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カネダ著作権事務所

著作権判例エッセンス

賠償額の算定例▶法1142項事例①(プロ野球のトレーディングカード(選手カード)の違法販売)

▶平成27624日知的財産高等裁判所[平成26()10004]
(注)本件は,「プロ野球ドリームナイン」というタイトルのゲーム(「控訴人ゲーム」)をソーシャルネットワーキングサービス(SNS)上で提供・配信している控訴人が,「大熱狂!!プロ野球カード」というタイトルのゲーム(「被控訴人ゲーム」)を提供・配信している被控訴人に対し,被控訴人が控訴人ゲームを複製又は翻案して,被控訴人ゲームを自動公衆送信することによって,控訴人の有する著作権(複製権,翻案権,公衆送信権)を侵害していることを理由とする不法行為に基づく損害賠償請求等として,被控訴人に対し,所定の金員の支払を求める事案である。
ア 著作権法114条2項により推定される利益
被控訴人ゲームの配信開始から選手カードの表現が変更される平成23年8月18日から同月26日までの9日間に,被控訴人ゲームにおけるレアパックの販売により被控訴人が得た利益が1541万5312円であることは争いがない。
ところで,著作権法114条2項は,著作権を侵害した者が「その侵害の行為により」利益を受けているときは,その利益の額を著作権者が受けた損害の額と推定するものである。レアパックは,開けてみるまでどのカードが入っているか分からないものであり,したがってレアパックの販売とは,本件2選手カード以外のカードの販売にも当たるものであるが,本件では,本件2選手カードの著作権侵害のみが認められるから,上記レアパックの販売利益のうち,本件2選手カードによって得られた利益に相当する額のみが当該著作権侵害の行為により被控訴人が受けている利益に当たるというべきであり,その点の立証責任は控訴人にあるものとして,判断する。
この点,(証拠)及び弁論の全趣旨によれば,被控訴人ゲームの配信開始当時,レアパックにより入手できる選手カードは,希少性に応じて,キラ,グレート,スター,スーパースター,レジェンド,レジェンド+に分類される合計996枚であったことが認められる。しかし,①レジェンド及びレジェンド+の存在については,被控訴人のホームページ等では公開されておらず,被控訴人ゲーム上の利用者のサークルトピックス(利用者同士の質問板)の一部の記載でのみ確認できる状態であったから,利用者の大多数が知っていたとは認められず,またこれらのカードが当たる確率も相当低いものと認識されていたと考えられるから,利用者がレジェンド及びレジェンド+を期待してレアパックを購入した可能性は低いというべきこと,②レアパックを購入する利用者は,グレードのより高いカード(すなわち,スター,スーパースター)の入手を期待しているのが通常であること,③スターカードは143枚,スーパースターカードは61枚の合計204枚が存在したものであるが,これに該当する選手として被控訴人ホームページやプレスリリースにおいて配信時に公開されていたのは各球団1名,合計12名のみで,そのうち2名が中島選手及びダルビッシュ選手であり,ゲームの利用を開始する者は,他の利用者の口コミや,Mobageの新着表示やゲームランキングなどで被控訴人ゲーム名が表示されるのを見て開始することが多いとしても,上記のとおりの広報がされていることからすれば,これを見て被控訴人ゲームの内容を確認した利用者も相当程度いると推認されること,④上記2選手は人気の高い選手であり,特にダルビッシュ選手の選手カードについては,利用者が被控訴人ゲームを初めて利用する際のチュートリアル(ゲームの練習)において必ず一度付与され,チュートリアル終了後に保有カードから削除されるものであり,利用者がレアパックを購入してスーパースターの選手カードを入手したいという気持ちを誘発するために利用されていること,⑤前記レアパックの販売利益は,配信開始のごく初期の9日間の売上のみについてのものであること,からすれば,前記レアパックの販売利益のうち少なくとも8%が,本件2選手カードの販売により被控訴人が受けた利益と認めるのが相当である。
したがって,著作権法114条2項により控訴人が受けた損害の額と推定される額は,123万3225円(1541万5312円×0.08)である。 
イ 著作権法114条2項の推定覆滅事由
本件2選手カードの販売により被控訴人が受けている利益のうち,選手カードの表現(著作権の侵害)以外の事情が寄与したという被控訴人の主張については,上記アにより控訴人の損害と推定される額のうち,被控訴人の著作権侵害がなかったとしても控訴人が控訴人ゲームのレアパック(選手カード)の販売により得たとは認められない額の有無,すなわち,著作権法114条2項の推定を一部又は全部覆滅する事由の有無として,その立証責任は被控訴人にあるものとして判断するのが相当である。
この点,そもそも被控訴人ゲームの選手カード(レアパック)は,被控訴人ゲームにおいて利用するためにのみ被控訴人ゲームの利用者が購入するものであることからすると,当該ゲームの利用者に対しては,被控訴人の著作権侵害がなかったとしても,控訴人が控訴人ゲームのレアパックを販売することができたとは認められないことになる(なお,被控訴人ゲーム全体の配信行為自体は,著作権侵害又は不法行為には当たらないことは前記判示のとおりである。)。もっとも,被控訴人ゲームと控訴人ゲームはそれぞれ異なるプラットフォームにおいて提供されているものの,いずれも基本料金が無料であって,平成21年の調査によれば,被控訴人ゲームが配信されているプラットフォームである「Mobage」利用者のうち控訴人ゲームが配信されているプラットフォームである「GREE」との重複利用者は平均約47%いたことからすれば,被控訴人ゲームと控訴人ゲームとの選択は比較的自由にされるものである。そして,その選択の際に重視される事情としては,両ゲームのゲームとしての面白さ,評価,プラットフォームである「Mobage」や「GREE」への登録の有無及び評価,各ゲームの配信の順序(ゲームにおいては先行利用者が後行利用者より有利となる。)などが考えられるところ,ゲームの面白さ,評価としては,プロ野球のトレーディングカードゲームとしてルールが同じ場合は,選手カードの種類の豊富さやそのデザイン等が影響を与えるところである。すなわち,被控訴人ゲームの選手カードの背景がシーズン毎に異なるものに更新されていることや,一般に収集を目的とするトレーディングカードゲームにおいては,カードの希少性毎にカードの構成や背景に工夫が凝らされていることからすれば,選手カードの表現(デザイン)は,利用者に選手の迫力や戦闘力を伝え,ゲームの魅力を増し,利用者にゲームの利用を選択させる上で一定の寄与があると認められることが考慮されるべきである。他方,上記のとおり両ゲームはそもそも提供されるプラットフォームが異なり,「GREE」を重複利用していない「Mobage」利用者が,選手カードの表現のみを理由として被控訴人ゲームに代えて同ゲームと同様のプロ野球を題材とするトレーディングカードゲームである控訴人ゲームを選択する可能性は低い上,被控訴人が選手カードの表現を変更した平成23年8月26日(同日時点での登録会員数は50万人)以降も,被控訴人ゲームの登録会員数は増加し続けており,配信開始後31日で100万人,平成24年6月14日で340万人に達していること,被控訴人ゲームは,実在のプロ野球という人気の高いコンテンツの選手の実名や写真を使用し,利用者が自分の理想とするメンバーを集めて強いチームを作り上げていくというものであるから,利用者が入手を欲する選手カードは,現実に人気があるプロ野球選手や好きな球団の選手,又はゲーム上の能力が高く設定されている選手として決まっていることがほとんどであり,また,現実に有体物としてのカードが入手できるものでもないから,当該選手が選手カード上においてどのように表現されているかという点が利用者のゲームの選択の有無に影響する程度は低い。これらを総合すると,被控訴人ゲームと控訴人ゲームとの選択に際し,選手カードの表現以外の要素が寄与している割合,すなわち,被控訴人の著作権侵害がなかったとしても,控訴人が控訴人ゲームのレアパックを販売することができたとは認められない割合は,少なくとも90%であると認めるのが相当である。
(略)
したがって,上記のとおり,少なくとも90%の限度で著作権法114条2項の推定は覆滅されるというべきであるから,本件2選手カードの著作権侵害により控訴人が被った損害は,12万3322円(123万3225円×10%)となる。

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