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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

著作者の推定▶法14条の意義と解釈

▶平成180227日知的財産高等裁判所[平成17()10100]
著作権法14条は,著作者として権利行使しようとする者の立証の負担を軽減するため,自らが創作したことの立証に代えて,著作物に実名等の表示があれば著作者と推定するというものであるが,同規定の文言からして「推定する」というものにすぎず,推定の効果を争う者が反対事実の証明に成功すれば,推定とは逆の認定をして差し支えないことになる。この理は,創作的表現を行ったと主張するものが複数関与する場合であっても異なるところはないというべきであ(る。)

▶令和3527日東京地方裁判所[令和2()7469]

著作権法14条は,著作物の原作品に,その氏名若しくは名称(以下「実名」という。)又はその雅号,筆名,略称その他実名に代えて用いられるものとして周知のものが著作者名として通常の方法により表示されている者は,その著作物の著作者と推定するとの旨を規定する。しかして,同条の規定は,著作者としての立証に困難を伴うことが多いことから,著作権を行使しようとする者の立証の負担を軽減する趣旨で,当該著作物を創作したことの立証に代えて,著作者を示す方法として通常の方法が採られている場合には,その著作者として表示された者を著作者と推定することとしたものである。そうすると,このような推定を覆す事実の反証があれば,この推定は覆り,当該著作物の作成につき創作的関与をしたと認められる者が,その著作物の著作者といえることとなる。

[個別事例]
令和元年717日東京地方裁判所[平成31()99]
本件広告は,原告サイトのトップページに掲載されていたものであり,本件広告の右下には,「Copyright 2004-2018」として,原告の名称の英語表記と合致する「Top trend Co..Ltd.」との表示がされており,「Copyright」が著作権を意味する語として一般的に用いられ,原告の名称の英語表記も原告を示すものとして一般的に理解し得るものと認められるから,原告は,本件広告に,その名称が著作者名として通常の方法により表示されている者であるということができ,著作者と推定され,これを覆すに足りる証拠はないから,本件広告について著作権を有すると認められる。

令和元年94日東京地方裁判所[令和1()11739]
映画の著作物である本件作品のDVDのパッケージの裏面左下隅には「DEEP’S」の文字がそのロゴと共に表示され,その下に「制作・著作・受審/ディープス」と表示されていること,上記パッケージの画像は,原告が本件作品をダウンロードやストリーミング配信の方法で販売するウェブページにおいても表示されていること,「ディープス」は旧商号かつ登録商標であるが,原告は,これをレーベル名として用いてアダルトビデオ作品を全国的に流通・販売しており,AV業界ではそのことが広く知られていることが認められる。
上記認定事実によれば,著作物である本件作品が公衆に提供又は提示される際に,原告の変名として周知の「ディープス」が著作者名として通常の方法により表示されているということができるので,原告は,本件作品の著作者と推定され,その推定を覆すに足りる証拠は存在しない。

平成281111日知的財産高等裁判所[平成28()10009]
本件著作物の表紙には「A・Y・B・C編」と表示され,また,そのはしがきには,本件著作物編者らの氏名が連名で表示されるとともに,「この間の立法や,著作権をめぐる技術の推移等を考慮し,第4版では新たな構成を採用し,かつ収録判例を大幅に入れ替え,3件を厳選し,時代の要求に合致したものに衣替えをした。」とある。
本件著作物のような編集著作物の場合,氏名に「編」と付すことは,一般人に,その者が編集著作物の著作者であることを認識させ得るものといってよい。上記はしがきの表示及び記載も,本件著作物において編者として表示された者が編集著作物としての本件著作物の著作者であることを一般人に,認識させ得るものということができる。(中略)
そうすると,本件著作物には,相手方の氏名を含む本件著作物編者らの氏名が編集著作者名として通常の方法により表示されているといってよい。
したがって,相手方については,著作者の推定(法14条)が及ぶというべきである。
これに対し,抗告人は,氏名に「編」と付された者が著作権法上の編集著作者とは異なる場合も少なくないなどとして,相手方につき著作者の推定は及ばない旨主張するけれども,現に氏名に「編」と付された者が編集著作者でない場合があったとしても,そのことをもって直ちに,「編」という表示が氏名に付されることでその氏名が編集著作物の「著作者名として通常の方法により表示されている」と一般人に認識させ得ることを否定するに足りるものとはいえない。その他これを否定するに足りる事情をうかがわせる疎明資料もない。
したがって,この点に関する抗告人の主張は採用し得ない。
そこで,相手方につき著作者の推定が及ぶことを前提に,その推定の覆滅の可否を検討する。
(略)
これらの事情を総合的に考慮すると,本件著作物の編集過程において,相手方は,その「編者」の一人とされてはいたものの,実質的にはむしろアイデアの提供や助言を期待されるにとどまるいわばアドバイザーの地位に置かれ,相手方自身もこれに沿った関与を行ったにとどまるものと理解するのが,本件著作物の編集過程全体の実態に適すると思われる。
そうである以上,法14条による推定にもかかわらず,相手方をもって本件著作物の著作者ということはできない。

▶令和328日東京地方裁判所[令和2()19976]
原告は,本件著作物の第1話の画像に「H」と記載されていることを根拠に,「筆名」が表示されているとして,著作権法14条により,原告が本件著作物の著作者と推定されるとも主張する。
しかしながら,同条により著作物の著作者であると推定されるためには,表示された筆名その他の変名が「周知のもの」であることを要するところ,本件著作物が前記ウェブサイトの格闘技漫画部門で「ベストセラー1位」を獲得したことを考慮しても,「H」という筆名自体が有名であることは格別,さらに進んで,「H」という筆名が原告本人の呼称であることが一般人に明らかであるとまでは認められない。
よって,「H」という筆名が「周知のもの」であるとまでは認められず,その他,これを認めるに足りる証拠はない。そうすると,本件著作物に「H」と記載されている事実から,本件著作物の著作者が原告であるとは推定されないというべきである。

▶令和3527日東京地方裁判所[令和2()7469]
(2) 本件カバーデザインの著作者
著作物とは,「思想又は感情を創作的に表現したものであつて,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」をいい(著作権法2条1項1号),著作者とは,「著作物を創作する者」をいうのであり(同項2号),本件カバーデザインは美術に属するから,本件カバーデザインの作成につき創作的に関与した者が本件カバーデザインの著作者であると認められるべきである(Aが同「著作者」に当たることは明らかであり,当事者間でも争いがない。)。
そして,著作権法14条は,著作物の原作品に,その氏名若しくは名称(以下「実名」という。)又はその雅号,筆名,略称その他実名に代えて用いられるものとして周知のものが著作者名として通常の方法により表示されている者は,その著作物の著作者と推定するとの旨を規定する。しかして,同条の規定は,著作者としての立証に困難を伴うことが多いことから,著作権を行使しようとする者の立証の負担を軽減する趣旨で,当該著作物を創作したことの立証に代えて,著作者を示す方法として通常の方法が採られている場合には,その著作者として表示された者を著作者と推定することとしたものである。そうすると,このような推定を覆す事実の反証があれば,この推定は覆り,当該著作物の作成につき創作的関与をしたと認められる者が,その著作物の著作者といえることとなる。
上記の観点から,原告が原告書籍(本件カバーデザインを含む。)の共同著作者といえるかについて検討すると,前記(1)で認定したとおり,本件書籍については,原告とAとの間で本件出版契約が締結されているところ,本件出版契約においては,Aが本件カバーデザインを含む本件書籍の「著作権者」であるとして,その著作者であることを前提に,「出版者」とされた原告に対し,本件書籍を複製・頒布することを許諾し,原告はその許諾を受ける対価としてAに対して著作権使用料を支払うことが約されていることが認められる。また,本件カバーデザインの表面には,「A」との記載や,「DESIGNED BY「A」 」との記載がされ,原告の記載はされていない。さらに,原告の従業員等が,本件書籍(本件カバーデザインを含む。)につき,Aとともに共同著作者として認められる程度にまで至るような創作的関与をしたことを根拠付ける具体的な事実の主張,立証はされていない。
これらからすれば,本件著作権表示[(注)原告は,Aとの間で,「出版契約書」と題する書面(「本件出版契約書」)において,本件書籍に関し,出版契約(「本件出版契約」)を締結した。この中で,<原告は,Aの権利保全のために所定の位置に下記の著作権表示(「本件著作権表示」)をする(9条)。「Copyright © 2015「A」/ PIE International>との条項がある。]にかかわらず,本件カバーデザインの著作者は,本件カバーデザインの表面に当該デザインを創作した者であるとの旨が明示され,本件出版契約においても本件書籍(本件カバーデザインを含む。)の著作者であることが前提とされ,ゆえに本件書籍(本件カバーデザインを含む。)の作成に創作的に関与した者であると認められるAのみであるというべきである。そして,原告は,これを前提に,Aの著作物である本件書籍を複製,頒布して出版する権利を取得したに過ぎず,このような原告をもって,本件書籍の共同著作者と認めることはできず,本件書籍(本件カバーデザインを含む。)が,原告とAの共同著作物であるということはできない。
(3) 原告の主張について
原告は,本件書籍には,著作権者を表す通常の方法である© 表示を用いて本件著作権表示がされているため,著作権法14条により,原告とAとが本件書籍の共同著作者として推定されると主張する。
しかしながら,© 表示によって著作権者を表示することが通常の方法であるどうかは措くとしても,前記(2)のとおり,本件出版契約においては,Aが本件書籍(本件カバーデザインを含む。)の「著作権者」であるとして,その著作者であることを前提に,「出版者」とされた原告に対し,本件書籍を複製・頒布することを許諾することが約されていることに加え,本件カバーデザインの表面には,Aが当該デザインを創作した者であるとの旨が明示されていることからすると,仮に本件著作権表示をもって原告を共同著作者とする著作権法14条の推定が働くとしても,この推定は,上記の旨が反証により認められることにより覆るものというほかなく,本件カバーデザインを創作した者であるAが,その単独の著作者と認められるものというべきである。
また,原告は,原告の従業員であるBが本件書籍(本件カバーデザインを含む。)の制作に当たり,Aに対して,イラスト素材を探して提示し,素材の組合せや配列等デザイン全般にわたり,Aと協議を重ねるなどしており,本件書籍(本件カバーデザインを含む。)の作成に創作的に関与していると主張する。
しかしながら,前記のとおり,Bが本件カバーデザインにつき,Aとともに共同著作者として認められる程度にまで至るような創作的関与をしたことを根拠付ける具体的な事実の主張,立証はされていない(なお原告は,Aの陳述書の提出や,Aの証人尋問の申出をしない旨述べている。)。たとえ,Bが,Aが本件カバーデザインを制作するに当たり,イラスト素材を提供し,素材の組合せや配列等についてAと協議を重ねていたとしても,原告の主張するこのようなBの関与は,その内容自体からして,補助的なものにすぎないというほかなく,Bが本件書籍(本件カバーデザイン)の作成に創作的に関与していたと認めるには足りない。
なお,この点に関し,A作成に係る本件確認書1において,Aが,本件書籍の著作権は原告との共有にかかることを確認していることがうかがわれる。しかしながら,前記のとおり,平成27年11月に原告が本件書籍を出版するに際して締結された本件出版契約においては,Aが本件カバーデザインを含む本件書籍の「著作権者」であるとして,その著作者であることを前提に,「出版者」とされた原告に対し,本件書籍を複製・頒布することを許諾し,原告はその許諾を受ける対価としてAに対して著作権使用料を支払うことが約されていること,本件確認書1は,原告と被告との間で本件書籍の著作権侵害の紛争が顕在化してから作成されていること,しかして,本件出版契約の存在にかかわらずこれに沿わない内容の本件確認書1が作成された経緯について合理的に説明できる具体的な事実の主張,立証がされていないこと(なお原告は,Aの陳述書の提出や,Aの証人尋問の申出をしない旨述べている。)などからすると,本件確認書1の存在及びその内容は唐突であり不自然なものとの評価を免れず,これを採用して直ちに,本件書籍の作成につき原告が創作的関与をしたと認められるということはできないといわざるを得ない。ゆえに,本件確認書1をもって,原告とAとが本件書籍の共同著作者であると認めることはできず,本件書籍(本件カバーデザインを含む。)が,原告とAの共同著作物であるということはできない。

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