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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

表現形式が異なる著作物間の侵害性▶言語著作物vs.美術著作物

平成27521日知的財産高等裁判所[平成26()10003]
原告記事と被告漫画の記述内容等を対比すると,原告記事と被告漫画とは,まず,「乱交ツアー」に参加した者が,そこで体験した風俗サービスの内容を自身の体験談として記述又は描写するという点において共通する。
また,原告記事と被告漫画とは,その場面展開,すなわち,ⅰ)著者又は主人公が,風俗サービスに関する情報をネット検索し,ツアーに参加を申し込む場面,ⅱ)著者又は主人公が,開催当日に宿に向かい,宿に到着して,部屋に入るまでの場面,ⅲ)著者又は主人公が,部屋で相部屋の男と会話する場面,ⅳ)著者又は主人公が,露天風呂に移動して,参加者の男や女と顔を合わせる場面,ⅴ)露天風呂における「乱交」の状況を記述又は描写した場面,ⅵ)宴会場で食事を終えた後の「乱交」の状況を記述又は描写した場面,ⅶ)2日目の朝,ツアーが解散となった場面へと展開していく点において共通する。
さらに,原告記事の記述には,被告漫画には記述又は描写されていない部分が存するものの,上記各場面における被告漫画の記述又は描写の内容はわずかな部分を除き,ほぼ原告記事の記述に含まれ,しかも,その具体的な記述(描写)及び記述(描写)順序においても,おおむね原告記事におけるそれと共通すると認められる。すなわち,被告漫画の記述又は描写が原告記事と相違するのは,①被告漫画がツアーの開催日を申込みから「1週間後」と明記しているのに対し,原告記事では,申込みから開催日まで日があることは記述から把握することができるが,どれくらい後の開催であるのかを明記していない点,②被告漫画が現地までの交通手段として「愛車」を利用しているのに対し,原告記事では,「電車とバス」を利用している点,③被告漫画が,宿の玄関の看板を見た主人公の感情を「気分が盛り上がってきた」としているのに対し,原告記事では,料金の前払いをしていたので,当日まで実際に開催されるのか心配していたことから安心したとしている点,④被告漫画が,相部屋の男は主人公よりも先に到着しており,主人公と挨拶を交わす場面を描写しているのに対し,原告記事では,相部屋の男は後に到着した者とされており,主人公と挨拶を交わすなどの記述はされてない点,⑤被告漫画が,主人公において,露天風呂における「乱交」時に女性の性器に「指マン」をしたと描写しているのに対し,原告記事では,第三者の別の男性がしたと記述している点など,被告漫画と原告記事の全体の対比の中では,ごく一部分に止まる。
以上検討したところによれば,被告漫画は,原告記事に依拠し,その記述のうちの一部を省略し,かつ,その表現形式を漫画に変更したものにすぎず,全体として,原告記事の表現上の本質的特徴を直接感得することができるから,原告記事の翻案物に当たるというべきである。

▶令和3330日東京地方裁判所[令和1()30833]
ア まず,原告文章と被告イラストについては,原告文章が言語の著作物であるのに対し,被告イラストは基本的には美術の著作物であって,表現の形式が異なり,これらを対比すると,両者は,描写対象の設定(身長差のある設定の2人の登場人物が,一般的には困難と思われている体位で性行為を行っている点,性器の状態,及び登場人物の一方が壁につかまろうとしているという点)につき同一性を有するにとどまるといえる。しかして,上記描写対象の設定は,その内容自体や,原告文章の性質・内容に照らし,内面的思想たるアイデアにすぎず,表現それ自体でない部分であるというべきである。また,仮に表現自体と捉えられる部分があったとしても,本件各証拠を見ても,上記設定による表現に幅があると認められ制作者の個性の表れとして著作物性を肯定することを基礎付けるに足りるものは見当たらず,原告文章の性質・内容に照らせば,上記設定を前提とする限り,これを表現したものとしては平凡かつありふれたものであり,表現上の創作性がない部分であるといわざるを得ない。
イ 次に,原告イラストと被告文章については,原告イラストが基本的には美術の著作物であるのに対し,被告文章は言語の著作物であって,表現の形式が異なり,これらを対比すると,両者は,描写対象の設定(2人いる登場人物の一方が性的行為の際に勘違いをした状況で,他方の登場人物に対する言動・働きかけに及んでいる点)につき同一性を有するにとどまるといえる。しかして,これについても,上記説示が同様に当てはまるものである。すなわち,上記描写対象の設定は,その内容自体や,原告イラストの性質・内容に照らし,内面的思想たるアイデアにすぎず,表現それ自体でない部分であるというべきである。また,仮に表現自体と捉えられる部分があったとしても,本件各証拠を見ても,上記設定による表現に幅があると認められ制作者の個性の表れとして著作物性を肯定できることを基礎付けるに足りるものは見当たらず,原告イラストの性質・内容に照らせば,上記設定を前提とする限り,これを表現したものとしては平凡かつありふれたものであり,表現上の創作性がない部分であるといわざるを得ない。
ウ 以上によれば,被告イラストは原告文章を翻案したものには当たらず,また,被告文章は原告イラストを翻案したものには当たらないというべきである。
エ さらに,上記説示に照らせば,被告イラストは,原告文章の表現形式上の本質的な特徴を感得させないような態様において制作された,原告文章とは別個の著作物というべきであるから,原告文章の同一性保持権を侵害しないというべきであり,また,被告文章も,原告イラストの表現形式上の本質的な特徴を感得させないような態様において制作された,原告イラストとは別個の著作物というべきであるから,原告イラストの同一性保持権を侵害しないというべきである。
[控訴審も同旨]
▶令和3930日知的財産高等裁判所[令和3()10036]
(1) 被告イラストが原告文章の翻案に当たるとの点について
既存の著作物に依拠して創作された著作物が思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案に当たらないことは引用する原判決が説示するとおりである。
本件についてみると,被告イラストは,原告文章と同じく,原作である「ONE PIECE」に登場するキャラクターの設定に依拠して,身長差のある同性の2人が,壁に掴まりながら特定の体位で性交渉を行うという描写において,原告文章と同一性を有するにとどまるものであり,こうした描写自体は,アイデアないし着想にすぎないか,表現上の創作性がない部分である。
そうすると,原告文章を全体として見た場合に一定の創作性が認められる余地があるとしても,前述のとおり,被告イラストは,原告文章のうちアイデアないし着想にすぎないか,表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないのであるから,原告文章の翻案に当たるものでないことは明らかというべきである。
控訴人は,原告文章の創作性につき前記のとおり指摘し,被告イラストは,これらの創作部分が全て描写されているので,原告文章の翻案に当たる旨主張するが,控訴人の指摘する部分は,いずれも,アイデアないし表現上の創作性のない部分であるにすぎないし(「ONE PIECE」に登場するキャラクターの設定については,当然のことながら創作性を認めることができない。),その具体的な表現ぶりも,性表現として平凡かつありふれたものであり,そもそも被告イラストが当該表現部分に依拠して作成されたと特定することもできないものといわざるを得ない。
したがって,控訴人の主張は失当というほかない。
(2) 被告文章が原告イラストの翻案に当たるとの点について
被告文章は,原作である「ONE PIECE」に登場するキャラクターの設定に依拠して,原作に登場する2人の人物が性交渉後に,身長の低く若い人物(ルフィ)が失禁したと勘違いし,動揺をしている描写設定において,原告イラストと同一性を有するに止まり,こうした描写設定は,同性間の性交渉を描写するに当たってのアイデアないし着想にすぎないか,表現上の創作性があるとはいえない部分である。そうすると,原告イラストを全体として見た場合に一定の創作性が認められる余地があるとしても,前述のとおり,被告文章は,原告イラストのうちアイデアないし着想にすぎないか,表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎないのであるから,原告イラストの翻案に当たるものでないことは明らかというべきである。
控訴人は,前記のとおり,被告文章は,原告イラストの最後のコマの「ルフィ」のセリフを受けて,あたかも連歌のように,直前の状況や内容を参看し,その背景や情趣,心境を踏まえて,そのポエジーを受け継いで記載されたものである旨主張するが,独自の見解というほかないものであり,控訴人主張のセリフ自体に表現上の創作性を認めることはできないし,ましてやそのセリフから連歌性やポエジーの存在を認め,被告文章が原告イラストに依拠した翻案に当たるなどと認めることは到底できない。

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