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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

二次的著作物▶個別事例①(ゲームショーでのゲームプレイを撮影して動画にしたもの)

▶令和3423日東京地方裁判所[令和2()5914]
本件原告動画の著作物性(「二次的著作物」該当性))について
ア 「二次的著作物」については,「著作物を」「翻案することにより創作した著作物」であると定義されており(著作権法2条1項11号),二次的著作物の著作権は,二次的著作物において新たに付与された創作的部分のみについて生じる(最高裁判所平成9年7月17日第一小法廷判決参照)。そうすると,本件原告動画が本件プレイ動画の二次的著作物として著作物性を有するといえるためには,本件プレイ動画の具体的表現に修正,増減,変更等を加えることにより,本件プレイ動画における創作的表現とは異なる新たな創作的表現が付与されていることを要するものと解するのが相当である。
以上を前提に,本件原告動画が二次的著作物として著作物性を有するか否かを検討する。
イ 証拠及び弁論の全趣旨によれば,本件プレイ動画(本件原告動画中に含まれる部分)及び本件原告動画の各表現は,以下のとおりであると認められる。
() 本件プレイ動画
本件ゲームの進行に応じて本件ゲームの画面が順次表示され,それによって動きのある連続的な影像となっており,本件ゲームに収録された背景音楽,音声及び効果音が,本件ゲームの進行に応じて再生される。
具体的には,まず,冒頭から再生時間0分27秒頃まで,白い背景に,株式会社ナムコのロゴマークや本件ゲームのタイトル画面,本件ゲームをプレイする際の注意事項が表示される。その後,本件ゲームのプレイが開始し,そのプレイの様子,すなわち,宇宙空間を自在に飛行する飛行体のコックピットからの視点で,プレイヤーが,来襲する飛来物に照準を合わせて撃墜したり,宇宙空間を航行したりする様子が,一連の連続的な影像として表示される(なお,その一連の影像において,その途中の部分が削除されたとは認められない。)。そして,再生時間5分55秒頃に,敵キャラクターがプレイヤーに襲い掛かろうとする様子が映し出された後,画面が静止して徐々に白く切り替わり(いわゆるホワイトアウトの演出),「To Be Continued」の文字やスコア等が表示される。さらに,「お疲れ様でした。」などの表示がされ,再生開始から6分12秒後に終了する。
() 本件原告動画
画面の中央において,本件ゲームのプレイ中に本件ゲーム機の筐体内部の画面上に表示される影像(本件プレイ動画)がスクリーン上に略円形状に投影されている様子が映されており,その上下には,それぞれ,本件プレイ動画の投影部分にやや重なるように機材が映り込み,その余の部分は押しなべて黒一色となっている。そして,本件ゲームショーの来場者のカメラのフラッシュが映り込むことにより,瞬間的に白く変化することが複数回あり,本件ゲームに収録された背景音楽,音声及び効果音に加えて,本件ゲームショーの来場者の話し声が再生される。
また,本件プレイ動画,映り込んだ上記機材及びその余の黒い部分の配置は本件原告動画の全体を通じて固定的であり,動画の撮影角度に変化はなく,ズーム・インやズーム・アウトされた様子はうかがわれない。
ウ 前記イ()の本件プレイ動画の内容と前記イ()の本件原告動画の内容を対比すると,本件原告動画の影像及び背景音楽等は,本件プレイ動画の影像及び背景音楽等に対し,①動画全体にわたって,画面の中央部に据えられた本件プレイ動画の影像の上下部分に機材が映り込んでおり,その余の画面の部分が黒一色となっている点,②動画の一部において,来場者の話し声が本件プレイ動画の背景音楽等に混じり,撮影の際のフラッシュによって映像が白くなっている点において,本件プレイ動画に変更が加えられているものと認識することができる。
しかしながら,前記前提事実のとおり[(注)原告は,本件ゲームショーを訪れたところ,本件ゲームショーでは,株式会社ナムコがその業務用のゲーム機(「本件ゲーム機」)を出展し,同日,本件ゲームショーの来場者向けに,本件ゲームのプレイ中に本件ゲーム機の筐体内部の画面上に表示される影像及び本件ゲーム機から流れる音を,会場内の同社の展示場所でプロジェクターに映す形で公開した(こうして映写された,プレイ中に本件ゲーム機の筐体内部の画面上に表示される影像及び本件ゲーム機から流れる音からなる動画を「本件プレイ動画」という。)。原告は,本件ゲームをプレイする様子を取材する一環として,プロジェクターに映し出された本件プレイ動画を,手持ちの撮影機材で撮影して保存した。そして,原告は,本件プレイ動画を撮影して保存した動画をもとに,再生時間6分12秒の動画(「本件原告動画」)を作成した。],本件原告動画は,本件ゲームショーでの本件ゲームのプレイ状況を取材する一環として,本件ゲームのプレイ中に本件ゲーム機の筐体内部の画面上に表示される影像すなわち本件プレイ動画が映し出された会場内のプロジェクターの画面を撮影して,動画として保存し,これをもとに作成されたものである。このような本件原告動画の作成状況に照らすと,上記①のように,本件プレイ動画に加えて機材が映り込み,また,その余の画面の部分が黒一色となるという点や,上記②のように,来場者の話し声が入り,フラッシュによって映像が白くなることがあるという点は,本件原告動画を作成する者の意図とは関係なく加わったものであるといえる。そうすると,上記の①及び②の点は,いずれも,作成者の個性が現れたものとはいえないから,本件プレイ動画に対し,その創作的表現とは異なる新たな創作的表現を付与するものとは認められず,二次的著作物としての創作性を生じさせるような事情とはならないというべきである。
() 原告は,本件原告動画について,本件プレイ動画を撮影した動画から,本件ゲームを紹介する記事として適した部分を抽出して,不要な部分を削り,②当時のインターネット通信環境下で公開するのに適した画素数に調整し,③音声部分のノイズカットを施すなどの編集を行って作成したものであるから,本件原告動画は創作性を有すると主張する。
しかしながら,原告の主張を前提としても,原告の上記ないしの行為により,本件ゲームの影像及び音における創作的表現とは異なる新たな創作的表現が付与されたものとは認めることができないというべきである。
すなわち,まず,上記①についてみると,本件原告動画の内容は前記のとおりであるところ,前記のとおり,本件原告動画に含まれる本件プレイ動画は,開始から全て一連一体のものと認められ,その途中が削除された箇所は特段見当たらないから,原告が行った抽出作業とは,本件プレイ動画を中心に据えたプロジェクターに映し出された画面を撮影した動画の全体のうち,本件原告動画に含まれている部分の前後の部分を削除したという行為にすぎないというべきである。そして,原告が,このような加工を施したとしても,それにより作成される動画は,本件プレイ動画の忠実な再現の域を出るものではなく,原告の個性の発現は認められない。したがって,上記①の行為は,原著作物である本件プレイ動画の表現に修正,増減,変更等を加えるものとはいえず,仮に,表現に修正等を加えたものと評価できるとしても,本件プレイ動画の創作的表現とは異なる新たな創作的表現を付与するものとは認められないというべきである。
次に,上記②についてみると,画素数を調整する編集行為により,画面に映し出される影像の明瞭さに差異が生じる可能性はあるものの,前記イ()で認定した本件プレイ動画の表現自体を実質的に変更するも のではない。そうすると,原告が施した画素数を調整する行為について,本件プレイ動画の創作的表現とは異なる新たな創作的表現を付与するものとは認められないというべきである。
さらに,上記③についてみると,音声部分のノイズをカットすればするほど,本件ゲームに収録された背景音楽,音声及び効果音を聴き取りやすくなる一方,同ノイズをカットする作業により,本件ゲームに収録されたものとは異なる背景音楽,音声及び効果音が加えられるわけではない。そうすると,原告の上記③の行為は,本件プレイ動画をできる限り忠実に再現する行為の域を出るものではなく,本件プレイ動画の創作的表現とは異なる新たな創作的表現を付与するものとは認められないというべきである。
このように,原告の上記①ないし③の行為は,いずれも,本件プレイ動画の具体的表現に修正,増減,変更等を加えることにより,本件プレイ動画における創作的表現とは異なる新たな創作的表現を付与するものと評価することはできない。
その他,本件全証拠によっても,原告が,本件原告動画を作成するに当たり,本件ゲームの影像における創作的表現とは異なる新たな創作的表現を付与したとは認められず,原告の上記主張は採用することができない。
() また,原告は,本件原告動画の作成に当たり,本件ゲームの公表情報や発表会の実施日程に関する情報を事前に入手したこと,株式会社ナムコの担当者から,本件プレイ動画の撮影に関して許可を受けたこと,③取材方法や撮影アングルなどを検討の上,撮影機材を取捨選択して,本件プレイ動画の撮影をしたことに創作性が表れていると主張する。
しかしながら,上記①及び②の各行為は,いずれも,本件原告動画を作成するための準備行為にとどまり,表現行為そのものではないから,本件原告動画に創作的表現が付与されたことの根拠にはならない。
また,上記③について検討すると,前記イで認定した本件プレイ動画及び本件原告動画の各表現に照らし,本件原告動画は,本件プレイ動画の全体が撮影できるように,本件プレイ動画が投影されたスクリーンの正面に撮影機材を配置し,撮影機材が動かないよう固定した上で,撮影されたものと推認される。そして,前記前提事実のとおり,原告は,本件ゲームをプレイする様子を取材する目的で本件原告動画を作成したものであり,その目的を達するためには,通常,見る者に本件ゲームのプレイの様子が分かりやすいように撮影する必要があるといえる。
そのような観点から本件原告動画を検討すると,同動画は,本件プレイ動画を,真正面から,始終固定的なアングルで撮影し続ける必要があるため,撮影条件が許す限り,誰が撮影しても同様のものとなることは明らかであり,そこにおいて個性の現れは認め難いというべきである。そうすると,上記の撮影手法によって作成された動画は,原著作物である本件プレイ動画に新たな創作的表現を付与するものとは認められない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(2) 小括
よって,本件原告動画に本件プレイ動画における創作的表現とは異なる新たな創作的表現が付与されたとはいえないから,本件原告動画は,本件プレイ動画を原著作物とし,これを「翻案」して作成された「二次的著作物」 (著作権法2条1項11号)として著作物性を有するとは認められない。

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