Kaneda Copyright Agency ホームに戻る
カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

同一性保持権▶個別事例[侵害否認例](他人の逮捕動画をYouTubeに投稿した行為が問題となった事例)

令和41028日東京地方裁判所[令和3()28420]▶令和5330日知的財産高等裁判所[令和4()10118]
6 争点4-3(原告動画1の投稿等による著作者人格権侵害の成否)について
⑴ 同一性保持権の侵害について
被告は、原告において本件逮捕動画にモザイク処理と音声加工を施しこれに変更を加えていることが、被告の同一性保持権を侵害している旨主張する。
そこで検討すると、著作権法20条2項4号は、「やむを得ないと認められる改変」に該当する場合には、同一性保持権を定める同条1項の適用を除外するものである。
これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件逮捕動画の内容は、道路脇の草むらにおいて原告が仰向きの状態で警察官に制圧され、白昼路上において警察官が原告を逮捕しようとするなどして原告と警察官が押し問答となり、原告が警察官により片手に手錠を掛けられ、原告が複数の警察官に取り囲まれるなどという現行犯逮捕の状況等を撮影したものであり、原告の【名誉権、肖像権及びプライバシー権】を侵害することは、前記において説示したとおりである。そうすると、原告が、原告動画1における本件逮捕動画の引用部分について、原告の容ぼうにモザイク処理を施したり、音声加工を施したりして改変することは、上記の各権利が繰り返し侵害されることを回避するために必要な措置であるといえる。
そうすると、上記改変は、著作権法20条2項4号にいう「やむを得ないと認められる改変」に該当するものと認めるのが相当である。原告の主張の経過及び弁論の全趣旨によれば、原告の主張は、その趣旨をいうものとして理由がある。
したがって、本件逮捕動画に係る同一性保持権が侵害されたものと認めることはできず、被告の主張は、採用することができない。
⑵ 氏名表示権の侵害について
被告は、原告において被告を本件逮捕動画の著作者として原告動画1に明示していないことが、被告の氏名表示権を侵害していると主張する。
しかしながら、前提事実及び証拠並びに弁論の全趣旨によれば、①原告動画1の冒頭において「これから公開させて頂く動画は私が不当逮捕された時に通りがったパチスロ系人気YouTuberCさんに撮影されモザイクやボイスチェンジ加工等無しで面白おかしくコラージュされ他動画をSNSへ掲載され約2ヶ月で230万回も再生された動画です。」との表示がされていること、②原告動画1のうち、別の動画を引用している部分においては「当動画はYouTuberCさんにモザイク無しで掲載された動画と同等のものをプライバシー処理した動画です。」との表示がされていること、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、前記において説示したとおり、原告は、原告動画1において、引用する動画の著作者が被告であることを明示していることが認められる。
したがって、本件逮捕動画に係る氏名表示権が侵害されたものと認めることはできず、被告の主張は、上記認定事実と異なる前提に立つものであり、採用することができない。
⑶ 小括
以上によれば、本件逮捕動画に係る著作者人格権の侵害に基づく被告の請求は、いずれも理由がない。
(略)
8 争点5-2(原告動画2の投稿等による著作者人格権侵害の有無)について
上記認定事実のとおり、原告動画2において、被告動画1の一場面に本件イラストが映り込んでおり、証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件イラストの著作者が被告である旨の表示はされていない。しかしながら、前記認定事実によれば、本件イラストが映り込んだ場面は僅か数秒であり、被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれない。そうすると、本件イラストの著作者名の表示は、前記認定に係る本件イラストの利用の目的及び態様に照らし、被告が本件イラストの創作者であることを主張する利益を害するおそれがあるものとはいえず、著作権法19条3項に基づき、省略することができると認めるのが相当である。原告の主張の経過及び弁論の全趣旨によれば、原告の主張は、その趣旨をいうものとして理由がある。
したがって、原告は、本件イラストに係る氏名表示権を侵害したものと認めることはできない。
仮に、本件イラストにつき、被告が自身のシンボルである趣旨を縷々述べているところに弁論の全趣旨を踏まると、被告は、氏名表示権侵害の主張において、本件イラストのパブリシティ権侵害を主張する趣旨をいうものと善解することもできる。しかしながら、前記認定事実によれば、本件イラストに被告の人物識別機能があったとしても、本件イラストの利用は、顔出しを防ぐ手段として僅か数秒映り込んだにすぎず、専ら本件イラストの有する顧客吸引力の利用を目的とするものではないから、パブリシティ権を侵害するものではなく、上記において善解した主張も、採用の限りではない。
(略)
10 争点6-2(原告動画3の投稿による著作者人格権侵害の有無)について
⑴ 同一性保持権の侵害について
前提事実及び証拠によれば、原告動画3は、画面の一部に被告動画2の一場面を画像として掲載しつつ、テロップを付すなどの編集を加えていることが認められる。
しかしながら、前記において説示したとおり、原告は、被告が現金10万円を募金しているのに、原告には裁判で1円も払わないと反論していることを表現するために、被告動画2の各場面を画像として引用していることが認められ、その引用の態様も、公正な慣行に合致するものであり、引用の目的上正当な範囲内で行われたものと認められる。そうすると、原告は、被告動画2の性質並びにその利用の目的及び態様に照らし、やむを得ないと認められる改変であると認めるのが相当である。
したがって、被告動画2の改変は、著作権法20条2項4号に該当するものであり、同一性保持権を侵害したものとは認められず、その趣旨をいう原告の主張は、理由がある。
⑵ 氏名表示権の侵害について
前提事実及び証拠並びに弁論の全趣旨によれば、被告動画2の内容は、街中のパチンコ店が休業となっているため、自らパチンコのホールを開設してパチンコを行い、不要となった手元の現金10万円を募金したこと等を内容とするものであり、前記コラボ動画とは異なり、被告以外の者は格別登場するものではなく、その撮影アングル等を踏まえると、被告が自身の行動を撮影したものであることは明らかである。そして、原告は、被告動画2の出所につき「Cさんの回想シーン」などと示した上、原告動画3において「募金箱に入れた― プライバシーや肖像権の侵害をしておいて1円も払わず、最後の10万円を募金なんて。」等というテロップを付するなどして、本件逮捕動画をめぐる裁判において被告が原告には1円も払わないと反論しているのに、被告は10万円も募金していることを表現する目的で、被告動画2の各場面を画像として引用していることが認められ、その目的に必要な限度で被告動画2の一場面を画像として表示していることが認められる。
上記認定事実によれば、原告動画3においては、被告動画2の一場面を画像として表示するに際して「Cさんの回想シーン」との表示がされているほか、上記認定に係る被告動画2の内容及び撮影アングル等によれば、一般の視聴者の普通の注意と視聴の仕方とを基準として判断すれば、被告動画2は、被告自身が撮影したものであり、その著作者が被告であると理解することは明らかである。
そうすると、著作者の表示がされていないという被告の主張は、その前提を欠くものといえる。仮に、著作者の表示がされていないという被告の主張に立ったとしても、上記認定に係る引用の目的及び態様のほか、被告動画の上記利用によって被告に実質的な不利益が具体的に生じたこともうかがわれないことからすると、被告動画2の著作者名の具体的な表示は、前記認定に係る被告動画2の利用の目的及び態様に照らし、被告が被告動画2の創作者であることを主張する利益を害するおそれがあるものとはいえず、著作権法19条3項に基づき、省略することができると認めるのが相当である。原告の主張の経過及び弁論の全趣旨によれば、原告の主張は、その趣旨をいうものとして理由がある。
したがって、原告は、被告動画2に係る氏名表示権を侵害したものとは認められない。
[控訴審同旨]
当審における一審被告の補充主張について(反訴請求について)
ア 原告動画1について
(略)
() 著作者人格権侵害について
一審被告は、前記のとおり、①原告動画1において一審被告の著作物を利用する必要性はなく、仮に利用する必要があるとしてもそのまま本件逮捕動画を使用すれば足り、あえて映像や音声に加工を加える必要性はなく、改変を最小にしているともいえないから、原告動画1は同一性保持権侵害に当たる、②原告動画1と本件逮捕動画が明瞭区別性を欠くことを前提として、原告動画1は氏名表示権侵害に当たる旨主張する。
しかし、原告動画1における顔のモザイク処理や音声の加工は、一審原告の名誉権、肖像権及びプライバシーが侵害されることを回避するために必要な措置であることは、引用に係る原判決のとおりであるし、本件逮捕動画の引用がその目的上正当な範囲内で行われたものであることや、明瞭区別性を欠くことを前提とする主張が採用し得ないことは既に前示したとおりであるから、一審被告の上記主張は、いずれも理由がない。
イ 原告動画2について
(略)
() 著作者人格権侵害について
一審被告は、前記のとおり、原告動画2において被告動画1を引用する目的が正当なものではなく、仮に引用する目的が正当であるとしても、本件イラストが映り込んだ動画を使用する必要性はなく、本件イラストに係る氏名表示を省略することを許容されるべきではない旨主張するが、原告動画2における被告動画1の当該場面の引用が正当な範囲内で行われたものといえることは前記()のとおりであり、また、原告動画2において本件イラストが映り込んだ場面が数秒であり、こうした態様に照らせば、一審被告に実質的な不利益が具体的に生じたともうかがわれない(一審被告は、登録者数55万人を超えるYouTuberであり、その投稿動画において本件イラストを使用していることを挙げて、本件イラストの無断使用により一審被告には実質的不利益を被ったなどと主張するが、本件イラストの利用態様や本件イラストを含む被告動画1の利用目的に照らし、一審被告に具体的な不利益が生じたとはおよそ認め難い。)ことは、引用に係る原判決のとおりである。
そうすると、その利用の目的及び態様に照らし、一審被告が本件イラストの創作者であることを主張する利益を害するおそれがあるとはいえず、また、こうした氏名表示の省略が公正な慣行に反すると認めるべき事情もないから、著作権法19条3項に基づいて、著作者名の表示を省略することができるというべきである。
ウ 原告動画3について
(略)
() 著作者人格権侵害について
一審被告は、前記のとおり、①被告動画2の一場面にテロップを付す必要性はなく、同一性保持権を侵害する、②「【A】さんの回想シーン」という表示だけでは氏名表示権が要求する表示としては不十分であり、また、一般の視聴者の普通の視聴の仕方を基準として著作者が一審被告であることを明らかであると判断することは、著作権法19条1項の文言に反する独自の解釈である、③原告動画3において被告動画2を利用する目的が正当なものではなく、被告動画の一場面を画像とはいえ無断利用されることは一審被告に経済的被害が生じるから、著作権法19条3項の適用はない旨主張する。
しかし、その引用がその目的に照らし、正当な範囲を逸脱するものとはいえないことは前記()のとおりであり、被告動画2の画像の一部を掲載しつつテロップを付すことは、こうした引用の目的に照らしてやむを得ない改変であることは、引用に係る原判決のとおりであるから、原告動画3において被告動画2の一部の画像を引用し、その一部にテロップを付すことは、同一性保持権侵害に当たるものではない。
また、上記の目的のために、原告動画3において、「【A】さんの回想シーン」等を示した上で、手元にある現金10万円を募金箱に入れた被告動画2の一部の画像を複数表示しながら引用しており、引用に係る画像の内容や撮影アングルからして、引用に係る画像は一審被告が撮影したものであり、その著作者が一審被告であることは表示されているものと認められる。したがって、その他の点について判断するまでもなく、一審被告が主張する氏名表示権の侵害は認められない。

一覧に戻る

https://willwaylegal.wixsite.com/copyright-jp