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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

職務上作成する著作物の著作者▶個別事例[認定例]

▶令和3629日知的財産高等裁判所[令和3()10027]
著作物は,構想やアイディアではなく表現したものを指すから,本件においては,本件パネルに掲載する素材を具体的に選択して,それぞれの素材の本件パネル上の配置場所を決定することや,小説「不如帰」の抜粋箇所や挿絵の表示の順番などを決めて本件映像作品を製作することや,展示ケース内に展示する資料等を具体的に選択して展示ケース内へ陳列することをもって,著作物として表現することすなわち創作行為に当たるというべきである。そして,上記の認定によると,本件文学館の展示等の具体的内容は,控訴人が被控訴人に雇用された平成元年3月22日以降に定まっていったと認められるから,上記創作行為がされたのは,控訴人が被控訴人に雇用された同日以降であったと認められる。控訴人も,同年4月以降に展示する資料の選定,解説パネルに使用する写真と説明の編集レイアウトをしたり,展示ケース内についても同様の作業をするなどしていたと主張しているところ,これらの控訴人が主張する作業は,本件各展示物の創作行為そのものである。控訴人が,被控訴人に雇用される前である同年3月22日までの間に本件各展示物についての構想を練るなどしていたとしてもなお,控訴人が本件各展示物を創作したのは控訴人が雇用された後のことであると認めるのが相当である。
また,仮に,控訴人が平成元年3月22日より前に本件各展示物について創作行為を行った部分があったとしても,上記認定のとおり,控訴人は,本件文学館における勤務を申し入れ,同月6日には,被控訴人に採用されることとなっていたのであるから,同月22日より前に創作行為を行った部分を含めて旧伊香保町の職員としてその職務上作成したものと認められる。

▶令和4527日東京地方裁判所[令和1()26366]
原告各地図の著作者について
(1) 前記前提事実のとおり、原告は、日本全国の地図情報を調査し、住宅地図であるゼンリン住宅地図を作成して販売することを業としており、原告各地図は、ゼンリン住宅地図のうち配布地域1ないし24に係るものとして作成されたものである。
そして、証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告は、第三者に対し、ゼンリン住宅地図を作成するために、居住者名や番地、詳細な家形枠等の現地調査の業務を委託する場合があること、同業務の受託者に対し、調査を行うに当たっての注意事項をまとめた調査マニュアルを交付し、原告が支給した制服を着用させ、原告の社員証又は調査員証の携帯を義務付けるとともに、番地、名称、地形、地物、交通情報、建物、ビル、マンション等により定めた記載方法に従って、調査結果を調査原稿に記載するよう指示していること、同業務を原告の従業員に対して行わせることもあるが、調査方法は第三者に業務を委託する場合と異なるところはないことが認められる。
これらのないしの事情を総合すれば、上記受託者及び従業員による調査及びその結果の原告各地図への記載は、原告の指揮監督の下、原告における職務の遂行として行ったものと認めるのが相当である。
さらに、証拠及び弁論の全趣旨によれば、原告各地図の表紙又はパッケージには原告の会社名が記載され、その末尾又はパッケージに「「ゼンリン住宅地図」(「本商品」)は当社の著作物であり、著作権法により保護されています。」と記載されていることが認められる。このような記載に照らせば、原告は、自己の著作の名義の下に、原告各地図を公表したと認めるのが相当である。
したがって、原告各地図は、原告の発意に基づき、原告の業務に従事する従業員及び業務受託者がその職務上作成したものであり、原告が自己の著作の名義の下に公表したものであるから、著作権法15条1項により、原告各地図の著作者は原告であると認められる。
(2) これに対して、被告らは、原告各地図における地図の記載方法は原告以外の他社によって示されてきたものであるから、原告による新たな創作への発意は認められない、原告と調査員との間の雇用契約や勤務規則の内容によっては、原告が原告各地図の著作者とならない可能性が否定できないし、調査業務委託基本契約書には、業務の遂行過程に関する規定はないから、原告が外部業者に対して指揮監督する立場にあることが否定される上、同契約書には著作権の譲渡に関する規定もない、原告各地図に著作物性が認められるためには、家形枠の記載等において調査員の個性が表れている必要があり、そうだとすると、原告と調査員との間で著作権譲渡に関する契約が締結されなければ、原告が原告各地図に係る著作権を主張することはできない、原告各地図の表紙には原告の会社名が作成者又は著作者として記載されておらず、原告が自己の著作の名義の下に原告各地図を公表したとはいえないと主張する。
しかし、上記については、前記(1)のとおり、原告は、日本全国の地図情報を調査し、住宅地図であるゼンリン住宅地図を作成して販売することを業とし、そのゼンリン住宅地図のうち配布地域1ないし24に係るものとして原告各地図を作成したものであるから、原告各地図が原告の意思に基づき作成されたものであることは明らかである。
上記については、前記前提事実のとおり、原告が、日本全国の地図情報を調査し、住宅地図であるゼンリン住宅地図を作成して販売することを業としていることからすると、原告と調査員との間の雇用契約や勤務規則に、原告各地図の著作者に関する別段の定めはないと認めるのが相当であり、この認定を覆すに足りる証拠はない。また、調査業務委託基本契約書において、原告の受託者に対する指揮監督に関する規定がなかったとしても、前記(1)のとおり、当該受託者は原告の指揮監督下にあったということができるし、同契約書に著作権の譲渡に関する規定がないことは、著作権法15条1項の要件とは関係がない。
上記について、著作権法15条1項は、所定の要件を満たす場合に、法人等が著作者となることを定めたものであるから、原告が原告各地図に係る著作権を主張するために、原告と調査員との間で著作権譲渡に関する契約が締結される必要があるとは解されず、独自の見解であるといわざるを得ない。
上記について、原告各地図の表紙等に原告の会社名が記載され、その末尾等に「「ゼンリン住宅地図」(「本商品」)は当社の著作物であり、著作権法により保護されています。」と記載されていることに基づき、原告が自己の著作の名義の下に原告各地図を公表したといえることは、前記(1)で説示したとおりである。
以上のとおり、被告らの上記各主張はいずれも採用することができない。

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