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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

写真著作物の侵害性▶写真著作物の侵害性一般

▶平成180329日知的財産高等裁判所[平成17()10094]
創作性の存在が肯定される場合でも,その写真における表現の独自性がどの程度のものであるかによって,創作性の程度に高度なものから微少なものまで大きな差異があることはいうまでもないから,著作物の保護の範囲,仕方等は,そうした差異に大きく依存するものというべきである。したがって,創作性が微少な場合には,当該写真をそのままコピーして利用したような場合にほぼ限定して複製権侵害を肯定するにとどめるべきものである。

[被写体選定の独自性と侵害性]
▶平成130621日東京高等裁判所[平成12()750]
写真著作物において,例えば,景色,人物等,現在する物が被写体となっている場合の多くにおけるように,被写体自体に格別の独自性が認められないときは,創作的表現は,撮影や現像等における独自の工夫によってしか生じ得ないことになるから,写真著作物が類似するかどうかを検討するに当たっては,被写体に関する要素が共通するか否かはほとんどあるいは全く問題にならず,事実上,撮影時刻,露光,陰影の付け方,レンズの選択,シャッター速度の設定,現像の手法等において工夫を凝らしたことによる創造的な表現部分が共通するか否かのみを考慮して判断することになろう。
しかしながら,被写体の決定自体について,すなわち,撮影の対象物の選択,組合せ,配置等において創作的な表現がなされ,それに著作権法上の保護に値する独自性が与えられることは,十分あり得ることであり,その場合には,被写体の決定自体における,創作的な表現部分に共通するところがあるか否かをも考慮しなければならないことは,当然である。写真著作物における創作性は,最終的に当該写真として示されているものが何を有するかによって判断されるべきものであり,これを決めるのは,被写体とこれを撮影するに当たっての撮影時刻,露光,陰影の付け方,レンズの選択,シャッター速度の設定,現像の手法等における工夫の双方であり,その一方ではないことは,論ずるまでもないことだからである。
本件写真は,そこに表現されたものから明らかなとおり,屋内に撮影場所を選び,西瓜,籠,氷,青いグラデーション用紙等を組み合わせることにより,人為的に作り出された被写体であるから,被写体の決定自体に独自性を認める余地が十分認められるものである。したがって,撮影時刻,露光,陰影の付け方,レンズの選択,シャッター速度の設定,現像の手法等において工夫を凝らしたことによる創造的な表現部分についてのみならず,被写体の決定における創造的な表現部分についても,本件写真にそのような部分が存在するか,存在するとして,そのような部分において本件写真と被控訴人写真が共通しているか否かをも検討しなければならないことになるものというべきである。
(略)
本件写真は,作者である控訴人の思想又は感情が表れているものであるから,著作物性が認められるものであり,被控訴人写真は,本件写真に表現されたものの範囲内で,これをいわば粗雑に再製又は改変したにすぎないものというべきである。このような再製又は改変が,著作権法上,違法なものであることは明らかというべきである。
この点について,被控訴人Bは,被写体を容易かつ正確に表現できることに最大の利点がある写真について,先行著作物と被写体が同一ないし類似のものである写真を撮影してはならないとなると,写真による表現行為は著しく制約されることになり,こうした結論が創作活動の動機付けを与えようとする著作権法の趣旨に反することは,明らかである旨主張する。
しかしながら,当裁判所は,先行著作物と被写体が同一ないし類似のものである写真一般について,そのような写真を撮影するのが著作権法に違反するといっているのではない。特に,先行著作物の被写体を参考として利用しつつ,被写体を決定し,自らの創作力を発揮して新しい写真を撮影することが,著作権法に違反するといっているのではない。当裁判所がいっているのは,先行著作物において,その保護の範囲をどのようにとらえるべきかはともかく,被写体の決定自体に著作権法上の保護に値する独自性が与えられているとき,上記のような形でこれを再製又は改変することは許されないということだけである。したがって,上記のように解したからといって,写真による表現行為が著しく制約されるということに,決してなるものではない。

▶平成230510日知的財産高等裁判所[平成23()10010]
著作物について翻案といえるためには,当該著作物が,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものであることがまず要求され(最高裁平成13628日第一小法廷判決(江差追分事件)),この理は本件における写真の著作物についても基本的に当てはまる。本件の原告写真15は,被写体が既存の廃墟建造物であって,撮影者が意図的に被写体を配置したり,撮影対象物を自ら付加したものでないから,撮影対象自体をもって表現上の本質的な特徴があるとすることはできず,撮影時季,撮影角度,色合い,画角などの表現手法に,表現上の本質的な特徴があると予想される。
被告写真1が原告写真1の翻案に当たるか否かについてみるに,原告写真1は,群馬県松井田町に所在する国鉄旧丸山変電所の内部を撮影したものであるが,原告書籍1「棄景」が全体の基調としているように,モノクロ撮影を強調しハイコントラストにしたものである。控訴人がこれを翻案したと主張する被告写真1は,被告書籍1「廃墟遊戯」及び被告書籍4「廃墟遊戯-Handy Edition」に収録されているが,これら被告書籍が基調としているように,枯れ葉色をベースにしたカラー写真である。原告写真1と同じく,旧国鉄丸山変電所の内部が撮影対象である。
しかし両者の撮影方向は左方向からか(原告写真1),右方向からか(被告写真1)で異なり,撮影時期が異なることから,写し込まれている対象も植物があったりなかったりで相違しているし,そもそも,撮影対象自体に本質的特徴があるということはできないことにかんがみると,被告写真1をもって原告写真1の翻案であると認めることはできない。
被告写真2と原告写真2の関係をみるに,両者とも,栃木県足尾町に所在する足尾銅山付近の通洞発電所跡(建物外観)を撮影したものであり,建物右下方向からの撮影であって構図の点では近似している。しかし,撮影対象が現に存在する建物跡であることからすると,たとえ構図において似ていても,写真において表現されている全体としての印象が異なっていれば,一方が他方の翻案に該当するものと認めることはできない。撮影時季が違うことは,特に原告写真2でセピア色の中で白色に特徴付けられて写真左下に写っているすすきが,建物の色感覚をそのまま撮影したであろうと印象付けられる被告写真2にはなく,その位置に緑色の植物が写っていることから明らかである。これらの印象の違いと撮影物の違いにかんがみると,被告写真2が原告写真2の翻案に当たるということはできない。
原告写真3と被告写真3は静岡県修善寺町所在の大仁金山付近の建物外観を撮影したものであり,原告写真4と被告写真4は東京都奥多摩町に所在する奥多摩ロープウェイの機械室内部を撮影したものであるが,いずれも現に存在する建築物の外観あるいは内部を撮影したものであって,撮影方向が違う以上,これら被告写真が原告写真の翻案に当たるということはできない。原告写真3と原告写真4は,モノクロないしセピア色を基調とした写真であり,特に原告写真4はコントラストの強さを持ったものであって,ほぼありのままを伝えようとする印象を持つ被告写真34にはない強いインパクトを与えるものとなっている。
原告写真5と被告写真5は,ともに秋田県大館市に所在する奥羽本線旧線跡の橋梁跡を撮影したものであるが,同様に現存する建築物を撮影したものであり構図も違うから,この点において既に被告写真5が原告写真5を翻案したものということはできない。
以上のとおり,翻案権侵害をいう控訴人の主張はいずれも理由がなく,そうである以上,被告写真15が掲載された被告各書籍の発行等について控訴人が主張する複製権,譲渡権,氏名表示権の侵害の主張も理由がない。

平成261017日東京地方裁判所[平成25()22468]
著作物について翻案といえるためには,当該著作物が,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものであることがまず要求され(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決),この理は本件のような写真の著作物についても基本的に当てはまるものと解される。そして,本件においては,原告各写真は,その被写体が原告建物であり,被告各写真は,その被写体が被告建物であり,互いに被写体を異にすることが明らかであり,また,原告表現建物に「建築の著作物」としての創作性が認められないことは前記のとおりであるから,撮影対象自体をもって表現上の本質的な特徴があるとすることはできないのであり,被告各写真が原告各写真に依拠することを前提に,撮影時期,撮影角度,色合い,両角等の表現手法において,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えたものと認められるかについて検討するのが相当である。
(略)
そうすると,被告斜め写真は,構図において原告斜め写真と近似するとしても,そもそも撮影対象自体が異なり,その撮影時期や光量の調整,陰影の付け方において原告斜め写真と違いがあるから,被告斜め写真が原告斜め写真に依拠し,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることができない。したがって,被告斜め写真が原告斜め写真の翻案に当たるとは認められない。
(略)
そうすると,被告正面写真は,構図や撮影時期において原告正面写真と近似するとしても,そもそも撮影対象自体が異なり,その陰影の付け方や背景においても違いがあるから,被告正面写真が原告正面写真に依拠し,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持していると認めることができない。したがって,被告正面写真が原告正面写真の翻案に当たるとは認められない。

令和2127日大阪地方裁判所[平成29()12572] ▶令和3121日大阪高等裁判所[令和2()597]
(1) 翻案(著作権法27条)とは,他人の著作物に新たな創作性を付与して別個の著作物を作成する行為であり,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらないと解される。
(2) 原告は,原告制作物4につき,被写体の配置,構図,カメラアングルの設定,被写体と光線の関係,陰影の付け方,色彩の配合,背景等に工夫を凝らしたことをもって,その創作性の表れと主張するものと思われる。
しかし,写真に創作性が付与されるのは,被写体の独自性によってではなく,撮影や現像等における独自の工夫によって創作的な表現が生じ得ることによるものであり,被写体の選択や配置上の工夫は,写真の創作性を基礎付けるに足りる本質的特徴部分ではない。したがって,原告が指摘する被写体の配置,構図,背景については,写真の著作物の創作性を基礎付けるに足りる本質的特徴部分とはいえないから,これらの点が共通しても翻案とはならない。
また,原告制作物4と被告制作物4が類似するか否かは,原告制作物4の創作性を基礎付けるに足りる本質的特徴部分である,カメラアングルの設定,被写体と光線の関係,陰影の付け方,色彩の配合が共通するか否かを考慮して判断する必要があるところ,証拠によれば,原告制作物4及び被告制作物4は,別紙対照表のとおりの内容を含むものであると認められる。これによれば,原告制作物4と被告制作物4とは,【カメラアングルのほか,中央上部の光源により左右に影を生じているという被写体と光線の関係は共通するといい得るとしても,これらの点は,一般的な商品の宣伝広告・販促用写真として顕著な特徴を有するともいい難く,表現上の創作性がある部分に当たるとは俄かにいい難い上,陰影の付け方及び色彩の配合は相違しており,被告制作物4を原告制作物4と比較して見たとき,表現上の本質的特徴の同一性を維持し,原告制作物4の表現上の本質的特徴を直接感得することができるとは評価し難い。】そうすると,被告制作物4は,原告制作物4を翻案したものであるとは認められないから,その余の点を検討するまでもなく,原告制作物4に係る原告の著作権を侵害するものとはいえない。

▶平成111215日東京地方裁判所[平成11()8996]
一般に、特定の作品が先行著作物を翻案したものであるというためには、先行著作物に依拠して制作されたものであり、かつ、先行著作物の表現形式上の本質的特徴部分を当該作品から直接感得できる程度に類似しているものであることが必要である。
ところで、写真技術を応用して制作した作品については、被写体の選択、組合せ及び配置等が共通するときには、写真の性質上、同一ないし類似する印象を与える作品が生ずることになる。しかし、写真に創作性が付与されるゆえんは、被写体の独自性によってではなく、撮影や現像等における独自の工夫によって創作的な表現が生じ得ることによるものであるから、いずれもが写真の著作物である二つの作品が、類似するかどうかを検討するに当たっては、特段の事情のない限り、被写体の選択、組合せ及び配置が共通するか否かではなく、撮影時刻、露光、陰影の付け方、レンズの選択、シャッター速度の設定、現像の手法等において工夫を凝らしたことによる創造的な表現部分、すなわち本質的特徴部分が共通するか否かを考慮して、判断する必要があるというべきである。

▶平成70328日大阪地方裁判所[平成4()1958]
絵画の複製に当たる「他人の絵画を人の手で模写する場合」と対比すべきは、写真Aの対象物と同一の対象物を被写体として写真Aと同様の撮影方法を用いて写真Bを撮影する場合ではなく、写真Aそのものを有形的に再製する場合であるから、写真Aと同一の被写体を同様の撮影方法を用いて写真Bを撮影したからといって、直ちに写真Aの複製になるとはいい難い。まして、写真Bが写真Aの被写体とは異なる対象物を被写体として撮影したものである場合、被写体が個性のない代替性のある商品であり、同様の撮影方法を用いているからといって、写真Bをもって写真Aの複製であると解する余地はない。

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