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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

著作物の利用の許諾▶個別事例[独占的利用許諾]

▶平成29928日知的財産高等裁判所[平成27()10057]
本件独占的利用許諾契約の対象となる著作物は,「甲[一審被告Y₁]の著作に係る別紙著作物目録記載の各著作物並びにその原案,原作,脚本,構成を含む各著作物と今後制作される著作物」とされ(本件著作物利用契約書1条,本件公正証書1条),本件公正証書別紙の1843作品に加え,一審被告Y₁が将来制作する全ての著作物を含み,その利用形態についても限定はなく,独占的利用許諾の期間は,「本著作物に係る全ての著作物の著作権の存続期間が満了するまで」(6条)とされている。
一審被告Y₁は,本件独占的利用許諾契約は一審被告Y₁に著しく不利であり,公序良俗に反すると主張するが,一審被告Y₁は,一審原告から,独占的利用権の対価として2億円の支払を受けたほか,一審原告の取締役に就任してその経営に参画し,一審原告の株式も保有していたのであるから,本件独占的利用許諾契約の締結後も自らの著作物を管理,活用して様々な事業展開を行い,そこから得た収益から取締役としての報酬などを得ることができる地位にあったということができる。それに加えて,平成22年2月9日以降は,著作物の利用のたびに使用料の支払を受けることができ,また,契約を継続しがたい重大な背信行為を行った場合などの一定の事由が発生したときには,本件独占的利用許諾契約を解除することができる(本件著作物利用契約書7条,本件公正証書7条)のであるから,本件独占的利用許諾契約は,その対象に同契約後に制作される著作物を含み,その期間が長期にわたるとしても,公序良俗に反して無効であるということはできない。また,本件独占的利用許諾契約は,一審被告Y₁に労務の提供を強制するものではないから,これが人身拘束的であるとか,奴隷契約的な内容であるとかいうこともできない。
[参考:原審における同論点にかかる判示部分(一部無効とした)]
▶平成27325日東京地方裁判所[平成24()19125]
本件独占的利用許諾契約の対象となる著作物は,「甲[被告A]の著作に係る別紙著作物目録記載の各著作物並びにその原案,原作,脚本,構成を含む各著作物と今後制作される著作物」とされ(本件著作物利用契約書1条,本件公正証書1条),本件公正証書別紙の1843作品に加え,被告Aが将来制作する全ての著作物を含み,その対象著作物の範囲は極めて広範である。
被告Aは,その「本著作物」の全部について,複製,翻案,公衆送信等,ほぼあらゆる形態の利用について原告に独占的利用権を許諾し,他社に利用させることができなくなるという制約を被る。
独占的利用許諾の期間は,「本著作物に係る全ての著作物の著作権の存続期間が満了するまで」(6条),すなわち,著作者である被告Aの死後50年にわたるもので(著作権法51条2項),極めて長期間である。
一般に,専属実演家契約などにおいては,当該専属契約期間中に制作される著作物の著作権を事前にかつ包括的に芸能事務所に帰属させることもしばしば行われており,将来制作される著作物について,事前にかつ包括的に独占的利用権を設定したとしても,そのことをもって直ちに対象著作物の特定性に欠けるとか,公序良俗に違反するとかいうことはできない。
また,著作物の利用形態がほぼ全ての態様にわたっており,利用期間が極めて長期であるという点も,そのことは著作権譲渡契約においても同様であるから,直ちに公序良俗に違反するとはいえない。
しかし,専属実演家契約において上記のような事前かつ包括的な著作権譲渡が許容されているのは,同契約が更新があるとしても有期の契約であり,同契約の終了とともに(将来に向かって)効力を失うこと,同契約継続中は,芸能事務所から実演家に実演家報酬が支払われていること等の事情によるものと解される(東京高裁平成5年6月30日判決,東京地裁平成13年7月18日判決,東京地裁平成15年3月28日判決,東京地裁平成25年3月8日判決等参照)。
これに対して,本件独占的利用許諾契約は,被告Aの死後50年まで存続するもので,当事者からの解除は一定の事由が発生したときに限られており(本件著作物利用契約書7条,本件公正証書7条),当事者が契約の拘束力から離脱する道は閉ざされている。
また,原告は,本件独占的利用許諾契約を締結した後の平成22年2月9日に本件基本合意を,同年7月1日には本件印税合意を,それぞれ締結し,本件印税合意以降に原告が収受した印税の2割(被告Aが将来制作する著作物については6割)を被告Aに配分することを合意しているが,それ以前には,原告が印税を受領したとしても,被告Aに対する配分義務を有しない旨主張している。
そうすると,本件著作物利用契約書により本件独占的利用許諾契約が締結された平成20年1月25日頃以降,平成22年6月30日までの約2年半の間は,被告Aは,いくら著作物を創作しても,それを他社に利用させて印税を得ることができず,自己の著作物から利益を得る可能性を閉ざされていたものである。
前記のとおり,本件著作物利用契約書は,被告Aが将来制作する著作物についても原告に独占的利用権を設定するものであり,被告Aはかかる将来の著作物を含めて合意したものではあるが,被告Aの署名により真正に成立したものと認められる,旧公正証書添付の2007年(平成19年)6月11日付け契約書(以下「旧著作物利用契約書」という。)においては,原告に独占的利用権を設定する「本著作物」は「甲の著作に係る別紙著作物目録記載の各著作物(原注:以下「本著作物」という)」と,被告Aが将来制作する著作物を含まない定義になっていたのであり,旧著作物利用契約書の作成から,本件著作物利用契約書,本件公正証書の作成に至るまでの間に,「本著作物」の定義が拡大され,将来の著作物を包含することになった点や,旧著作物利用契約書や旧公正証書では3年間(更新拒絶がない限り,その後は1年ごとの自動更新)とされていた契約期間(旧公正証書6条,旧著作物利用契約書5条)が,被告Aの死後50年まで大幅に延長された点について,原告から被告Aに十分な説明がなされた形跡はない。
これらの事情を総合考慮すると,本件独占的利用許諾契約のうち,「今後制作される著作物」を除いた部分については公序良俗に違反するとはいえないが,「今後制作される著作物」につき,原告が印税配分義務を負わずに独占的利用権を取得することを内容とする部分については,公序良俗に違反し無効であると認めるのが相当である。
もっとも,本件独占的利用許諾契約締結後に創作された著作物であっても,原告と被告Aとの間の本件印税合意により,原告が受領した印税の6割が被告Aに支払われるものについては,上記のように被告Aが自己の著作物から利益を受ける可能性を閉ざされるものではないので,公序良俗に違反するとまではいえない。 本件独占的利用許諾契約は,被告Aに労務の提供を強制するものではないから,当事者の任意解約権が排除されているとしても,これが人身拘束的であるとか,奴隷契約的な内容であるとかいうことはできない。

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