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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

侵害主体論▶注目事例①(ブログ投稿サービスを提供するサイト運営者の侵害行為性が問題となった事例)

▶令和4414日東京地方裁判所[令和3()2859]
[注:本件ウェブサイトの会員は、本件ウェブサイトのブログサービスにした自身の投稿について、本件ウェブサイト上で所定の操作をすることによって自由に削除することができ、操作完了後は、被告の審査等も行われずに、即座にその内容が本件ウェブサイトに反映され、当該投稿は被告が管理するサーバーからは公衆送信されなくなる。
本件ウェブサイトの利用規約である本件規約には次の記載がある:
第5条(本サービスの利用)
ユーザーは、本サービスを利用した投稿情報については、その所有権、著作権(翻訳権その他翻案に関する権利及び二次的著作物利用権を含みます)等、すべての権利は弊社(被告)に帰属すること及び弊社がこれらを編集、加工し、本サービス及びこれに関連する他のサービス上で利用することを承諾します。また、ユーザーは弊社に対し、上記投稿情報に関する著作者人格権を行使しないものとします。
ユーザーは、投稿情報につき、弊社の裁量により掲載の許否、削除が行われることをあらかじめ承諾します。
第6条(画像・写真の投稿について)
本サービスの利用において、画像・写真・絵画・その他グラフィカルな素材(以下「本画像」といいます)を含むマテリアルを投稿することによって、ユーザーは以下のことを保証し、表明したものとします。
ユーザー自身が本画像の著作権者であるか、本画像の著作権者がユーザーに対して、本画像または本画像に含まれるコンテンツや画像を、ユーザーの使用方法及ぶ目的に合致する方法で使用することを許諾していること。
第7条(投稿に関する禁止事項及びサイトの監視)
弊社は、安全、安心なサイトを目指してサイトの監視を行っております。本サービスの利用について、たとえば以下のような投稿情報を禁止しています。・・・・
犯罪・権利侵害・不適切な行為
ユーザーが権利を有し、または権利者からの同意を得ている場合を除いて、弊社または第三者が商標権、著作権、意匠権等の知的財産権、肖像権その他の法的利益(以下、知的財産権等といいます)を有する文章、画像、写真、ソフトウェア、その他を掲載することにより、第三者または弊社の法律上の権利を侵害すること、その他、・・・・・・・・・・。
第8条(投稿の削除、拒否)
本サービスの運営に当たり、弊社は以下の権限を有します。本条項は弊社の権限を定めるものであり、義務を定めるものではありません。また、弊社は本条項に定める権限の行使、または、不行使により生じたユーザーの損害に対して、一切の責任を負いません。
弊社が、掲載前に審査し、理由を明示することなく投稿情報の掲載を拒否する権利
弊社が、本契約第7条に定めた禁止事項に違反すると判断した投稿情報及びその他弊社が不適当と判断した投稿情報を、予告なく、また、投稿者の了解を得ることなしに削除する権利。
第16条(弊社の裁量について)
弊社は、サービスの広告・宣伝・利用促進などを目的として、掲載された情報を弊社が管理するウェブサイトやメールマガジンに掲載することができるものとします。
弊社は、ユーザーの投稿情報のうち関連するものを新たな記事としてまとめて本サービス及びこれに関連する他のサービス上で紹介することができるものとします。
弊社は、投稿情報を、編集または加工して、本サービス及びこれに関連する他のサービスのために利用することができるものとします。]
被告が原告写真の複製、公衆送信等の主体であるといえるかについて
(1) 平成24年12月11日にされた本件投稿により、被告が管理運営する本件ウェブサイトのサーバーに原告写真が複製、蔵置されて記録され、自動公衆送信可能になったといえる。
原告は、平成24年12月11日に行われた本件投稿について、原告写真の複製、公衆送信等の主体が被告であることを理由として、被告に対し損害賠償を請求する。以下、本件投稿について、被告が原告写真の複製、公衆送信等の主体といえるかについて検討する。
(略)
(2)ア 本件ウェブサイトやそのためのサーバーは被告によって管理、運営されており、被告は、本件ウェブサイトを通じて登録した会員に対して、ブログサービスの会員の投稿を公衆送信する仕組みを提供していることが認められる。
イ もっとも、本件ウェブサイトのブログサービスにおいて、投稿者は、具体的な内容を決定し、投稿のために必要な文字列データを作成して、画像データを投稿したい場合は画像データも用意し、これを投稿する。
本件ウェブサイトは、だれでも無料で会員登録して会員となることができるものであり、被告と会員との間には、人的な指揮命令関係はなく、また、本件投稿も含めて、会員に対して投稿の具体的内容について、被告から指示等がされることもない。本件ウェブサイトのブログサービスには、十数個のカテゴリーが設けられているが、それらは「日記」、「クルマ」、「ニュース」、「パソコン/インターネット」、「その他」などというもので、投稿内容を制約するものではない。
投稿者が投稿をした場合、上記データが、自動公衆送信装置といえる本件ウェブサイトのサーバーに複製されて記録され、自動公衆送信可能となり、投稿が公衆送信されて本件ウェブサイトの閲覧者はその投稿を閲覧することができることとなる。これらの複製、公衆送信の前に、被告がサーバーに記録されるデータの内容を検証して、その内容に変更を加えたり、これを停止する仕組みが設けられていることや被告がそれらの内容の検証等をしていることを認めるに足りる証拠はない。
本件ウェブサイトは、車をテーマとするもので、被告により、記事等が分類されるなどして運営、管理されている。会員がブログサービスでした投稿も、そのようなウェブサイトの内容の一部を構成し、当該会員についてのウェブページの投稿一覧において、その投稿を閲覧することができるほか、当該会員の愛車登録を媒介として、投稿者が愛車登録した車種についてのウェブページにおけるブログサービスの投稿一覧等において、その投稿を閲覧することができたりする。これらにおいては、その投稿が、ブログサービスでされたものであることやその投稿者の名前(ユーザー名)がウェブページの表示からも明らかになっており、閲覧者は、それがブロブサービスでされた投稿であることやその投稿者の名前(ユーザー名)を認識して、表示されたタイトルをクリックするなどして、投稿を閲覧する。
(3) 前記(2)に記載の事情に照らせば、本件投稿は、本件投稿者が、被告の指示等もなく、自由にその内容を決定して投稿したものであり、本件投稿をしたことにより、本件投稿を契機とする被告の特別な行為を経ることもなく本件投稿による複製、公衆送信がされた。上記複製、公衆送信への被告の関与の内容や程度の小ささを考慮すると、本件投稿者は、本件投稿の複製、公衆送信をした者であり、被告はその複製、公衆送信の主体ではないと認められる。
(4)ア 原告は、本件規約において被告が投稿内容を事前に検討し、投稿記事を掲載することを拒否する権限や、投稿された記事を削除する権限があることを指摘し、被告が複製、公衆送信の主体であると主張する。
しかし、前記のとおり、本件ウェブサイトでは、被告が投稿の内容を検証、変更等する仕組みがあることを認めるに足りず、投稿者がデータをサーバーに記録し、公衆送信するための操作さえ完了すれば、自動的に閲覧ができた。
被告が投稿の内容を検証等していれば直ちに被告が複製、公衆送信の主体と認められることになるかは措くとして、少なくとも本件ウェブサイトではそれらの検証等はされていない。このような実際の仕組みを考慮すると、規約上は被告が投稿内容を吟味する権限があるとしても、複製、公衆送信への被告の関与の程度は小さく、その権限をもって、本件について、複製、公衆送信について被告が投稿内容を支配、管理等していると評価することは相当ではなく、規約上の権限は、前記の判断を左右しない。なお、投稿の消去を投稿者が自由にこれを行うことができることからすれば、被告が投稿を削除する権限を有し、かつその投稿が削除されないことをもって、被告の主体的な送信行為があると評価することも相当ではない。
イ 原告は、被告が本件ウェブサイトを運営していること、本件ウェブサイトは、被告作成部分と各投稿によるオンライン百科事典の性質を有すること、被告が本件ウェブサイトの運営により利益を得ていることなどを挙げて、被告が複製、公衆送信の主体であると主張する。
確かに、本件ウェブサイトは、車をテーマにするものであり、また、ブログサービスの投稿は、本件ウェブサイトの複数のウェブページを介して閲覧することができた。しかし、本件ウェブサイトにおいて、ブログサービスでされた投稿は、投稿者の名前(ユーザー名)と共にブログサービスにおいてされた投稿として表示されるのであり、被告が投稿の内容を検討した上で本件ウェブサイトにおける配置等をすることもない。本件ウェブサイト上の投稿の表示に対する被告の関与も限定的といえ、原告指摘の事情をもって、被告が複製、公衆送信をした事情となるとは認められない。また、前記の事情に照らし、被告が本件ウェブサイトの運営により利益を得ていることは、その判断を左右するものではない。
ウ 原告は、被告が会員の投稿の著作権等知的財産権を取得すること、これを前提に被告が投稿内容を別途、二次利用することが予定されていることを指摘し、被告が複製、公衆送信の主体であると主張する。
確かに、規約により被告は本件ウェブサイトにおける会員の投稿の著作権等の知的財産権を取得すること、被告はその投稿を削除、編集できること、投稿を編集の上別途利用できることが定められている。しかし、投稿時の複製、公衆送信の行為への被告の具体的関与は前記のとおりであり、また、その後、投稿者は、被告の何らの関与なく、投稿を削除することができる。
投稿は、本件ウェブサイトにおいて投稿者の名前(ユーザー名)と共に投稿者がブログサービスにおいてした投稿としてそのまま表示される。これらの複製、公衆送信行為への被告の関与の実態からすると、投稿された内容についての権利の帰属によって、投稿に関する複製、公衆送信の主体が決定されるとは認められない。被告に権利が帰属するとされたことにより被告が投稿内容を何らかの形で利用した記事等を作成した場合に、当該記事等の複製、公衆送信について被告が主体となることがあるとしても、本件投稿について、上記規約は前記判断を左右するものではないとするのが相当と解される。
(5) これまで述べてきたのと同様の理由により、投稿写真を公衆に提示したのは、本件投稿者であり、被告ではないと認められる。したがって、投稿写真が公衆に提示されるに当たり著作者の氏名が表示されていないことについて、被告は氏名表示権侵害の責任を負わない。

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