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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

表現形式が異なる著作物間の侵害性▶言語著作物vs.映画著作物

平成281226日知的財産高等裁判所[平成27()10123]
対比表エピソード3において,本件著作物と本件映画とは,②公園に駆け付けた元恋人(婚約者)が被控訴人(主人公)の様子に驚いて,誰かに何かされたのかと聞いたこと,③被控訴人(主人公)はうなずくことしかできなかったこと,④元恋人(婚約者)が,被控訴人(主人公)が性犯罪被害を受けたことを知ってやり場のない怒りで手近な物に当たる様子,⑤被控訴人(主人公)が元恋人(婚約者)に対して「ごめんなさい」と謝り続けたこと,及びその著述(描写)の順序が共通し,同一性がある。
なお,被控訴人は,①被控訴人(主人公)が元恋人(婚約者)に助けを求めたことも,本件著作物と本件映画とで共通する点として主張するが,本件著作物では,被控訴人が元恋人に電話を掛け,電話越しに異変を察知した元恋人が被控訴人の状況を確認しようとし,その場にいることを命じたという,助けを求める具体的な場面が著述されているのに対し,本件映画では,婚約者が息を切らしながら走っていることの描写と上記②~⑤のやりとりを通じて,主人公が元恋人に助けを求めたことが暗に表現されているのであるから,言語の著作物と映画の著作物との表現形態の差異を考慮しても,本件著作物における被控訴人が元恋人に助けを求める場面の著述と共通する描写が,本件映画においてなされているものと認めることはできない。
そして,本件著作物の同一性のある部分は,それぞれの著述だけを切り離してみれば,事実の記載にすぎないようにも見えるものの,本件著作物の同一性ある著述部分全体としてみれば,自ら助けを求めた元恋人から尋ねられたにもかかわらず,性犯罪被害に遭った事実を告げることができず,うなずくことと「ごめんなさい」を繰り返すことしかできない性犯罪被害直後の被害女性の様子と,助けを求められて駆け付けたにもかかわらず,何も助けることができなかったというやり場のない怒りを,大声を出すことと物にぶつけるしかない元恋人の様子とを対置して,短い台詞と文章によって緊迫感やスピード感をもって表現することで,単に事実を記載するに止まらず,被害に遭った事実を口に出すことの抵抗感や,被害に遭ってしまった悔しさ,やるせなさ,被害者であるにもかかわらず込み上げてくる罪悪感をも表現したものと認められる。
そうすると,本件著作物の同一性ある著述部分は,被控訴人が被害を受けた当事者としての視点から,前記②~⑤の各事実を選択し,被害直後の被控訴人の状況や元恋人とのやりとりを格別の修飾をすることなく短文で淡々と記述することによって,被控訴人の感じた悔しさ,やるせなさ,罪悪感等を表現したものとみることができ,その全体として,被控訴人の個性ないし独自性が表れており,思想又は感情を創作的に表現したものと認められる。
本件映画のうち,対比表エピソード3の本件映画欄の描写は,表現上の共通性により,本件著作物の同一性ある著述部分の表現上の本質的な特徴の同一性を維持しているものと認められ,本件映画の上記描写に接することにより,本件著作物の同一性ある著述部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるから,本件著作物の同一性ある著述部分を翻案したものと認められる。
控訴人は,前記類似点②~⑤は,いずれも事実であり,その選択や配列にも創作性ないし特段の工夫があるものではないし,④に至っては,共通するのは事実ではなく,その表現の元となるアイディアやコンセプトにすぎないから,本件著作物の同一性ある著述部分には,創作性がなく,著作物ではないと主張する。
しかしながら,上記④は,性犯罪被害を打ち明けられた元恋人(婚約者)がやり場のない怒りを大声と手近な物にぶつける様子であり,なお事実としての具体性を失ってはいないものといえるから,アイディアではなく,事実又は表現が共通するということができる。そして,上記②~⑤の著述を含む本件著作物の同一性ある著述部分は,単なる事実の記載に止まらず,思想又は感情を創作的に表現したものであって,創作性があり,著作物性を認めることができることは,前記のとおりである。控訴人の主張は,理由がない。

▶平成80416日東京高等裁判所[平成5()3610]
原告著作物の基本的なストーリーは、「建設会社に勤務する主人公章子の夫がサウジアラビアへ二年間の単身赴任を命じられる。章子は、夫と同行したいと願い、夫と議論するが、会社の方針によって許されないまま、夫は赴任する。章子は希望を実現しようと夫の会社と直談判するが、会社側は、治安の悪さを理由に章子を説得しようとする。章子はサウジアラビ アに社員を派遣している石油会社や商事会社を訪ね歩き、会社が同行を許さない理由とする事情は真実でないことや、企業の海外単身赴任の実情を知るとともに、社員用アパートを提供できるかも知れないという企業まで見つけた。章子は自力でサウジアラビアへ赴こうとするが、回教国である同国へは、女性の単身での入国ビザが得られないという障害にぶつかる。しかし、書類上の操作で入国が不可能ではないことを知る。章子が夫の後を追って行きそうだと知った会社は、単身赴任の慣行を維持しようとして、夫に帰国命令を下し、章子は別れてから六か月半後に夫を取り戻す。しかし、章子と夫との間には亀裂が生じ、章子が就職したことが破局の直接的なきっかけとなる。章子は、次第に仕事と家庭の両立が困難な状況になり、実事の分担を巡って夫婦間の溝は深まり、離婚するに至る。その後、章子は、章子の新しい生き方を尊重する男性と再婚する。」というものである。 本件テレビドラマの基本的なストーリー は、「建設会社に勤務する主人公章子の夫がサウジアラビアへ二年間の単身赴任を命じられる。章子は、夫と同行したいと願い、夫と議論するが、会社の方針によって許されないまま、夫は赴任する。章子は希望を実現しようと、サウジアラビアに社員を派遣している石油会社や商事会社を訪ね歩き、企業の海外単身赴任の実情を知るとともに、社員用アパートを提供してもよいという企業まで見つけたうえ、夫の会社と直談判するが、会社側は、赴任者のチームワークが乱れることを理由に章子の願いを拒絶する。章子は自力でサウジアラビアへ赴こうとするが、回教国である同国へは、女性の単身での入国ビザが得られないという障害にぶつかる。しかし、書類上の操作で入国が不可能ではないことを知る。章子が夫の後を追う恐れがあると知った会社は、夫に帰国命令を下す。現地の上司のとりなしで、章子を説得するため一時帰国した夫は、隣人の妻の不倫相手の刃傷沙汰に巻き込まれて負傷し、入院する。章子と夫との間に溝ができかけるが、章子は夫の真意を知り、よい妻になろうと決意し、夫の単身赴任先に同行しようと大騒ぎしたことを夫に謝り、 章子と和解した夫は、再度単身赴任し、章子は日本で職業に就く。」というものである。 原告著作物と本件テレビドラマは、主人公の夫が帰国するまでの前半の基本的ストーリーが極めて類似していることは明らかである。 また、原告著作物と本件テレビドラマとは、主人公の名前(章子)、夫婦の間の子供の有無(なし)、共働きかどうか(専業主婦)、夫の勤務先(海外に支社をもつ建設会社)、夫の転勤先(サウジアラビア)が同じであり、主人公やその夫の性格、人物像も類似していること、単身赴任についての問題提起、単身赴任命令に対する妻(主人公)の問題意識、海外転勤に妻を同行 させない会社の事情、同行できないことを知った妻の対応・行動、妻のサウジアラビア行きの可能性を知った会社の対応等についての前半のストーリーの細部も類似しており、その表現の具体的な文言までが共通している部分もあることが認められる。他方、原告著作物と本件テレビドラマは、主人公の夫が帰国して後の後半の基本的ストーリーにおいて、原告著作物が、章子が就職したことが直接的なきっかけとなって、章子夫婦は離婚し、章子は、章子の新しい生き方を尊重する男性と再婚するのに対し、本件テレビドラマでは、章子と夫との間に溝ができかけるが、章子はよい妻になろうと決意し、夫の単身赴任先に同行しようと大騒ぎしたことを夫に謝って夫婦は和解し、夫は再度単身赴任するというもので、大きく異なっている。また、本件テレビドラマには、原告著作物には登場しない、主人公の社宅の隣人の美貴夫婦、主人公の学生時代の先輩玲子等が登場する点でもストーリーが異なっている。ところで、原告著作物における、前半の基本的ストーリー及び単身赴任についての問題提起、単身赴任命令に対する妻主人公)の問題意識、海外転勤に妻を同行させない会社の事情、同行できないことを知った妻の対応・行動、妻のサウジアラビア行きの可能性を知った会社の対応等の細かいストーリーとその具体的表現は、原告著作物を特徴づける個性的な内容表現を形成する要素と認められるところ、本件テレビドラマは、前半の基本的ストーリーやその細かいストーリーが原告著作物と類似し、また具体的表現も共通する部分が存するものであり、後半の基本的ストーリー等において前記のような相違点があるにもかかわらず、原告著作物を読んだことのある一般人が本件テレビドラマを視聴すれば、本件テレビドラマは、原告著作物をテレビドラマ化したもので、テレビドラマ化にあたり、夫の帰国以後のストーリーを変えたものと容易に認識できる程度に、本件テレビドラマにおいては、原告著作物における前記の特徴的・個性的な内容表現が失われることなく再現されているものと認められるから、本件テレビドラマは原告著作物の翻案であると認めるのが相当である。

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