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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

同一性保持権▶個別事例⑥(無断翻訳/あとがきの追記/投稿文の変更/記事リード文の切除等/ゲームシナリオの改変

[無断翻訳]
▶平成160531日東京地方裁判所[平成14()26832]
被告は,著作者であるAの許諾を得ることなく,本件詩を翻訳したものである。しかも,本件詩の訳文のうち,少なくとも,以下の箇所は,客観的にみて誤訳であるか,又は翻訳すべき語を翻訳していないものであるか,若しくは意訳の範囲を超えているものであって,これらはいずれも意に反する改変といわざるを得ないから,本件詩についてAが有していた同一性保持権を侵害するものである。

▶平成190118日東京地方裁判所[平成18()10367]
本件論文は,本件原著について,その内容を一部省略しつつ,これを日本語に翻訳したものであること,並びに,被告が,本件論文を作成するに当たり,本件原著の共同著作者である原告からその承諾を得ていなかったことは,当事者間に争いがない。したがって,被告は,原告に無断で本件原著を日本語に翻訳したうえ,その内容を一部省略して翻訳したのであるから,原告の有する本件原著の同一性保持権を侵害したものと認められる。
(略)
被告は,翻訳行為自体は,著作物の内面形式を維持しながら,その外面形式を変更するものであるから,同一性保持権侵害の問題になるものではない,とも主張する。しかし,著作者の承諾を得て行う翻訳については,客観的に見て許容し得ない範囲の誤訳を除いて,このようなことがいえるとしても,本件のように著作者の承諾を得ない翻訳については,英語の表現形式を日本語に変更するものであるから,同一性保持権の侵害にもなるというべきである。

[あとがきの追記]
▶平成26912日東京地方裁判所[平成24()29975]
本件書籍は,その本文が原書籍1及び2のものと同一であり,さらに,原書籍1の「あとがき」と原書籍2の「文庫化にあたっての付記」に,Cが執筆した「本シリーズにあたってのあとがき」(本件あとがき)を追記したものであり,加えて,本件あとがきは本件書籍の記述部分全285頁のうち,262頁から269頁まで8頁にわたる記述であること,さらにそのうち7頁目において,6行にわたって,前記記載の記述[注:本件あとがきは,全136行の8頁にわたる文章であり,その内容は基本的に,本件書籍の表題であり,本文のテーマでもある金融腐敗の検証に関連する記載から構成されているが,そのうち7頁目において,6行にわたり,Cが,株式会社読売巨人軍の専務取締役球団代表兼GMの職にあった2011年(平成23年)11月,読売新聞グループ本社代表取締役M会長を記者会見で告発して解任されたこと,同告発は既に報告し確定していたコーチ人事を「鶴の一声」で覆す同会長の球団私物化の非を訴えたものであったなどと記述されている]があることが認められる。
上記記述の内容は本件書籍の本文の内容とは全く関係のない,Cの読売巨人軍における役職解任に関する記載であって,その記載内容からすれば原告の意に反していることは明らかであり,また,本文と密接な関係を有するあとがきという文章の性質に鑑みれば,これを本文と一体のものと考えるべきであるから,このように,原書籍1及び2に本件あとがきを原告に無断で追加した本件書籍を製本した被告の行為は,原告の意に反する原書籍1及び2の改変に当たるというべきである。
したがって,上記被告の行為は原書籍1及び2について原告が保有する同一性保持権の侵害行為に該当すると認めるのが相当である。
[控訴審も同旨]
▶平成27528日知的財産高等裁判所[平成26()10103]
元来,著作物は,著作者の思想又は感情の創作的表現であることに鑑みれば,著作者が自己の著作物に掲載すべく執筆したあとがきは,著作物と一体をなすものとして,上記創作的表現と不可分の関係にあるということができ,この理は職務著作物についても妥当するというべきである。そうすると,原書籍1及び2について職務著作が成立する範囲は,原書籍1及び2の本文のみならず,本文と一体不可分の関係にあるあとがきにも及ぶから,原書籍1の「あとがき」及び原書籍2の「文庫化にあたっての付記」についても職務著作が成立し,上記各部分の著作者は読売新聞社ひいては同社を包括承継した被控訴人であるというべきである。そうすると,原書籍1及び2に本件あとがきを被控訴人に無断で追加した本件書籍を製本した控訴人の行為は,原書籍1及び2について被控訴人が保有する同一性保持権を侵害するものである。

[投稿文の変更]
▶令和3107日知的財産高等裁判所[令和3()10034]
本件変更等による損害について
本件変更の内容及びそれによる本件控訴人投稿文の変更が控訴人の意見の主要な部分に関わるものであって,その主旨を変更するものであったこと,被控訴人には故意に準じる程度の重大な過失があったというべきこと,本件被控訴人掲載文が控訴人の氏名,年齢,職業,居住都道府県名という相応に個人の特定に関わる事項とともに本件掲載誌に掲載され頒布されたこと,本件投稿欄が読者との間で意見交換の場を提供する趣旨のものと理解される体裁のものであることなどの一方で,控訴人からの要請を受けて,本件月刊誌の編集担当者及び編集長が控訴人に対しメールや手紙で謝罪を表明するなどし,本件掲載誌に掲載された本件被控訴人掲載文の内容が控訴人による投稿文の本来の文意と異なるものであった旨の本件謝罪文が本件掲載誌(令和元年10月号)の約2箇月後に発行された本件月刊誌の同年12月号に掲載されたこと,本件被控訴人掲載文の分量,その他本件で顕れた一切の事情を考慮すると,控訴人は,被控訴人に対し,本件変更をしての本件頒布について,慰謝料として10万円を請求し得るものと認めるのが相当である(本件変更と本件頒布について,格別に慰謝料を算定すべきものとはいえない。)。
なお,上記に関し,本件控訴人投稿文における控訴人の意見の主旨について触れることのない本件謝罪文の掲載によって,控訴人の同一性保持権の侵害による損害が大きく回復されたものとはいえない。また,控訴人は,本件控訴人投稿文が掲載された本件月刊誌が頒布されること自体には同意していたが,全体として本件控訴人投稿文の主旨と異なる内容の本件被控訴人掲載文が控訴人作成名義で本件月刊誌に掲載されて頒布されることまで同意していたとは認められない。上記のとおり,被控訴人が控訴人の同意の範囲を超えて本件変更をして控訴人の意見として本件被控訴人掲載文を本件掲載誌に掲載して頒布した本件において,そもそも控訴人が本件控訴人投稿文を本件月刊誌にそのまま掲載させる権利を有していたものではないといった事情を過度に重視することも相当ではない。

[記事リード文の切除等]
平成220528日東京地方裁判所[平成21()12854]
本件記事において,リード文は本文の導入としての役割を担っており,両者が一体となって,原告の思想又は感情を創作的に表現した一つの著作物となっているものと認められる。しかるところ,被告は,本件転載の際,これを分断し,リード文を切除して,本文のみを被告ホームページに掲載したものであるが,このような切除は,原告の意に反するものであるから,原告が本件記事について有する同一性保持権(著作権法201項)を侵害するものと認められる。
(略)
上記①[注:本件記事においては「白血球が2000以下で…」と記載されているのに対し,被告ホームページにおいては「白血球が200以下で…」と記載されている]については,転記の際の明らかな誤記と認めるのが相当であり,また,医学的常識に基づいて被告ホームページを読めば,それが誤記であることは明らかに理解し得るところであるから,この誤記によって本件記事の内容を改変したものとは認められない。
また,上記②[注:本件記事においては「たった5分間程の面談…」と記載されているのに対し,被告ホームページにおいては「たった5分程の面談…」と記載されている]についても,本件記事の「5分間」という記載が被告ホームページにおいては「5分」と表記されているにすぎないもので,本件記事及び被告ホームページの全体からみればわずかな相違であり,しかも,両者の間に実質的な意味の違いはないから,これをもって本件記事を改変したものと認めることはできない。

[ゲームシナリオの改変]
平成130830日大阪地方裁判所[平成12()10231]
本件改変の多くは、平仮名表記を漢字表記に変更したり、アラビア数字を漢用数字に変更したり、疑問符又は感嘆符を加えたり、改行位置を変更するものであるが、このような変更も本件シナリオの外面的表現形式に増減変更を加えることに変わりはない。しかも、本件シナリオのように、小説と同様にゲームのプレイヤーが文字で表現された文章を読む形式の著作物においては、ある語を漢字で表記するか平仮名で表記するか、疑問符・感嘆符を用いるか、改行位置をどこにするかなどの表記方法の選択も、著作者の個性を表現する方法の一つであり、これらが表現上効果を及ぼす場合もあることを考慮すれば、このような表記方法の選択も著作者の創作意図に委ねられるものというべきである。したがって、本件改変のうち、表記方法に関する改変の部分も、原告の了解を得ずにその意思に反して行った以上、同一性保持権の侵害となる著作物の改変に当たる。

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