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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

損害額の推定等▶法1141項の意義と解釈

平成160629日東京高等裁判所[平成15()2467]
著作権法1141項は,著作権者等が故意又は過失により自己の著作権等を侵害した者に対しその侵害により自己が受けた損害の賠償を請求する場合において,その者がその侵害行為によって作成された物を譲渡するなどしたときは,その譲渡した物の数量等に,著作権者等がその侵害行為がなければ販売することのできた物の単位数量当たりの利益を乗じた額を,著作権者等の当該物に係る販売その他の行為を行う能力を超えない限度において,著作権者等が受けた損害の額とすることができる旨規定している。
しかしながら,上記規定は,侵害者と同様に当該物に係る販売その他の行為を行う能力を有する限度において,侵害者の譲渡数量を著作権者等の販売することができた数量と同視することができるとしたものであるところ,一審原告らは,本件国語テストと同種の商品を自ら制作販売することのできる能力を有するものとは認められない。
のみならず,同項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物」とは,侵害者の制作した物と代替性のある物でなければならないところ,一審原告ら主張に係る単行本は本件各著作物が省略を伴うことなく全部登載され,一般の書店等で販売されるものであると認められるのに対し,本件国語テストは,本件各著作物の一部と設問で構成されるものであり,一審被告らは一般の書店を介さず直接又は販売代理店を通じて各小学校に直接納入しているものであって,上記単行本と本件国語テストは本件各著作物の利用の目的,態様を異にし,販売のルートにも大きな違いがあり,上記単行本は本件各著作物の掲載された本件国語テストに代替し得るものではあり得ないから,一審原告ら主張に係る単行本が同項にいう「侵害の行為がなければ販売することができた物」に該当するとはいえない。
したがって,本件においては,著作権法1141項を適用することはできないというべきである。

▶平成161227日大阪地方裁判所[平成14()1919]
著作権法1141項は、侵害品の譲渡等数量に、著作権者等が「その侵害の行為がなければ販売することができた物」の単位数量当たりの利益額を乗じて得た額を、著作権者等の当該物にかかる販売等を行う能力に応じた額を超えない限度において、損害額とすることができる旨規定する。
したがって、同項を適用する前提としては、著作権者等において、「その侵害の行為がなければ販売することができた物」を販売する能力を有していることが必要である。
ここで、「その侵害の行為がなければ販売することができた物」とは、少なくとも、侵害品と代替性のある、すなわち侵害品と競合する、権利者の製品であることを要する。なぜならば、同項は、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害を、(侵害者が特定の事情を立証しない限り)侵害者の譲渡数量と同数を権利者が販売できたと考えて把握しようとするものと解されるところ、そこでは市場における侵害品と権利者製品の競合の実態が前提となるからである。
また、権利者において、「その侵害の行為がなければ販売することができた」というためには、その侵害行為が行われた時点において、権利者がその製品を市場に供給する能力を有していることが必要であり、供給する能力を獲得する予定を有していたというだけでは足りないと解すべきである。この点につき、原告は、同項は、権利者の損害を「市場機会の喪失」と捉えるものであるから、代替製品の需要が継続してあり、いったん、侵害品に需要が食われてしまうと、その後、権利者が著作物の使用品を販売できなくなる関係にあるような市場では、侵害当時に権利者が著作物の使用品を販売可能な状態に置いている必要はなく、権利者の潜在的能力を含めて柔軟にその能力を認めるべきであるとか、パチスロ機業界においては、企画し開発を終えたパチスロ機の販売開始時期が、企画・開発から、1年ないし2年後となることは、よくあることであるから、同項の権利者の実施能力には、潜在的実施能力も含めて考えるべきであるなどと主張する。しかしながら、上記のとおり、同項が、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害を、侵害者の譲渡数量と同数を権利者が販売できたと考えて把握しようとするものと解される以上、現に市場において侵害品と権利者製品が競合して存在するか、少なくとも権利者が市場にその製品を提供する準備ができていなければ、侵害者の譲渡数量と同数を権利者が販売できたと考えることは不可能である。すなわち、商品には需要者にとって購入が必要な時期があり、また、著作物には流行があるのであって、例えば、何らかの著作物を使用した物品(キャラクターを付したランドセルや耐久消費財、その時点の流行テレビドラマ中の著作物を使用したアクセサリーなど)について、侵害品を購入した需要者を想定してみると、仮に購入時点で侵害品も権利者製品も存在しなかった場合には、その時点で市場に供給されている侵害品と代替性のある製品を購入するということが考えられるのであって、この購入をせずに将来供給される計画のある権利者製品の発売を待ち、既に購入が必要な時期を徒過したランドセルや耐久消費財や、流行遅れとなったアクセサリーなどを購入するとは考え難いところである。したがって、権利者において、「その侵害の行為がなければ販売することができた」というためには、その侵害行為の時点において、侵害品と代替性のある製品を販売しているか、少なくともその準備ができていることを必要とすると解すべきであり、原告の上記主張は採用することができない。

平成28421日東京地方裁判所[平成27()13760]
原告は,①ストリーミングの再生回数が受信複製物の数量に当たること,②本件動画サイトにおけるストリーミングの再生回数はダウンロードの回数と同視できることなどからすれば,本件著作物の本件動画サイトにおけるストリーミングの再生回数が著作権法114条1項にいう受信複製物の数量となる旨主張する。
そこで判断するに,受信複製物とは著作権等の侵害行為を組成する公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された著作物又は実演等の複製物をいうところ(同項),本件においてはダウンロードを伴わないストリーミング配信が行われたにとどまり,本件著作物のデータを受信した者が当該映像を視聴した後はそのパソコン等に上記データは残らないというのであるから,受信複製物が作成されたとは認められないと解するのが相当である。
また,本件動画サイトは動画をストリーミング配信するウェブサイトであるところ,本件動画サイトにアップロードされた動画をダウンロードすることは不可能ではないが,そのためには特殊なソフトウェアを利用するなどの特別の手段を用いる必要があることが認められる。
以上によれば,本件著作物の本件動画サイトにおけるストリーミングによる動画の再生回数が受信複製物の数量に当たるということはできないし,これをダウンロードの回数と同視することもできない。したがって,著作権法114条1項に関する原告の上記主張は失当である。

▶令和2106日知的財産高等裁判所[令和2()10018]
公衆送信行為による著作権侵害の事案において,法114条1項本文に基づく損害額の推定は,「受信複製物」の数量に,単位数量当たりの利益の額を乗じて行うものとされている。そして,本件のように,著作権侵害行為を組成する公衆送信がインターネット経由でなされた事案の場合,「受信複製物の数量」とは,公衆送信が公衆によって受信されることにより作成された複製物の数量を意味するのであるから(法114条1項本文),単に公衆送信された電磁データを受信者が閲覧した数量ではなく,ダウンロードして作成された複製物の数量を意味するものと解される。ところが,本件においては,公衆が閲覧した数量であるPV数[(注)PV(ページビュー)とは,ウェブサイト内の特定のページが開かれた回数を表し,ブラウザにHTML文書(ウェブページ)が1ページ表示されることにより1PVとカウントされる]しか認定することができないのであるから,法114条1項本文にいう「受信複製物の数量」は,上記PV数よりも一定程度少ないと考えなければならない。
また,本件において,一審被告会社は,本件各ウェブサイトに本件各漫画の複製物をアップロードし,無料でこれを閲覧させていたのに対し,一審原告は,有体物である本件各同人誌(書籍)を有料で販売していたものであり,一審被告会社の行為と一審原告の行為との間には,本件各漫画を無料で閲覧させるか,有料で購入させるかという点において決定的な違いがある。そして,無料であれば閲覧するが,書籍を購入してまで本件各漫画を閲覧しようとは考えないという需要者が多数存在するであろうことは容易に推認し得るところである(原判決において認定されているとおり,本件各同人誌の販売総数は,本件各ウェブサイトにおけるPV数の約9分の1程度にとどまっているが,これも,本件各漫画の顧客がウェブサイトに奪われていることを示すというよりは,無料であれば閲覧するが,有料であれば閲覧しないという需要者が非常に多いことを裏付けていると評価すべきである。)。
そうすると,本件各漫画をダウンロードして作成された複製物の数(法114条1項の計算の前提となる数量)は,PV数よりも相当程度少ないものと予想される上に,ダウンロードして作成された複製物の数の中にも,一審原告が販売することができなかったと認められる数量(法114条1項ただし書に相当する数量)が相当程度含まれることになるのであるから,これらの事情を総合考慮した上,法114条1項の適用対象となる複製物の数量は,PV数の1割にとどまるとした原判決の判断は相当である。

平成28119日知的財産高等裁判所[平成26()10038 ]
原告システムは,システムの各機能を実行させるプログラムとデータベース(原告CDDB)とで構成されており,プログラム部分とデータベース部分は,構成上は別のものであること,1審原告は,データベース部分である原告CDDBを単体では販売することはなく,原告CDDBを含む原告システムを一体のシステムとして販売していること,原告システムにおいては,プログラム部分とデータベース部分のそれぞれが顧客吸引力を有し,原告システムの購入動機の形成に貢献ないし寄与しているものと認められることを総合考慮すると,著作権法114条1項に基づく1審原告の損害額の算定の基礎となる「侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益額」は,原告CDDBを含む原告システムの1本当たりの利益額全額ではなく,データベース部分である原告CDDBの上記貢献ないし寄与の割合(以下,単に「寄与割合」という。)に応じて算出するのを相当と認める。

平成28427日 知的財産高等裁判所[平成26()10059]
著作権法114条1項ただし書の事情は,著作権を侵害した者において主張立証すべきである(。)

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