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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

氏名表示権▶個別事例[侵害否認例]

平成27327日東京地方裁判所[平成26()7527]平成27106日 知的財産高等裁判所[平成27()10064]
被告ら共著論文の105頁には,原告表現の一部をほぼそのまま引用して利用した箇所があるが,当該引用部分には「5」との脚注番号が付されており,同頁の下部には,脚注「55」として,原告の氏名及び被引用文献(原告論文)の題名が記載されていることが認められる。
そうすると,ここでは,原告論文の一部が公衆に提示されるに際して,その著作者である原告の氏名が表示されているということができるから,氏名表示権の侵害があるものと認めることはできない。
この点に関して原告は,同頁の本文中に付された脚注番号「5」と下部の脚注部分の番号「55」とが異なると主張する。しかし,被告ら共著論文の103頁の本文中には脚注番号「1」が使用され,その下部の脚注部分には,「1」と記載され,同104頁の本文中には脚注番号「2」及び「3」が使用され,その下部の脚注部分には,「2」及び「3」と記載されており,これらに引き続き,同105頁の本文中には,脚注番号として「4」及び「5」が使用され,その下部の脚注部分には「4」及び「55」と記載されており,脚注番号「5」に対応する脚注部分「5」がないから,脚注部分の「55」が「5」の誤記であることは,これらの記載に接した者にとって一目瞭然であって,かかる番号の誤記を理由に,上記引用部分について原告の氏名が表示されていないということはできない。

平成28629日知的財産高等裁判所[平成28()10019]
本件書籍における氏名表示の方法は,2ページの目次の左側に「さし絵」と記載した欄があり,そこに控訴人を含む6名の氏名を列記するというものであるところ,控訴人は,本件書籍におけるように,イラストごとに著作者名を表示するのではなく,特定のページにその氏名をまとめて表示した場合,どのイラストを誰が描いたのか全く分からないから,このような方法は,著作権法19条が氏名表示権を規定する趣旨を没却するものであり,許されない旨主張する。
しかし,①本件書籍がテレビ番組に登場する主人公,武器,怪獣等を専ら子供向けに紹介する図鑑であり,本文を構成する約170ページのほとんどのページに大なり小なりイラスト又は写真が掲載されていること,②本件書籍の原書籍においても,本件書籍におけるのと同様の表示がされていたことに加え,単行本として発行される図鑑や事典において,そこに含まれるイラストの著作者が複数いる場合,イラストごとにそれに対応する作成者の氏名を表示せず,冒頭や末尾に一括して作成者の氏名を表示することも一般的に行われていると認められることに照らせば,本件書籍の内容や体裁において,イラストごとにそれに対応する作成者の氏名が表示されていなければ氏名表示がされたことにならないとまでいうことはできず,本件書籍における氏名表示の方法が,公正な慣行に反し,控訴人の本件イラストに係る氏名表示権を侵害するものであるということはできない。

▶平成170329日大阪地方裁判所[平成14()4484]
原告は,本件覚書等によって氏名表示権を行使しない旨を黙示に合意したことはないと主張し,原告は本人尋問において本件CD-ROM収録されたデジタル画像データに氏名が表示されていないことについてDに抗議したが改善されなかったと供述する。
しかし,原告は,Cの説明によって当初よりビジュアルディスクが著作権フリーの画像素材集であることを認識していたのであるから,著作権行使が初めから予定していない商品であることを当然認識していたと認められる。そして,そうである以上,CD-ROM等に著作権者の氏名が表示されない可能性があることを認識していたと認められ,このことは,本件覚書を締結する上での当然の前提事項とされていたというべきである。また,原告は,DからCD-ROMの現物を見せられた際,CD-ROM本体にも収録されている画像データにも原告の氏名が表示されないことを知っていたはずである。しかるに,原告は,そのことについて何ら異議を述べないままDへの写真の貸与を継続していた上,その間,CD-ROM等の確認を行っていなかったのであるから,原告がDに氏名の表示を求めていたとは考えられない。さらに,仮に氏名の表示を求めていたのであれば,原告は,被告Pと本件覚書を締結するにあたって,改めて被告Pに対して氏名の表示を求めるべきところ,そのような行動に出たことを窺わせる証拠はない。
そうすると,原告は,当初よりビジュアルディスクにおいてはCD-ROMやデジタル画像データに原告の氏名が表示されないことを認識し,そのことを了解していたというべきであって,本件覚書締結時においても,特段この点を指摘しなかったものである。以上の事情に照らせば,原告が許諾した本件CD-ROMの販売に関しては,原告と被告Pとの間において,原告が氏名表示権を行使しないことについて黙示の合意が成立していたというべきである。
ただし,本件覚書が解除により終了したことに伴い,上記黙示的合意も失効したというべきであるから,その後において原告の氏名を表示しないまま本件CD-ROMを販売することが原告の氏名表示権を侵害するものとなることは当然である。

▶令和3611日東京地方裁判所[令和1()30491]▶令和3122日知的財産高等裁判所[令和3()10056]
本件著作物に係る著作権の放棄【又は複製若しくは氏名不表示の許諾】並びに著作権法64条1項及び65条2項の合意について
(1) 前記のとおり,被告は,IAFOR[注:International Academic Forum]から,被告がACSET[注:「第4回社会,教育及びテクノロジーに関するアジア学会2016」のこと]で発表した内容を本件ウェブサイト内に掲載することを希望するのであれば,期限までに原稿を提出しなければならない旨の連絡を受けたこと,被告は,短期間のうちに上記原稿を英語で作成する必要があったところ,被告の夫である原告及び友人であるCは英語を母国語としていたことから上記原稿の作成の協力を依頼し,原告及びCは,被告のためにこれを引き受けたこと,原告及びCは,本件著作物のテーマである学際教育等に関しては専門外であり,本件著作物【及びその各草稿(草稿の一部である甲7の5を除く。)】の作成は,同人らのキャリア等にとって有益なものではなかったこと,原告及び被告が作成した本件骨子並びに原告及びCが作成した本件著作物の各冒頭には,本件タイトル並びに被告の氏名及び所属が記載され,原告及びCの各氏名は記載されていなかったこと,被告は本件著作物の内容を確認し,これに若干の修正を施した本件論文を作成してIAFORに提出し,その後,平成28年12月【8日】に,本件論文が被告の氏名を著作者名として表示して本件ウェブサイト内に【掲載されたところ,被控訴人[注:原審の「原告」]は翌9日にその旨を告知するIAFORからのメールを控訴人[注:原審の「被告」]に転送したこと】,原告と被告の夫婦関係が悪化して,別居を開始し,両者の間で調停等の申立てや訴訟の提起がされるようになったのは,上記の後である平成31年以降であることが認められる。
【これらによると,被控訴人は,本件著作物に基づいて本件論文を作成すること及び本件論文の著作者として被控訴人の氏名のみを表示し,これをIAFORに送付して,そのような本件論文を本件ウェブサイト内に掲載させることを当然の前提として,控訴人及びAに対し本件著作物の作成を依頼し,また,控訴人及びAも,被控訴人が本件著作物に基づいて本件論文を作成すること及び被控訴人が本件論文の著作者として被控訴人の氏名のみを表示し,これをIAFORに送付して,そのような本件論文が本件ウェブサイト内に掲載されることを当然の前提として,被控訴人から本件著作物の作成を引き受けたものと認められる。したがって,控訴人は,Aとの間で,本件著作物の複製を被控訴人に許諾する旨及び被控訴人が本件著作物を公衆に提示するに際して控訴人の氏名を著作者名として表示しないことを被控訴人に許諾する旨を合意した上,被控訴人に対し,当該各許諾(以下「本件各許諾」という。)をしたものと認めるのが相当である。】
(2) これに対して,原告は,研究者の論文に係る著作物の利用許諾等の際に作成されるはずの書面が作成されていないこと,本件論文が本件ウェブサイト内に被告の氏名を著作者名として表示して掲載されていることを原告が知ったのは平成30年12月頃になってからであることからすると,原告は,被告が本件著作物を複製することを許諾し,本件著作物の公衆への提示に際して原告の氏名を著作者名として表示しないことをCとの間で【合意するなどしていない】と主張する。
しかし,上記について,共同著作者の合意(著作権65条2項,64条1項)は書面でもってされなければならないものではないし,研究者の論文に係る著作物の利用許諾等の際に書面が作成されることが多かったとしても,原告は被告の夫であり,Cは被告の友人であったことからすると,このような書面が作成されなかったとしても不自然ではない。
また,上記について,前記(1)の原告及びCが本件著作物を作成するに至った経緯に加え,原告が被告から原稿の作成の協力を依頼されたのは,原告と被告が結婚式を行ってから間もない時期であり,この当時,夫婦関係に特段の問題があったことはうかがえないこと,被告は,平成28年12月9日,原告に対し,【本件論文が本件ウェブサイト内に掲載された】旨のIAFORからのメールを転送していること【,控訴人自身,原審本人尋問において,平成29年12月頃には被控訴人の氏名のみを著作者名として表示する本件論文が発表されたことを知った旨供述していること】からすると,本件論文が被告の氏名を著作者名として表示して本件ウェブサイト内に掲載されていたことを平成30年12月頃に至るまで原告が知らなかったとは,およそ考え難い。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(3) 以上のとおりであるから,被控訴人が,引用する原判決に摘示の行為をしたからといって,控訴人の複製権又は氏名表示権を違法に侵害するということはできない(なお,控訴人は,被控訴人が日本学術振興会に対して本件論文の報告をしたことに関し,本件著作物の公衆への提供又は提示がないことを認める旨の主張をしている。)。】

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