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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

著作権の譲渡譲渡契約の成否/個別事例③

▶令和元年1223日大阪地方裁判所[平成30()6004]
本件著作権の帰属について
(1) 前記のとおり,原告は,P2の法定相続人であり,P2の有していた本件著作権をその法定相続分に応じて相続したこととなる。そうすると,原告は,本件著作権につき6分の1の割合で共有持分を有することになる。
(2) 被告の主張について
ア これに対し,被告[(注)被控訴人である日本心理テスト研究所株式会社のこと]は,P2は,本件公正証書遺言ないし本件自筆証書遺言により,本件著作権につき,【その全部を被控訴人に遺贈し,】又はP3及び被告に対し各2分の1を遺贈したことから,原告は本件著作権を有しない旨を主張する。
イ 前記認定のとおり,本件公正証書遺言において,P2は,「その所有するYG性格検査の出版による印税」,「YG性格検査に関連する著作物(手引き,テープ等)に関する財産権」及びYG性格検査「以外の心理テストに関する著作権」を明確に区別して取り扱っている。また,これに加え,その8条では「著作物(手引き,テープ等)に関する財産権は日本心理テスト研究所株式会社の所有に属する」とし,9条では「前条以外の心理テストに関する著作権は,日本心理テスト研究所株式会社に属している」とするところ,各表現自体及び相互の差異に着目すると,8条では有体物である「YG性格検査に関連する著作物(手引き,テープ等)」の所有権の帰属を確認しているのに対し,9条では知的財産権である「前条以外の心理テストに関する著作権」の帰属を確認しているものと理解するのが最も合理的である。9条をこのように理解すると,「前条」「の心理テスト」であるYG性格検査に関する著作権は被告に現に帰属していないとするP2の認識がうかがわれる。
その上で,本件公正証書遺言においては,本件著作権を含むYG性格検査方法に関する著作権(著作財産権)それ自体の帰属ないし相続に関する明示的な言及はない。
さらに,本件自筆証書遺言において,P2は,「YG性格検査の出版による印税」の相続について本件公正証書遺言の内容を改めるとともに,当該検査に関する著作者人格権と関連付けて,原告により当該検査が改良されることへの希望を表現している。他方,本件自筆証書遺言においても,本件著作権を含むYG性格検査方法に関する著作権(著作財産権)それ自体の帰属ないし相続に関する明示的な言及はない。
さらに,P2の生前におけるYG性格検査に係る事業の状況を見ると,本件出版販売契約の締結に表れているように,昭和41年用紙を含むYG性格検査方法に係る著作物については,P2に著作権が帰属していることを前提にしつつ,被告がその発行等に当たっていたことが認められる。また,被告の事業遂行に当たっては,著作権者からの利用許諾その他の法律関係に基づき,上記著作物の使用権限が認められれば十分であって,著作権それ自体を被告が得ることが不可欠とまではいえない。
これらの事情に鑑みると,本件公正証書遺言7条及びこれを改定した本件自筆証書遺言7条は,金銭債権であるYG性格検査の出版による印税債権の相続に関して定めたもの,本件公正証書遺言8条は,有体物である「YG性格検査に関連する著作物」の所有権の帰属を確認したものであり,いずれも,本件著作権を含むYG性格検査方法に関する著作権について定めたものではないと理解される。
したがって,この点に関する被告の主張は採用できない。
▶令和2828日大阪高等裁判所[令和2()171]
当審における被控訴人の主張に対する判断
証拠によれば,被控訴人が発行した本件回答方法説明用紙のうち平成5年以降のものには,「発行所 日本心理テスト研究所()」の下に「ⓒ日本心理テスト研究所()〔不許複製〕」と付記されていることが認められ,平成13年9月に死亡するまで,P2がこれに対して異議を述べたことは窺われないから,P2はこの付記を容認していたと認められる。しかし,P2は被控訴人に対し昭和41年用紙の利用を許諾しており,しかも,当時の被控訴人代表者であった控訴人とは親子であり,その関係も良好であったと窺われる。このような関係性の下では,昭和41年用紙の著作権者であるP2が上記のような付記を容認することは,たとえその著作権(本件著作権)を被控訴人に譲渡する意思がなかったとしても,不自然とはいえない。上記の付記を容認していたという事実があったからといって,P2が将来,本件著作権を被控訴人に承継させる意思を有していたと推認することはできない。
本公正証書遺言及び本件自筆証書遺言の解釈は,前記のとおり補正した上で引用した原判決において説示されているとおりである。P2は,本件著作権とその他の著作権との区別,著作権と著作物あるいは印税債権との区別を理解した上で,本公正証書遺言及び本件自筆証書遺言をしたと考えるのが合理的である。そして,本件著作権をめぐっては,昭和41年用紙についてP2と被控訴人の間で本件利用許諾契約が成立していることから,P2の死後はこれに基づいて法律関係が規律されることになると考えて,あえて本件公正証書遺言及び本件自筆証書遺言に本件著作権についての定めを置かなかったと解することができる。
したがって,本件著作権は,本件公正証書遺言又は本件自筆証書遺言によってその帰属が定められたと認めることはできず,その相続人である控訴人及び本件各相続人が共同相続したと認められる。

▶令和元年619日東京地方裁判所[平成28()10264]令和2624日知的財産高等裁判所[令和1()10050]
[注:原告の窓口業務を行っていた秋田書店は,原告の同意を得て,フリーウィルとの間で,本件漫画をテレビ用アニメーションに翻案し,公衆送信することを使用許諾することなどを内容とする契約(「本件アニメ化契約」)を締結した。
漫画業界においては,漫画を掲載した雑誌又は単行本を出版する出版社が当該漫画の著作権者の同意の下,自己の名で第三者への使用許諾を行う窓口業務という商習慣がある。窓口業務とは,著作権者の代理人として,著作権者の許諾を受けて,ライセンシーとの間で著作物の翻案,送信可能化及び譲渡等に関する交渉を行い,自己の名で許諾契約を締結して著作権使用料を収受し,監修等,許諾に伴い発生する作業の著作権側の窓口となる業務をいう。
「本件アニメ化契約」4条及び6条(1)の内容は以下のとおり:
第4条(乙の権利)
(1) 乙は本契約期間中,本作品を使用し,独占的にアニメ化を行うことができる。テレビアニメーション以外の劇場用,インターネット用等の別媒体向けの新たなアニメーション化を行う場合は乙が第1次優先権を有し,条件等については別途協議とする。
(2) 乙は本アニメのキャラクターを使用した商品化の窓口として,これを管理し,行使する権利を有する。権利の行使にあたって,乙は甲と綿密な意思疎通を図るものとする。また,甲は第三者から本件商品化権についての問い合わせ,申し込み等を受けた場合は,本作品,本アニメのキャラクターの利用を問わず,すみやかにこれを乙に通知し,その取り扱いを甲乙協議のうえで決定する。
(3) 乙は本アニメの放送,再放送,上映,インターネット及びその他の通信手段を使用しての配信等を独占的に且つ自由に行うことができる。
(4) 本アニメに関連する商品化のために制作された原盤,原版,原型,本アニメの原画,フィルム及びデジタルデータ等一切の素材の所有権は乙に帰属する。
本件アニメ化契約6条
(1) 本アニメの著作権に関しては甲,乙はそれぞれ原作権,出版権,商品化権(アニメーション化権含む)という同等の権利を有し,表記は以下の通りとする。
 1.著作権表記 (C)板垣恵介/秋田書店・フリーウィル ]
争点1-1(本件アニメの原著作者の権利が原告からフリーウィルに譲渡されたか)について
本件アニメ化契約当時,本件アニメ[(注)漫画を原作として翻案されたアニメ(映画)]の原著作者の権利を原告が有していたことについては当事者間に争いがないところ,被告は,【本件アニメ化契約4条⑶及び6条⑴により】,本件アニメの原著作者の権利が原告からフリーウィルに譲渡されたと主張するので,以下,検討する。
(1) 本件アニメ化契約は秋田書店とフリーウィルとの間で締結されたものであるが,秋田書店は当時原告のために窓口業務を行っており,同契約の効果は原告に帰属すると解されるところ,本件アニメ化契約には,原告がフリーウィルに対して本件アニメの原著作者の権利を譲渡する旨の明示的な条項は存在しない。
(2) 以下のとおり,本件アニメ化契約の各条項を参酌しても,原告に本件アニメの原著作者の権利が【譲渡されたものと認めることはできない。】
ア 本件アニメ化契約3条(1)は,「本作品に関するすべての権利は,本契約によって乙(判決注:フリーウィル)に許諾される権利を除き甲(判決注:秋田書店)に留保される。」とした上で,同契約4条において,フリーウィルに付与された権利について規定しているが,同条は,本件漫画をアニメ化する独占的な権利をフリーウィルに与えること(同条(1)),フリーウィルが本件アニメのキャラクターを使用した商品化の窓口としてこれを管理し,行使する権利を有すること(同条(2)),本件アニメの放送,インターネット上での配信等の独占的な権利を付与すること(同条(3)),本件アニメに関連する商品化のために制作された原盤,原画等の所有権がフリーウィルに帰属すること(同条(4))を規定しているにすぎず,同条の規定に基づき本件アニメの原著作者の権利がフリーウィルに譲渡されたと認めることはできない。
これに対して,被告は,上記及びの権利については,「本契約期間中」との限定はされていない上,「独占的に且つ自由」又は「所有権」という文言が用いられているので,フリーウィルは,本件アニメについて,原著作者の権利を含めた完全な著作権の設定を受けたものであると主張する。
しかし,本件アニメ化契約の有効期間については,同契約9条において,「本契約の有効期間は契約締結日より本アニメの最終話の放送日(再放送等は除く)以後5年間とする。」と規定されているのであるから,上記及び④の権利のみが期限なく永続すると解することはできない。また,同契約4条(3)に基づいて「独占的に且つ自由」に行うことができるのは,【本件アニメの放送,再放送,上映,インターネット及びその他の通信手段を使用しての配信等】についてであり,「所有権」を有するのは本件アニメに関連する商品化のために制作された原盤等であるから,これらの文言をもって,被告が本件アニメの原著作者の権利を譲渡されたと認めることはできない。
イ 本件アニメ化契約6条(1)は,本件アニメの著作権に関して,原告の窓口である秋田書店及びフリーウィルが「それぞれ原作権,出版権,商品化権(アニメーション化権含む)という同等の権利を有」するとし,その表記を「(C)板垣恵介/秋田書店・フリーウィル」とする旨規定するところ,同条の趣旨は必ずしも明確ではないものの,いずれにしても,本件アニメの原著作者の権利を被告が有することを明示的に規定するものではなく,【一審原告の著作権代行者である秋田書店も「同等の権利を有」するとされていること,本件アニメ化契約6条⑴の定める「著作権表記 (C)A/秋田書店・フリーウィル」は本件アニメの原著作者が一審原告(「A」)であることを示した表示とみるのが自然であること】に照らしても,原告がフリーウィルに対して本件アニメの原著作者の権利を譲渡したことの根拠となるものではないというべきである。
これに対して,被告は,同項の規定は,フリーウィルに与えられたアニメーション化権が原著作者の権利を含むことを規定するものであると主張するが,同項はその文言に照らしても本件アニメの原著作者の権利の所在について規定するものではないというべきである。
ウ 本件アニメ化契約7条は,フリーウィルが原告に対して支払うべき対価として,①本件漫画のアニメ化の対価としての使用料(同条(1)),商品化の対価(同条(2)),本件アニメ化契約の総合的対価としての制作協力費(監修費)(同条(6))について規定しているが,本件アニメの原著作者の権利についての対価の規定は存在しない。
この点について,被告は,上記の規定に加え,本件アニメが放映されることによる宣伝効果,【平成17年から平成26年までの間にフリーウィルから一審原告に支払われた本件漫画の商品化権使用料等は合計1億1123万2912円に及ぶこと】などを総合すると,被告は,本件アニメの原著作者の権利の価値に相当する支払をしている旨主張するが,上記③の【制作協力費及び本件漫画の商品化権使用料等】をもって本件アニメの原著作者の権利の対価としての性格を有すると解することはできず,本件アニメ化契約には,他に本件アニメの原著作者の権利の対価に関する規定がない以上,同権利は譲渡の対象になっていなかったと解するのが相当である。
(3)被告は,本件アニメを制作するに当たり多額の投資をしたが,本件アニメの原著作者の権利の譲渡を受けることなく,このような多額の投資をすることは考えられない,②原告は,本件アニメ化契約を締結してから,14年間にわたり,本件アニメの原著作者の権利を有しているとの主張をしていない,③四者契約6条1項の文言に照らしても,原告は,本件アニメについて著作者人格権を有するにすぎないと主張する。
しかし,原告から本件漫画をアニメーション化する権利を付与された被告が一定額の投資をしてアニメ制作等を行うのは当然であり,その投資額が多額であったとしても,そのことから,ただちに,被告が原告から本件アニメの原著作者の権利の譲渡を受けたと【認めることはできない。】
また,原告が長年にわたって本件アニメの原著作者の権利を有しているとの主張をしていないという点についても,原告と被告との間で本件アニメの原著作者の権利の帰属について紛争が生じたなどの事情はうかがわれないのであるから,原告がかかる権利主張をしなかったとしても不自然とはいうことはできない。むしろ,後記(4)で判示する事情に照らすと,原告が本件アニメの原著作者の権利を有することが当然の前提とされていたからこそ,原告はかかる権利主張をしなかったと解するのが合理的である。
さらに,被告が指摘する四者契約6条1項は,本件漫画にかかわる著作権の全て及びフリーウィルが制作したテレビ・アニメーションにおける原作者としての権利を原告が有し,フリーウィルが原告から許諾を得て平成13年(2001年)年に制作したテレビ・アニメーションにかかわる著作権を被告が有することを確認する条項であり,これによれば,被告が有するのは本件漫画の二次的著作物としての本件アニメの著作権に限定され,原著作者の権利も含むそれ以外の権利は原告に留保されていたものと解するのが相当である。
(4) 前記認定のとおり,被告は,平成21年12月から平成27年7月まで,原告又は第2事件被告に対し,本件アニメの配信に関して中央映画貿易から受領したロイヤリティの一部を「著作権料」名目で支払った事実が認められる。被告は,かかる支払は原告との友好関係を保つためのものであったと主張するが,友好関係を維持するためにこのような支払を継続的に行ったとは考え難く,被告により支払われた上記対価は,その名目どおり,本件アニメの原著作権を有する者に対する許諾料の支払であると認めるのが相当である。
また,【フリーウィルとフィールズ間の平成17年フィールズ契約3条1項は,フリーウィルがフィールズに対し,本件漫画の著作権が一審原告に帰属することを表明し,フリーウィルが一審原告からの委託により,その著作権の処分権を管理している旨を定めている上,】前記認定のとおり,平成24年フィールズ契約4条1項には「FWDは,本作品のうちアニメーション作品の著作権がFWDに,本作品のうちアニメーション作品の原著作権及び本作品のうち漫画作品の著作権が板垣恵介…に帰属することを表明する。」との条項が置かれており,同条項によれば,被告自身,本件アニメの原著作者の権利が原告に帰属するとの認識を有していたことは明らかである。
(5) 以上のとおり,本件アニメ化契約をもって,原告からフリーウィルに本件アニメの原著作者の権利が譲渡されたと認めることはできない。
【⑹ 一審被告は,仮に一審原告が本件アニメについて原著作者の権利を有するとしても,①本件アニメについて一審原告が原著作者の権利を主張することは信義則に反し許されない,②一審原告が単独で本件アニメの著作権を行使することにより経済的利益を得る術を持たない一方で,放送業界や配信業界に明るい一審被告はかかる術を持っており,現に多額の利益を上げていることに鑑みれば,一審原告と一審被告は一審被告が単独で本件アニメに関する著作権を行使できることを黙示的に合意している旨主張する。
しかしながら,上記については,一審原告が本件アニメについての原著作者の権利を主張することが信義則に反することを基礎づける事実を認めるに足りる証拠はない。
次に,上記②については,前記の認定事実に照らすと,一審被告の挙げる事情から直ちに一審被告主張の黙示の合意が成立したものと認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがって,一審被告の上記主張は理由がない。】

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