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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

表現形式が異なる著作物間の侵害性▶写真著作物vs.美術著作物

▶平成150226日東京地方裁判所[平成13()12339]
写真の著作物については,写真に著作物としての創作性が付与されるゆえんが,撮影や現像における独自の工夫によって創作的な表現が生じ得ることにあるというべきであるから,当該著作物が,写真の先行著作物を翻案したか否かを判断するに当たっては,先行著作物が撮影された際に,創意工夫がされたことによる創作的な表現部分,すなわち,表現上の本質的特徴部分が,後の著作物に現れているか否かを対比検討して判断すべきである。
そこで,上記の観点から,本件ビラ絵と原告写真とを対比する。
(略)
本件ビラ絵と原告写真とは,Dの顔及び上半身の輪郭並びに目,鼻,口,耳,眼鏡,ネクタイ及び勲章の位置及び形状において,類似性が認められる。
しかし,①原告写真はDの表情,輪郭等,及び本件勲章が鮮明に写し出されているのに対し,本件ビラ絵は,Dの顔の表情や輪郭,本件勲章の形状の細部までは,正確に描写されていないこと,②原告写真はカラーであるのに対し,本件ビラ絵はモノトーンであること,③原告写真では,Dは式帽を着用していないのに対し,本件ビラ絵では式帽を着用していること,④原告写真では,Dはスーツ姿であるのに対して,本件ビラ絵では,ローブ様のものを着用している点,⑤原告写真は,背景の装飾品がぼかして撮影されているのに対して,本件ビラ絵は,背景が省略されている点等大きく相違する。
以上のとおり,本件ビラ絵は,本件写真における,Dの顔の表情,輪郭等の具体的な表現上の特徴はすべて捨象されているのであって,本件写真の表現形式上の本質的特徴部分を感得する程度に類似しているとはいえない。
[控訴審の同旨]
▶平成161129日東京高等裁判所[平成15()1464]
本件ビラ絵が,1審原告写真におけるC[注:原審のDのこと。以下同じ]の肖像部分の輪郭等を手書きでなぞって線で表現するという表現形式を採ることによって,Cの顔の表情,輪郭等の1審原告写真における具体的な表現上の特徴をすべて捨象し,それらの特徴を感得させないものとなっていることは,原判決説示のとおりというべきである。そして,被写体である人物とその人物の装用品等の組合せや配置,人物のポーズ,表情等は,1審原告写真のような肖像写真の撮影において,常に考慮される要素であるから,それらが具体的に表現された表現形式を抜きに,それ自体として写真の表現における本質的な特徴部分と評価すべきものではない。本件ビラ絵は,上記のとおり,写真を手書きの線による表現へと変更することによって,1審原告写真における具体的な表現上の特徴がすべて捨象されているものであるから,1審原告写真の表現上の本質的な特徴を直接感得させるものとはいえず,1審原告写真の複製,翻案のいずれにも当たらないというべきである。

平成30329日 東京地方裁判所[平成29()672]
原告は,被告が本件写真素材を原告に無断でトレースし,小説同人誌の裏表紙のイラストに使用して,当該小説同人誌を販売した行為は,原告の本件写真素材に係る著作権(複製権,翻案権及び譲渡権)を侵害していると主張する。
複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいうところ(著作権法2条1項15号参照),著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,これと同一のものを作成し,又は,具体的表現に修正,増減,変更等を加えても,新たに思想又は感情を創作的に表現することなく,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうものと解すべきである。また,翻案とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することができる別の著作物を創作する行為をいうものと解すべきである(最高裁判所平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。
本件イラストは,A5版の小説同人誌の裏表紙にある3つのイラストスペースのうちの一つにおいて,ある人物が持つ雑誌の裏表紙として,2.6センチメートル四方のスペースに描かれている白黒のイラストであって,背景は無地の白ないし灰色となっており,薄い白い線(雑誌を開いた際の歪みによって表紙に生じる反射光を表現したもの)が人物の顔面中央部を縦断して加入され,また,文字も加入されているものである。
本件写真素材の創作性を踏まえれば,本件写真素材の表現上の本質的特徴は,被写体の配置や構図,被写体と光線の関係,色彩の配合,被写体と背景のコントラスト等の総合的な表現に認められる。一方,本件イラストは本件写真素材に依拠して作成されているものの,本件イラストと本件写真素材を比較対照すると,両者が共通するのは,右手にコーヒーカップを持って口元付近に保持している被写体の男性の,右手及びコーヒーカップを含む頭部から胸部までの輪郭の部分のみであり,他方,本件イラストと本件写真素材の相違点としては,①本件イラストはわずか2.6センチメートル四方のスペースに描かれているにすぎないこともあって,本件写真素材における被写体と光線の関係(被写体に左前面上方から光を当てつつ焦点を合わせるなど)は表現されておらず,かえって,本件写真素材にはない薄い白い線(雑誌を開いた際の歪みによって表紙に生じる反射光を表現したもの)が人物の顔面中央部を縦断して加入されている,②本件イラストは白黒のイラストであることから,本件写真素材における色彩の配合は表現されていない,③本件イラストはその背景が無地の白ないし灰色となっており,本件写真素材における被写体と背景のコントラスト(背景の一部に柱や植物を取り入れながら全体として白っぽくぼかすことで,赤色基調のシャツを着た被写体人物が自然と強調されているなど)は表現されていない,④本件イラストは上記のとおり小さなスペースに描かれていることから,頭髪も全体が黒く塗られ,本件写真素材における被写体の頭髪の流れやそこへの光の当たり具合は再現されておらず,また,本件イラストには上記の薄い白い線が人物の顔面中央部を縦断して加入されていることから,鼻が完全に隠れ,口もほとんどが隠れており,本件写真素材における被写体の鼻や口は再現されておらず,さらに,本件イラストでは本件写真素材における被写体のシャツの柄も異なっていること等が認められる。これらの事実を踏まえると,本件イラストは,本件写真素材の総合的表現全体における表現上の本質的特徴(被写体と光線の関係,色彩の配合,被写体と背景のコントラスト等)を備えているとはいえず,本件イラストは,本件写真素材の表現上の本質的な特徴を直接感得させるものとはいえない。
したがって,本件イラストは,本件写真素材の複製にも翻案にも当たらず,被告は本件写真素材に係る著作権を侵害したものとは認められない。なお,原告は,譲渡権侵害も主張するが,本件イラストが本件写真素材の複製及び翻案には当たらないため,本件イラストを掲載した小説同人誌を頒布しても譲渡権の侵害とはならない。

▶平成200313日東京地方裁判所[平成19()1126]
本件写真は,祇園祭のイベントである神幸祭において被告○○神社の西楼門前に4基の神輿(子供神輿を含む。)を担いだ輿丁が集まり,神官がお祓いをする直前の場面を撮影したものである。本件写真の被写体が客観的に存在する被告○○神社の西楼門と,同じく客観的に存在しながらも時間の経過により移動していく神輿と輿丁及び見物人であり,これを写真という表現形式により映像として再現するものであること,及び,写真という表現形式の特性に照らせば,本件写真の表現上の創作性がある部分とは,構図,シャッターチャンス,撮影ポジション・アングルの選択,撮影時刻,露光時間,レンズ及びフィルムの選択等において工夫したことにより表現された映像をいうと解すべきである。すなわち,お祭りの写真のように客観的に存在する建造物及び動きのある神輿,輿丁,見物人を被写体とする場合には,客観的に存在する被写体自体を著作物として特定の者に独占させる結果となることは相当ではないものの,撮影者がとらえた,お祭りのある一瞬の風景を,上記のような構図,撮影ポジション・アングルの選択,露光時間,レンズ及びフィルムの選択等を工夫したことにより効果的な映像として再現し,これにより撮影者の思想又は感情を創作的に表現したとみ得る場合は,その写真によって表現された映像における創作的表現を保護すべきである。
(略)
このように,本件写真の創作的表現とは,被告○○神社の境内での祇園祭の神官によるお祓いの構図を所与の前提として,祭りの象徴である神官と,これを中心として正面左右に配置された4基の黄金色の神輿を純白の法被を身に纏った担ぎ手の中で鮮明に写し出し,これにより,神官と神霊を移された神輿の威厳の下で,神輿の差し上げ(神輿の担ぎ手がこれを頭上に担ぎ上げることをいう。)の直前の厳粛な雰囲気を感得させるところにあると認められる。
(略)
本件水彩画のこのような創作的表現によれば,本件水彩画においては,写真とは表現形式は異なるものの,本件写真の全体の構図とその構成において同一であり,また,本件写真において鮮明に写し出された部分,すなわち,祭りの象徴である神官及びこれを中心として正面左右に配置された4基の神輿が濃い画線と鮮明な色彩で強調して描き出されているのであって,これによれば,祇園祭における神官の差し上げの直前の厳粛な雰囲気を感得させるのに十分であり,この意味で,本件水彩画の創作的表現から本件写真の表現上の本質的特徴を直接感得することができるというべきである。(以上のとおり,本件水彩画に接する者は,その創作的表現から本件写真の表現上の本質的な特徴を直接感得することができると認められるから,本件水彩画は,本件写真を翻案したものというべきである。)

平成28719日大阪地方裁判所[平成26()10559]
被告が,本件写真に依拠して本件絵画を制作したことは当事者間に争いがないところ,本件写真と本件絵画とを対比すると,本件絵画は,その全体的構成が本件写真の構図と同一であり,本件写真の被写体となっている舞妓を模写したと一見して分かる舞妓を本件写真の撮影方法と同じく,正面の全く同じ位置,高さから見える姿を同じ構図で描いていることで本件写真の本質的特徴を維持しているが,その背景を淡い単色だけとし,さらに舞妓の姿が全体的に平面的で淡い印象を受ける日本画として描かれることにより創作的な表現が新たに加えられたものであるから,これに接する者が本件写真の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物が創作されたものとして,本件写真を翻案したものということができる。
したがって,被告による本件絵画の制作行為は,原告の本件写真に係る翻案権を侵害する行為である。

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