Kaneda Copyright Agency ホームに戻る
カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

美術著作物の侵害性▶個別事例⑤(ゲームアプリ)

▶令和3218日東京地方裁判所[平成30()28994]▶令和3929日知的財産高等裁判所[令和3()10028]
被告ゲームの制作・配信行為が本件著作権を侵害するかについて
⑴ ゲームの複製・翻案該当性の判断基準
ある創作物が著作権法による保護の対象となるためには,それが「著作物」であること,すなわち,「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)であることを要する。
また,著作物の複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいうところ(著作権法2条1項15号参照),かかる著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,これと同一のものを作成するか,又は,具体的表現に修正,増減,変更等を加えても,新たに思想又は感情を創作的に表現することなく,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうものと解するのが相当である。
さらに,著作物の翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいい,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁参照)。
このように,複製又は翻案に該当するためには,既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との共通性を有する部分が,著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものといえることが必要である。
そして,創作的に表現されたというためには,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,作成者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが,他方,表現がありふれたものである場合には,当該作成者の個性が表現されたものとはいえず,創作的な表現であるということはできないというべきである。
そして,本件のような携帯電話機等を用いたゲームについては,通常の映画とは異なり,システムないしルールが決められ,プレイヤーはシステムないしルールに基づいてプレイするところ,このようなゲームのシステムないしルール自体はアイデアそのものであり,著作物ということはできず,システムないしルールに基づき具体的に表現されたものがある場合に,初めてその創作性の有無等が問題となるというべきである。
また,このようなゲームは,プレイヤーが参加して楽しむというインタラクティブ性を有しているため,プレイヤーが必要とする情報を表示し,又はプレイヤーの選択肢を表示するための画面(ユーザーインターフェース)を表示する必要があり,また,ディスプレイ上に表示される画面は常に一定ではなく,プレイヤーが各画面に設置されたリンクを選択することによって異なる画面に遷移し,これを繰り返してゲームを進めるという仕組みになっているところ,一連のまとまった表現として把握される複数の画像が,プレイヤーの操作・選択により,又はあらかじめ設定されたプログラムに基づいて,連続的に展開することにより形成されている場合には,一連のまとまった表現を構成する各画像自体の創作性及び表現性のみならず,その組合せ・配列により表現される画像の変化も,著作権法による保護の対象となり得る。もっとも,このようなゲームにおける各画像及びその組合せ・配列については,プレイヤーによるリンクの発見や閲覧の容易性,操作等の利便性の観点から機能的な面に基づく制約を受けざるを得ないため,作成者がその思想・感情を創作的に表現する範囲は自ずと限定的なものとならざるを得ず,上記制約を考慮してもなおゲーム作成者の個性が表現されているものとして著作物性(創作性)を肯定し得るのは,他の同種ゲームとの比較の見地等からして,特に特徴的であり独自性があると認められるような限定的な場合とならざるを得ないものというべきである。
以上を前提にして,原告ゲーム(基本的構成,具体的構成,利用規約及びゲーム全体)及び原告ソースコードについて著作権侵害の成否を検討する。
⑵ ゲームの構成,機能,画面配置等及びこれらの組合せについて
ア 基本的構成について
前記の認定事実によれば,原告ゲーム及び被告ゲームは,①歴史をテーマにし,歴史上の武将を美少女化し,フルオート機能(プレイヤーが,実際にプレイすることなくアプリを閉じていても,ゲームが自動的に進行し,経験値を獲得してキャラクターを育成することができる機能)を備えた放置系RPGゲームである点,②サーバー内のプレイヤー同士でグループを作り,ボス等に挑戦することができる「同盟」機能,キャラクターのステータスや装備を好みに合わせて強化育成できる「強化育成」機能,サーバー内のプレイヤー間や同盟を結んだプレイヤー間で情報交換をすることができる「チャット」機能を備えている点において共通している。
しかし,上記①及び②の共通点は,いずれも両ゲームのシステムないしこれに対応する機能であって,アイデアにすぎないというほかなく,そのような点が共通するとしても,複製又は翻案に当たらない。
イ 具体的構成について
(ア)キャラクターの名称,構成,機能について
前記の認定事実によれば,原告ゲームと被告ゲームは,①キャラクターが「主将」と「副将」から構成される点,②「主将」の職業は,初めてゲームを開始する際に,「筋力」をメインの能力とするもの,「知力」 をメインの能力とするもの,「敏捷」をメインの能力とするものの3つの中から選択する点,③「副将」は,歴史上の人物が女性化して登場し,一定の条件を満たすと,当該副将が使用できるようになり,レベルが上がるにつれて副将の数を増やすことができ,副将を「出陣」させたり,「応援」させたりすることができる点,④各キャラクターは,画面上で華麗にゆらゆらと動いており,キャラクターをタッチすると,キャラクターのボイスを聴くことができる点において共通している。
しかし,上記①ないし③の共通点は,いずれも両ゲームのシステムないしこれに対応する機能であって,アイデアにすぎないものであり,また,上記④の共通点も,各キャラクターの動きやボイスの機能をいうものであってアイデアにすぎないから,これらの点が共通するとしても,複製又は翻案には当たらない。
(イ)各画面の名称,構成,機能について
前記の認定事実及び前記⑴の判断基準を踏まえた,原告ゲーム及び被告ゲームの各画面の名称,構成,機能に関する共通部分に関する判断は,別紙「ゲーム画面対比表」の「裁判所の判断」欄記載のとおりである。
すなわち,被告ゲームの各画面は,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告ゲームの各画面と同一性を有するにすぎないものであり,また,具体的表現においても相違するものであって,これに接する者が原告ゲームの各画面の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないから,複製又は翻案に当たらない。
() また,控訴人は,当審において,原判決は,全体として一つのゲームを一画面一画面に分断し,分断した画面ごとに共通する部分(アイコン等の配置等)について,個別に創作性を判断し,その結果として,共通する部分全体の創作性を否定したものであり,一連の流れのあるゲームの著作権侵害を判断しているのではなく,画面の著作権侵害を判断しているにすぎないから,このような原判決の判断手法によると,他社のゲームをデッドコピーしても,キャラクターやアイコンのデザイン等を多少変更さえしてしまえば,著作権侵害を免れることになり,不合理であるとして,被告ゲームは原告ゲームを複製又は翻案したものに当たらないとした原判決の判断手法は誤りである旨主張する。
しかしながら,原告ゲーム全体と被告ゲーム全体の共通部分が創作的表現といえるか否かを判断する際に,その構成要素を分析し,それぞれについて表現といえるか否か,表現上の創作性を有するか否かを検討することは,有益かつ必要なことであり,その上で,ゲーム全体又は侵害が主張されている部分全体について表現といえるか否か,表現上の創作性を有するか否かを判断することは,合理的な判断手法であると解される。
そして,前記()のとおり,原判決は,被告ゲームと原告ゲームの共通点はアイデアや創作性のないものにとどまり,また,具体的表現において相違し,デッドコピーであるとは評価できないから,被告ゲーム全体が,原告ゲーム全体を複製又は翻案したものに当たるということはできないと判断したものであり,その判断手法に誤りはない。
したがって,控訴人の上記主張は採用することができない。】
(略)
エ ゲーム全体について
前記⑴で説示したとおり,原告ゲーム及び被告ゲームのような携帯電話機等を用いたゲームは,プレイヤーによるリンクの発見や閲覧の容易性,操作等の利便性の観点から,その画面遷移等の構成には機能的な制約があるため,創作性の認められる範囲は自ずと限定的なものとならざるを得ず,特に特徴的であり独自性があると認められない限り,創作性を認めるのは困難というべきである。
そして,前記説示のとおり,原告ゲーム及び被告ゲームは,いずれも,携帯電話機等を利用する歴史をテーマとする美少女育成型の放置系RPGであり,「ホーム」,「戦場」,「陣営」,「倉庫」,「チャット」,「同盟」の各画面を主要画面とし,ホーム画面上にボタンが表示される「競技」,「ショップ」ないし「商店」,「鋳造」,「任務」,「特典」,「チャージ」の各画面その他各種イベントに関する画面を中心とする構成であるところ,これらのゲーム内容及び各画面等については,基本的構成,具体的構成及び利用規約のいずれにおいても,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において共通しているにすぎず,また,具体的表現においては相違するものである。
そして,上記のような性質のゲームを採用した場合,プレイヤーによるリンクの発見や閲覧の容易性,操作等の利便性の観点から,各画面の機能ないし遷移方法については,ある程度似通ったものにならざるを得ないことをも踏まえると,原告ゲーム及び被告ゲームにおける各画面の機能ないし遷移方法を具体的にみても,特に特徴的であり独自性があるということはできない。
そうすると,被告ゲーム全体の構成・機能・画面配置等の組合せ(画面の変遷並びに素材の選択及び配列)についても,アイデアなど表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において原告ゲームのそれと同一性を有するにすぎないものというほかなく,これに接する者が原告ゲームの画面の変遷並びに素材の選択及び配列の表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないとみるべきであるから,複製又は翻案に当たらないというべきである。
これに対し,原告は,原告ゲーム全体の構成・機能・画面配置等の組合せには選択の余地があり,創作性が認められるところ,被告ゲームは,原告ゲームと合計84画面の構成・機能・画面配置等が全て共通しており,原告ゲームをほぼデッドコピーして制作されたものであることは明らかであるから,両ゲームの個別の画面を逐一比較するまでもなく,ゲーム全体について複製又は翻案が成立することは明らかである旨を主張する。
しかし,著作物の創作的表現は,様々な創作的要素が集積して成り立っているものであるから,原告ゲームと被告ゲームの共通部分が表現といえるか否かを判断する際に,その構成要素を分析し,それぞれについて表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを検討することは,有益かつ必要なことであって,その上で,ゲーム全体又は侵害が主張されている部分全体について表現といえるか否か,また表現上の創作性を有するか否かを判断することが,正当な判断手法ということができるところ,両ゲームの各画面等の共通部分は,アイデアや創作性のないものにとどまることは,前記説示のとおりである。そして,著作権法上,著作物として保護されるのは,画面の選択や配列に関するアイデア自体ではなく,具体的表現であるから,画面の選択や配列に選択の余地があったとしても,実際に作成された表現がありふれたものである限り,それが共通することを理由として,複製又は翻案が成立するということはできないし,具体的な表現が異なることにより,表現上の本質的な特徴が直接感得できなくなる場合があり得るところ,前記説示のとおり,本件において,被告ゲームの画面の選択や配列から,原告ゲームのそれの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないものである。
他方で,原告が主張するように,証拠及び弁論の全趣旨によれば,①被告ゲームのテスト版では,「サーバーデータ取得エラー26002」という原告ゲームと同じエラーメッセージが用いられ,被告ゲームの通貨は「判金」であるにもかかわらず,イベント画面において原告ゲームで用いている「元宝」(中国の貨幣)の名称が用いられていること,②被告ゲームには,該当する名称の機能等が存在していないにもかかわらず,原告ゲーム内の機能等の名称である「同盟争覇戦」,「訓練所」,「遊歴」,「神将交換」,「高速戦闘」,「弓将」,「総力戦」,「神器」の用語がそのまま用いられており,チャット機能において,原告ゲームと同じバグが存在していること,さらに,③被告ソースコードには,原告ゲームの開発担当者の名前が残されたままとなっていることが認められる。
しかし,上記の事実から,被告ゲームが原告ゲームを参考にして制作されたことが認められるとしても,その共通点はアイデアや創作性のないものにとどまり,また,具体的表現において相違し,デッドコピーであるとは評価できないのであるから,被告ゲーム全体が,原告ゲーム全体の複製又は翻案に当たるということはできない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。

一覧に戻る

https://willwaylegal.wixsite.com/copyright-jp