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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

過失責任▶個別事例➁(外国映画の配給会社/DVD商品の輸入販売業者

[外国映画の配給会社]
▶平成30419日大阪地方裁判所[平成29()781]
当裁判所は,外国映画の配給会社が,複製しようとする映画に使用されている楽曲等の権利処理が完了していないのではないかと合理的に疑わせる事情もないのに,当該映画を複製するに先立って,当該映画に使用されている楽曲等の権利処理が完了しているか否かを確認する注意義務を負うとは認められないものの,本件の事情に照らせば,本件音源の権利処理が完了していないのではないかということを合理的に疑わせる事情が存し,被告は,そのような事態を十分予見することができたのであるから,上記疑いを合理的に払拭できるまで調査,確認を尽くし,その疑いが払拭できないのであれば本件音源の複製を差し控えるべき注意義務を負っていたにもかかわらず,上記注意義務を怠ったという過失があると判断した。以下,詳述する。
(略)
一般に映画は音楽を初め多数の著作物等を総合して成り立つことから,それらの著作物等の権利者からの許諾については,映画製作会社において適正に処理するのが通常である。また,外国映画の配給会社に,その著作物等の一つ一つについて,本国の映画製作会社が権利者から許諾を受けているか否かを確認させることは,多大なコストと手間を必要とし外国映画の配給自体を困難にさせかねないこととなる。このことからすると,外国映画の配給会社において,配給のために映画を複製する場合に必ずこれに先立って,当該映画に使用されている楽曲等に関する権利処理が完了しているか否かを確認するという一般的な注意義務を課すのは相当ではないというべきである。一般社団法人外国映画輸入配給協会の会長の陳述書において,外国映画の配給業界においては,外国映画における音楽原盤(レコード製作者)の権利処理については,本国の映画製作者等において権利処理済みであるということを前提とし,改めて権利処理の有無等を確認しないという実務慣行が確立しているとされていることは,この意味で肯認することができる。これに反する原告の主張は採用できない。
もっとも,本国の映画製作会社等が,ある楽曲の音源のレコード製作者の権利を有する者から適正な許諾を受けていないのではないかということを合理的に疑わせる特段の事情が存在する場合には,映画を複製することにより当該音源のレコード製作者の権利を侵害するという事態を具体的なものとして予見することが可能であるから,その場合には,これを打ち消すに足るだけの調査,確認義務を負う上,調査,確認を尽くしても上記疑いを払拭できないのであれば,当該音源を使用した当該映画の複製を差し控えるべき注意義務を負うと解するのが相当である。
この点について,被告は,外国映画の配給会社にはおよそ当該映画に使用されている楽曲の音源に関する権利処理に関する調査,確認義務を負わせるべきではないとの主張をする趣旨にも思われる。しかし,本国の映画製作者等がレコード製作者の権利を有する者から適正な許諾を受けていないのではないかということを合理的に疑わせる事情に接した場合に,そのような疑問が払拭されないまま映画の複製を行うことは,レコード製作者の権利を侵害する可能性が高いのであるから,そのような場合にまで調査確認義務を負わないと解することは,前記のような外国映画の配給における業界の実情を前提としても相当でないというべきであり,被告の主張は採用できない。

[DVD商品の輸入販売業者]
▶平成30531日東京地方裁判所[平成28()20852]
過失の有無について
(1) 証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
ア 平成24年10月30日,原告らは,被告に対し,被告商品1及び2の日本語音声が,原告商品の日本語字幕・音声と全く同じであり,被告商品1及び2の製造・販売が原告らの著作権を侵害するものであるから,被告商品1及び2の製造・販売を直ちに中止するよう求める警告書を発出した。
イ 同年12月10日,被告代理人は,原告ら代理人に対し,要旨,以下の事項をFAX送信した。
() 訴外▽▽の代表取締役訴外Aから,「訴外▽▽と原告○○との間で平成22年8月頃に本件アニメーション作品についての共同事業合意が成立し,その合意に基づき訴外▽▽は原告アートステーションに制作費用の半額相当を支払った。その合意により訴外▽▽は本件著作物の著作権を共有し,単独でのライセンス権限も付与されたため,訴外▽▽による被告への本件著作物の使用許諾は有効である。」旨の説明を受けた。
() 訴外▽▽の上記説明は,共同事業合意書等の資料等に基づいてなされており,被告代理人としては概ね信頼するに足る主張であると判断している。
() 被告としては,平成24年内に訴外▽▽から提供される関係書類を確認した上で,被告商品1及び2の販売を停止するか否かの結論を出したいと考えている。
() 原告らによる法的アクションは,上記事情を踏まえて判断してもらいたい。共同事業合意と制作費用負担の事実関係に関する原告ら代理人の認識,見解があれば知らせてほしい。
ウ その後,上記イと同じ頃,被告代理人は,原告ら代理人と面談し,訴外▽▽の説明を裏付ける資料として,共同事業合意書,訴外▽▽の通帳写し,原告○○代表者の訴外A宛てメール,訴外▽▽の買掛金補助元帳を示して,前記イ()の訴外▽▽の説明が信用できるものであることを説明した。
エ その後,原告らないし原告ら代理人は,被告に対し,何らの連絡は行わなかったところ,原告らは,平成28年6月24日,被告商品の輸入・販売を継続していた被告に対し,本訴を提起した。
(2) 以上の事実によれば,①被告は,平成24年10月に,原告らから,被告商品1及び2の製造・販売について原告らの著作権を侵害する旨の警告を受けているところ,被告代理人をして同年12月に原告ら代理人に対し,被告商品1及び2の製造・販売は訴外▽▽の有効な使用許諾に基づくもので著作権侵害に当たらない旨の説明を訴外▽▽から受け,その説明内容が概ね信用できると認識していることを一方的に説明しているのみで,原告らないし原告ら代理人が,被告の説明に納得して,上記警告を撤回したとか,被告商品1及び2の製造・販売が著作権侵害に当たらないことを確認したなどといった事情はなく,単に,本訴提起に至るまで,被告に対して著作権侵害を更に主張しなかったというにすぎないこと,②むしろ,共同事業合意書には両代表者の記名のみで押印がないことや,原告○○代表者の訴外A宛てメールでは,共同事業合意書が未締結である旨記載されていること等からすれば,訴外▽▽の上記説明内容には必ずしも十分な合理性があるとはいえないこと,以上の事実が認められる。そのような事情に加えて,被告がビデオ・映画等の制作・配給・販売・賃貸並びに輸出入業務等を業としており,被告商品の輸入・販売に際して高度の注意義務を負担していることも併せ考慮すれば,被告の主張する点を考慮しても,被告商品の輸入・販売を継続した被告には,著作権侵害につき過失があると認められる。

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