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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

言語著作物の侵害性個別事例会議運営のワークブック(レジュメ)

[会議運営のワークブック(レジュメ)]
▶令和31027日知的財産高等裁判所[令和3()10048]
原告ワークブックに係る著作権(複製権及び翻案権)の侵害の成否について
ア 著作権法は,著作物とは,思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの(同法2条1項1号)をいい,複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいう旨規定していること(同項15号)からすると,著作物の複製(同法21条)とは,当該著作物に依拠して,その創作的表現を有形的に再製する行為をいうものと解される。
また,著作物の翻案(同法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴である創作的表現の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の創作的表現を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいうものと解される。
そうすると,被告レジュメが原告ワークブックに係る著作物を複製又は翻案したものに当たるというためには,原告ワークブックと被告レジュメとの間で表現が共通し,その表現が創作性のある表現であること,すなわち,創作的表現が共通することが必要であるものと解するのが相当である。
一方で,原告ワークブックと被告レジュメにおいて,アイデアなど表現それ自体ではない部分が共通するにすぎない場合や共通する表現がありふれた表現である場合には,被告レジュメが原告ワークブックを複製又は翻案したものに当たらないと解される。
(略)
() 原告記述部分1ないし24及び被告記述部分1ないし24に係る複製又は翻案について
a 原告記述部分1ないし5と被告記述部分1ないし5について
(a) 原判決別紙2レジュメ対比表の番号1ないし5のとおり,原告ワークブックの当該部分と被告レジュメの当該部分とは,それぞれ,会議において,会議での約束事として,そのまま「やってみる」こと(番号1),「携帯」電話を切っておくこと(番号2),「問題」を見つけたら,「問題を指摘する」のではなく,「解決策を提示する」こと(番号3),「わかりません」という回答はしないこと(番号4),「発言」は,「短く」,「簡潔に」,「直接的な表現で」行うこと(番号5)を内容とする記述である点で共通する。
しかしながら,原告記述部分1は「まずは本書の手順どおりそのままやってみる。」であるのに対し,被告記述部分1は「とりあえず身を預けてやってみる。」,原告記述部分3は「問題を見つけたら問題を指摘するのではなく,解決できる人に解決策を提示する(自分自身かもしれない)。」であるのに対し,被告記述部分3は「問題を発見したとき,解決策を提示する。問題を指摘するだけは無し」,原告記述部分4は「このワークブックが質問してくる質問に「わかりません」という回答はなし。」であるのに対し,被告記述部分4は「侍会議中,「わかりません」「ありません」という答えは無しでやってみる」,原告記述部分5は「発言は3Sにやる。(スリーエス:Short短く,Simple 簡潔に,Straight 直接的な表現で)」であるのに対し,被告記述部分5は「発言は短く,簡潔に,直接的な表現でやる。」であり,具体的記述における表現は異なり,共通性は認められない。
そうすると,被告記述部分1ないし5と原告記述部分1ないし5は,会議の約束事を説明した記述であるという点において共通しているものの,その共通する部分は,会議における約束事をどのように取り決めるかというアイデアであって,表現それ自体ではない。
(略)
b 原告記述部分6と被告記述部分6について
(a) 原判決別紙2レジュメ対比表の番号6のとおり,原告ワークブックの当該部分と被告レジュメの当該部分とは,会議の参加者が,「チームとして」,「問題を共有」し,「役割」を作り,参加者を「満足させるため」の「計画」と「情熱」を得ることを内容とする記述である点で共通する。
しかしながら,上記共通する部分は,全体として,会議によって達成すべき目的としての獲得すべき成果及びその成果を獲得するための手段に係るアイデアそのものであって,表現それ自体ではない。
また,原告記述部分6は,第1文で成果を獲得するための手段として,「このメンバーがハイパフォーマンスなマネジメントチームとして,問題を共有し,共通の目標をつくり,役割分担とコミットメントを作成する。」と記述した上で,第2文で獲得すべき成果として,「これにより,ステークホルダーとこのメンバーを満足させるための目標と計画と情熱を手に入れる。」と記述したものであり,「チームとして」,「問題を共有」,「共通の」,「役割」,「満足させるため」,「情熱」といった関連性を認めやすい平易な語を一般的な順序で組み合わせたにすぎないものであって,ありふれたものである(例えば,書籍では,「チーム」による意思決定の進め方の手順として,課題を「共有」すること,統合的「目標」を設定して「満足」度最大の案を採るなどの記述が存在し,上記の語の組合せはありふれたものである。)。第1文及び第2文の構成も,手段から成果につなげるという,通常用いられるありふれたものにすぎないから,創作性があるとはいえない。そうすると,原告記述部分6中の「問題を共有し,共通の目標をつくり,役割分担とコミットメントを作成」し,「満足させるための目標と計画と情熱を手に入れる。」との表現部分と,被告記述部分6中の「問題を共有,共通の志を作成し,志を成すための役割と担当及びアクションプランをつくりあげ」,「満足させるために,成長し続ける仕組・計画を手に入れ団結と情熱…を生み出す。」との表現部分は,創作的表現が共通するとはいえない。
(略)
() 原告ワークブック全体の構成と被告レジュメ全体の構成について
a 原判決別紙2レジュメ対比表のとおり,原告ワークブック全体の構成と被告レジュメ全体の構成とは,①会議の約束事と目的の確認(番号1ないし6),②手に入れたい成果の確認(番号7),③今日までに達成されたことの確認(番号8),④問題や懸念の洗い出し(番号9ないし13),⑤戦略的フォーカス作成(目標設定)(番号14ないし16),⑥役割の明確化(目標達成のための道のり,担当と責任の明確化)(番号17ないし19),⑦アクションプラン(コミットメント)の策定(番号20ないし22),⑧問題解決(番号23及び24)という項目が選択され,それらの項目がおおむね同じ順序で配列されているという点で共通する。
しかしながら,上記共通する部分は,会議において,どのような項目を,どのような順序で行うかというアイデアそのものあって,表現それ自体ではないというべきである。
b 控訴人会社は,①原告ワークブック全体の構成と被告レジュメ全体の構成の共通性が認められる部分が表現であることを前提に,当該部分は,統一的なテーマの下に,多様な内容を,要領よく取捨選択し,配列し,わかりやすい表現,印象に残る表現を選択するなど,多くの点で表現上の創意工夫がされており,そのワークブックないしレジュメに基づき会議の進行役を務めることができるように,表現方式に関して多様な選択肢がある中で,抽象的なノウハウを創意工夫をして表現したものとなっており,独自性があり,個性が発揮されているから,創作性がある,②原告ワークブックは,会議の進め方についてのノウハウを記載した機能的著作物としての側面もあるものの,単に会議をうまく進めるためのポイントやコツを列挙して解説するものというより,むしろ,一種の読み物として,ストーリー性をもって構成されているので,誰が書いてもそのような文章や構成としてしか表現できないようなものではなく,いわば小説のように個性の流出度は高いものであるから,表現上の創作性があり,原告ワークブック全体と被告レジュメ全体は,創作的表現が共通する旨主張する。
しかしながら,前記認定のとおり,原告ワークブック全体の構成と被告レジュメ全体の構成の共通性が認められる部分は,会議において,どのような項目を,どのような順序で行うかというアイデアそのものあって,表現それ自体ではない。
また,前記認定のとおり,原告記述部分と被告記述部分が共通する部分は,表現それ自体ではないか,又は表現上の創作性がない部分であるのみなならず,上記各記述部分全体を対比しても,創作的表現が共通するものと認めることはできない。
したがって,控訴人会社の上記主張は採用することができない。
c 以上によれば,被告レジュメ全体の構成は,原告ワークブック全体の構成を複製又は翻案したものに当たるものと認めることはできない。
ウ 以上によれば,被告レジュメは原告ワークブックを複製又は翻案したものに当たるとの控訴人会社の前記主張は,理由がない。

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