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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

損害額の推定等▶法1142項の意義と解釈

▶平成150718日東京高等裁判所[平成14()3136]
損害の認定に係る法1142項の規定は,推定規定であって,著作権者がそのような推定により認定された損害額と同額の利益を得ることができない事情が主張立証されたときは,上記推定は破られると解するほかはない。

▶平成141210日大阪地方裁判所[平成13()5816]
1142項の規定は、侵害行為者の利益額を即著作者の受けた損害と推定するものであって、このことからすると、著作者において侵害者が侵害行為により得ている利益と対比され得るような同種同質の利益を得ている場合において著作者の損害を推定するものと解するのが相当である。

▶平成160629日東京高等裁判所[平成15()2467]
著作権法1142項は,当該著作物を利用して侵害者が現実にある利益を得ている以上,著作権者が同様の方法で著作物を利用する限り同様の利益を得られる蓋然性があることに基づく規定であると解される。

▶平成161227日大阪地方裁判所[平成14()1919]
1142項は、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害につき、侵害者が受けた利益額が立証されればこれを損害額と推定することにより、権利者の主張立証責任の軽減を図ることをその趣旨とするものと解される。
したがって、侵害行為の当時、権利者が自ら製品の販売を行っておらず、その準備もできていない場合には、権利者において将来製品の販売をする予定があったとしても、同項を適用することはできないと解すべきである。
ここで、同項の適用の前提となる権利者により販売が行われているべき製品としては、同条1項と同様に、少なくとも、侵害品と代替性のある、すなわち侵害品と競合する、権利者の製品であることを要すると解すべきである。なぜならば、同条2項は、同条1項と同様、侵害行為によって権利者が市場における販売の機会を喪失することにより生じる損害を把握しようとするものと解されるところ、そこでは市場における侵害品と権利者製品の競合の実態が前提となるからである。

▶平成230905日東京地方裁判所[平成22()7213]
著作権法1142項は,当該著作物を利用して侵害者が現実にある利益を得ている以上,著作権者等が同様の方法で著作物を利用する限り同様の利益を得られる蓋然性があるという前提に基づき,侵害者が侵害行為により得た利益の額をもって著作権者等の逸失利益と推定する規定であると解されるから,同項の適用が認められるためには,著作権者等が侵害者と同様の方法で著作物を利用して利益を得られる蓋然性があることが必要である(。)

▶平成240131日知的財産高等裁判所[平成23()10009]
被告は,原告らは本件サービスと代替性のあるサービスを現実に提供しておらず,被告が本件サービスにより得た利益に相当する利益を得ていた可能性はないから,著作権法1142項による損害の推定を行う基礎がない旨主張する。しかし,被告の主張は,以下のとおり採用できない。すなわち,原告らは,本件番組等の提供を含む放送事業を継続することを通じて,利益を得てきたとの経緯に照らすならば,被告が本件サービスを提供することは,原告らに対して,そのような利益を得る機会を喪失させた可能性を否定することはできない。したがって,被告主張に係る,原告らが本件サービスと全く同種の役務を提供していないとの事実のみによっては,同条同項の規定の適用を排除することはできないというべきである。

▶平成30619日東京地方裁判所[平成28()32742]
著作権者に,侵害者による著作権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在する場合には,著作権法114条2項の適用が認められると解すべきであり,著作権者と侵害者の販売経路等に相違が存在するなどの諸事情は,推定された損害額を覆滅する事情として考慮されるとするのが相当である(知財高裁平成25年2月1日特別部判決参照)。
証拠によれば,原告らは,訴外○○が花のウェブサイトにおいて,スカーフ,ハンカチ,袱紗,パーティバッグ,小物入れ及び絵葉書を販売していることが認められる。
そうすると,被告絵葉書,被告一筆箋及び被告ハンカチについては,上記原告らの販売商品との代替性が認められ,被告による著作権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在するものといえるから,著作権法114条2項の適用が認められる。一方で,被告カレンダー,被告クリアファイル,被告わさびチューブ及び被告石鹸については,上記原告らの販売商品とはおよそ異なるものであり,被告による著作権侵害行為がなかったならば利益が得られたであろうという事情が存在するものとはいえないから,著作権法114条2項の適用は認められない。

[推定覆滅事情]
▶平成30531日東京地方裁判所[平成28()20852]
被告商品における本件著作物の寄与度(推定覆滅事情)
被告は,被告商品は商品価値において映像部分の寄与度が極めて大きく,本件著作物(台詞原稿)の寄与度は20%程度であり,損害算定に当たっては20%を乗じるべきである旨主張する。
しかしながら,前記前提事実のとおり,被告商品は,原告商品に収録された本件アニメーション作品の日本語音声をその映像とともに複製したものであり,原告商品をいわゆるデッドコピーしたものであるところ,このようなデッドコピー品を販売した者に利得の一部を保有させるのは相当でないから,仮に被告商品の商品価値において映像部分の寄与度がある程度存するとしても,そのことをもって原告らの損害額を減額することは相当でない。
したがって,被告の主張を採用することはできない。

[原著作物の著作権者は二次的著作物の侵害に対して法1142項に基づく損害額の賠償を求めることができるか]
▶平成121226日東京地方裁判所[平成11()20712]
著作権法1141[注:現2項。以下同じ]は、民法709条の特別規定であり、損害額についての権利者の立証責任を軽減するものである。すなわち、権利者としては、民法709条に基づいて損害賠償を請求するためには、故意・過失、他人の権利の侵害(違法性)、損害の発生、侵害と損害との因果関係、損害の額を主張立証しなければならないところ、右のうち(損害と侵害との因果関係)及び(損害の額)については、一般にその立証に困難を伴うことから、権利者の権利行使を容易にするため、これについての推定規定を設けたものであって、特許法1022項、実用新案法292項、意匠法392項及び商標法382項と同趣旨の規定である。
そして、右規定により推定されるのは前記の不法行為の要件事実中の④(侵害と損害との因果関係)及び⑤(損害の額)であって、③(損害の発生)までが推定されるものではないから、著作権法1141項に基づく損害を主張してその賠償を求める者は、損害の発生を主張立証しなければならない。
しかし、著作権者は著作物を利用する権利を専有するものであって(著作権法21条ないし27条)、市場において当該著作物の利用を通じて独占的に利益を得る地位を法的に保障されていることに照らせば、侵害者が著作権を侵害する物を販売等する行為は、市場において侵害品の数量に対応する真正品の需要を奪うことを意味するものであり、著作権者は、侵害者の右行為により、現在又は将来市場においてこれに対応する数量の真正品を販売等する機会を喪失することで、右販売等により得られるはずの利益を失うことによる損害を被ると解するのが相当である。すなわち、侵害者が侵害品の販売等を行った時期に著作権者が実際に著作物の利用行為を行っていなかったとしても、著作権者において著作権の保護期間が満了するまでの間に当該著作物を利用する可能性を有していたのであれば、侵害者の行為により著作権者に損害を生じたということができる。
そうすると、著作権者は、侵害行為が行われた時点において著作物を具体的に利用する行為を行っていないとしても、特段の事情のない限り、著作権の保護期間の満了までの間に著作物を利用する可能性を有するものであるから、侵害者に対して、著作権法1141項の規定に基づく損害額の賠償を求めることができるというべきである。
右のとおり、著作権者が著作権法1141項に基づく損害額を主張してその賠償を求めるためには、著作権者が著作物を利用する行為を行っていることを要するものではない。
しかしながら、著作権者が著作権法1141項に基づく損害額を主張することができるのは、著作権者が、著作物を利用する権利を専有し、自らの権原のみに基づいて著作物を利用することが可能であり、他方、侵害者により販売等のされる侵害品が真正品と同内容の物として互いに排他的な競争関係に立つことから、侵害品の販売等による利益をもって著作権者が真正品の販売等により得ることのできたはずの利益と等価関係に立つという擬制が可能なことによるものというべきであるから、このような前提が存在しないことが明らかな場合には、著作権法1141項に基づく損害額を主張することは許されないというべきである。
そうすると、著作権者の著作物を原著作物として二次的著作物が作成されている場合において侵害者が二次的著作物の著作権を侵害する物を販売等している場合や、著作権者の著作物を原著作物として侵害者が無許諾で二次的著作物を作成してこれを販売等している場合には、著作権者(原著作物の著作権者)は、著作権法1141項に基づく損害額を主張することは許されないと解するのが相当である。けだし、二次的著作物は、原著作物に依拠してこれを翻案したものであるといっても、原著作物に新たな創作的要素を付加したものとして、原著作物から独立した別個の著作物として著作権法上の保護を受けるものであって、原著作物の著作権者であっても二次的著作物の著作権者の許諾なくしては二次的著作物の利用を行うことができず、また、二次的著作物の販売等により得られた利益には二次的著作物において新たに付加された創作的部分の対価に相当する部分が含まれているからである。すなわち、右のような場合には、原著作物の著作権者は自らの権原のみでは二次的著作物を利用することができず、また、侵害者が二次的著作物を販売等したことにより得た利益をもって原著作物の著作権者の得べかりし利益と等価関係に立つということもできないから、原著作物の著作権者は、著作権法1141項に基づく損害額の賠償を求めることができないのである。
したがって、本件において、原告は、本件連載漫画につき原著作物の著作権者としての権利を有するにすぎないから、二次的著作物である本件連載漫画の複製権を侵害する物品の販売に対して、原告が著作権法1141項に基づく損害額の賠償を求める点は失当である。

[「利益」の意義]
▶平成141031日東京地方裁判所[平成13()22157]
1142項の文言によれば,著作物を無断で複製した者が当該複製物を販売している場合には,侵害者が当該複製物を販売することによって得た利益の額をもって,著作権者が受けた損害の額と推定するものであることが明らかである。そして,この場合における「利益」とは,侵害者が当該複製物の販売によって得た現実の利益,すなわち複製物の売上高から製造等に要した費用を控除した金額を意味するものである。

▶平成211109日東京地方裁判所[平成20()21090]
著作権法1142項にいう「利益の額」とは,売上高等の収入から,被告が侵害品を製造・販売するために追加的に要した費用を控除したものをいうと解すべき(である。)

▶平成230526日東京地方裁判所[平成19()24698]
著作権を侵害した者が「その侵害の行為により」受けた「利益」(著作権法1142項)とは,いわゆる限界利益[注:売上高から変動費を引いたもの]であると解される。

▶平成27316日東京地方裁判所[平成26()4962]
著作権法114条2項にいう「利益」とは,侵害者の売上から,侵害品の製造販売に追加的に要した費用(変動経費)を控除したいわゆる限界利益をいうと解される(。)

▶平成2828日大阪地方裁判所[平成26()6310]
著作権法114条2項にいう「利益」とは,侵害による売上高から,その販売に追加的に要した費用を控除した額(限界利益)と解するのが相当であり,侵害品の売上げによって追加的に要しなかった経費は控除すべきではない。

▶平成28216日東京地方裁判所[平成26()22603]
原告は,著作権法114条2項にいう「利益」には消極的利益も含まれることを前提に,少なくとも原告カタログの作成費用が被告の「利益」に該当すると主張する。
そこで判断するに,同項は,著作権侵害行為による侵害者の利益額を権利者の損害額と推定することによって損害額の立証負担の軽減を図る趣旨の規定であるから,同項所定の「利益」は「損害」に対応するものであることが前提となると解される。ところが,原告は被告による著作権侵害行為の有無にかかわらず原告カタログの作成費用の負担を免れないのであるから,原告カタログの一部を複製して被告カタログを作成したことにより被告が当該部分に関する作成費用の支出を免れたとしても,そのために原告に原告カタログの作成費用に相当する額の損害が生じたということはできない。そうすると,上記の支出を免れたことによる被告の利益は,同項所定の「利益」となり得ないというべきである。

▶平成28727日東京地方裁判所[平成27()13258]
被告は,故意又は過失により,被告挿絵を含む被告説明書を複製し,平成26年12月5日以降,これを同封して本件商品を販売し,その結果,原告の原告挿絵に係る複製権及び譲渡権を侵害したと認められる。したがって,被告は,原告に対し,民法709条に基づき,この点に関する損害賠償責任を負う。
そこで,その損害について検討するに,原告は,被告が上記著作権侵害行為により本件商品の取扱説明書作成費用50万円を免れるという利益を受けたから,これが著作権法114条2項により原告が受けた損害の額と推定される旨主張する。
しかしながら,被告が説明書作成費用を免れるという利益を受けたからといって,その分原告が損害を受けたとみるべき合理的な根拠がないことは明らかであるから,著作権法114条2項に基づく推定の基礎を欠くというべきである。
もっとも,日本国内における本件商品の販売について原告と競合する被告が,上記のとおり本件商品の取扱説明書に関する原告の著作権を侵害している以上,これによる損害が全くないともいい難い。
そこで,原告挿絵及び被告挿絵については,もともと商品の取扱説明書としての性質上,表現内容が限られているものであり,実際,原告挿絵も,創作性の程度は低いといわざるを得ないことなどを考慮して,原告挿絵に係る上記著作権侵害による損害は3万円と認めることが相当である。

▶令和348日大阪地方裁判所[平成30()5629]
著作権法114条2項の「利益」とは,売上金額から仕入原価等の直接的,追加的に必要となった変動費を控除した限界利益を意味すると解されるところ,原告による損害額の主張においては,この点につき明示的な主張がされていない。もっとも,控除すべき変動費の額は被告会社自身のものであって,被告会社がこの点に関する具体的な主張をしていないという応訴態度に鑑みると,控除すべき変動費はないものと認められる。

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