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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

映画著作物の侵害性▶個別事例①(SNSゲーム/トレーディングカードゲーム

▶平成251129日東京地方裁判所[平成23()29184]▶平成27624日知的財産高等裁判所[平成26()10004]
原告は,原告ゲーム全体と被告ゲーム全体とを対比すると,以下の部分において共通しており,当該部分は創作的な表現であり,著作物性が認められるから,著作権侵害が認められるべきである旨主張する。
① 利用者は,「選手ガチャ」及び「スカウト」を実行して,所持する選手カードを増やしていく。併せて,「スカウト」の実行により,利用者のレベルを上げるため必要な経験値や下記②の強化に必要なポイントを獲得する。
② 利用者は,上記①によって集めた選手カードのうち強化したい強化選手カードを選択し,かかる強化選手カードに他の選手カードを併せることで,強化選手カードのレベルを上げ,所持する選手カードを強化していく。
③ 自己の望んだ選手カードや能力値の高い選手カードなどを入手した場合などは,現在の野手オーダーや投手起用法(先発,中継ぎ,抑え)を見直し,オーダーの入れ替えを行う。
④ 利用者は,上記①ないし③によって作成,強化した自己のチームを,携帯電話回線等を通じて,他の利用者などのチームと対戦させる。これによって,上記②の強化に必要なポイントを獲得できる。
⑤ 利用者は,上記選択肢のうち必要と思われる行為を適宜選択し,これを繰り返しながらチームを強化し,理想とするチームを作り上げていく。
確かに,原告ゲームが「選手ガチャ」,「スカウト」,「強化」,「オーダー」及び「試合」(リーグ)の五つの要素からなり,それらの各要素が相互に関係するように構成されており,先に認定した上記各要素の具体的内容によれば,原告ゲームは,大要,上記①ないし⑤の各表現を有するものであることが認められる。また,被告ゲームが「ガチャ」,「ミッション」,「オーダー」,「強化」及び「試合」の五つの要素からなり,それらの各要素が相互に関係するように構成されており,先に認定した上記各要素の具体的内容によれば,被告ゲームも,大要,上記①ないし⑤の各表現を有するものであることが認められる。
しかし,まず,原告ゲームと被告ゲームとの間に原告の主張する上記①ないし⑤の共通点があるとしても,原告ゲームと被告ゲームは具体的表現において相違点が多数認められるところであるから,被告ゲームは原告ゲームの複製には当たらない。
また,そもそもゲームソフトは通常の映画とは異なり,利用者が参加して楽しむというインタラクティブ性を有しているため,利用者が必要とする情報を表示し,又は利用者の選択肢を表示するための画面や操作手順を表示する必要があるところ,このような利用者の便宜のための画面や操作手順は,利用者の操作の容易性や一覧性等の機能的な面を重視せざるを得ないため,作成者がその思想・感情を創作的に表現する範囲は自ずと限定的なものとならざるを得ないばかりか,特に,本件における原告ゲーム及び被告ゲームは,野球という定型的で厳格なルールの定められたスポーツを題材とし,しかもプロ野球界の実在の球団及び選手を要素として使用し,かつトレーディングカードという定型的な遊び方のあるゲームを前提として構成されたSNSゲームであるから,そこには,野球というスポーツのルールに由来する一定の制約,プロ野球界の実在の球団及び選手の画像等を利用することに由来する一定の制約,トレーディングカードゲームの形態やルールに由来する一定の制約があるから,特に特徴的な点あるいは独自性があると認められない限り,創作性は認められないというべきである。
そして,原告の主張する上記①ないし⑤の内容は,飽くまでプロ野球選手カードゲームを題材とするSNSゲームとしての遊び方,進行方法若しくはゲームのルールであって,それ自体アイデアにすぎず具体的表現とはいえないし,仮に上記①ないし⑤の内容を何らかの表現と捉えるとしても,上記制約があることを考慮すると,原告ゲームに特徴的な点あるいは独自性があるとも認められないというべきであるから,原告ゲームと被告ゲームとの間に上記①ないし⑤の共通点があることをもって,被告ゲームは原告ゲームの翻案に当たるとはいえないと認めるのが相当である。
[以下、控訴審]
(2)  選手ガチャにおける著作権侵害の成否について
ア 選手ガチャにおける表現の内容
証拠によれば,控訴人ゲームと被控訴人ゲームにおける「選手ガチャ」は,別紙「選手ガチャ」のとおりであり,その動画の一連の表現は,原判決のとおりであるから,これを引用する。なお,各動画の長さ(クリックしてから終わりまで)は,控訴人ゲームが約2.7秒,被控訴人ゲームが約3.2秒である。
イ 控訴人ゲームと被控訴人ゲームの選手ガチャの対比
() 別紙「選手ガチャ」及び前記アの認定によれば,控訴人ゲームと被控訴人ゲームとは,黒色の画面上に白を基調としたパッケージが現れ,クリックすると当該パッケージの上部に左から右へと高速で白色の光線が走り,当該部分が左から右へ水平方向に切り取られて開封され,すると,パッケージ内に在中して既にカード上端が露出している選手カードがせり上がり,当該パッケージの開封部から当該選手カードの上部背景が露出し,続けて,当該パッケージが下方向に移動して画面下部に消えるとともに,当該選手カードは当該パッケージから上方向に移動するという一連の流れの点,最終的に選手カードが出現する直前に画面全体が一瞬白く光る点,その後,当該選手カードが上部に「NEW」という表記を伴って画面上に現れ,その背景には金色の後光が差している,という点において,共通している。
() 他方,別紙「選手ガチャ」,前記アの認定及び(証拠)によれば,控訴人ゲームと被控訴人ゲームの選手ガチャは,まず,パッケージのデザインは大きく異なる。また,上記共通点に当たる一連の流れの中でも,個々の具体的な動きについては,次の点で相違する。すなわち,両ゲームは,パッケージの登場の仕方(控訴人ゲームにおいては,パッケージがふわふわと浮遊し,クリックされると前方にせり出して大きくなり,固定されるのに対し,被控訴人ゲームにおいては,パッケージは終始固定され,クリックされてもサイズや位置の変更はされない。),パッケージの切り取られた部分の破り捨てられ方(控訴人ゲームにおいては,切り取られた部分が右向きに90度回転してから右上方向に移動するようにして破り捨てられるのに対し,被控訴人ゲームにおいては,切り取られた部分はそのまま水平方向に移動するようにして破り捨てられる。),カードのせり上がりの程度(控訴人ゲームにおいては,選手カードがその背景上部が若干見える程度にせり上がるのに対し,被控訴人ゲームにおいては,球団のロゴマークや稀少度を示す背景が判別できる程度に上部を露出させるまでせり上がる。),選手カードの消え方及び現れ方(控訴人ゲームにおいては,選手カードはパッケージ内から白色となって現れ,そのまま光りつつ回転しながら上昇し,画面全体が白く光った後に突然画面中央に表れ,ふわふわと浮遊するのに対し,被控訴人ゲームにおいては,パッケージが下方向に移動して画面下部に消えるとともに選手カード全体が徐々に白くなり,白色になると急激に選手カードが上昇して画面上部へと消え,その後に当該選手カードが画面上部から下りてくる。)の点で相違する。
ウ 複製及び翻案の成否
() 控訴人ゲームと被控訴人ゲームの選手ガチャは,上記イ()ないしの点で共通する。
a しかし,上記共通点の点のうち,パッケージの上部が横方向に切り取られて開封され,内部から選手カードが出てくるという表現自体は,実際に販売若しくは頒布されているトレーディングカードにおいてパッケージに封入されたカードを取り出す方法をそのままアニメーションとして表現しているにすぎないから,単なる事実の表現にすぎないし,黒色系の画面上に白色系のパッケージを配置すること,パッケージ上部を左から右へ開封し,切り取ると在中する選手カードが上方向に移動して,当該パッケージの開封部から当該選手カードの上部が露出するという演出や,パッケージが下方向に移動して画面下部に消えるとともに,選手カードはパッケージ上方向に移動するという表現は,控訴人ゲーム以前の既存のゲーム(「プロ野球カードスタジアム キミスタ」,「Dramatic 巨人軍」,「プロ野球チームをつくろう!ONLINE2」)にも採用されているから,ありふれた表現にすぎない。また,選手カード全体が上方向に移動する前に一度せり上がってカード表面の上部の一部のみが分かるように露出するという演出は,控訴人ゲーム以前の既存のゲームでこれを採用したものがなかったとしても,中身が分からないものを徐々に見せて期待感を持たせる行為として,一般的に行われる行為であるというべきであり,どのカードが入っているのかは開封するまでわからないというトレーディングカードの特徴に照らせば,ありふれた表現というべきである。また,露出の程度については,上記相違点のとおりの相違がある。
一方,上記共通点のうち,クリックするとパッケージの上部が左から右へと高速で白色の光線が走る点や,開封時にパッケージ内に在中するカードの上部が既に一部露出しているという点は,既存のゲームに存在していたとは認められず,ありふれたものであるとまではいえない。しかし,これらの動作は,選手ガチャの一連の動画(表現)の中のごく一部にすぎない上(白色の光線が走る時間は,各0.1秒ないし0.2秒であるし,控訴人ゲームの選手カードは開封後すぐにせり上がり,白く光り始めるため,カードの上部が既に一部露出している点は動画ではほとんど目を惹かない。),前記相違点及びのとおり,その前後の選手カードの個々の具体的な動き(表現)は,異なっている。
b また,上記共通点(選手カードの出現の直前に画面全体が一瞬白く光る。)の表現は,当たった選手カードの内容がすぐに分からないようにするためのものであるが,選手カードに対する利用者の期待感を高めるものとして表現上特別の工夫があるとはいえないばかりか,このような演出は,上記「プロ野球カードスタジアム キミスタ」や,控訴人ゲームが配信される以前に配信されたSNSゲームの「カードファイト!!ヴァンガード」でも採用されていることが認められるから,ありふれた表現にすぎないというべきである。その上,上記相違点のとおり,控訴人ゲームと被控訴人ゲームとでは,画面全体が白く光る直前の選手カードの出現の仕方自体が大きく異なっている。
なお,控訴人は,「キミスタ」では在中するカードが上部に移動する時点でどのカードが当たったか判明しており,画面全体が白く光る表現に期待感及び緊張感を与えるような効果や工夫はないし,「カードファイト!!ヴァンガード」においては,最終的にカードが現れた時点においてもパッケージと同じ図柄のカード裏面が表示されるのであり,「プロ野球チームをつくろう!ONLINE2」でも取り出されたカード面は真っ黒なのであって,控訴人ゲームのような工夫とはいえないから,一瞬白く光る点は表現上の特別な工夫といえると主張する。しかし,その表現に異なる目的があるとしても,その表現自体の同一性が否定されるものではないし,カードの内容を分からないようにして期待感を高めるものとして表現上特別の工夫があるとはいえないことは上記判示のとおりであるから,控訴人の主張は上記認定を左右するものではない。
c 上記共通点のうち,選手カードが画面上に現れる際にその背景に後光が差しているという表現は,上記「プロ野球カードスタジアム キミスタ」や上記「Dramatic 巨人軍」でも採用されていることが認められるから,ありふれた表現にすぎないというべきであり,新たな選手カードの登場に迫力を持たせ,利用者に抱かせた期待感に応えるためのものとして表現上の特別の工夫があるとはいえない。また,上記共通点のうち,選手カードが上部に「NEW」という表記を伴って画面上に現れるという表現も,新しく入手した選手カードを表現する際の表現上の特別の工夫とはいえず,単なるアイデア若しくはありふれた表現にすぎない。
d 以上によれば,控訴人ゲームと被控訴人ゲームの選手ガチャは,共通する点があるとはいえ,その共通する部分のほとんどは,そもそも事実の表現又はありふれた表現であり,したがって,創作性がないか,又は表現上,特徴的とはいえない表現にすぎない。そして,両ゲームの選手ガチャは,上記イ()のとおり,一連の流れの中の個々の具体的な表現内容において大きく相違し,その相違点は創作性がある共通点の部分から受ける印象を大きく上回るものというべきであるから,両ゲームの選手ガチャに接する者が,その一連の動画全体から受ける印象は異なり,被控訴人ゲームの選手ガチャから控訴人ゲームの表現上の本質的な特徴を直接感得することはできないというべきである。
() したがって,被控訴人ゲームの「選手ガチャ」は,控訴人ゲームの複製又は翻案に当たらないと認めるのが相当である。
エ 控訴人の主張について
() 控訴人は,控訴人ゲームの選手ガチャの本質的特徴は,前記(主張)のとおりの一連の表現であり,これらの点において被控訴人ゲームは共通するから,控訴人ゲームの著作権を侵害すると主張する。
しかし,控訴人の主張する具体的表現のうち,「実際のパッケージの開封を模する」ということ自体は,アイデアであり,この点が共通していることをもって著作権侵害であるとはいえない。また,開封後にパッケージに在中するカードの一部のみを表示し,カードがパッケージから取り出される際にはカードを白く光らせて選手が判別できないようにし,最終的にカードを表示する直前には一瞬画面全体を白く光らせる,という手順により,カードの内容を利用者にはっきりと見せないということ自体も,前記のとおり,個々の表現としては,利用者の期待感を高めるための表現としては,ありふれた表現というべきであるし,このような一連の手順も,すぐにカードの内容を見せないというアイデアに従ってカードの取り出し方を表現しようとすれば基本的に同様の表現とならざるを得ず,その他の控訴人の主張する具体的表現部分を含めた一連の流れとしてみても,具体的な画面上に表示されるパッケージの図柄や一連の流れの中の個々の具体的な動き(表現)については前記のとおりの相違点があることからすれば,両ゲームの選手ガチャに接する者が,その一連の動画全体から受ける印象は異なるというべきである。 
したがって,控訴人の主張は,前記判断を左右するものとはいえない。 
() 控訴人は,前記相違点ないしは,いずれも些細な違いにすぎないと主張する。
しかし,相違点のパッケージデザインは,画面において大きな割合を占めており,視覚的に大きな影響を与えるといえるし,相違点の個々の動きは,携帯電話の画面上において利用者の注意を引く大きな動きであり,特にのカードが回転して上昇する控訴人ゲームの動きは,動画全体の中でも最も長い演出の一つであって(乙66),些細な違いということはできない。また,のせり上がりの程度の違いは,確かに,画面に占める割合としての差は小さいものではあるが,その差により,被控訴人ゲームにおいては所属チームのロゴや背景が判別できるのに対し,控訴人ゲームにおいてはほとんど確認できないのであり,利用者はこれにより異なる印象を受けるといえる。
したがって,控訴人の主張は採用することができない。 
(3) 選手カードにおける著作権侵害の成否について
ア 選手カードにおける表現の内容
証拠によれば,控訴人ゲームと被控訴人ゲームにおける4選手カードの表現は,それぞれ別紙「選手カード」のとおりであると認められる。
なお,両ゲームの中島選手,ダルビッシュ選手,今江選手の選手カードはいずれもスーパースターカードであり,坂本選手の選手カードは,控訴人ゲームではスターカード,被控訴人ゲームではスーパースターカードである。また,控訴人ゲームと被控訴人ゲームは,いずれも社団法人日本野球機構から承認を受けて選手カードの実名や写真を使用しており,両ゲームの選手カードの写真は,同社団法人からそれぞれが提供を受けた複数の写真の中から選択したものを使用している。
イ 控訴人ゲームと被控訴人ゲームの4選手カードの対比
a  中島選手について
別紙「選手カード」によれば,両ゲームの中島選手の選手カードは,中島選手の本体写真について,その具体的なポーズ,大きさ及びそのカード上の配置の点でその具体的表現が一致する。すなわち,いずれの本体写真も,右打者である中島選手がスイングをし終わって,左足を真っ直ぐ前に出し,右足をひざの部分でやや折り,右手を伸ばしてバットは返した状態で左肩の上部で顔の斜め前あたりに構え,打った球の球道を見つめているポーズを,選手の右前方から撮った全身写真であり,この本体写真が,カードの中央よりやや左寄りに配置され,頭はカードの上部から略3分の1の位置にあり,足はカードの辺に沿って描かれた枠よりも外側にあり,両足の足首近くの部分から下はカード外となって見えない。また,本体写真の上半身を大きく拡大し,本体写真よりも多少色を薄くした背景写真が,多色刷りで残像のように二重表示されていること及びそのカードにおける配置,本体写真の下部に,本体写真と背景写真の間に入るように炎が描かれるとともに,全体の背景としても炎が描かれ,カード中央から外方向へ放射線状の閃光を表すような黄色又は白の直線的な線(後光)が四方へ向けて描かれているという点,さらに,カード左上には所属するチームのロゴマークが記載されている点で具体的な表現が一致する。
他方,別紙「選手カード」によれば,両ゲームの中島選手の選手カードは,背番号の数字及び選手の氏名の記載部分の表現や金星の数,下の背景部分の選手カードの所属球団を表す色が控訴人ゲームの選手カードには存在するのに,被控訴人ゲームの選手カードには存在しない,二重表示の写真の具体的な大きさ(控訴人ゲームの選手カードでは縦横各約1.9倍程度に対し,被控訴人ゲームの選手カードでは縦横約1.6倍である。)や具体的な色味(控訴人ゲームの選手カードでは本体写真と同様の色調で多少薄くなっているのに対し,被控訴人ゲームの選手カードでは,全体的に背景の黄色味を帯びた色調となっている。),炎の具体的な色味(控訴人ゲームの選手カードでは赤色を基調とするのに対し,被控訴人ゲームでは金色を基調とし,炎が達していない上部部分は黒色の背景となっている。)及び閃光を強調する楕円形状の光の玉が被控訴人ゲームの選手カードには存在するのに,控訴人ゲームの選手カードには存在しないという点が相違する。
b ダルビッシュ選手について
別紙「選手カード」によれば,両ゲームのダルビッシュ選手の選手カードは,本体写真について,その具体的なポーズ,大きさ及びそのカード上の配置の点で,その具体的な表現が一致する。すなわち,いずれの本体写真も,投球動作に入った右投手であるダルビッシュ選手が,左脚を前に,右脚を後ろにして,脚を前後に大きく開いて重心を下げ,左腕を前に振り出し,右手はボールを握って右腕を後方に引き,打者方向を鋭くにらんでいる投球直前のポーズの全身写真であり,この本体写真が,カードの中央よりやや左に配置され,頭はカードの上部から略3分の1の位置にあり,足はカードの辺に沿って描かれた枠よりも外側にあり,両足の足首近くの部分から下はカード外となって見えない。また,本体写真の上半身を大きく拡大し,本体写真よりも多少色を薄くした背景写真が,多色刷りで残像のように二重表示されていること及びそのカードにおける配置,及び本体写真の下部に,本体写真と背景写真の間に入るように炎が描かれるとともに,全体の背景としても炎が描かれ,中央から外方向へ放射線状の閃光を表すような黄色又は白の直線的な線が四方へ向けて描かれているという点,さらに,カード左上には所属するチームのロゴマークが記載されている点で具体的な表現が一致する。
他方,両ゲームのダルビッシュ選手の選手カードは,中島選手の上記相違点ないしと同様の点で相違する。
c 坂本選手について
別紙「選手カード」によれば,両ゲームの坂本選手の選手カードは,坂本選手の本体写真のポーズ,すなわち右打者である坂本選手がスイングをし終わって,右手を伸ばしてバットは返した状態で左肩の上部から後方へ向けて構え,打った球の球道を見つめている状態のポーズを,選手の左側から撮った全身写真である点で具体的表現が一致し,背景として炎が描かれていること,カード左上の所属チームのロゴマークの記載という点でも一致する。
他方,別紙「選手カード」によれば,両ゲームの坂本選手の選手カードは,中島選手の相違点及びと同様の相違点のほか,本体写真の大きさ及びカードにおける配置,すなわち,控訴人ゲームの同選手カードは,本体写真が,カードの中央に大きく配置され,頭はカードの上部の枠にほぼ接する位置にあり,足は太ももの中央当たりがカードの辺に沿って描かれた枠よりも外側にあって,太ももの中央近くの部分から下はカード外となって見えないのに対し,被控訴人ゲームの同選手カードは,本体写真が,カードの中央よりやや左寄りにより縮小された大きさで配置され,頭はカードの上部から略3分の1の位置にあり,足は足首近くまで表示されている点で異なり,また,背景写真の二重表示の点でも,控訴人ゲームの同選手カードでは,二重表示がないのに対し,被控訴人ゲームの同選手カードでは,本体写真の上半身を大きく拡大し,本体写真よりも多少色を薄くした背景写真が多色刷りで残像のように二重表示されている点で異なり,さらに,炎の具体的な描き方が異なり,背景の放射線状の閃光が,控訴人ゲームの同選手カードでは存在しないのに対し,被控訴人ゲームの同選手カードでは存在するという点で異なる。
d 今江選手について
別紙「選手カード」によれば,両ゲームの今江選手の選手カードは,本体写真のポーズが,控訴人ゲームの同選手カードでは,右打者である今江選手が,上半身及び下半身はホームベースに正対し,顔を投手方向へ向け,両腕を肩付近まで上げ,バットはほぼ垂直に立てて,打つ前の状態で構えており,相手の投手と対峙している一瞬の静的状態をとらえたものであるのに対し,被控訴人ゲームの同選手カードでは,今江選手が,左足をわずかに曲げて前に出し,右足をほぼ直線状に伸ばし,上半身をやや後ろに引いて腰を回転させ,両腕はほぼ肩の辺りまで上げ,バットはほぼ45度の角度で先端を投手の方へ向けて頭上に構えており,相手の投手がまさにボールを投げ,これに合わせて同選手がスイングを開始する直前の動的瞬間をとらえたものである点で異なる。なお,中島選手の相違点ないしと同様の点でも相違する。
他方,本体写真が,打席でスイング前の状態を今江選手の右側から撮った全身写真であるという点,その大きさ及びカードにおけるおおよその配置が共通するほか,中島選手の共通点ないしと同様の点で具体的な表現が一致する。
ウ 複製及び翻案の成否
() 選手カードにおける表現上の本質的特徴について
証拠によれば,選手カードは,選手ガチャ,スカウト(被控訴人ゲームではミッション),オーダー,強化及び試合の各要素において使用されるものであり,いずれの要素においても,基本的には対象となる選手を特定する機能を有するものである。そして,控訴人ゲーム及び被控訴人ゲームの目的のうち,選手力の強化によるチームの強化によって対戦相手との戦いに勝利するという点からすれば,選手カードの表現は,写真により選手が特定されれば十分であるということになる。しかし,他方で,控訴人ゲーム及び被控訴人ゲームは,選手カードを収集すること自体をも楽しむものでもあり,また,育成的,戦闘的ゲームであることを考慮すると,選手の特色(希少性)及び戦闘性が,どのような態様でカードに表現されているかも,利用者にとって重要な要素となるものといえる。このことは,一般にトレーディングカードにおいては,対象となる人物以外の背景として,多種多様な背景が描かれていることからも明らかである。
そのような控訴人ゲーム及び被控訴人ゲームにおける選手カードの位置付けに照らすと,選手の力強いプレーの様子を表す選手のポーズと構図は重要な要素であり,また,戦闘性,希少性を表す背景の描き方,配色も,選手カードに接する者の印象を判断する上で重要な要素を占めるものということができる。具体的には,選手のポーズ及び構図においては,選手がプレーの中でとっているどのポーズを採用するか及びカードにおける配置が重要であり,背景としては,選手の動きを表現し,選手の表情を強調するための選手の二重表示の有無及び配置,さらに,選手の強さや戦闘性を強調する構成,配色が重要な要素であり,これらの点を組み合わせた具体的な表現が,選手カードの表現上の本質的特徴を構成するものとみるのが相当である。
他方,利用者はプロ野球について一定以上の知識を有しているのであるから,写真により選手を特定できればその所属チーム,氏名や背番号などは知っているのが一般的であって,これらの情報がどのようにカードに表示されているかは選手カードの表現上,これに接する者の目を惹く要素とはいえず,表現上の本質的な特徴とはいえないというべきである。
() 4選手カードの複製及び翻案の成否について
a 中島選手のカードについて
前記イaのとおり,両ゲームの中島選手の選手カードをみると,本体写真のポーズ及び配置,多色刷りで本体写真を拡大した二重表示部分の存在,部位や位置関係,背景の炎及び放射線状の閃光の描き方という具体的な表現が同一であり,これによって中島選手の力強いスイングによる躍動感や迫力が伝わってくるものであって,両選手カードは,表現上の本質的特徴を同一にしているものと認められ,また,その表現上の本質的特徴を同一にしている部分において思想又は感情の創作的表現があるものと認められる。
これに対し,中島選手の前記相違点のうち,及びは前記のとおり表現上の本質的な特徴とはいえないし(のチームカラーは氏名の表記下部のごく一部にすぎず,目も惹かない。),二重表示の写真の大きさの程度の違いは,いずれもカードのほぼ中央部分に,本体写真よりも大きく拡大された頭部が選手カードの縁まではみ出すように配置され,本体写真の頭部の上方にあり,腰よりも上の上半身のみが本体写真の右上部に配置されるという点では共通していることや,選手カードが表示されるのは主に携帯電話の画面上であることも考慮すると,全体の印象を左右するような大きな違いとはいえない。また,の二重写真の色味や炎の色味の違い及び閃光を強調する楕円形状の有無の違いはあるものの,控訴人ゲームの選手カードの炎も中央部は黄色であり,閃光も一部黄色であり,閃光という表現自体輝く印象を与えるものといえるから,金色を基調とした被控訴人ゲームの選手カードと大きく相違する印象を与えるものとはいえず,また,楕円形状の有無も閃光の明るさの程度の違いを認識させるものにすぎないから,これらの相違点が上記共通点から受ける印象を凌駕するものとはいえない。なお,被控訴人は,閃光(後光)の具体的な本数や密度も違うと主張するが,これらも閃光の明るさの程度の違いを認識させるものにすぎず,視覚的には差異を生じさせるものとはいえない。
したがって,被控訴人ゲームの中島選手の選手カードは,控訴人ゲームの同選手カードと同一のものとはいえず,別の写真を使用し,全体として金色を基調とした色味に変更することで,新たな表現を加えたものといえるから,複製に当たるものとは認められないものの,控訴人ゲームの同選手カードを翻案したものと認められる。
b ダルビッシュ選手の選手カードについて
両ゲームのダルビッシュ選手の選手カードについても,前記イbのとおり,本体写真のポーズ及び配置,多色刷りで本体写真を拡大した二重表示部分の存在,部位や位置関係,背景の炎及び放射線状の閃光の描き方という具体的な表現が共通であり,これによってダルビッシュ選手の力強い投球動作による躍動感や迫力が伝わってくるものであって,両選手カードは,表現上の本質的特徴を同一にしているものと認められ,また,その表現上の本質的特徴を同一にしている部分において思想又は感情の創作的表現があるものと認められる。
これに対し,ダルビッシュ選手についての各相違点が上記共通点から受ける印象を凌駕するものとはいえないことは,中島選手と同様である。
したがって,被控訴人ゲームのダルビッシュ選手の選手カードは,中島選手についてと同様に,控訴人ゲームのダルビッシュ選手のカードを翻案したものと認められる。
c 坂本選手の選手カードについて
両ゲームの坂本選手の選手カードについては,前記イcのとおり,本体写真のポーズ及び背景のファイアーモチーフの存在が共通である。しかし,控訴人ゲームの坂本選手の選手カードにおいては,選手の二重表示がないため,躍動感や迫力に乏しく,放射線状の閃光もないこととあいまって,他のカードと比較すると全体的に落ち着いている印象を与える。これに対し,被控訴人ゲームの坂本選手の選手カードにおいては,二重表示及び背景の閃光により,選手写真全体に動きと力強さが与えられており,両者は,その表現上の本質的特徴を異にすると認めるのが相当である。
したがって,被控訴人ゲームの坂本選手の選手カードは,控訴人ゲームの同選手のカードを複製又は翻案したものとはいえない。
d 今江選手の選手カードについて
両ゲームの今江選手の選手カードについては,前記イdのとおり,いずれも打席でスイング前の状態を右横から撮ったポーズである点で共通し,多色刷りで大きい二重表示部分の存在や位置関係,背景の炎及び放射線状の閃光の描き方という点で具体的な表現が同一であるものの,控訴人ゲームの同選手のカードでは,同選手がバットを立てて構えており,相手の投手と対峙している一瞬の静的状態をとらえたものであるのに対し,被控訴人ゲームの同選手のカードでは,同選手が既にバットを後ろに引き,相手の投手の投げるボールに合わせてスイングを開始する直前の動的瞬間をとらえたものであるため,両者は,その表現上の本質的特徴を異にすると認めるのが相当である。
したがって,被控訴人ゲームの今江選手の選手カードは,控訴人ゲームの同選手のカードを複製又は翻案したものとはいえない。
() 被控訴人の主張について
これに対し,被控訴人は,選手ごとのフォームは基本的には同じである上,写真は球団から提供された限られた数の写真から選択するものであり,選手の写真は似たような構図であるから,その選択には創作性が認められないし,両ゲームの選手カードと同様のポーズや構図の選手カードは他に多数存在する,選手の二重表示は,従来のトレーディングカード等に採用されているありふれたアイデアないし表現にすぎない,ファイアーモチーフも,従来のトレーディングカード等に採用されているありふれたアイデアないし表現にすぎない,そして,これらの表現を組み合わせたとしても創作性が認められることにはならないと主張する。
a 確かに,控訴人ゲームの選手カードに使用された選手の写真は,球団から提供された複数の写真(ダルビッシュ選手については数百枚であるが,中島選手については3枚。)から選択されたものであるが,その中からどのポーズの写真を選択して,カードのどの部分に配置するかについては表現の選択の余地があるから,一概にありふれた表現であるということはできない。
b また,選手の二重表示については,遅くとも平成15年以降に発行されたカルビーのプロ野球チップスの選手カードなどにおいては,選手の二重表示が用いられており,その配置も控訴人ゲームの選手カードと同様の配置がされているものもあるが,これらの二重表示は,白黒であったり,控訴人ゲームの選手カードの表示と比較するとかなり色あせた表現となっている。また,ベースボールマガジン社の平成13年ないし平成20年に発行された5種類のプロ野球カードにおいては,カードに表示されている人物等を二重に表示し,背面の画像が前面の画像より拡大され,多色刷りとなっているが,控訴人ゲームの選手カードとは配置が異なる。いずれについても背景にファイアーモチーフは使用されていない。
c さらに,選手の背後のファイアーモチーフ及び閃光については,平成20年ないし平成21年頃の米国のプロレスラーを素材としたトレーディングカードゲーム「SLAM ATTAX」には,プロレス選手の背後に赤色で炎のように見える表現が使用され,かつ,後光が差したような放射線状の閃光が描かれており,我が国においても,平成12年に発売されたベースボールマガジン社のプロ野球選手カードの「2000年ダイヤモンドヒーローズシリーズ」,同社の平成15年発行の日本ハムファイターズの選手カードにも,その背後にファイアーモチーフを使用したものがある。また,これらの選手カードとは別に,選手を囲むように放射線状の黄色又は白の直線的な線が表現されているカードも存在する。さらに,一般の画像編集ソフトにおいて,人物と合成する素材として炎や後光のように見える放射線状の背景を製作することは一般的であり,爆発のように見える画像素材も流通していることが認められる。もっとも,ファイアーモチーフといっても,爆発するような表現のもの,メラメラと火炎を上げるもの,背景の全部又は一部に用いるものなど,その具体的な表現や人物画像との組合せ方は様々であり,また,当事者双方から多数のトレーディングカードの例が書証として提出されているが,控訴人ゲームの配信開始前に,炎のように見える表現及びこれに組み合わせて後光のように放射線状の閃光が描かれているトレーディングカードは,上記「SLAM ATTAX」以外にない。なお,控訴人ゲームの選手カードの発売後においても,カードの背後にファイアーモチーフ又は放射線状の閃光を用いたものが存在するが,このことをもって,直ちに控訴人ゲームの選手カードの表現がありふれたものであるということはできない。
d 以上によれば,確かに個々の表現自体を分離してみれば,同様の表現を採用したカードが存在し,特に個性的な表現とまではいうことはできないものの,控訴人ゲームの選手カードにおいては,中島選手及びダルビッシュ選手の特定のポーズの本体写真を,カードの中央よりやや左に配置し,頭がカードの上部から略3分の1の位置にあり,足はカードの辺に沿って描かれた枠よりも外側にあり,両足の足首近くの部分から下はカード外となって見えないという位置に配置し,二重表示の背景写真(本体写真以外の部分)として,本体写真の上半身部分を大きく拡大した多色刷りの写真を,カードのほぼ中央部分に,本体写真の背景として,選手カードの縁まではみ出すように配置し,これらの写真の間に横切るように及び全体の背景として,黄色ないし赤色の炎と,放射線状の閃光と組み合わせることにより,選手の躍動感や迫力を表現しており,そこに,控訴人ゲームの選手カードの本質的特徴が認められるのであって,それらを総合した組合せがありふれた表現としてその創作性が否定されるものとはいえない。 したがって,被控訴人の主張は採用することができない。

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