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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

言語著作物の侵害性▶ノンフィクション作品(歴史的事実を含む作品)の侵害性一般

▶平成220714日知的財産高等裁判所[平成22()10017]
歴史的事実の発見やそれに基づく推論等のアイデアは,それらの発見やアイデア自体に独自性があっても,著作に当たってそれらを事実又は思想として選択することは,それ自体,著作権による保護の対象とはなり得ない。そのようにして選択された事実又は思想の配列は,それ自体としてひとつの表現を構成することがあり得るとしても,対比表記載の各被控訴人書籍記述部分の事実又は思想の選択及び配列自体には,いずれも表現上の格別な工夫があるとまでいうことはできないばかりか,各被控訴人書籍記述部分とこれに対応する各控訴人書籍記述部分とでは,事実又は思想の選択及び配列が異なっているのである。
したがって,各控訴人書籍記述部分は,これに対応する各被控訴人書籍記述部分と単に記述されている事実又は思想が共通するにとどまるから,これについて各被控訴人書籍記述部分の複製又は翻案に当たるものと認めることができないことは明らかである。

平成60729日名古屋地方裁判所[昭和60()4087]
原告作品は、実在した人物の伝記であり、歴史上の事実を記述し、又は新聞、雑誌、他の著作物等の資料を引用し、若しくは要約して記述した部分が、その大部分を占める。そして、このような場合には、著作者の思想又は感情を創作的に表現したものとして著作物性を有する部分(独創性のある部分)についての内面形式が維持されているかどうかを検討すべきであり、歴史上の事実又は既に公にされている先行資料に記載された事実に基づく筋の運びやストーリーの展開が同一であっても、それは、著作物の内面形式の同一性を基礎付けるものとは言えない。

▶平成90515日名古屋高等裁判所[平成6()556]
著作物が文芸作品の場合、その主題(テーマ)と題材及び筋(ストーリー)は、主題によって題材が収集され、収集された題材は主題によって取捨選択されて整えられ、筋立てられて筋、構成が形成され、こうして形成された筋、構成において主題が表現されるという点で、右三者は相互に密接な関係にあり、その中でも、主題が文芸作品における最も重要な生命ということができるが、しかし、他面、伝記を含めた文芸作品の主題はその基本的な筋、構成によって表現されているものであって、基本となる筋、主たる構成と離れて存在しているものではない以上、このような文芸作品の翻案の判断においては、あくまでも基本的な筋、構成と一体として考慮すべきものであり、そのような筋、構成と離れて抽出される抽象的な主題そのものの同一性をもってこれを判断すべきではないというべきである。
(略)
人物観、歴史観という一種の思想ともいうべきものは、それ自体が著作権の対象にならないことは当然であるが、控訴人作品と本件ドラマの中では、貞奴の生き方それ自体の見方について、一部共通するところがあるとは認められるものの、双方作品の内面形式を全体的にみれば同一性は否定せざるをえないのであって、右一部共通するのは、この人物観というむしろアイデアあるいは思想に近い著作権法による保護範囲の外にある部分であると言うべきである。

▶平成140130日東京高等裁判所[平成13()601]
純然たるフィクションとして創作されたものであれば格別、控訴人著作物も、被控訴人書籍も、ともに本件葬儀という共通の歴史的事実を取り上げたノンフィクションであることを踏まえて、その創作的な表現部分の同一性を考える必要があり、上記の同一又は類似する部分に係る控訴人著作物の表現は、いずれも遺影の様子及び遺骨の入場シーンの様子を比較的客観的に描写した部分であって、着眼点や具体的な表現においても、ありふれた慣用的な表現にとどまり、表現上の創作性がない部分であるといわざるを得ない。

▶平成140919日東京高等裁判所[平成13()602]
著作権法上保護されるのは,思い入れや尊敬の念などではなく,これらの表現における創作性であることは,いうまでもないところ,控訴人著作物と被控訴人書籍は,いずれも本件葬儀という歴史的又は時事的な事実を対象とするノンフィクションの作品であることからすれば,上記の同一又は類似する表現は,遺影,遺骨の状況等に関して一般的に用いられる語句や文章による客観的記述ないしありふれた表現にとどまっており,著作権法上保護されるべき表現上の創作性を認めるには足りない。

▶平成121226日東京地方裁判所[平成11()26365]
原告著作物と被告書籍は、いずれもF氏の葬儀という同一の歴史的事実を対象として、これを客観的に記述するという内容・表現態様の論稿であるから、記述された内容が事実として同一であることは当然にあり得るものであるし、場合によっては記述された事実の内容が同一であるのみならず、具体的な表現も、部分的に同一ないし類似となることがあり得るものである。このような点を考慮すると、原告著作物と被告書籍の右各記述部分が著作物として同一性を有するというためには、原告著作物の右記述部分における本質的特徴、すなわち創作性を有する表現の全部又はその大部分が被告書籍に存在することを要するものというべきである。

▶平成130326日東京地方裁判所[平成9()442]
翻案とは、ある作品に接したときに、先行著作物における創作性を有する本質的な特徴部分が共通であることにより、先行著作物の創作性を有する本質的な特徴部分を直接感得させるような作品を制作(創作)する行為をいう。したがって、ある作品が先行著作物に関する翻案権の範囲内に含まれる否かは、①先行著作物における主題の設定、具体的な表現上の特徴、作品の性格、②当該作品における主題の設定、具体的な表現上の特徴、作品の性格、③両者間における、ストーリー展開、背景及び場面の設定、人物設定、描写方法の同一性ないし類似性の程度、類似性を有する部分の分量等を総合勘案して判断するのが相当である。

▶平成130326日東京地方裁判所[平成9()442]
ノンフィクションの性格を有する著作物において、歴史的な事実に関する記述部分について、文章、文体、用字用語等の上で工夫された創作的な表現形式をそのまま利用することはさておき、記述された歴史的な事実を、創作的な表現形式を変えた上、素材として利用することについてまで、著作者が独占できる(他者の利用を排除することができる。)と解するのは妥当とはいえない。

▶平成130828日大阪地方裁判所[平成11()5026]
原告著作は、歴史上実在する人物の生涯を、各種の史料によりながら記述した伝記の範疇に属する文学作品であるといえる。このように歴史上実在する人物の伝記についても、著作権が成立し、その翻案があり得ることはもちろんである。しかしながら、史実や史料の記載は客観的な事実であって、たとえその発見が独自の研究や調査の結果によるものであったとしても、それ自体に著作権が及ぶものではない。したがって、原告著作の表現上の本質的な特徴を本件舞台劇から直接感得することができるか否かは、原告著作が、史実や史料を踏まえてコルチャックの生涯をどのように表現している点に創作性のある表現上の特徴が見られるのか、また、本件舞台劇はそのような原告著作の創作性のある表現上の本質的な特徴を直接感得し得るのものといえるかを検討する必要があるというべきである。

▶令和3128日東京地方裁判所[令和2()2426]
したがって,原告書籍と本件社史部分との間で,事実など表現それ自体でない部分でのみ同一性が認められる場合には,本件社史部分は原告書籍を翻案したものに当たらない。
また,原告書籍と本件社史部分との間に,表現において同一性が認められる場合であっても,同一性を有する表現がありふれたものである場合には,その表現に創作性が認められず,本件社史部分は原告書籍を翻案したものに当たらないと解すべきである。

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