Kaneda Copyright Agency ホームに戻る
カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

著作物の定義▶個別事例①(編み物・編み図)

▶平成231226日東京地方裁判所[平成22()39994]
以上を前提に,原告編み物の著作物性について検討する。
ア 著作権法は,著作権の対象である著作物の意義について「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」(著作権法2条1項1号)と規定しているのであって,当該作品等に思想又は感情が創作的に表現されている場合には,当該作品等は著作物に該当するものとして同法による保護の対象となる一方,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては,著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならない。
イ そこで検討すると,原告は,原告編み物について,いずれも「形の最小単位は直角三角形であり,この三角形二つの各最大辺を線対称的に合わせて四角形を構成し,この四角形五つを円環的につなげた形二つをさらにつなげた形」と表現される別紙図面記載の構成(本件構成)を有するものであって,この点に創作性が存在すると主張するものであるところ,確かに,前記でみたとおり,原告編み物は,Aモチーフの中心部分で編み目の方向が変わるとともに,寄せ目部分で編み目が重なることにより編み目が直線状に浮き上がって見え,この線が,原告の主張する別紙図面記載のAの線として看取できるものとなっており,また,隣接するA,B,Cモチーフをそれぞれ異なる色とすることにより,モチーフ同士のとじ目を境として両側の色が異なるものとなり,その境界部分がB又はCの線として看取できるものとなっていることが認められる(なお,原告は,Bの線について,Aモチーフをパッチワークのように円環的にとじ合わせることにより,別紙図面記載Bの線をとじ目として見て取ることができるようになると主張するが,A,B,Cモチーフはいずれもメリヤス編みによって作成されており,これらを同色によって作成してとじ合わせた場合には,とじ目は目立たないものとなることが認められるので,B又はCの線がとじ目として表現されているものとはみることができず,この点に関する原告の上記主張を採用することはできない。)。
そうすると,原告編み物は,前記認定のとおり,編み目の方向の変化,編み目の重なりなどにより,線を浮き上がらせることによってAの線を表現し,かつ,隣接する各モチーフの色を異なるものとすることによってB,Cの線を表現しているものであり,編み地が平面的で均一なものであることなどと相まって,A,B,Cの線で構成される直角三角形の形状を強調し,全体として,直角三角形をパズルのごとく組み合わせたような面白さや斬新な印象を表現しようとしたものと認められるのであって,原告編み物においては,編み目の方向の変化,編み目の重なり,各モチーフの色の選択,編み地の選択等の点が,その表現を基礎付ける具体的構成となっているものということができる。そうすると,原告編み物は,これらの具体的構成によって,上記の思想又は感情を表現しようとしたものであって,これらの具体的構成を捨象した,「線」から成る本件構成は,表現それ自体ではなく,そのような構成を有する衣服を作成するという抽象的な構想又はアイデアにとどまるものというべきである。
(略)
以上を前提に,原告編み図の著作物性について検討する。
ア 当該作品等が著作物に該当するものとして著作権法による保護の対象となるためには,当該作品に思想又は感情が創作的に表現されていることを要し,思想,感情若しくはアイデアなど表現それ自体ではないもの又は表現上の創作性がないものについては著作物に該当せず,同法による保護の対象とはならないところ,原告は,前記に係る原告編み図の各表示のうち,本件構成を表示した部分に著作物性があると主張しているものであって,前記でみた原告編み図の表示のうち,2枚目に記載された展開図について,原告編み図の【著作物性】があると主張するものと解される。
イ 原告は,原告編み図には衣服のデザインとして本件構成が表現されているのであって,この点に原告編み物と同様に著作物性が認められるべきであると主張するが,争点(1)アに関する判断でみたとおり,本件構成自体は,そのような形の衣服を作成するという抽象的な思想又はアイデアにすぎず,上記思想又はアイデアを編み物として具現化する過程において,編み目の方向の変化,編み目の重なり,各モチーフの色の選択等によって具体的表現となるに至るものであるから,原告編み図に本件構成が表示されている点は,思想又はアイデアを表示したにとどまるものというべきであり,この点をもって,原告編み図に著作物性を認めることはできない。
[控訴審も同旨]
▶平成24425日知的財産高等裁判所[平成24()10004]
当裁判所も,「形の最小単位は直角三角形であり,この三角形二つの各最大辺を線対称的に合わせて四角形を構成し,この四角形五つを円環的につなげた形二つをさらにつなげた形」と表現される原判決図面記載の構成は,表現ではなく,そのような構成を有する衣服を作成する抽象的な構想又はアイデアにとどまるものと解されるから,上記構成を根拠として原告編み物に著作物性を認めることはできず,原告編み図についても著作物性を認めることはできないと判断する。(中略)
なお,上記構成におけるB線をとじ目として見て取ることができるとしても,原告編み物においては,編み目の方向の変化,編み目の重なり,各モチーフの色の選択,編み地の選択等の点が,その表現を基礎付ける具体的構成となっているということができるのであって,これらの具体的構成を捨象した「線」から成る上記構成は,そのような構成を有する衣服を作成する場合の構想又はアイデアにとどまり,著作物性の根拠となるものではないことに変わりはないというべきである。

▶令和41014日大阪高等裁判所[令和4()265]
編み物の編み目(スティッチ)は、毛糸によって小物又は衣類を作成するに当たっての技法のアイデア又はその技法により毛糸が編まれた編み物の最小構成単位にとどまるものであって、思想又は感情の表現とは認められないから、それ自体を著作物と認めることはできず(知的財産高等裁判所平成24年4月25日判決参照)、控訴人Bがこれを控訴人動画で紹介していたとしても同控訴人が著作権を有するということはできない。

一覧に戻る

https://willwaylegal.wixsite.com/copyright-jp