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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

美術著作物の侵害性▶個別事例④(水槽を模した電話ボックス)

▶令和3114日大阪高等裁判所[令和1()1735]
(1) 同一性又は類似性について
ア 共通点
原告作品と被告作品の共通点は次のとおり(以下「共通点①」などという。)である。
① 公衆電話ボックス様の造作水槽(側面は4面とも全面がアクリルガラス)に水が入れられ(ただし,後記イ⑥を参照),水中に主に赤色の金魚が50匹から150匹程度,泳いでいる。
② 公衆電話機の受話器がハンガー部から外されて水中に浮いた状態で固定され,その受話部から気泡が発生している。
イ 相違点
原告作品と被告作品の相違点は次のとおり(以下「相違点①」などという。)である。
① 公衆電話機の機種が異なる。
② 公衆電話機の色は,原告作品は黄緑色であるが,被告作品は灰色である。
③ 電話ボックスの屋根の色は,原告作品は黄緑色であるが,被告作品は赤色である。
④ 公衆電話機の下にある棚は,原告作品は1段で正方形であるが,被告作品は2段で,上段は正方形,下段は三角形に近い六角形(野球のホームベースを縦方向に押しつぶしたような形状)である。
⑤ 原告作品では,水は電話ボックス全体を満たしておらず,上部にいくらかの空間が残されているが,被告作品では,水が電話ボックス全体を満たしている。
⑥ 被告作品は,平成26年2月22日に展示を始めた当初は,アクリルガラスのうちの1面に縦長の蝶番を模した部材が貼り付けられていた。
ウ 検討
控訴人は,複製権又は翻案権の侵害を主張している。
著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを有形的に再製すること(著作権法2条1項15号)をいい,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁昭和53年9月7日第一小法廷判決,最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。
依拠については後記(3)において検討することとし,ここではそれ以外の要件について検討する。
共通点①及び②は,原告作品のうち表現上の創作性のある部分と重なる。なお,被告作品は,平成26年2月22日に展示を開始した当初は,アクリルガラスのうちの1面に,縦長の蝶番を模した部材を貼り付けていた(相違点⑥)。しかし,前記のとおり,この蝶番は目立つものではなく,公衆電話を利用する者にとっても,鑑賞者にとっても,注意をひかれる部位とはいえないから,この点の相違が,共通点①として表れている原告作品と被告作品の共通性を減殺するものではない。
一方,他の相違点はいずれも,原告作品のうち表現上の創作性のない部分に関係する。原告作品も被告作品も,本物の公衆電話ボックスを模したものであり,いずれにおいても,公衆電話機の機種と色,屋根の色(相違点①~③)は,本物の公衆電話ボックスにおいても見られるものである。公衆電話機の下の棚(相違点④)は,公衆電話を利用する者にしても鑑賞者にしても,注意を向ける部位ではなく,水の量(相違点⑤)についても同様であることは前記のとおりである。すなわち,これらの相違点はいずれもありふれた表現であるか,鑑賞者が注意を向けない表現にすぎないというべきである。
そうすると,被告作品は,原告作品のうち表現上の創作性のある部分の全てを有形的に再製しているといえる一方で,それ以外の部位や細部の具体的な表現において相違があるものの,被告作品が新たに思想又は感情を創作的に表現した作品であるとはいえない。そして,後記(3)のとおり,被告作品は,原告作品に依拠していると認めるべきであり,被告作品は原告作品を複製したものということができる。
仮に,公衆電話機の種類と色,屋根の色(相違点①~③)の選択に創作性を認めることができ,被告作品が,原告作品と別の著作物ということができるとしても,被告作品は,上記相違点①から③について変更を加えながらも,後記(3)のとおり原告作品に依拠し,かつ,上記共通点①及び②に基づく表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,原告作品における表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから,原告作品を翻案したものということができる。

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