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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

過失責任▶個別事例④(著作権フリーを信用して店舗にBGM利用した事例)

▶平成30319日札幌地方裁判所[ 平成29()1272]
被告は,本件各楽曲の一部の楽曲について,第三者サイト上で著作権が消滅したことを表す本件マークが付されていることを理由に,本件各楽曲が原告の管理楽曲であることを争っている[注:被告は,「本件各楽曲が,原告の管理楽曲であることは,否認する」としつつ,「本件各楽曲の一部について,Eのウェブサイト(「第三者サイト」)上では,著作権行使の対象とはならない旨を表すマーク(パブリックドメイン又はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスのマーク。以下「本件マーク」)が付されている。また,本件各楽曲の一部の楽曲がアップロードされてインターネットで全世界に配布されているにもかかわらず,数年間にわたり著作権管理団体から差止めを受けていないことなどからすると,本件各楽曲が原告の管理楽曲であることは疑わしい」と主張した]。そこで,以下,第三者サイトにおける本件マークの信用性について検討する。
第三者サイトは,米国の非営利団体が,音楽等のデータを蓄積し,世界中の人がこれを利用できるようにすることを目的に作成されたデジタルライブラリであるところ,同サイトには,「当サイトのコレクションに投稿されている素材の著作権に関して,厳格な保証を与えることはできません。」,「著作権その他の知的所有権に関するコレクション・ページについて,投稿されている情報を保証することはできません。」との記載や,「適切な状況において自由裁量により,他者の著作権又はその他の知的所有権の侵害が疑われるコンテンツを削除,又はコンテンツへのアクセスを遮断することができます。」との記載がある。すなわち,第三者サイト上に本件マークが付されているとしても,同サイトを運営する非営利団体が,著作権が消滅し,いわゆるパブリックドメインに属するものであることを,厳密に保証するものではない。
また,第三者サイトは,アカウント登録を行えば誰でも楽曲をアップロードすることができ,その際にアップロードした者が本件マークを付する旨の選択を行えば,楽曲に本件マークが付されることとなるものであるから,本件マークは,当該楽曲の著作権の消滅の有無を確認することなしに,付される可能性があるものである。
さらに,我が国の著作権は,著作者が死亡した日の属する年の翌年から起算して50年を経過するまでの間存続するとされるが(著作権法51条2項,57条),我が国が太平洋戦争中に連合国民の著作権を保護しなかったことに対する代償措置として,連合国及び連合国民の著作権の特例に関する法律により,いわゆる戦時加算が定められており,戦争当時に米国民が有していた著作権については,その保護期間が3794日(約10年5か月)延長されることから,著作者の死亡から50年が経過した楽曲であっても,我が国においては,著作権の保護期間はなお満了していない場合があることになる。
被告は,本件各楽曲の一部に,第三者サイト上で本件マークが付されているものがあるとして,本件各楽曲には原告が著作権の管理を委託されていない楽曲が含まれており,信用できないと主張するが,上記検討したところによれば,むしろ被告の主張に理由がないといわざるを得ず,本件各楽曲は,原告の管理楽曲であると認めるのが相当である。
(略)
上記のとおり,第三者サイトにアップロードされている楽曲が,著作権行使の対象でないことの明確な保証はなく,第三者サイトにもその旨明記されているにもかかわらず,被告は,原告のウェブサイト等によって本件店舗のBGMとして利用する楽曲の著作権について調査しないまま,本件店舗のBGMとして,原告の管理楽曲を利用したのであるから,被告には,平成26年5月以降,原告の管理する著作権を侵害したことについて,過失があるというべきである。
被告は,被告が利用していた楽曲の著作権の管理状況等について,原告に説明を求めたにもかかわらず,原告から何の説明もなかったとして,被告には過失がない旨を主張するが,前記の事実経過に照らし,被告の上記主張を認めることは困難というべきであるし,店舗で楽曲をBGMとして再生する以上,自ら権利関係については調査をしなければならないのであって,仮に原告の説明に不十分な点があったとしても,被告は過失を免れるものではない。

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