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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

共同著作▶個別事例④(共同研究)

▶令和4325日東京地方裁判所[令和2()25127]/令和4111日知的財産高等裁判所[令和4()10047]
本件地図1ないし4の著作者について
(1) 著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」(著作権法2条1項1号)をいい、共同著作物とは、「二人以上の者が共同して創作した著作物であつて、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないもの」(同項12号)をいう。
【共同著作物であるための要件は、第一に、二人以上の者が共同して創作した著作物であること、第二に、その各人の寄与を分離して個別的に利用することができないことであり、上記第一の要件である二人以上の者が共同して創作した著作物であることという要件を充足するためには、客観的側面として、各著作者が共同して創作行為を行うこと、主観的側面として、各著作者間に、共同して一つの著作物を創作するという共同意思が存在することが必要である。そして、著作権法は、単なるアイデアを保護するものではなく、思想又は感情の創作的な「表現」を保護するものであるから(著作権法2条1項1号参照)、創作行為を行うとは、アイデアの案出に関与したというだけでは足りず、表現の創出に具体的に関与することを要するものというべきである。
そうすると、本件地図1ないし4が共同著作物であるというためには、少なくとも、上記第一の要件である二人以上の者が共同して創作した著作物であることという要件のうち、各著作者が共同して創作行為を行ったという客観的側面が充足されなければならず、そのためには、共同著作者であることを主張する控訴人が、単にアイデアの案出に関与したにとどまらず、表現の創出に具体的に関与したことを要するというべきである。
⑵ これを本件においてみるに、本件全証拠を精査しても、控訴人が、本件地図1ないし4の表現の創出に具体的に関与したことを認めるに足りる証拠はない。
この点に関して控訴人は、本件論文1に掲載された本件地図1及び2については控訴人及び被控訴人の各氏名が記載されているから、著作権法14条に基づき、控訴人及び被控訴人が著作者であると推定される旨主張する。
しかしながら、前記のとおり、被控訴人は、平成12年頃に、控訴人と本件覚書を交わし、控訴人との共同研究が終了した後、控訴人と面会したり、直接連絡をとったりしたことはなかったところ、控訴人に相談することなく、平成21年に本件発表をし、その頃に本件地図1及び2が掲載された本件論文1を作成し、平成29年に本件地図3及び4が掲載された本件論文2を作成したものであり、控訴人は、被控訴人の本件発表並びに本件論文1及び2の作成の事実を知らなかったものである。また、控訴人は、原審における本人尋問において、本件地図1ないし3を作成したのは被控訴人である旨供述している。
したがって、仮に本件論文1に掲載された本件地図1及び2並びに本件論文2に掲載された本件地図3及び4に著作物性が認められるとしても、そもそも、控訴人は本件地図1ないし4の表現の創出に具体的に関与したことはなく、上記第一の要件である二人以上の者が共同して創作した著作物であることという共同著作物の要件のうち、各著作者が共同して創作行為を行ったという客観的側面が充足されていないから、本件地図1ないし4は、控訴人と被控訴人の共同著作物であるとは認められない。
以上によれば、控訴人及び被控訴人の各氏名が記載された本件論文1に掲載された本件地図1及び2について、著作権法14条に基づき控訴人及び被控訴人が著作者であると推定されたとしても、その推定は覆されるというべきである。】
(3)ア これに対して、原告は、本件論文1及び2は、原告及び被告を共同発明者とする本件出願1ないし3の各願書に添付した明細書に記載された内容に基づくものであり、本件論文1及び2に掲載された本件地図1ないし4は、本件出願1ないし3の各願書に添付した図面と基本的に同一であること、② 本件発表の発表者として原告の氏名が挙げられ、本件論文1の冒頭に原告の氏名が、末尾に原告に対する謝辞が、それぞれ記載されていることからすると、本件地図1ないし4は原告及び被告の共同著作物であると主張する。
イ しかし、上記について、本件出願1ないし3の各願書に添付した明細書に従って本件地図1ないし4を作成できるとの事実を認めるに足りる証拠はない。
また、前記前提事実のとおり、原告は本件出願1ないし3の各発明者の一人として名前が挙げられているが、発明とは「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法2条1項)であり、発明者はこのような技術的思想を創作した者をいうのに対し、著作物とは「思想又は感情を創作的に表現したもの」(著作権法2条1項1号)であ10 り、著作者は「著作物を創作する者」(同項2号)をいうことから、両者が創作する対象は、それぞれ技術的思想と表現という異なるものである。
仮に本件出願1ないし3が地図の作成方法に関する発明に係る出願であり、本件出願1ないし3の各願書に添付した明細書に従って地図を作成することができたとしても、上記発明に係る技術的思想の創作に関わったにすぎない原告の思想又は感情が当該地図において創作的に表現されたということにはならない。
以上を総合すると、上記①の事情をもって、原告の思想又は感情が本件地図1ないし4に創作的に表現されたというには足りないから、同事情は前記(2)の認定を左右するものではないというべきである。
ウ また、上記について、前記前提事実のとおり、日本国際地図学会の平成21年度定期大会のプログラムには、本件発表の発表者として、被告のみならず原告の氏名が記載されており、本件論文1の冒頭にも、被告のみならず原告の氏名が記載され、その末尾に「本研究の基礎はA氏との半年間の共同研究によるものである。」と記載されている。
【しかし、本件発表に係る研究の基礎が、控訴人との半年間の共同研究によるものであるとしても、それは、本件地図1及び2の作成原理・作成方法というアイデアの源が、被控訴人との共同研究にあるということにとどまり、控訴人が、本件地図1ないし4の表現の創出に具体的に関与したことを示すものとは認められない。
したがって、上記②を考慮したとしても、控訴人が本件地図1ないし4の表現の創出に具体的に関与したと認めることはできない。】
(4) 以上によれば、本件地図1ないし4は、原告及び被告の共同著作物とは認められないから、原告が本件地図1ないし4に係る共有著作権及び著作者人格権を有するとはいえない。

▶令和4111日知的財産高等裁判所[令和4()10047]
当審における控訴人の補充主張に対する判断
控訴人は、複数の研究者によってなされた共同研究の研究成果は、共同研究者のうちの誰が記述(発表)しても、また、その記述(発表)があったことを他の共同研究者が知らなくても、その記述(発表)が共同研究の成果である以上、記述(発表)されたものは、共同研究者の共同著作物であると主張し、控訴人と被控訴人は、共同研究の成果として、「オーサグラフ世界地図」の作成原理・作成方法を開発し、それが、本件出願1ないし3の発明となり、本件地図1ないし4は、本件出願1ないし3の発明に係る地図の作成原理・作成方法を用いて作成されたものであるから、控訴人と被控訴人の共同研究の成果を利用しており、控訴人と被控訴人の共同著作物である旨主張する。
しかし、著作権法は、単なるアイデアを保護するものではなく、思想又は感情の創作的な「表現」を保護するものであるから(著作権法2条1項1号10 参照)、著作物の創作行為を行ったというためには、アイデアの案出に関与したというだけでは足りず、表現の創出に具体的に関与することを要するものというべきである。そのため、共同研究に加わってその研究の内容であるアイデアの案出に関わったとしても、その共同研究の成果である記述(発表)の表現の創出に具体的に関与していない共同研究者は、当該記述(発表)の共同著作者には当たらないというべきである。当該記述(発表)の表現の作出に具体的に関与したか否かにかかわらず、それが共同研究の成果であれば、当該記述(発表)が当然に共同研究者の共同著作物であるという控訴人の主張は、アイデアの保護と表現の保護を混同するものであって失当である。 したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。

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