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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

著作物の利用の許諾▶個別事例[独占的利用許諾]

▶令和4330日東京地方裁判所[令和2()12803]
[事案の概要:
原告らは、「ラジオへんすて」という名称のサークルの共同運営者であるところ、自らが企画したクラウドファンディングのプロジェクト(「本件企画」)のために、漫画家である被告に対し、別紙記載1の著作物(以下「本件漫画1」といい、本件漫画1を含め、「ウチのムスコがマザコンになった理由」という題名で被告が作成又は公開した漫画を「ウチムスマザコン」と総称する。)及び同記載2の著作物(以下「本件漫画2」といい、本件漫画1と併せて「本件各漫画」という。)などの作成を依頼し、被告との 間で、原稿作成依頼契約(「本件契約」)を締結した。
(第1事件)
原告らが、被告は、本件契約を締結するに当たり、原告らに対し、本件各漫画につき、著作権法63条1項に基づく独占的利用許諾をする旨の合意(「本件合意」)をしたにもかかわらず、これに違反して、本件各漫画と同一の内容である各著作物(「被告公開著作物」)を公開したと主張して、著作権法112条に基づき、本件各漫画の複製、自動公衆送信及び送信可能化の差止め等を求める事案である
(第2事件)
原告らが、第1事件の係属中に、被告が、本件企画に参加した他の漫画家9名に対し、「独占的利用権を許諾(譲渡)するということは、著作者(作家)であっても自分の著作物(作品)を一切使えない」などと記載された文書を送付したことが不正競争防止法2条1項21号にいう「虚偽の事実」の告知に該当すると主張して、被告に対し、同法4条に基づき、損害賠償金等の支払を求める事案である。]
争点1(本件各漫画に係る独占的利用許諾契約の成否)
ア 本件合意の成否
著作者は、著作者が自身も利用できない独占的許諾利用契約を締結する場合には、その後の著作者の表現、創作活動等にも重大な影響を与えることになるから、経験則上、その許諾に係る利用方法及び条件を明記する契約書を取り交わすのが自然であるといえる。それにもかかわらず、前記認定事実によれば、原告ら及び被告は、本件合意に関する契約書その他の書面を一切作成していないことが認められる。しかも、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、原告らは、被告との間で、5月頃から11月頃までの間、多数のメッセージを送受信しているにもかかわらず、被告に対し、本件合意によって被告が本件各漫画を今後利用することができなくなることを伝えていた事実を認めることはできず、原告らが7月28日に被告に交付したと主張している書面にも、5月30日の打合せ及び7月28日の打合せの際に原告X2が作成したノートにも、上記事実の記載を認めることはできない。
また、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、そもそも、原告らが被告に本件企画への参加を打診した時点で、ウチムスマザコンは、既にその一部がインターネット上で公開されていたのであり、本件コミックには既存の作品を収録することが、当事者間においても当然の前提となっていたこと、被告は、5月26日、原告X2に対し、ウチムスマザコンについては全て公開する予定である旨を伝えているところ、これに対し、原告X2は特段異議を述べていないこと、被告は、6月20日にも、原告らに対し、「ウチムスマザコンも遺すところあと10Pです。ひとまずネット版では5~6Pで終わる予定で、へんすてブックになるときに加筆分として追加EPを特典的につけたいと思っています。」などとして、ウチム スマザコンを引き続きインターネット上で公開しつつ、本件コミック版については、特典として追加のエピソードを加筆する予定であることを伝えているところ、これに対し、原告X2は、「ネット公開、本用、ありがとうございます。」などと謝意を述べていること、その後、被告は、6月27日、ウチムスマザコンの全体(60ページ)をpixivにアップロードしているが、原告らは、これに対し、特段異議を述べていないこと、原告X2は、6月29日、被告から、ウチムスマザコンを単行本として出版することの可否を尋ねられた際に、これに対して異議を述べず、かえって、「書籍化のお話は、普通にチャンスですので、「うまく進めて」下さい!へんすてでY´先生の漫画を独占したい気持ちや、先に出したいとかはないです」と伝えるなどして、むしろ、ウチムスマザコンの単行本化を後押しするような発言をしていること、被告は、同日、原告X2に対し、現状としてインターネットで公開されている60ページを本件コミック版として出版する予定である旨伝えたほか、6月30日にも、「同人誌では、ネット現状のもの、またはエピソードを削った上で別エピソード追加の形で収録する予定です。」と伝えたところ、原告X2は、これらに対しても特段異議を述べていないこと、原告らは、本件企画の募集期間中、本件ホームページにpixivへのリンクを張っており、自ら、本件ホームページを閲覧した者がウチムスマザコン(pixiv版)を読める状態に置いていたこと、以上の各事実が認められる。
上記認定事実によれば、原告らが本件企画への参加を被告に打診した時点から一貫して、原告らと被告との間では、被告がウチムスマザコンをインターネットで公開することを前提としたやり取りが行われていたのであり、しかも、原告らが本件合意をしたと主張する時期の前後には、被告は、ウチムスマザコン全60ページをpixivにアップロードして公開するとともに、イースト・プレスからウチムスマザコンの書籍化の申出を受け、被告は、原告らにこれらを伝えていたことが認められる。そうすると、被告は、当初から自身がウチムスマザコンを一切利用できないような独占的利用許諾契約を締結する意思がなかったものと認めるのが相当である。そして、原告らも、被告がウチムスマザコンをインターネット上で公開したり、別の出版社から書籍化したりすることを許容していたのであり、かえって、原告X2は、被告から上記書籍化の相談を受けた際に、「書籍化のお話は、普通にチャンスですので、「うまく進めて」下さい!へんすてでY´先生の漫画を独占したい気持ちや、先にだしたいとかはないです。」と述べるなど、被告に対し、本件各漫画を独占する意図がないことを伝えた上、むしろ、これを後押しするような発言をしていたことが認められる。そうすると、原告らの主張は、本件合意に至る経緯と矛盾するものといえる。
これらの事情の下においては、本件合意の内容及び本件合意に至る経緯に照らしても、本件合意を認めるのは相当ではないというべきである。
本件を実質的にみても、本件企画は、漫画家への感謝とお礼の気持ちを込め、漫画家を応援するという趣旨を含むものであり、本件企画に参加した漫画家の表現活動を制約するような本件合意は、そもそも、その趣旨に反するものであり、被告本人尋問の結果を踏まえても、被告は、本件合意がこのような制約を伴うものであれば、本件企画に参加することはなかったものと認められる。
(略)
⑽ 争点10(「虚偽の事実」の告知の有無)
原告らは、「独占的利用権を許諾(譲渡)するということは、著作者(作家)であっても自分の著作物(作品)を一切使えない(出版、インターネットやツイッターでの表示、同様の作品や登場人物の絵を公表することも含む)ということを意味しています。」との記載部分(本件記載部分)が不正競争防止法2条1項21号にいう「虚偽の事実」に当たる旨主張する。
そこで、前記認定事実及び弁論の全趣旨によれば、本件照会書は、本件企画に参加した漫画家に対し、①第1事件においては、漫画家が原告らに対し、自身の著作物につき「独占的利用権を許諾」したか否かが争点となっているという経緯として説明した上で、②そのような権利を原告らに許諾したという認識があるか否かを尋ねるものであるところ、「独占的利用権の許諾」という語の意味が一義的には明確でないことを踏まえ、③回答者の便宜を図るために、被告ないし被告代理人において、第1事件における原告らの請求内容や主張内容を踏まえ、その解釈を示したものであることが認められる。
そうすると、本件記載部分は、原告らの主張内容等を踏まえ、独占的利用権の意義を説明するものとして誤ったところはなく、「虚偽の事実」に当たるという余地はないというべきである。
これに対し、原告らは、レアリティーを損なわないように配慮すれば、自らの著作物を使用することは可能であるから、本件記載部分が虚偽である旨主張する。しかしながら、原告ら主張に係る本件合意の内容は、それ自体不明瞭なものである上、少なくとも被告が本件漫画2の一コマのみをアップロードした行為によっては、上記にいうレアリティーを損なうものとは当然いえないはずであるのに、原告らは、上記行為ですら、本件合意に反する旨主張するものである。そうすると、原告らの主張する「独占的利用権の許諾」というのは、文言上も実質上も著作者自らがその著作物を一切使えないことを意味するものといえるから、本件記載部分が「虚偽」であるとは認められない。 したがって、原告らの主張は、採用することができない。

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