスト類4~6及び11が複製又は翻案されているということはできないと判断するのが相当である。

平成261030日 東京地方裁判所[平成25()17433]
原告著作物及び被告著作物は,いずれも睡蓮,ひさご,金魚鉢等を素材とし,印鑑,シール等の絵柄等に用いられるデザインである点で共通するものであるが,上記の素材はそれ自体ありふれたものである上,限られたスペースに単純化して描かれることから,事柄の性質上,表現方法がある程度限られたものとならざるを得ない。そうすると,本件において複製権侵害(複製物に係る譲渡権侵害とみても同様である。)を認めるためには,同種の素材を採り上げた他の著作物にはみられない原告著作物の表現上の本質的な特徴部分が被告著作物において有形的に再製されていることを要すると解すべきである。

平成200704日東京地方裁判所[平成18()16899]
原告博士絵柄のような博士の絵柄については,前記でみた博士の絵柄のように,角帽やガウンをまとい髭などを生やしたふっくらとした年配の男性とするという点はアイデアにすぎず,原告博士絵柄と被告博士絵柄との共通点として挙げられているその余の具体的表現(ほぼ2頭身で,頭部を含む上半身が強調されて,下半身がガウンの裾から見える大きな靴で描かれていること,顔のつくりが下ぶくれの台形状であって,両頬が丸く,中央部に鼻が位置し,そこからカイゼル髭が伸びていること,目が鼻と横幅がほぼ同じで縦方向に長い楕円であって,その両目の真上に眉があり,首と耳は描かれず,左右の側頭部にふくらんだ髪が生えていること)は,きわめてありふれたもので表現上の創作性があるということはできず,両者は表現でないアイデアあるいは表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。また,被告博士絵柄全体をみても,前記の相違点に照らすと,これに接する者が原告博士絵柄を表現する固有の本質的特徴を看取することはできないものというべきである。

平成120606日大阪地方裁判所[平成11()2377]
本件デザイン図そのものは、全体としては本件街路灯を街路に配置した完成予想図であり、構図や色彩等の絵画的な表現形式の点において、「思想又は感情を創作的に表現したもの」と評価することができ、「美術の範囲に属するもの」というべきであるから、美術の著作物に当たるものと認められる。そして、本件デザイン図自体の著作物性を右のように把握する場合には、その複製又は翻案とは、その絵画的な表現形式での創作性を有形的に再製することを意味することになる。
この観点から、まず本件設計図が本件デザイン図を複製又は翻案したものであるかを検討すると、本件設計図は本件街路灯についての技術的な設計図にすぎず、これが本件デザイン図の絵画的な表現形式の創作性を有形的に再製したものとはおよそ認められない。したがって、被告による本件設計図の作成が本件デザイン図の複製権又は翻案権を侵害するものとはいえない。
また、本件街路灯を製作、設置する行為は、本件デザイン図の絵画的な表現形式の創作性を有形的に再製する行為とはおよそいえないから、右行為が本件デザイン図の複製権又は翻案権を侵害するともいえない。
[本ケースの控訴審では、次のように、本件デザイン図についての著作物性そのものを否定した。]
平成130123日大阪高等裁判所[平成12()2393]
本件デザイン図は、装飾街路灯を街路に配置した完成予想図である。そして、全体としての構図や色彩、コントラスト等において絵画的な表現形式が取られているものの、右街路灯のデザインが街角でどのように反映するかをイメージ的に描いたものにすぎず、その表現も専ら街路灯デザインを引き立て、これを強調するにとどまっている。したがって、本件デザイン図は、それ自体、美的表現を追求し美的鑑賞の対象とする目的で製作されたものでなく、かつ、内容的にも、純粋美術としての性質を是認し得るような思想又は感情の高度の創作的表現まで未だ看取し得るものではないから、美術の著作物に当たるものとは認められない。

平成171215日大阪高等裁判所[平成17()742]
商品の取扱説明書の場合,商品の使用方法,機能,生じ得る問題点とその対処方法,部品や部分の名称,注意事項や禁止事項などが文章やイラストで説明されるが,説明すべきこれらの内容が共通し,その説明内容等がありふれた表現でなされる限り,別の商品の取扱説明書であっても表現として同一又は似通ったものとなることが考えられる。しかし,著作権法が保護するのはあくまで思想や感情の創作的表現であること(著作権法211号)からすれば,仮に上記のような点に共通性が認められたとしても,そのことをもって,創作性ある部分が実質的に同一であるとか,表現上の本質的な特徴が直接感得できるとかいうことはできない。
そうすると,控訴人イラストが著作物性を有するか否かの点はともかくとして,被控訴人イラストと控訴人イラストは,それぞれが共通する部分は,結局,控訴人商品と被控訴人商品の部品や商品部分の説明としてありふれた表現方法を使用して表現したものにすぎないし,また,ありふれた表現以外の部分において相違点が認められ,被控訴人イラストが,控訴人イラストの創作性ある部分と実質的に同一であるとか,控訴人イラストの表現上の本質的な特徴を直接感得させるとかいうことはできないから,被控訴人イラストが控訴人イラストを複製したものであるとはいえない。

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