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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

著作者人格権▶侵害総論

▶平成161104日大阪地方裁判所[平成15()6252]
著作権法によって保護されるのは、思想又は感情の創作的な表現であり、思想でもアイデアでも事実でもない。したがって、学術研究における実験の結果やそこから得られた知見といった、学術研究の成果そのものは、著作権法による保護の対象とはならないものである(勿論、学術研究の成果を他者が盗用し、自らのものとして発表するような行為は、それ自体、一般の不法行為となり得る場合もあるであろうけれども、著作権法が保護するのは表現自体であるから、表現そのものを盗用しない限り、著作権法上の権利を侵害するものとはならない。)。
したがって、被告が被告論文を作成し、発表したことが、原告論文についての原告の著作者人格権としての氏名表示権及び同一性保持権を侵害したものであるか否かを判断するためには、原告論文と被告論文の表現を比較すべきものであって、そこに記載されている研究の過程や成果についての内容を比較すべきものではない。

▶平成170428日大阪高等裁判所[平成16()3684]
被告論文に,原告論文に記載されているのと同一の自然科学上の知見が記載されているとしても,自然科学上の知見は表現それ自体ではないから,このことをもって直ちに被告論文が原告論文の複製又は翻案であるとはいえず,原告の著作者人格権が侵害されたということもできない。被告が被告論文を作成し,発表したことが,原告論文についての原告の著作者人格権としての氏名表示権ないし同一性保持権を侵害したものであるか否かを判断するためには,原告論文の表現と被告論文の表現とを対比するのが相当であって,両論文に記載されている自然科学上の知見,すなわち研究の過程や成果についての内容を対比すべきものではない。

▶平成150909日東京地方裁判所[平成14()17648]
著作者人格権は,有体物としての書籍(本)そのものを保護の対象としているわけではなく,その書籍に文字や写真やイラストなどをもって固定されている表現内容などが著者に無断で変更されたり,使用されたりしないよう保護しているものであるところ,本件では,有体物としての書籍(本)そのものを除籍して廃棄したもので,その書籍の表現内容などに変更を加えたりしたものではないから,原告らの著作者人格権ないしは著作者の人格権そのものを侵害したという事案ではない。

▶昭和571210日東京地方裁判所[昭和57()8975]
科学等の著述をなすに際し、その分野の先行文献を引用するか否かは、本来該当著述者の自由にまかされているものであつて、先行文献の引用が適切にされていない場合に、引例の不適切としてその著述の内容ひいてはその著述者の学識に対する低評価等がもたらされることがありうることは格別として、著作権法上は先行文献を著述において引用(使用)していない以上当該先行文献の著作者の著作者人格権の侵害が問題となることはないことが明らかである。
したがつて、本件著作物が引用されていないことをもつて著作者人格権の侵害であるとの立論に基づく原告の本訴請求は、失当といわざるをえない。

▶平成51207日東京高等裁判所[平成5()989]
そもそも、「著作者人格権」というのは、著作権法が18条の公表権、19条の氏名表示権と20条の同一性保持権の三権を指称する単なる定義用語にすぎないものであり(同法17条)、その用語から直ちに、同一性保持権が生命権、名誉権等と同じく講学上いわれる人格権であるとして、それに基づく差止請求権を非財産権上の請求であると結論づけることはできないが、同一性保持権は、著作者がその思想又は感情を創作的に表現した著作物をその意に反して改変を受けない権利であるから、その権利は、名誉権あるいは思想・表現の自由権等に類する人格権であるということができる。
そして、人格権は人格的属性をその対象とし、第三者の侵害からこれを保護することを内容とするものであって、経済的利益を受けることを直接の内容とする権利ではない。したがって、人格権に基づく差止請求によって原告が直接得る利益は、第三者による侵害から人格を保護し得た利益であり、特別の事情の認められない限り、これによって直接経済的利益を受けるということはできない。
(中略)原告の本訴請求が理由ありとされるときは、被告プログラムの記憶媒体の製造、頒布は、本件著作物の同一性保持権を侵害すると同時に原告の有する著作財産権の侵害を生ずる可能性があるといえるが、著作財産権と著作者人格権とは、それぞれ保護法益を異にし、かつ、法的保護の態様を異にするものであって、訴訟物を異にするから、著作財産権をも侵害することを理由に、著作者人格権に基づく本訴差止請求をもって原告が直接経済的利益を得ることを目的とする請求ということはできない。

▶平成200611日東京地方裁判所[平成19()31919]
複製にも翻案にも当たらない著作物は,同一性保持権を侵害するものでもない。

▶平成260314日東京地方裁判所[平成25()26251]
原著作物の本質的な特徴を感得させないような態様における使用には,原著作者の氏名表示権(著作権法19条)も及ばないと解すべきである。

▶令和3326日東京地方裁判所[平成31()4521]
そもそも,被告らが原告記述部分及び原告ワークブック全体の構成を複製又は翻案したものであるとは認められず,氏名表示権及び同一性保持権の侵害をいう原告Aの上記主張は,その前提を欠くものである。

▶令和4415日東京地方裁判所[令和3()23928]
(「原告が主張する損害は、精神的損害を含め、写真の使用料相当額の支払によって回復されるのが通常である」との被告の主張に対して)被告の前記の各行為により、原告写真1及び2に係る原告の著作者人格権である同一性保持権及び氏名表示権が侵害され、原告はこれにより精神的苦痛を被ったものであり、原告に生じた精神的損害は、写真の使用料相当額の支払によって慰謝される性質のものではない。
(「原告は、慰謝料の算定根拠を明らかにしていない」との被告の主張に対して)慰謝料の額は、諸般の事情を考慮して、裁判所が裁量により定めるものであるから、原告は、その判断の基礎となる事情を主張立証すれば足りるというべきである。

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