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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

言語著作物の侵害性▶個別事例①(ノンフィクション作品)

▶令和3128日東京地方裁判所[令和2()2426]▶令和4714日知的財産高等裁判所[令和4()10004]
本件社史部分の翻案該当性について
(1) 言語の著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。そして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同法2条1項1号参照),既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,翻案には当たらないと解するのが相当である(最高裁平成13年6月28日第一小法廷判決)。
そうすると,本件社史部分が原告書籍を翻案したものに当たるというためには,原告書籍と本件社史部分とが,創作的表現において同一性を有することが必要であるものと解される。
したがって,原告書籍と本件社史部分との間で,事実など表現それ自体でない部分でのみ同一性が認められる場合には,本件社史部分は原告書籍を翻案したものに当たらない。
また,原告書籍と本件社史部分との間に,表現において同一性が認められる場合であっても,同一性を有する表現がありふれたものである場合には,その表現に創作性が認められず,本件社史部分は原告書籍を翻案したものに当たらないと解すべきである。すなわち,著作者等の権利の保護を図り,もって文化の発展に寄与するという著作権法の目的(同法1条)に照らせば,著作物に作成者の何らかの個性が現れており,その権利を保護する必要性があるといえる場合には,上記の創作性が肯定され得るが,一方で,表現がありふれたものである場合には,そのような表現に独占権を認めると,後進の創作者の自由かつ多様な表現の妨げとなり,かえって上記の著作権法の目的に反する結果となりかねないため,当該表現に創作性を肯定して保護を与えることは許容されないというべきであり,そのため,原告書籍と本件社史部分との間で同一性を有する表現がありふれたものである場合には,その表現に創作性を認めることができない。
(2) まず,別紙記述対比表の原告書籍及び本件社史部分の各記述について,それぞれの間での創作性を有する表現の同一性が認められるか否かについて検討する。
ア 番号1の各記述について
() 原告書籍の番号1の記述は,原告書籍における当該記述の前後の文脈を踏まえると,被告従業員であったBが被告の二輪世界選手権への再挑戦の担当者になるとの内示を受ける前日に出身地を尋ねられた際のやりとりを記述したものであり,本件社史部分の番号1の記述は,本件社史部分における当該記述の前後の文脈を踏まえると,Bが上記内示の際に出身地を尋ねられたことを記述したものであると認められる。
これらの記述は,Bが上記内示を受ける際に出身地を尋ねられたことを内容とする点で共通しているが,このようなやりとりがあったことは事実にすぎないというべきであり,表現それ自体でない部分で同一性が認められるに留まる。また,出身地を尋ねるやりとりがあったことについて,原告書籍の番号1の記述では,「おいB,おまえ家は東京だよな」と記述されているのに対し,本件社史部分の番号1の記述では,「世間話の中で出身地を聞かれました。『東京です』と答えたのを覚えていますよ」と記述されており,それらの具体的な記述における描写の手法が異なるものとなっており,表現それ自体において同一性を有するとは認められない。
() 原告は,原告書籍と本件社史部分に同じ事実が記述されていることについて,社史編纂委員会の担当者は原告書籍に記述された事実を原告書籍に依拠して知ったものであるから,翻案該当性が認められるべき旨を主張する。
しかしながら,前記(1)のとおり,本件社史部分に記述された事実が原告書籍に依拠したものであったとしても,原告書籍と本件社史部分の各記述が事実といった表現それ自体でない部分において同一性を有するに留まる場合には,原告書籍の翻案には当たらないと解するのが相当であるから,原告の上記主張は採用することができない。
() したがって,番号1の各記述について,創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
(略)
ク 番号8の各記述について
原告書籍の番号8の記述は,原告書籍における当該記述の前後の文脈を踏まえると,本件部門で開発しようとしていた二輪車のフレームが厚さが約1mmしかないアルミ板によるものであったことを「エンジンを下ろした後のフレームはペラペラの皮になるのである。」と記述したものと認められ,本件社史部分の番号8の記述は,本件社史部分における当該記述の前後の文脈を踏まえると,本件部門で開発しようとしていた二輪車のフレームについて,エンジンをセットしない場合の状態として「板厚はわずか1mmしかないためペラペラであったが」と記述したものと認められる。
これらの記述は,本件部門で開発しようとしていた二輪車のフレームの厚さが約1mmと薄かったこと,そのためエンジンをセットしない状態でのフレームの剛性が低かったことを内容とする点で共通するが,当該内容はいずれも事実にすぎないというべきであり,表現それ自体でない部分で同一性が認められるに留まる。
また,これらの事実を記述するために,原告書籍においては「ペラペラの皮になる」,本件社史部分においては「ペラペラであったが」との表現が用いられており,いずれも「ペラペラ」という表現を用いている点で共通するが,薄くて剛性が低いものを示す際に「ペラペラ」と表現することは,通常用いられるありふれた表現であるといえるから,創作的表現であるとは認められない。
したがって,番号8の各記述について,創作的表現において同一性を有するものと認めることはできない。
(略)
【⑶ 前記⑴のとおり、本件社史部分が原告書籍を翻案したものに該当するというためには、原告書籍と本件社史部分とが、創作的表現において同一性を有することが必要であるものと解されるところ、前記⑵で検討したところによれば、原告書籍と本件社史部分とは、番号1ないし20の各記述において、事実、すなわち、表現それ自体でない部分において同一性が認められるにすぎないか、創作性が認められないありふれた表現において同一性が認められるにすぎず、創作的表現において同一性を有するものとは認められないから、被告社史中の本件社史部分は原告書籍を翻案したものに当たらないというべきである。
⑷ これに対し、控訴人は、当審において、①ノンフィクション作品では、著作者が取材を通じて発掘した事実こそが重要であり、自らの制作意図にかなった事実をいかにして発掘し、発掘した事実から何を感じ取って、どういうストーリーを見つけ出すかが、ノンフィクション作家の真骨頂であるところ、原告書籍はこれまで公表されていなかった「NRプロジェクト」の内実について明らかにしたものである、②本件社史部分は、原告書籍と同じテーマを取り上げたもので、原告書籍と同じ事実やエピソードが次々に登場していることからすれば、原告書籍と「表現の本質的な特徴」が完全に一致する、原告書籍を翻案したものに該当する旨主張する。
控訴人の上記主張は、ノンフィクション作品においては、事実を見つけ出すこと及び見つけ出されたその事実が重要であって、原告書籍と本件社史部分とは事実において共通する点が複数みられることを理由に、本件社史部分は原告書籍を翻案したものに該当する旨を主張するものと解される。
しかしながら、前記⑴のとおり、本件社史部分が原告書籍を翻案したものに該当するというためには、その表現上の本質的な特徴である創作的表現の同一性が認められる必要があり、原告書籍と本件社史部分との間に事実において同一性が認められる部分が複数あるとしても、そのことによって両者が創作的表現において同一性を有することになるものではない。控訴人の上記主張は、ノンフィクション作品自体の特徴や本質についていうものにすぎず、その「具体的表現」における表現上の本質的な特徴について主張するものではないから失当である。
そして、前記⑶のとおり、原告書籍と本件社史部分は、創作的表現において同一性を有するものとは認められないから、控訴人の上記主張は理由がない。】

▶令和4224日東京地方裁判所[令和3()10987]/令和4831日知的財産高等裁判所[令和4()10035]
(1) 原告は,原告各記述はそれぞれが表現上の創作性を有する著作物であり,被告各記述は,原告各記述と比べて,一見して分かる程度に表現方法が酷似し,文章の構成は同一であり,ほぼ同じ文章も複数あり,全体を通じて,原告各記述の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるとし,しかも,被告各記述は原告各記述に依拠して執筆されたものであるから,被告は,原告各記述の点において,原告の著作物(原告雑誌記事,原告ルポ)につき複製又は翻案をなしたものである旨主張する。
そこで検討すると,著作物の複製(著作権法21条,2条1項15号)とは,既存の著作物に依拠し,その内容及び形式を覚知させるに足りるものを再製することをいい(最高裁判所昭和53年9月7日第一小法廷判決参照),著作物の翻案(著作権法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう。しかして,著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(著作権法2条1項1号),既存の著作物に依拠して創作された著作物が思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらないものと解される(最高裁判所平成13年6月28日第一小法廷判決参照)。
このように,複製又は翻案に該当するためには,既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が,著作権法による保護の対象となる思想又は感情を創作的に表現したものであることが必要である(著作権法2条1項1号)。そして,「創作的」に表現されたというためには,厳密な意味で独創性が発揮されたものであることは必要ではなく,筆者の何らかの個性が表現されたもので足りるというべきであるが,他方,文章自体がごく短く又は表現上制約があるため他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合には,筆者の個性が表現されたものとはいえないから,創作的な表現であるということはできない。
したがって,被告各記述を含む被告の雑誌記事,書籍等が,被告各記述に対応する原告各記述との同一性により原告雑誌記事,原告ルポの複製又は翻案に当たるか否かを判断するに当たっては,両者において共通する部分が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分でないかどうかを検討する必要がある。
そこで,以上の見地から,【審理経過に鑑み、原判決別紙1及び2の各対比表を用いて】検討することとする。
(2) 認定事実】
(略)
(3)】 別紙1の対比表について
ア (対比箇所)について
【これらの箇所の原告記述と被告記述とでは】,奨学金の原資を確保するのであれば,元本の回収が何より重要であること,②日本学生支援機構は2004年以降,回収金をまず延滞金と利息に充当するという方針をとっていること,日本学生支援機構の2010年度の利息収入は232億円,延滞金収入は37億円に達し,これらの金は経常収益に計上され,原資とは無関係のところに【充てられている】こと,といった点が共通している。
しかし,上記共通点のうち,は,原告雑誌記事が発行,公表される【前】から既に問題になっていた奨学金の金融事業化についての一般的な考察であって,思想又はアイデアに属するものというべきである。②と③は,奨学金の回収方法や日本学生支援機構の収支に関する【事実又はそれに係る評価】であり,③の後段の,回収された金と奨学金の原資との関係についての評価は,これもまた①と同様に奨学金の金融事業化についての一般的考察として思想又はアイデアに属するものというべきであって,原告記述と被告記述とは,【思想又は感情の創作的な表現でない部分】において同一性を有するにすぎない。また,ないしの記述順序は同一ではあるが,その記述順序自体は独創的なものとはいえないし,文章の分量も短く簡潔で,表現も特徴のないありふれたものといわざるを得ず【、両者は】,表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。
(略)
カ 小括
以上によれば,別紙1の対比表の原告各記述と被告各記述とでは,いずれも,表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎない。したがって,別紙1の被告各記述に係る被告の行為は,別紙1の原告各記述を含む原告雑誌記事の複製又は翻案には当たらないというほかない。
(4)】 別紙2の対比表について
ア (対比箇所)について
この箇所の原告記述と被告記述とでは,申立てがあると,裁判所は債務者に督促通知を送ること,②通知を受けた側は2週間以内に【異議申立て】をすることができること,③異議を申し立てた場合は訴訟に移行すること,④異議がなければ督促内容が確定して,判決と同様の効力を持つこと,といった点が共通している。
しかし,上記共通点は,いずれも支払督促の制度内容に関する事実であって,原告記述と被告記述とは,【思想又は感情の創作的な表現でない部分】において同一性を有するにすぎない。また,①ないし④の記述順序は同一ではあるが,その記述順序自体は支払督促手続の流れに沿うものであって,独創的なものとはいい難く,文章もごく簡潔で,制度内容を特徴のないありふれた表現で説明したものであり【、両者は】,表現上の創作性が認められない部分において同一性を有するにすぎない。
(略)
ケ 小括
以上によれば,別紙2の対比表の原告各記述と被告各記述とでは,いずれも,表現それ自体ではない部分又は表現上の創作性のない部分において同一性を有するにすぎないから,別紙2の被告各記述に係る被告の行為は,別紙2の原告各記述を含む原告ルポの複製又は翻案には当たらないというほかない。
控訴審同旨]
▶令和4831日知的財産高等裁判所[令和4()10035]
当審における控訴人の補充主張について
ア 控訴人は、ルポルタージュの特徴を指摘した上で、原告各記述は、数多く存在する基礎資料から特定の事実を取り出し、「サラ金化する奨学金」との控訴人の問題意識の視点から、それを効果的に伝える文章として、控訴人が独自に構成し、表現したものであって、原告各記述と創作的表現において類似し、原告各記述に依拠した被告各記述は、原告各記述の複製又は翻案であると主張する。
しかし、被告各記述が原告各記述の複製又は翻案と認められないことは、訂正して引用した原判決で認定説示したとおりである。
() 上記に関し、控訴人は、ルポルタージュの特徴を指摘した上で、原告各記述は、控訴人において、素材の選択・配列・構文を工夫して執筆したものであると主張し、具体例として、2004年度(平成16年度)をターニングポイントと捉えたことや、2010年度(平成22年度)の「利息収入」及び「延滞金収入」、同年度期末の「民間銀行からの貸付残高」及び「年間の利払い」並びに「サービサー」からの「回収」額及び「手数料」額を示していることを主張する。
しかし、平成16年における日本育英会の解散及び支援機構への独立法人化は、公知の事実というべきところ、それが奨学金制度の運用に少なくない影響を与えたとして、平成16年を転換点とみるという視点は、原告雑誌記事及び原告ルポの発表等の前から複数の記事によって示されていた。したがって、同年を一つの基準時としてとらえるというアイデアはもとより、それに基づいた素材の選択等をもって、原告各記述につき控訴人の個性が表現されたものとはいえない。
また、原告雑誌記事の発行時期(2012年(平成24年)4月)からして、その執筆に当たり2010年度(平成22年度)の会計上の数値を素材として選択するなどしたことについても、そのことをもって、原告各記述につき控訴人の個性が表現されたものとはいえない。そして、そうである以上、その翌年に発行された原告ルポにおいて2010年度(平成22年度)の会計上の数値が用いられていることをもって、原告各記述につき控訴人の個性が表現されたものとはみられない。
() 控訴人は、原告各記述は一般的な考察ではないと主張するが、同主張は、認定事実に反するものであって採用できない。
なお、証拠によると、控訴人は、原告雑誌記事及び原告ルポの執筆依頼を受けた際、依頼者から、奨学金制度の「金融ビジネス」化の動きを批判する旨の論稿の執筆を依頼されたことが認められるところ、そのような執筆の方向性に、遅くとも平成23年までの時点で公にされていた事実や意見等を併せ考慮すると、少なくとも本件記事部分及び本件ルポ部分()の記載内容は、表現それ自体ではないデータ等を中心に、一部評価や意見等にわたる部分についても控訴人の表現上の創作性を認め難い特徴のない態様で記載されたものとみざるを得ない。
() 以上のことは、原告雑誌記事や原告ルポがルポルタージュであるということにより影響を受けるものではない。
その他、控訴人が本件記事部分並びに本件ルポ部分()及び()について補充して主張する点も、訂正して引用した原判決の判断を左右するものではない。
ウ 控訴人は、原告各記述を細分化して判断するという判断手法についても論難するが、訂正して引用した原判決で認定説示した諸点や前記イで指摘した点に照らすと、本件記事部分を全体的に評価しても、また、本件ルポ部分を全体的に評価しても、被告各記述が原告各記述の複製又は翻案と認められないとの判断は、左右されるものではないというべきである。

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