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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

写真著作物の侵害性▶個別事例➁(料理写真)

令和4330日東京地方裁判所[令和2()32121]
1 争点1(著作権侵害の成否)について
(1) 著作権法が、著作物とは、思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの(同法2条1項1号)をいい、複製とは、印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形的に再製することをいう旨規定していること(同項15号)からすると、著作物の複製(同法21条)とは、当該著作物に依拠して、その創作的表現を有形的に再製する行為をいうものと解される。
また、著作物の翻案(同法27条)とは、既存の著作物に依拠し、かつ、その表現上の本質的な特徴である創作的表現の同一性を維持しつつ、具体的表現に修正、増減、変更等を加えて、新たに思想又は感情を創作的に表現することにより、これに接する者が既存の著作物の創作的表現を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される。
そうすると、被告写真3が原告写真を複製又は翻案したものに当たるというためには、原告写真と被告写真3との間で表現が共通し、その表現が創作性のある表現であること、すなわち、創作的表現が共通することが必要であるものと解するのが相当である。
一方で、原告写真と被告写真3において、アイデアなど表現それ自体ではない部分が共通するにすぎない場合には、被告写真3が原告写真を複製又は翻案したものに当たらないと解される。そして、共通する表現がありふれたものであるような場合には、そのような表現に独占権を認めると、後進の創作者の自由かつ多様な表現の妨げとなり、文化の発展に寄与するという著作権法の目的(同法1条)に反する結果となりかねないため、当該表現に創作性を肯定して保護することは許容されない。したがって、この場合も、複製又は翻案したものに当たらないと解される。
(2) 原告は、原告写真と被告写真3において共通する部分である共通点aないしfは創作性のある表現であるから、被告写真3は原告写真を複製又は翻案したものに当たる旨主張するので、以下において判断する。
ア 共通点aについて
原告写真と被告写真3とは、被写体であるスティック春巻を2本ないし3本ずつ両側から交差させている点において共通する。
しかし、証拠によれば、角度や向きを変えながら料理を順に重ねて盛る「重ね盛り」という方法が存在することが認められるところ、原告写真と被告写真3の被写体であるスティック春巻はいずれも細長い形状を有するから、スティック春巻を盛り付ける場合に、上記の「重ね盛り」の方法によってスティック春巻を数本ずつ交差させて配置することは、スティック春巻の撮影する場合に一般的に行われるものであるということができる。加えて、証拠によれば、共通点aと同様に、棒状の春巻を配置して撮影された写真が複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現は、ありふれたものといわざるを得ない。
以上によれば、共通点aは創作的表現であるとはいえないから、被告写真3の共通点aの部分が、原告写真の共通点aの部分を複製又は翻案したものに当たると認めることはできない。
イ 共通点bについて
原告写真と被告写真3とは、2本のスティック春巻を斜めにカットして、断面を視覚的に認識しやすいように見せ、さらに、チーズも主役でない程度に見えるようにしている点において共通する。
しかし、具が衣に包まれているという春巻の形状に照らすと、春巻の具を撮影するためには春巻をカットしなければならないし、その際、具を強調するために、断面積が大きくなるよう、斜めにカットすることは、スティック春巻を撮影する際に一般的に採用され得る手法ということができる。加えて、証拠によれば、共通点bと同様に春巻を斜めにカットした断面を配置して撮影された写真が複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現は、ありふれたものといわざるを得ない。
以上によれば、共通点bは創作的表現であるとはいえないから、被告写真3の共通点bの部分が原告写真の共通点bの部分を複製又は翻案したものに当たると認めることはできない。
ウ 共通点cについて
原告写真と被告写真3とは、端に角度がついた、白色で模様がなく、被写体である複数本のスティック春巻とフィットする大きさの皿を使用している点において共通する。
しかし、証拠によれば、白い器は料理の色を引き立てる効果があり、選択肢として基本的な色であること、料理の写真を撮影する際には盛り付ける料理にぴったり合う大きさの皿を選択することが重要であることが認められる。そうすると、白色で模様がなく、黄土色のスティック春巻とフィットする大きさの皿を使用することは、スティック春巻の写真を撮影する上で一般的に行われ得るということができる。加えて、証拠によれば、共通点cと同様に、白色で模様がなく、被写体である複数本のスティック春巻とフィットする大きさの皿を使用して撮影された写真が複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現はありふれたものといわざるを得ない。
以上によれば、共通点cは創作的表現であるとはいえないから、被告写真3の共通点cの部分が原告写真の共通点cの部分を複製又は翻案したものに当たると認めることはできない。
エ 共通点dについて
原告写真と被告写真3とは、皿に並べた春巻を、正面からでなく、角度をつけて撮影している点において共通する。
しかし、証拠によれば、料理写真の構図として、料理を正面から撮影するのではなく、左右に回転させて左右向きに配置して、斜めの方向から撮影する手法が存在することが認められる。そうすると、皿に並べた春巻を、角度をつけて撮影することは、一般的に行われ得るということができる。加えて、証拠によれば、共通点dと同様に、皿に並べた春巻を、角度をつけて撮影した写真が複数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現はありふれたものといわざるを得ない。
以上によれば、共通点dは創作的表現であるとはいえないから、被告写真3の共通点dの部分が原告写真の共通点dの部分を複製又は翻案したものに当たると認めることはできない。
オ 共通点eについて
原告写真と被告写真3とは、撮影時に光を真上から当てるのではなく、斜め上から当てることで、被写体の影を付けている点において共通する。
しかし、証拠によれば、料理写真の撮影方法として、料理の斜め後ろから料理に光を当て、料理上部を明るく照らすとともに手前側を暗くして立体感を生じさせる斜め逆光という手法が存在すること、斜め逆光は料理写真で最もよく使われるライティングであることが認められる。
したがって、被写体に影を付け、立体感を醸成するという撮影方法は、春巻を含む料理の写真を撮影する上で一般的に用いられ得る手法であるということができる。加えて、証拠によれば、共通点eと同様に、斜め逆光の手法を用いて撮影された春巻の写真が多数存在すると認められることに照らすと、上記の共通点に係る表現はありふれたものといわざるを得ない。
以上によれば、共通点eは創作的表現であるとはいえないから、被告写真3の共通点eの部分が原告写真の共通点eの部分を複製又は翻案したものに当たると認めることはできない。
カ 共通点fについて
原告写真と被告写真3とは、葉物を含む野菜を皿の左上のスペースに置いている点において共通する。
しかし、揚げ物である春巻に、野菜が付け合わせとして盛り付けられることは、一般的に行われることであるといえるから、春巻の写真を撮影する際に野菜が皿の隅のスペースに置かれることもまた、一般的に行われることということができる。現に、証拠によれば、上記の共通点と同様に配置された春巻の写真が複数存在することが認められる。そうすると、上記の共通点に係る表現はありふれたものといわざるを得ない。
以上によれば、共通点fは創作的表現であるとはいえないから、被告写真3の共通点fの部分が原告写真の共通点fの部分を複製又は翻案したものに当たると認めることはできない。
キ 全体的観察
前記アないしカのとおり、共通点aないしfはいずれも創作的表現であるとは認められないから、これらの共通点を全体として観察しても、原告写真と被告写真3との間で創作的表現が共通するとは認められない。
ク 小括
以上の次第で、原告写真と被告写真3は、ありふれた表現が共通するにすぎず、原告写真と被告写真3との間で創作的表現が共通するとは認められないから、被告写真3が原告写真を複製又は翻案したものに当たるとは認められない。
(3) 以上によれば、被告が、被告ラベルシール3を制作し、商品に貼って食品スーパーマーケット及び量販店に販売することが、原告写真に係る原告の著作権(複製権及び譲渡権又は翻案権)を侵害するとは認められない。

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