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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

著作権侵害総論▶侵害性一般②(依拠性/特定性)

[依拠性]
昭和5397最高裁判所第一小法廷[昭和50()324]
旧著作権法の定めるところによれば、著作者は、その著作物を複製する権利を専有し、第三者が著作権者に無断でその著作物を複製するときは、偽作者として著作権侵害の責に任じなければならないとされているが、ここにいう著作物の複製とは、既存の著作物に依拠し、その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいうと解すべきであるから、既存の著作物と同一性のある作品が作成されても、それが既存の著作物に依拠して再製されたものでないときは、その複製をしたことにはあたらず、著作権侵害の問題を生ずる余地はないところ、既存の著作物に接する機会がなく、従つて、その存在、内容を知らなかつた者は、これを知らなかつたことにつき過失があると否とにかかわらず、既存の著作物に依拠した作品を再製するに由ないものであるから、既存の著作物と同一性のある作品を作成しても、これにより著作権侵害の責に任じなければならないものではない。

平成170517日東京地方裁判所[平成15()12551]
既存の著作物の表現内容を認識し,それを自己の作品に利用する意思を有しながら,既存の著作物と同一性のある作品を作成した場合は,既存の著作物に依拠したものとして複製権侵害が成立するというべきであり,この理は,翻案権侵害についても同様である。

平成210326日大阪地方裁判所[平成19()7877]
二次的著作物に依拠したとしても,これにより原著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したとすれば,二次的著作物を介して原著作物に依拠したものということができ,原著作物の著作権を侵害することになる。

▶平成80416日東京高等裁判所[平成5()3610]
対象となる作品が原著作物に依拠して作成されたものであるか否かは、当該作品の制作者につき判断されるべき事項であるから、対象となる作品が共同制作にかかるものである場合には、共同制作者のそれぞれにつき依拠の要件を充足しているか否かを判断する必要があるが、共同制作者の全員が原著作物に接していなければならないというものでは必ずしもなく、自らは原著作物に接する機会がない場合であっても、当該作品を制作するについて他の共同制作者が原著作物に接していて、これに依拠していることを知っているような場合には、原著作物に接する機会のない者についても、同様に依拠の要件を充足しているものと認めるのが相当である。

昭和590210日東京地方裁判所八王子支部[昭和56()1486]
そもそも著作権侵害とは既存の著作物に依拠し、これと同一性或いは類似性のある作品を著作権者に無断で複製することによつて生ずるもので、仮に第三者が当該著作物と同一性のあるものを作成したとしても、その著作物の存在を知らず、これに依拠することなしに作成したとするならば、知らないことに過失があつたとしても著作権侵害とはならないものと解すべきである(昭和5397日最高裁第一小法廷判決)。従つて、依拠した結果同一性或は類似性のあるものを作成すると侵害行為となるが、たとえ依拠した場合でも換骨奪胎して同一性或は類似性のないものを作成したとすれば、侵害行為は該当しない。
そうだとすると、著作権侵害を判断するに当つては、先ず既存の著作物に依拠したか否かの点が前提となり、依拠した場合に同一性或は類似性を判断することになる。但し、第三者が既存の著作物と同一或は類似のものを作成した場合、それは依拠したことを推認する資料となりうるのであつて、それが酷似すればする程その度合は強くなるといえる。

平成140906日東京高等裁判所[平成12()1516]
何より、甲曲と乙曲の旋律の上記のような顕著な類似性、とりわけ、全128音中92音(約72%)で両曲は同じ高さの音が使われているという他に類例を見ない高い一致率、楽曲全体の3分の1以上に当たる22音にわたって、ほとんど同一の旋律が続く部分が存在すること、乙曲は反復二部形式を採用しているものの、その前半部分と後半部分に見られる基本的な旋律の構成は、甲曲の起承転結の構成と酷似していること、他方、甲曲程度の比較的短い楽曲であっても、その旋律の組立てにはそれ相応の多様な創作性の余地が残されていると解されることは前示のとおりであり、以上のような顕著な類似性が、偶然の一致によって生じたものと考えることは著しく不自然かつ不合理といわざるを得ない。そうすると、このような両者の旋律の類似性は、甲曲に後れる乙曲の依拠性を強く推認させるものといわざるを得ない。

平成250418日知的財産高等裁判所[平成24()10076]
被控訴人書籍漢方薬便覧部分の薬剤の選択及び配列は,控訴人書籍のそれの複製に当たるといわざるを得ないところ,①被控訴人書籍漢方薬便覧部分における「処方名」(合計149)の配列は,原則として50音順としているが,例外的に50音順を崩して配列した箇所が4箇所あり,その配列及び最後に生薬である「ヨクイニンエキス」を配列している点に至るまで,控訴人書籍漢方薬便覧部分と完全に同一であること,②控訴人書籍が被控訴人書籍より先に発行され,これに接する機会があったこと,③「今日の治療薬」が先駆的な書籍であったことからすると,同種の書籍を発行するに当たって,これを参考にしなかったとはいい難いこと等に照らすと,被控訴人は,控訴人書籍漢方薬便覧部分に依拠して被控訴人書籍を発行したものと推認される。

▶平成31418日大阪地方裁判所[平成28()8552]
被告デザイナーが各被告イラストを原告イラストに依拠して作成したと認められるかが問題となるが,各被告イラストが作成されたのは平成24年6月頃から平成25年3月頃であると認められ,これは原告イラストが作成されて,複数のTシャツ販売サイトに原告イラストが付されたTシャツが出品された平成23年9月よりも後のことであるから,被告デザイナーが原告イラストに接する機会はあったと認められる。
そして,各被告イラストは,表現上の本質的な特徴部分において,原告イラストに類似又は酷似しているということができるのであって,特に被告イラスト1については,原告イラストを見ずにこれをデザインしたということが実際上考え難いといえる程に似ている。
以上のように,原告イラストと各被告イラストとが類似又は酷似していることに照らせば,そのようなイラストを作成した被告デザイナーが,原告イラストを参照し,これに依拠して各被告イラストを作成した事実が推認される。
(略)
そして,仮に被告が被告商品を製造販売した際に原告イラストの存在を認識していなかったとしても,被告は被告デザイナーから,原告イラストに依拠して作成された各被告イラストの提供を受け,これを付して,被告商品を製造販売したのであるから,被告の依拠性も認められる。

平成31313日東京地方裁判所[平成30()27253]
本件イラストと被告イラストは,いずれも,互いの額を接して向き合う大小2頭のパンダを描いたものであり,2頭のパンダの姿勢,表情,大きさの比などを含めた構成が類似しており,表現上の本質的な特徴が同一である。そして,その同一性の程度は非常に高いものであるから,被告イラストは,本件イラストに依拠して有形的に再製されたものであると推認することができる。

平成301115日東京地方裁判所[平成29()22922]
本件出版物の質問票の質問と新日本版の質問票の質問は,その内容においてほぼ重なるが,これらはいずれもMMPIを翻訳したものでその内容が共通することは当然であり,その重なりによって,本件出版物の質問票が新日本版の質問票に依拠して作成されたと認めることはできない。

平成210326日大阪地方裁判所[平成19()7877]
まず,被告らが原告各イラストに依拠したものであるか否かについて検討する。ここでいう「依拠」とは,ある者が他人の著作物に現実にアクセスし,これを参考にして別の著作物を作成することをいう。
ところで,原告著書に描かれている原告各イラストは極めて多数にのぼり,被告各イラストがそれぞれ原告各イラストのうちどのイラストに依拠して作成されたものであるかを個別に特定して主張立証することは著しく困難である。他方,原告著書のように,同一のコンセプトに基づき,かつ同一の特徴を有する人物をひとつのキャラクターとして多様に表現する場合,後から描かれるイラストは,先に描かれたイラストに依拠しながら,その本質的な表現上の特徴を直接感得できるようなイラスト(すなわち,同一のキャラクターを表現していると認められるイラスト)を新たに創作するものと解される。したがって,後から描かれるイラストは,先に描かれたイラストを原著作物とする二次的著作物と見られる場合が多いと考えられる。二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じない(最高裁平成9717日第一小法廷判決)から,第三者が二次的著作物に依拠してその内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したとしても,その再製した部分が二次的著作物において新たに付与された創作的部分ではなく,原著作物と共通しその実質を同じくする部分にすぎない場合には二次的著作物の著作権を侵害したものとはいえない。しかし,二次的著作物に依拠したとしても,これにより原著作物の内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製したとすれば,二次的著作物を介して原著作物に依拠したものということができ,原著作物の著作権を侵害することになる。また,一話完結の連載漫画などとは異なり,原告著書のように1冊の著書に多数のキャラクターがイラストとして描かれている場合に,どのイラストをもって原著作物とし,どのイラストをもって二次的著作物とするかを判然と区別することは困難である。以上の点を考慮すると,本件において,原告としては個々の被告各イラストについて,原告各イラストのうち被告らが実際に依拠したイラストを厳密に特定し,これを立証するまでの必要はなく,原告各イラストのうちのいずれかのイラストに依拠し,そのイラストの内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製し又はそのイラストの表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作したことを主張立証することをもって,原告各イラストの著作権侵害の主張立証としては足りるというべきである。

[特定性]
平成9717日 最高裁判所第一小法廷[平成4()1443]
一話完結形式の連載漫画においては、著作権の侵害は各完結した漫画それぞれについて成立し得るものであり、著作権の侵害があるというためには連載漫画中のどの回の漫画についていえるのかを検討しなければならない。

▶令和2106日知的財産高等裁判所[令和2()10018]
原著作物は,シリーズもののアニメに当たるものと考えられるところ,このようなシリーズもののアニメの後続部分は,先行するアニメと基本的な発想,設定のほか,主人公を初めとする主要な登場人物の容貌,性格等の特徴を同じくし,これに新たな筋書きを付するとともに,新たな登場人物を追加するなどして作成されるのが通常であって,このような場合には,後続のアニメは,先行するアニメを翻案したものであって,先行するアニメを原著作物とする二次的著作物と解される。そして,このような二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分について生じ,原著作物と共通しその実質を同じくする部分には生じないと解するのが相当である(最高裁判所平成9年7月17日判決参照)。そうすると,シリーズもののアニメに対する著作権侵害を主張する場合には,そのアニメのどのシーンの著作権侵害を主張するのかを特定するとともに,そのシーンがアニメの続行部分に当たる場合には,その続行部分において新たに付与された創作的部分を特定する必要があるものというべきである。
この観点から検討すると,一審被告らの主張のほとんどは,原著作物のどのシーンに係る著作権が侵害されたのかを特定しない主張であって,主張として不十分であるといわざるを得ない。そして,原著作物の特定のシーンと本件各漫画のシーンとを対比させた内容を検討してみても,原著作物のシーンと本件各漫画のシーンとでは,主人公等の容姿や服装などといった基本的設定に関わる部分以外に共通ないし類似する部分はほとんど見られず(なお,共通点として説明されているものの中には,表現の類似ではなく,アイディアの類似を述べているのに過ぎないものが少なくないことを付言しておく。),また,基本的設定に関わる部分については,それが,基本的設定を定めた回のシーンであるのかどうかは明らかではなく,結局,著作権侵害の主張立証としては不十分であるといわざるを得ない。

▶平成27910日知的財産高等裁判所[平成27()10009]
特定の著作物と他の著作物との間で著作権又は著作者人格権(著作権等)の侵害の有無を判断しようとする場合,表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないときには,複製又は翻案には該当しないのであるから,著作権等を侵害されたと主張する者は,自らの著作権等が侵害されたとする表現部分を特定した上で,まず,その表現部分が創作性を有していることを明らかにしなければならない。

▶平成29628日知的財産高等裁判所[平成28()10110]
控訴人は,当審に至っても,本件情報及び本件データベースにつき具体的な特定をすることなく,かえって,これを書面で明確に特定することは不可能を強いる措置であるなどと主張して(いる)。さらに,控訴人は,本件ソフトウェアの著作権侵害についても,原審において,被控訴人ソフトウェアのソースコードが証拠として現に提出されたにもかかわらず,当審に至っても,これと本件ソフトウェアを比較対照するなどの具体的な主張を一切行っていない。(中略)
上記の事情に鑑みると,原判決が説示するとおり[注:原審では、原告の所定の請求に係る部分は,「対象の特定を欠き,不適法であるから,同請求に係る訴えをいずれも却下」することとした],控訴人の主張は,具体的な裏付けを欠くもの又は憶測の域を出ないというべきである。

▶令和2324日東京地方裁判所[平成31()10821]
原告は,本件プログラムを創作するに至ったアイディアや本件プログラムの機能について主張するが,それらについてのプログラムの著作物としての具体的な表現(ソースコード等)の主張はなく,原告が職務の空き時間に作成したと主張する本件プログラムについて,具体的な表現としてのプログラムを認めるに足りる的確な証拠はない。
[控訴審も同旨]
令和21125日知的財産高等裁判所[令和2()10027]
著作権法上の「プログラム」は,「電子計算機を機能させて一の結果を得ることができるようにこれに対する指令を組み合わせたものとして表現したもの」をいい(同法2条1項10号の2),プログラムをプログラム著作物(同法10条1項9号)として保護するためには,プログラムの具体的記述に作成者の思想又は感情が創作的に表現され,その作成者の個性が表れていることが必要であると解されるところ,控訴人は,本件プログラムの具体的記述の内容を主張立証していないから,本件プログラムが著作権法上の「プログラム」に該当するものと認めることはできない。

▶平成3121日東京地方裁判所[平成28()28925]▶令和元年1023日知的財産高等裁判所[平成31()10018]
請求及び請求原因の特定の十分性について
被告は,本訴請求及びその請求原因について,具体的な著作物の特定,創作性の要件の主張,著作権の取得原因の特定がされていないので,特定が不十分であると主張する。
しかし,本件においては,【被控訴人が著作権法114条3項の「著作権…又は著作隣接権の行使につき受けるべき金銭の額」の算定根拠として主張する本件使用料規程第3条は,有料視聴世帯数に月額20円(区域内再放送)若しくは100円(区域外再放送)又は年額120円(区域内再放送)若しくは600円(区域外再放送)を乗じた金額に消費税相当額を加算した額を地上テレビジョン放送1波当たりの使用料と定めており,視聴する著作物の数量,種類などの個別的な事情は使用料の額を左右しない。】
また,放送事業者により放送される放送番組は多数に上る上,放送番組が創作性を欠くことは通常考えられず,仮に放送番組に創作性を欠くものが含まれていたとしても,視聴する著作物の数量は使用料の額を左右しない。
本件における以上の事情に照らすと,本訴における請求の趣旨及び請求の原因の記載は請求を特定するに足りるものであるということができる。

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