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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

氏名表示権▶個別事例[侵害認定例]

▶令和4127日大阪地方裁判所[令和2()11834]
[事案の概要:本件は,イラストレーターである原告が,自己の著作物である別紙記載のイラスト(「本件イラスト」)を被告が無断で複製した上,原告のペンネームとは異なる著作者名によりテレビ番組の企画に応募するなどし,同番組において上記著作者名を表示して本件イラストが放送されたことにより,本件イラストに係る原告の著作権(複製権,公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)が侵害されたとして,被告に対し,上記番組に係る放送局及び番組制作会社との共同不法行為(民法719条1項)に基づく損害賠償等の支払などを求める事案である。]
2 前提事実
(1) 当事者等
原告は,「X1」のペンネーム(以下「原告筆名」という。)でイラストレーター等として活動する者である。
被告は,大阪府内に居住する者である。
日本テレビ放送網株式会社(以下「日テレ」という。)は,テレビ番組「明石家さんまの転職 DE 天職」(以下「本件番組」という。)の制作を統括し,これを自ら放送し又は全国の系列局に放送させたものである。
株式会社いまじん(以下「いまじん」という。)は,日テレから本件番組の制作業務の委託を受け,これを行ったものである。
(略)
(3) 被告の行為等
日テレは,令和元年12月1日,本件番組に係る公式サイトに「絵画投稿募集」のフォーム(以下「本件募集フォーム」という。」)を設置し,作品の募集を行った。被告は,これを通じて本件イラストを応募し,いまじんに本件データを提供した(以下「本件応募行為」という。)。
いまじんは,被告から提供を受けた本件データを更に複製して本件番組の制作業務を行った。その際,被告は,いまじんに対し,本件イラストの著作者の筆名が「X2 45歳」である旨を伝えた。いまじんは,本件番組で本件イラストを取上げるにあたり,画商に著名作品の盗作でないことを確認すると共に,被告に対して電話で筆名の確認等をしたものの,それ以上に,本件イラストの著作者につき,インターネット上での画像検索その他の方法による確認・調査を行わなかった。この点は,日テレも同様である。
本件番組は,令和2年4月26日午後7時~午後9時54分の間,日テレ及びその系列局により放送されたところ,本件イラストは,「X2 45歳」を著作者名として表示して,同日午後7時13分頃から約19秒間取り上げられた。
(略)
第4 当裁判所の判断
1 認定事実
前提事実に加え,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる。
(1) 本件応募行為等
本件応募フォームには,冒頭の「明石家さんまに自分の絵をプロデュースしてほしい方大募集!」との記載と共に,白抜きの赤字で「オリジナル作品に限ります」との記載(本件注意書)がされていた。
被告は,上記のような本件応募フォームを通じて本件応募行為を行うに際し,本件データを複製した上でこれをいまじんに提供した。また,被告は,いまじんから本件イラストを本件番組で放送することに関して確認等を受けた際,本件イラストの作成者のペンネームが「X2」である旨を伝えた。
被告は,本件応募行為等に関し,原告の許諾を得ていなかった。
(略)
2 検討
(1) 著作権及び著作者人格権の侵害
ア 前提事実によれば,原告は,本件イラストの著作者として,その著作権及び著作者人格権を有する者と認められる。
にもかかわらず,被告が,本件応募行為等に際し,本件データを原告に無断で複製していまじんに提供し,また,いまじんに対し本件イラストの著作者が「X2」である旨を伝えたことにより,本件番組の放送に際してはその旨の表示がされ,原告の実名又は原告筆名は著作者として表示されなかった。
イ 被告の故意又は過失の有無(争点1)
被告は,本件イラストの著作者ではなく,また,その主張を前提としても,SNS を通じて知り合っただけの人物から同人の作品としてデータの提供を受けたにとどまる。
本件応募フォーム,とりわけ本件注意書の記載内容(前記1(1))に鑑みれば,本件番組がオリジナル作品の制作者本人による応募を前提とするものであることは容易に理解される。また,この趣旨を踏まえれば,仮に制作者本人以外の者が応募する場合であっても,応募者が制作者本人の承諾等を得た上で応募すべきことが求められることも,やはり容易に理解し得る。さらに,日テレ及びその系列局で本件番組が放送されること及び放送日時等も踏まえれば,本件番組が多くの視聴者により視聴されることも容易に予想される。
他方,昨今のインターネットをめぐる状況を踏まえると,SNS その他ウェブサイト等を通じて,他人が作成したイラスト等の画像データを入手することは事実上容易であり,また,検索サイトによる画像検索等の方法により特定の画像の制作者等を特定することは,特別の専門的知識等がなくとも比較的容易である。
以上のような事情を踏まえれば,被告は,本件応募行為等に際し,本件イラストに係る他人の著作権及び著作者人格権を侵害することのないよう,インターネット上の画像検索等の客観性を有する適切な方法により,その著作者ないし著作権者を確認すべき注意義務を負っていたことが認められる。にもかかわらず,被告は,その主張を前提としても,単に被告に本件データを提供した人物(P3)に本件イラストが同人の作品であることなどを直接電話等で確認したにとどまる。そうである以上,被告には,本件イラストに係る著作権(複製権)及び著作者人格権(氏名表示権)の各侵害行為について,少なくとも過失が認められる。これに反する被告の主張は採用できない。
ウ 小括
したがって,被告の行為は,本件イラストに係る原告の著作権(複製権)及び著作者人格権(氏名表示権)侵害の不法行為と認められ,被告には,日テレ及びいまじんと共に,著作権(複製権,公衆送信権)及び著作者人格権(氏名表示権)侵害の共同不法行為が成立する。
(2) 原告の損害額(争点2)
ア 著作者人格権(氏名表示権)侵害による損害額
被告は,本件応募行為等を行うにあたり,著作者として原告筆名を表示しなかったにとどまらず,事実と異なる「X2 45歳」なる表示をさせた点で,氏名表示権の侵害態様としてはより悪質である。
また,本件番組が著名タレントである明石家さんまが出演し,その名を冠したいわゆる冠番組であることや,放送された地域的範囲,日時及び本件番組内で本件イラストが紹介された時間帯に鑑みると,多く視聴者が本件番組を視聴していたことは容易に推察され,実際,そのようなデータが示されている。さらに,本件番組内で本件イラストが紹介された際,明石家さんまが,本件イラストの制作者として表示された「X2 45歳」につき,その年齢等に着目した発言をしたこと(同前)等により,当該表示は視聴者に明確かつ具体的に印象付けられたことがうかがわれる。
もっとも,本件番組内で実際に本件イラストが取り上げられた時間は約19秒という短時間にとどまる。また,本件番組における本件イラストの取り上げられ方は,著作者の表示の点はさておき,作品そのものについては積極的な評価を示すものであり,本件イラスト及びその著作者の社会的声望を低下させるような内容ではなかったことがうかがわれる。
これらの事情を総合的に考慮すると共に,原告と日テレ及びいまじんとの間では本件に関連する紛争が解決済みであること(当裁判所に顕著)なども加味すると,被告による著作者人格権(氏名表示権)侵害によって原告に生じた精神的苦痛を慰謝すべき慰謝料は,30万円をもって相当と認められる。

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