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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

公衆送信権▶個別事例②(リバースプロキシを使った送受信

[リバースプロキシを使った送受信]
▶令和362日福岡地方裁判所第3刑事部[令和1()1181]
[注:被告人は,G[(注)多数の漫画等の著作物を掲載し,閲覧可能にしたウェブサイトのこと]の運営に当たり,閲覧者からの閲覧リクエストの受付けや画像データの記録保存等を行うため,多数のサーバコンピュータを管理,利用していた(以下,これらを総称して「Gのサーバ」という。)。Gに漫画等を掲載する方法としては,Gのサーバの記録媒体に漫画等の画像データを手作業でアップロードする方法と,被告人らと無関係なサーバコンピュータ(「第三者サーバ」)に存在する画像データを,Gのサーバにリバースプロキシの設定をすることにより閲覧できるようにする方法の2種類があった。Gに掲載された漫画等は,すべて上記2種類のいずれかの方法によるものである。リバースプロキシとは,オリジンサーバ(本件では第三者サーバ)とユーザー(本件ではGの閲覧者)との間のデータ送信を中継する機能又はその機能を有するサーバ(本件ではGのサーバ)をいう。リバースプロキシには,一般的に,オリジンサーバのセキュリティや匿名性を高め,送信されるデータをキャッシュ(一時保存)することによりオリジンサーバへの負荷を軽減する機能がある。被告人は,Gのサーバにはデータをキャッシュしない設定としていたと供述しており,それを前提とすると,リバースプロキシの方法によりGに掲載された漫画等の画像データは,第三者サーバの記録装置に存在し,Gのサーバの記録装置には保存されないことになる。]
被告人がGに各著作物を掲載する際に用いたリバースプロキシの設定は送信可能化(著作権法2条1項9号の5イ)に当たるかについて
1 弁護人は,次の理由で,被告人がしたリバースプロキシの設定は,送信可能化(著作権法2条1項9号の5イ)に当たらない旨主張している。
「自動公衆送信し得るようにすること」とは,自動公衆送信し得ない状態から,自動公衆送信し得る状態に移すことをいう。リバースプロキシを設定することは,第三者がインターネット上において既に公衆送信し得る状態を作出していた侵害コンテンツに,ユーザーを誘導するものにすぎないから,文理上,「自動公衆送信し得るようにすること」と評価することはできない。
被告人のしたリバースプロキシの設定は,いわゆるリンクの貼付けと同様,第三者が既にインターネット上において自動公衆送信し得る状態を作出していた侵害コンテンツに誘導する行為であるから,リンクの貼付けと同様の規律に服するべきである。
このような行為類型は,令和2年6月5日に改正された著作権法113条2項1号・2号,120条の2第3号によって初めて処罰されるようになったもので,同改正前の著作権法が適用される本件において,これを処罰することはできない。
「情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え」るとは,自動公衆送信装置と物理的に接続していない外部記録媒体を当該自動公衆送信装置に組み込み,又はこれと物理的に接続させることをいう。第三者サーバは,被告人とは無関係の第三者が設置した誰でもアクセスできるサーバコンピュータであるから,これを記録媒体と評価することはできず,また,被告人は,第三者サーバをGのサーバに物理的に組み込んだり,接続したりしていない。よって,被告人の行為は記録媒体を加える行為に当たらない。
Gのサーバに情報を入力する行為を行うのは,直接には,Gにアクセスした利用者であって,被告人ではない。リバースプロキシの設定を行っても,Gを訪れたユーザーが表示させない限り,Gのサーバに情報は入力されない。
よって,被告人の行為は「当該自動公衆送信装置に情報を入力」したことに当たらない。
2 リバースプロキシの内容
関係証拠によれば,リバースプロキシの概要は次のとおりである。
ユーザーが,閲覧や視聴を望む画像コンテンツの閲覧をリバースプロキシにリクエストした場合,リバースプロキシは,その画像コンテンツが記録保存されているオリジンサーバに,そのデータの送信をリクエストする。オリジンサーバから,リクエストに対応した画像データの送信を受けると,その画像データをリバースプロキシがキャッシュ(一時保存)し,ユーザーに対してはそのデータを送信して,閲覧・視聴を可能にする。
このキャッシュ(一時保存されたデータ)の保持時間は任意に設定可能であり,ゼロに設定することも可能である。キャッシュの保持時間がゼロであっても,リバースプロキシのサーバコンピュータを経由して,ユーザーが画像データを閲覧することに変わりはない。
キャッシュがリバースプロキシに一時保存されている間は,ユーザーからのリクエストに対してはリバースプロキシが応答し,最初のリクエストや,キャッシュがリバースプロキシに一時保存されていない場合は,リバースプロキシがオリジンサーバから画像データを取得し,ユーザーに閲覧させる。
3 検討
送信可能化とは,公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力するなど,著作権法2条1項9号の5イ又はロ所定の方法により自動公衆送信し得るようにする行為をいい,自動公衆送信装置とは,公衆の用に供されている電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいう(著作権法2条1項9号の5)。
Gのサーバは,インターネット回線に接続し,その記録媒体に記録された漫画の画像データや,第三者サーバから送信された漫画等の画像データを,公衆からの求めに応じ自動的に送信するものであるから,自動公衆送信装置に該当する。
<「情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え」るの該当性>
被告人は,Gのサーバではデータをキャッシュしていなかったと供述しており,これを覆すべき証拠はない。よって,キャッシュは行われていなかったものと認められる。
前記に認定したリバースプロキシの働きによれば,Gのサーバにリバースプロキシの設定をすることにより,Gのサーバは,閲覧者から画像閲覧のリクエストを受けるとその画像データを第三者サーバにリクエストし,第三者サーバからその画像データの送信を受け,受け取った画像データを閲覧者に返信することになる。これによると,第三者サーバ内部にある記録媒体のうちGのサーバに送信する画像データを記録保存している部分は,自動公衆送信装置たるGのサーバに画像データを供給する働きをするものと認められ,機能的にみて,Gのサーバに接続された記録媒体に当たると評価できる。
そして,上記のGのサーバと第三者サーバの記録媒体との関係は,被告人がGのサーバにリバースプロキシの設定をすることにより生じたことによれば,同行為は,情報が記録された第三者サーバの記録媒体をGのサーバの公衆送信用記録媒体として「加え」る行為に該当すると認められる。
したがって,Gのサーバにリバースプロキシの設定をした被告人の行為は,著作権法2条1項9号の5イにいう「情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え」る行為に当たると認められる。
この点に関する弁護人の主張は,前記1同条の文理解釈において,「加え」る行為を物理的に接続する場合に限定すべき合理的理由はなく,その主張は採用できない。
<「当該自動公衆送信装置に情報を入力する」の該当性>
第三者サーバに記録保存されていた漫画等の画像データは,閲覧者のリクエストに応じてGのサーバに入力されるものの,Gのサーバには記録保存されることなく,そのまま自動公衆送信されていた。
これは,著作権法2条1項9号の5イにいう「当該自動公衆送信装置に情報を入力する」ことに当たる。
もっとも,かかる情報の入力は,閲覧者のリクエストに応じて自動的に行われるのであるから,当該情報の入力を行った主体が誰であるかが問題となる。
著作権法が,自動公衆送信とは別に,送信可能化を規制対象として規定した趣旨は,現に自動公衆送信が行われる前の準備段階の行為を規制することにある。そして,送信可能化が,公衆からの求めに応じて自動的に送信する機能を有する自動公衆送信装置の使用を前提としていることに鑑みると,情報入力の主体は,閲覧のリクエストをした個々の閲覧者ではなく,情報を自動的に入力する状態を作り出した者と解するのが相当である。
本件において,情報を自動的に入力する状態を作り出したのは,Gのサーバにリバースプロキシの設定をした被告人であるから,行為主体は被告人と認められる。
さらにリバースプロキシとリンクの貼付けとの異同についてみると,関係証拠によれば,リバースプロキシの設定は,いわゆるリンクの貼付けとは違い,リバースプロキシを設定されたサーバが,オリジンサーバが管理する別のウェブサイトへの遷移を伴わずに,ユーザーが閲覧をリクエストした画像データ自体をオリジンサーバから取得して,受信者に対し,当該画像データそのものを送信するものである。
この行為が著作権法の定める送信可能化に該当することは既に検討したとおりであり,データ自体を送信せず,インターネット上の侵害コンテンツの所在(URL)を表示するにすぎないリンクの貼付けとは,行為態様を全く異にしている。当該行為が,今般の法改正によって初めて可罰性を認められたと解することはできず,その旨の弁護人の主張は採用できない。
また,著作権法上,第三者により既に送信可能化されていた画像等のデータについて,その余の者による著作権侵害が成立しないなどと解すべき合理的理由はなく,等しく著作権法による保護が与えられるべきであるから,Gに掲載されていた漫画等の画像データが第三者により既に送信可能化されていたものだったとしても,被告人による送信可能化は否定されない。
4 結論
以上によれば,被告人のしたリバースプロキシの設定は,送信可能化にあたり,著作権法23条1項の公衆送信権侵害にあたる。

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