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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

公衆送信権▶個別事例①(ファイル共有ソフトを使った送受信)

▶令和3126日東京地方裁判所[令和2()20083]
⑴ ビットトレント[(注)ビットトレント(BitTorrent)は、TCP/IPネットワーク上でP2P(ピアツーピア)方式のファイルの共有及び交換を行うための通信規約(プロトコル)の一つであり,また,同通信規約を実装した標準のファイル共有ソフトをいうこともある。]においては,中央サーバーを介さず,個々の使用者の間で相互に直接ファイルが共有される。すなわち,ビットトレントにおいて,特定のファイルを入手した使用者は,ピアとしてファイルの提供者の一覧であるトラッカーに登録され,他の使用者から要求を受けた場合には,自己の使用する端末に保存した当該ファイルを送信して提供しなければならない。具体的には,特定のファイルをダウンロードし,自己の端末に保存すると,当該端末の電源が入っていてインターネットに接続されている限り,当該ファイルの送信を要求した不特定の者に対し,当該端末に保存された当該ファイルを自動的に直接送信する状態となる。
ビットトレントにおいて特定のファイルを得ようとする場合には,インデックスサイトと呼ばれるウェブサイトに接続して,当該ファイルのトレントファイルを入手する。そして,トレントファイルに含まれるリンクからトラッカーを管理するサーバーに接続して,当該ファイルの提供者であるピアのアイ・ピー・アドレスを入手し,これに接続して,当該ピアから,当該ピアが使用する端末に保存した当該ファイルの送信を受ける。
(略)
⑶ 原告の著作物である本件各著作物を複製することにより作成された電子データが,本件時刻頃,ビットトレントを通じて前記氏名不詳者から送信されたところ,ビットトレントの仕組み(前記⑴)に照らせば,前記氏名不詳者が,ビットトレントを使用して上記電子データをダウンロードし自己の端末に保存すること等により,上記電子データを自動公衆送信し得るようにしていたことは明らかであり,前記氏名不詳者は,原告の著作権(公衆送信権)を侵害したといえ(る)。

▶令和3319日東京地方裁判所[令和2()19880]
[(注)前提事実:
<BitTorrentの仕組み>
BitTorrentとは,インターネット上で,中央サーバを設けずに,P2P方式でファイルを共有するためのプロトコル(通信規約)の一つであり,同プログラムを実装したクライアントソフトの名称でもある。
BitTorrentにおいては,ファイルのダウンロードを,①まず,対象ファイルに対応するトレントファイルを入手してBitTorrentクライアントソフトに取り込み,②次に,当該トレントファイルで指定されたトラッカー(対象ファイルの提供者を追跡し,同提供者のリストを管理するサーバ)と通信して同提供者のIPアドレスの一覧を入手し,③最後に,入手したIPアドレスの一覧から1つ以上のIPアドレスの端末を選択して対象ファイルの送信要求を行い,選択した端末から「ピース・ファイル」と呼ばれる対象ファイルが断片化されたデータを順次受信することにより行う。
そして,BitTorrentでファイルをダウンロードしたネットワークの参加者は,BitTorrentクライアントソフトを停止させるまで,トラッカーに対し,当該ファイルが送信可能であることを継続的に通知し,他の不特定のネットワーク参加者からの要求があればいつでもこれを送信し得る状態に置かなければならない。
<本件漫画の電子データの共有>
本件発信者1~3は,被告から別紙発信端末目録記載の各IPアドレスの割当てを受け,同目録記載の各日時頃,被告の提供するインターネット接続サービスを介し,トラッカーに対し,同日時頃より前にBitTorrentを用いてダウンロードした本件漫画の電子データ(「本件データ」)を送信可能であることを通知(「本件通知」)し,本件ファイルの提供者のIPアドレスの一覧に登録されていた。]
権利侵害の明白性について
(1) 前記前提事実によれば,本件発信者1及び3は,本件データの送信により,BitTorrentネットワークの不特定の参加者の一人である原告訴訟代理人に対し,本件データを送っていたのであるから,本件漫画に係る原告の著作権(公衆送信権)を侵害していたことは明らかである。
これに対し,被告は,本件データの送信は,著作物でない本件データのピース・ファイルを流通させるものにすぎないと主張するが,前記前提事実によれば,BitTorrentは,ネットワーク参加者が,ピース・ファイルを全て受信することにより,送信要求の対象となったファイルと同一のファイルを自己の端末に複製することを可能にするのであるから,ピース・ファイルの送信であっても他のネットワーク参加者と共同して本件漫画に係る原告の著作権を侵害しているということができる。
(2) また,前記前提事実によれば,本件発信者2は,BitTorrentを用いて本件データを自己の端末にダウンロードして記録した上で,本件通知をすることにより,トラッカーからIPアドレスの一覧を入手した不特定のネットワークの参加者からの求めに応じて,自己の端末から本件データを自動で送信し得る状態にしていたのであるから,本件漫画に係る原告の著作権(送信可能化権)を侵害していたことは明らかである。
▶令和3107日知的財産高等裁判所[令和3()10030]
<争点2(権利侵害の明白性)について>
事案に鑑み,争点2から判断する。
(1) 訂正して引用した原判決の前記前提事実のとおり,本件発信者1~3は,トラッカーに対し,BitTorrentを用いてダウンロードした本件データが送信可能であることを通知する旨の本件通知をし,他の不特定のネットワーク参加者からの要求があれば本件ファイルに係るピース・ファイルをいつでも送信し得る状態に置いたのであるから,本件通知により,本件データを送信可能化したものということができる。そして,被控訴人が本件発信者1~3に対して本件データの送信可能化を許諾していたなど,本件発信者1~3による本件データの送信可能化が違法でないと認めるに足りる証拠はないから,本件発信者1~3がした本件通知により,本件漫画に係る被控訴人の送信可能化権が侵害されたことは明らかである。
(2) この点に関し,控訴人は,本件データの送信を可能にする状態を作り出したのは,本件通知ではなく,発信者が本件データを発信者の端末にダウンロードした行為であるから,本件通知が本件漫画に係る被控訴人の送信可能化権を侵害したわけではない旨主張する。確かに,訂正して引用した原判決の前記前提事実のとおり,BitTorrentでファイルをダウンロードしたネットワークの参加者は,他の不特定のネットワーク参加者からの要求があればいつでもこれを送信し得る状態に置くこととされ,これにより,ピース・ファイルの送信が行われ得ることになるが,ここでいう他の不特定のネットワーク参加者からの要求は,トラッカーが管理する当該ファイルの提供者のリストに基づいてされるものであり,当該リストは,当該ファイルをダウンロードした参加者がトラッカーに対し当該ファイルが送信可能であることを継続的に通知することによって作成されるものであるから,本件発信者1~3についても,単に本件データをダウンロードしただけでは,その送信可能化が完成したというには足りず,トラッカーに対して本件通知をすることにより,他の不特定の参加者に対する本件データの送信可能化が実現されるに至ったものとみるのが相当である。
(3) 控訴人は,BitTorrentを用いて送信されるファイルが断片化されたピース・ファイルであることを根拠に,本件発信者1~3がした本件データの送信可能化によっても,本件漫画に係る被控訴人の送信可能化権は侵害されない旨主張する。しかしながら,訂正して引用した原判決の前記前提事実のとおり,本件発信者1~3を始めとするBitTorrentの利用者は,ピース・ファイルを順次受信することにより対象ファイルの全体を受信することができるのであるから,BitTorrentにおける1回の送信の対象が対象ファイルを断片化したピース・ファイルであるとしても,本件発信者1~3が本件漫画に係る被控訴人の送信可能化権を侵害したとの前記結論を左右するものではない。
<争点1(「特定電気通信」(プロバイダ責任制限法2条1号)該当性)について>
プロバイダ責任制限法2条1号は,「特定電気通信」とは,不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信をいう旨規定しているから,その文理に照らせば,最終的に不特定の者によって受信されることを目的とする情報の流通行為に必要不可欠な電気通信の送信は,同号にいう「特定電気通信」に含まれると解するのが自然である。また,著作権等を侵害するような態様でいわゆるファイル共有ソフトが用いられる場合に,問題となる通信が不特定の者により受信されることを目的とする最終的な行為にとって必要不可欠なものであるにもかかわらず,たまたま当該通信が発信者と特定の受信者との間の一対一対応のものであるために同号の「特定電気通信」に該当せず,ひいては開示請求者が同法4条の開示を受けられないとすることは,著作権侵害等の加害者の特定を可能にして被害者の権利の救済を図るとする同条の趣旨を没却することになる。
そうすると,最終的に不特定の者に受信されることを目的とする情報の流通行為に必要不可欠な電気通信の送信は,プロバイダ責任制限法2条1号の「特定電気通信」に該当すると解するのが相当である。
これを本件についてみるに,訂正して引用した原判決の前記前提事実のとおり,本件発信者1~3がした本件通知は,本件発信者1~3の各端末とトラッカーとの間の一対一対応の通信ではあるが,前記において説示したところによれば,本件通知は,不特定の者に受信されることを目的とする情報の流通行為(本件データの送信可能化)にとって必要不可欠な電気通信の送信であるといえるから,プロバイダ責任制限法2条1号の「特定電気通信」に該当するというべきである。

▶平成150129日東京地方裁判所[平成14()4237]
本件サービス[(注)参照]は,ユーザーID及びパスワードを登録すれば誰でも利用できるものであり,既に4万人以上の者が登録し,平均して同時に約340人もの利用者が被告サーバに接続して電子ファイルの交換を行っている。そして,送信者が,電子ファイルをパソコンの共有フォルダに蔵置して,本件クライアントソフトを起動して被告サーバに接続すると,送信者のパソコンは,被告サーバにパソコンを接続させている受信者からの求めに応じ,自動的に上記電子ファイルを送信し得る状態となる。
したがって,電子ファイルを共有フォルダに蔵置したまま被告サーバに接続して上記状態に至った送信者のパソコンは,被告サーバと一体となって情報の記録された自動公衆送信装置(法219号の5イ)に当たるということができ,また,その時点で,公衆の用に供されている電気通信回線への接続がされ,当該電子ファイルの送信可能化(同号ロ)がされたものと解することができる。
さらに,上記電子ファイルが受信側パソコンに送信された時点で同電子ファイルの自動公衆送信がされたものと解することができる。
[(注)上記「本件サービス」とは、被告が提供している、利用者のパソコン間でデータを送受信させるピア・ツー・ピア(Peer To Peer)技術を用いたサービスで、カナダ国内に中央サーバ(「被告サーバ」)を設置し、インターネットを経由して被告サーバに接続されている不特定多数の利用者のパソコンに蔵置されている電子ファイルの中から、同時に被告サーバにパソコンを接続させている他の利用者が好みの電子ファイルを選択して、無料でダウンロードできるサービスのこと。なお、本件サービスを利用するにはパソコンに本件サービス専用のファイル交換用ソフトウェア(「本件クライアントソフト」)がインストールされることが必要。]

平成29626日東京地方裁判所[平成29()12582]
氏名不詳者は,「CD(商品番号)」欄記載のレコードに収録された楽曲をmp3方式により圧縮して複製したファイルをコンピュータ内の記録媒体に記録して蔵置した上,被告の提供するインターネット接続サービスを利用して,「IPアドレス」欄記載のインターネットプロトコルアドレスの割当てを受けてインターネットに接続し,「日時」欄記載の日時頃,ファイル共有ソフトウェアであるShareと互換性のあるソフトウェアを用いて上記複製に係るファイルを不特定の他の上記ソフトウェア利用者からの求めに応じてインターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態に置いた事実が認められる(から,同行為により,原告らが有する本件各レコードの送信可能化権が侵害されたことが明らかであると認められる)。

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